(裏)シュガーケージ ─愚者は己の鎖を編む─ 作:hl_be2
20……22……24……。
エレベーター内のモニターの数字を、いまにも落ちそうな瞼の下から眺めていた。
ふらふらと揺れる頭を倒しながら隣を見上げると、恰幅の良い初老のホワイトライオンのアマルが立っている。
正面から見ていると歳相応に細身に見えたが、近くに立つと厳かな光沢のスーツが、胴の厚みや腕の太さにいじめられているのがよく分かった。
「ああ、そうだ。モコさん。これを着けなさい」
「は、はい。イオー……さん」
なにを着けるか分からないうちから肯定を返し、イオーに手渡されたものを見る。それはイヌの首輪だった。
側頭をハンマーで殴られたような鈍い衝撃が走った。アマルを動物扱いするなんて、いくら言葉を尽くして糾弾しようと足りないほどの、『二足の誇り』に対する最大限の侮辱に他ならなかった。
そう思ったはずだった。だが、自分の手は首輪のベルトを解いて、まるでネックレスで飾るように首に巻き付けた。イオーの手が伸びてきて、首輪の半月型の金具を指でつまみ上げる。その手首から漂う、甘く重い人工的な、キラキラとした香りが鼻腔を侵した。カチンと冷たい金属音が鳴り、イオーとモコクンの間に革でできた絆が生まれた。
モニターの数字が止まり、鉄の扉が脇に退け百獣の王の帰還を迎えた。
「来なさい」
「はい……」
王の後ろについて一歩踏み出す。しかしすぐに壁に阻まれる。イオーが振り向き立っていた。
「アリス。もうヒトの言葉を忘れなさい」
「え……? あ……っ」
知らない名で呼ばれた混乱に疑問の声が漏れたが、たった今それを禁じられたことに気が付く。思わず両手で口を塞いだが、この両手も腕であってはならない。この首輪はそういう意味なんだとすぐに理解できた。一つながりになったのは、自分が所有物になったということなのだと、鼻腔の奥にこびりついた匂いが、脳髄をぐわんと揺らしながらすっと理解させていく。
ゆっくりと膝をつき、両腕だった前足を床についた。踏みしめるにはあまりに豪華な手触りの真っ赤な床だったが、『イヌ』はその感触を楽しんだりしないので、すぐに顔をあげた。
イオーはとても満足気だった。
「着いてきなさい。アリス」
やはり「アリス」とは自分の新しい名のようだった。リードをクンと引かれる。四つん這いで手のひらと膝を床に擦り付けながら進む。
前を歩くイオーの足音も響かないしんとした廊下が長く続く。いくつかの扉を通り過ぎるたび、見知らぬ誰かが登場してこないか不安でならなかった。
再び首輪がクッと締まり、歩みを止める合図だと気付いた。振り返ったイオーの瞳はモコクンの怯えを見透かしていた。
「いつまでもヒトの服を着せていて悪かったね、アリス」
顔が青くなっているのか、あるいは赤くなっているのか自分では分からなかったが、冗談で言っているのではないということはよく分かった。だが、体が動かなかった。従わなければいけないと分かっていたが、圧倒的な恐怖とおぞましいほどの羞恥が全身を雁字搦めにしていた。
ぐいっとリードが引かれ、イオーの前に膝立ちの姿勢になる。そしてまた、眼前でキラキラが瞬き、鼻の奥が痛み、ぐらりと横に倒れてまたイヌに戻った。
(ああっ……、は、はずかし……のに……)
鼻腔に染み込んだ甘いキラキラが、パチッ──と小さな光となって頭の奥で弾けた。
(いうこと、を、きかなきゃ……)
頭の奥にキラキラとした感覚が弾ける余韻を感じながら、この前足でどう脱げばいいのかだけを考えていた。
顔を窺いながら制服のスカーフを右手で解く。イオーは変わらない表情でこちらを見つめており、それが肯定だと感じ取りモコクンは安堵した。
同時にこの身に纏う文明を脱ぎ捨てる手段を得てしまったために、残りの衣服も脱いでいくしかなかった。最低限、二足で立たないことだけは気を付けた。
シャツと肌着から頭と腕を抜き、尻尾をよけてスカートを膝裏まで落とす。後ろ足をくぐらせ、下着姿となる。イオーの目を見て伺いを立ててみるも、変わらない表情のままだ。許しは得られないと思った。
ささやかに飾られたブラジャーを取り、床にごろんと横になって、パンツを脱ぎ捨てた。極限の羞恥で奥歯がガチガチと震えた。赤の他人の前に、一糸纏わぬあられもない姿になってしまった。情けなくイヌのポーズで跪いているせいで、豊満な胸の中心に隠れる、人見知りの先端も、薄い茂みの下の未開の入口も人工的な光の下に晒した。
尾も耳も力なく垂れ、全身が震える。ストリップショーを終えると、すぐにまた首に牽引され、震える前足と後足をあべこべに上げながら必死についていくことになった。
終わりの見えない長い通路で、脱ぎ捨てた衣服を置き去りにしたまま、羞恥のランウェイを這いつくばって歩いた。
ヒトの証明がすべて剥ぎ取られた素肌を、廊下を流れる無機質な空調の風がなぞった。まったく無防備な背も尻も腿も、そして腿に隠した柔らかな股間の小山もいじらしく通り過ぎる。それはねっとりとした愛撫となって全身の感度を高めていく。
つう──、自身の股間から伝う体液までもが太腿を撫でる。
モコクンにとって体がオスを受け入れる準備をしたことなどほとんど初めての体験だった。よく遊びまわった日に、浴室で嗅ぎ取る自身の蒸れた股間の匂いがはっきりと伝わってくる。昼間までは確かに自分の体だったはずなのに、股間も、鼻も、いまやモコクンを裏切りイオーの思うがままに、元のご主人を責め立てていた。
(……うう、……あ)
あまりの情けなさと羞恥に顔を下げ、俯いたまま這い進むと、重力に従ってぶら下がる豊満な乳房が視界に入る。前足を動かすたびに情けなく、そして能天気にたぷんと揺れた。これもまるでオスの視線を誘うように踊り、たまらなく恨めしく、恥ずかしかった。
(やだ……、むずむずする……)
自らのメスとしての発情をうっすら自覚し、少し慣れてきたはずの四足歩行はぎこちなさを取り戻す。極限の緊張と羞恥を太ももの間でこね回す。歩みを進めるたび、オスを誘う香りも招き入れるための卑猥な拵えも、粘り気を帯びて熱くなっていき、膝裏でもそれを感じた。無意味だと分かっていながらも、尾を股間の前に運んで気を休めた。
イオーが振り向かないまま口を開いた。
「アリス。あまり絨毯を汚さないでおくれよ」
肩と同時に、せっかく股間を隠した尾が跳ねあがった。反対に顔はさらに低く沈み落ちた。頭上からイオーの愉快そうな笑いを浴びた。
「お前ほど嗅覚はないだろうがな、私にもアリスの品のない匂いが漂ってくるぞ。そんなに強い発情の証を廊下に点々と……、ホテルの人間がアリスと番おうと探し回るかもしれないな」
「っ……ぅぅ……」
ヒトの言葉を奪われ、辛うじてひり出せたか弱い唸りを、抗議とも懇願とも受け取ってほしかったが、やはり取り合われることはない。
そうしている間に廊下の端までたどり着き、イオーが振り返ってしゃがみこんだ。
「さぁ、アリス。着いたよ。ふふ、ご褒美をやりたいが、上手に歩いただけでは甘やかしすぎかな」
相変わらずぬるい風が全身を撫でていく。存在しない視線が通ってきた廊下の向こうから、すべてを曝け出したお尻に注がれているような錯覚で、咎められた愛液の滴りは止めどない。
イオーが言うご褒美もなにも理解できないまま、すぐに部屋の中に入れることだけを祈った。
「お手だ、アリス」
(……おて?)
思考のまとまらない頭に届いた短い単語にぽかんとしてしまうが、すぐに理解する。イオーが大きく傷だらけの、鋭い爪と黒い肉球のある手のひらを差し出していたからだ。
屈辱も感じはしたが、早く部屋に入るためにすぐに手を乗せてしっかりとイヌと成って応えた。
「かしこい子だ。次はちんちんだ、アリス」
ボッ──と顔が火を噴く。その幼稚ながらもいやらしく聞こえる言葉のせいだったのか、あるいは求められたことを理解できたからなのかははっきりとしない。だが、見張られるような鋭い視線を受け止めながらはぐらかすことなどできないことは分かっていた。
床につく前足をゆっくりと持ち上げ、後ろ足のつま先で器用に立ち上がる。イヌのようにこぶしを丸めて垂らし、臍も、埋もれた乳首も、髪色と同じ陰毛も、そして淫臭を醸す性器もすべて晒す、自ら尊厳をかなぐり捨てさせる極上の服従宣言に他ならなかった。
「……わ、お……」
いたたまれずになにか言葉を発してごまかしたかったが、許された言葉がなく、イヌとして鳴いた。よほど似合っていただろうと恥じ、顔をそらした。
「ふふ、ははは──今夜のアリスは楽しませてくれるね。お前の休憩のために部屋へ戻ったはずだったが……、ずいぶんと元気そうじゃないか」
ぐちゅり──という音が響く。それよりも早く、下腹部から脳へ電流が走り飛ぶ。
「ああっ……、っっ……ひぃん……」
先ほど『お手』で差し出された柔らかくもじっくりと固い肉球がモコクンの割れ目を掻き分けた。鋭い爪が粘膜を器用に避けて、体毛を纏った太い指先がわずかに侵入した。
初めて異物を受け入れた瞬間だった。
「い、っ……ひ、い……」
痛みがあった気がしたが、それを塗りつぶす感じたことのないくすぐったさが背筋を走る。足の裏の神経が燃える。
指はこれ以上に深入りはしなかったが、掻きまわすように入口を広げ、その手にモコクンの体液をたっぷりと捧げさせた。
「すごい濡れ方だ。アリスももう待ちきれんらしい」
長く長く感じる指の侵入が終わった感触に安堵し、浅く呼吸をして驚き戸惑う体を慰めようとした時だった。
イオーの鋭い爪先が、入口の上に佇む、なぜ自分がそこにいるかも分からない迷子のような陰核をわざとらしくかすめた。
「きゃあんっ!!」
痛みともつかない衝撃を浴び、顎を跳ね上げた。思わず前足でイオーの手首を掴んだが、衝撃が過ぎ去ったことで、前足の使い方を間違えたと気が付き、ゆっくりと手を放す。
「ぅ、ぅわ……ん……」
取り繕って鳴く。イオーの目は優しかった。
べたり──と大きな手で頬が撫でられる。自らの潤滑液が滑り摩擦で頬の肉が持ち上がった。その腕から香るイオーの汗と溶け合うキラキラに、さらに自らの醜い香りがブレンドされ、股間を玩具にされたと同等の衝撃で脳が歪んだ。
(うっ、くしゃい……っ、やだあっ)
自身の恥臭と混ざり合った饐えた匂いが鼻孔を侵した瞬間、パチパチッ──目の奥で光が飛び回った。
(ごしゅじんさま……、いまの、なに……、わかん……ない……)
「はっはっは。いい調子だね、アリス。さぁ入りなさい」
目を回す自分を再び見降ろしながら、イオーは品の良い扉のロックを解除し、その腕にまた首を引かれ中へと誘われる。
ヒトとして訪れたのであればその豪華な仕立てに興奮し跳ねまわったであろう部屋を廊下から窺う視線に、リードを手放したイオーがジャケットを壁に掛ける姿を見つめていた。
リードは床に取りこぼされたままだったが、イオーは優しさのわずかに含まれる声で「おいで」とモコクンを呼ぶ。その声を頼りにとぼとぼと下を向きながら這っていくと、白い艶やかな布の塊を踏んだ。イオーが先ほどまで身に着けていたシャツだった。驚き顔をあげると、先ほど自分がしたように、点々と衣服が脱ぎ棄てられており、モコクンの顎は上昇するのをやめた。これ以上顔をあげれば、男性の……、オスの裸体を見止めることになる。
「アリス、こっちだ」
しかし、最大限の躊躇いもほんの一言で放棄を命じられ、また俯きながらまっすぐ歩く。ホテルの部屋とは思えないほど広い。顔を下げたままでは部屋になにが置かれているかなど分かりはしなかったが、イオーの匂いはまだ奥にあった。顔を上げなくてもイオーのいる位置が分かることに安心感を覚えた。
ついにイオーの前にたどり着き、白く大きな、そして鋭い爪のある足指が視界に現れた。少しだけそのまま俯いていたが、それではイヌらしくないと考えてしまい、恐る恐る顔をあげた。
王の威厳が、下着一枚で椅子に深く腰掛けていた。眼球がぐらぐら揺れるのは動揺だろうか。だがその目が次第に、全身の白い体毛にアクセントを与える黒い下着に吸い寄せられていく。そして、その下着の豊かな膨らみを捉えると、薄っぺらい知識しか持たない自分でも、そこには異様なほどの巨根が隠されていることが容易に想像できた。自然と体が小さくなった。
イオーの手が伸び、首輪を掴む。その手がするするとリードを引くと、モコクンの首がもう一度重力に逆らった。
「おいで。撫でてやろう」
引かれるがままにイオーの膝に靠れさせられた。無防備に晒されて揺れる胸のすぐ下に、イオーの悪魔のような存在感を放つ陰茎の熱を感じ、臆病になってなるべく距離を取ろうとした。しかし、大きく熱い手が頭頂から背中を撫で下ろしてきて、そのくすぐったさと優しい圧力に歯向かえずに体を沈め、モコクンの胸がふにと音を立てるかのように落ち、柔らかく潰れた。自分と他人の性的な部位の接触を初めて経験して目の前がパチパチと眩む。
同時に、もう一方の手が、無自覚に差し出していた尻を撫で、掴み、揉んだ。
「ひああ……、う、うあん、あん……」
知らない感触にモコクンの中の乙女が悲鳴を上げたが、ハタと気付いてそれを押し込め、メスイヌに戻る。
自分の尻にこんなに使い道があるなんて知らなかった。イオーの器用な指付きで、変幻自在に尻肉が形を変えていく。心がくすぐったく、同時に物足りなさを感じていた。そのすぐ先に、うずうずと濡れそぼる秘部は、知識もないまま本能だけで疼き待ちかねていた。ぐじゅ──その期待はすぐに叶えられることになる。
「へ、あああっ……、あ、あ……」
尻肉を掻き分け、その中心の秘門が空気の渇きを感じ、直後にその下の花弁がいかつい指で強引に満開にさせられる。肉球がパンを捏ねるようにはみ出した媚肉を揉みこみ、刺激が胎の下に駆け巡った。両の前足でイオーの腿にしがみ付き、足をばたつかせ反射的に腿を閉じる。しかし、決して力の弱くないモコクンのその後足の力も、イオーの手のひらを開く力ひとつに押し負け、また蹂躙させる。
「はああ、は、は、は、ん、アっ……」
陰唇の粘膜全体を弄る指が次第に狙いを定めていくのが分かった。自らを苛め抜くメスの香りを吐き出し続ける膣口にあてがわれ、くにくにと揉み撫でる。
(なにこれっ、き、きもちいい……、変になるっ、わかんない、なんで、ここっ、こんなにっ……)
体の内側からくすぐられる感覚に、四肢にぎゅっと力を籠めて抗おうとするも、腰や尻は健気な意思を無視して跳ねまわる。洗浄するためにしか触れたことのない恥部に、自分の体に、そんな秘密が隠されていたなど今まで親も教えてくれなかったというのに、自分を捕食する王は、手ずからそれを理解させてくれた。
「まだまだ堅いな。今日のアリスは初物のようだ」
指が引き抜かれ、内臓を責め立てる怒涛の感覚が徐々に収まった。激しく息と汗を吹き出す体を固い太ももに預け、心臓を落ち着かせていく。
膣を蹂躙していた腕が今度は両脇から胴体を掴んできて、身体を軽々と持ち上げられた。そして、イオーの大きく開いた足の間にモコクンの体が置かれなおした。それがなんのためなのかは、リードが引かれ、自身の汗をしみ込ませた下着のふくらみに頬を擦り付けられたことで理解した。
「舐めなさい」
「っ……、わ、……ん」
想像はしていたもののそれだけで、心は一切構えられていなかった。だが無慈悲な命令を聞き届けた脳は、モコクンに返事をするように促した。か細い声で鳴くと、震える唇をわずかに持ち上げた。だがそれ以上、近づくことも舌を出すこともできない。
恐怖ではなかった。戸惑いのようではあった。この行為が忠義を誓う儀式そのものになると本能で感じていた。
上目づかいでイオーを窺うと、感情を映さない黒い瞳が見下ろしていた。あえて、忠犬の行動を待っているようだった。
「はぁっ…、はっ、はっ……はぁっ……」
小さく開いた口から熱い吐息が漏れる。顔だけでなく心臓が燃え上がっていると気付き、それが口から飛び出してしまうと思い一度歯を食いしばった。忠臣の儀からやや後退したモコクンを見つめる双眼が光った気がして、より大きく心臓が跳ねた。意を決して再び口を開き、舌をちょんと取り出した。舌を伸ばすよりも全身で這いあがるように、黒く包まれた膨らみに近づき、ぴたりと押し当てた。
(あああ、やっちゃ……た)
男性器を舐める、知識としてだけ知る行為。インターネットや漫画の雑誌、そして友達からの話でしか知らなかったフィクションのような行為。まだ彼氏だっていたことがないのに。ファーストキスだって無かったのに。
だが、初めての行為に対するショックよりも、不思議と頭の中は、行為が上手にできているのかという疑問と不安に塗り替わっていた。イオーを、仕えるべきオスを喜ばせたいという心を自覚した。
舌に熱を返す存在感に密着したまま、ちらりとイオーの顔色を窺う。イオーはレストランで食事をしていたときと同じように、朗らかな笑みを浮かべていた。緊張や不安が一気に吹き飛んだ気がした。
「ちゅ、……っぺろ、……ちろ、ちろ……」
嬉しくなって何度も舐めた。本物のイヌが飼い主の顔を舐め上げるように、忠犬として芽生えた喜びを精一杯伝えようとした。尻尾がぶんぶんと暴れ始めた。
イオーの手が伸びてきてモコクンの頭や喉を愛おしそうに撫でまわす。それもまた肯定されたようで嬉しくてもっともっとと舐め。イオーの下着が唾液で濡れることをやや躊躇う気持ちもあったはずだが、いまは色の濃くなっていないところを必死に探して、まんべんなく舐め上げることが忠義と愛を示す行為だと思って頑張っていた。
そしてさらに嬉しいことがあった。下着の中に潜む凶悪な肉塊が次第に大きく硬い感触を舌に返してきた。自分の頑張りでオスを勃起させられたことがたまらなく嬉しかった。
イオーがその手でモコクンの顔を持ち上げるように少し遠ざけ、立ち上がろうとしていた。ふと寂しさと、わずかな不安が蘇ったが、またすぐに頭を撫でてくれたので、安心感を覚え直しながらペタンと座って次の指示を待った。
「上手だよ、アリス。次はこれをしゃぶりなさい」
下着を足首まで落としたイオーの股間に、白い陰毛の茂みから赤黒い陰茎がずんとそそり立っていて、その質量がモコクンの顔に影を落とした。
屈服すべき相手を見つけたモコクンの息が速くなる。体を持ち上げて高さを合わせ、きらりと光る先端をゆっくりと舐め上げた。
びりびりと脳が痺れた。知らない匂いと味が口内を満たした。背徳の感覚が駆け巡った。そして、それは体液を味わったからだけではなかった。イオーの手が近づくたびに脳髄を蝕んだキラキラの気配がそこにあった。それは陰茎の根本にべっとりと塗り付けられており、指示通りしゃぶっていけば、確実に自らの口内に取り込んでしまうことは理解できていた。だが、ほんのわずかに理解し始めていた理性の腐食の原因などもはやどうでもよく、いまはどう奉仕をすれば喜んでもらえるのかが重要だった。
かぱ──と大きく口を開けた。イオーの腿にすがりつき、不格好に後足で立ち上がるイヌとして、その先端より上に顔を持っていき一気に口に含んだ。
(あ、あ、食べちゃった……ご主人様のおちんちん……)
ぺろ、ぺろ──口の中で舌を動かす。本能的な反応だったかもしれない。亀頭だけで口内が占められた驚きでそれ以上進めなかったせいかもしれない。できることを考えて必死に舐めまわした。規則性もなにもない、つい一瞬前に自分がどう舌を動かしていたかも分からない、ただ舐めじゃくるという行為だったが、イオーの手が変わらず頭を撫でつけてくれるので、間違っていないという安心で尻尾をさらに左右に振り揺らした。
(あむ、あむ……。ああ、なんか、しょっぱい……。なんか出てる。うれしい……。うれしい、うれしい……)
顎に疲労を感じ、口がやや狭くなってきた。舌の付け根も初めての連続運動に重く息苦しくなった。少しだけ休憩をしようと舌を止めたとき、イオーの撫でる手が止まり、頭頂をクレーンのようにがしりと捕まえた。咎められるかと不安になる隙もなく、一気に顔を押し込まれ、モコクンの喉が大きくこじ開けられた。
「おごっ……!」
入るはずのない大きさのものが喉の肉を押しのけた拍子に、他のすべてが押し出されて飛び出てしまうと感じた。無様に涙と鼻水が噴き出したことは分かった。
イオーの両手は頭の横で結んだふわふわの髪を掴み、ぐりぐりと顔を引き寄せて、さらに肉棒を深くまでねじ込んだ。
(ぐるじいっ……、や、やめ……なん、やめて……ぇっ)
白い茂みに押し付けられて埋まった鼻から、バチバチッ! バチッ!──甘い光が何度も突き抜けた。脳髄が撫でまわされ、溶けて視界が真っ白に爆ぜる。
(じぬっ! じぬがらっ! たしゅけて……っ♡)
じたばたと手足を暴れさせ必死に抵抗をした。窒息の恐怖に怯え、涙目で必死に訴えた。歪む視界に辛うじて捉えたイオーの顔はとても満足気に笑っているように見えた。
ヌロォ──と音を立てて小さな口から血管の浮き出たグロテスクな肉棒が引き出されていく。ほんの数秒だったであろう拷問から解放され、床に落ちてむせ、必死に息を整えた。
「えほっ……げえっ……、けほっ、はぁっ! はぁ、はっ、はぁ……」
どうしてという目で見上げると、やはりイオーは満面の笑みを浮かべていて、──モコクンも嬉しくて笑った。
「さぁ、おいで」
ご主人様が呼ぶ。向かわなければいけないが、まだ酸欠の体が動かない。だがいままでは自ら赴いていたその言葉と同時にご主人様のたくましい腕が伸びてきて、モコクンの脇下に差し込まれる。
次の瞬間、ふわりと体が浮き上がった。軽々と持ち上げるご主人様の圧倒的な猛獣の腕力に頬が火照ってしまう。持ち上げられたまま目が合う。ご主人様の凛々しいお顔がまぶしくて、愛おしくて舐め上げたくてたまらない。
くちゅり──、お顔に夢中になっていると、股間に熱を感じた。なにが起きているかすぐに分かった。
「へっ、へ、へっ……ああ、あおん……」
ご主人様のおちんちんが、みちち──と音を立てながら、お腹の中に入ってくる。
「ああ、はああ……、っンぃぃ……!」
じくじくとした痛みもあったが、そんなものは歯を食いしばっておけばよかった。うれしい。ご主人様が愛してくれている!
ぶち──。
「ああああっ! はああっ……」
まだ硬い初めての関門を超えると、ご主人様のおちんちんに一気に体の底から突き上げられた。胃が口から出そうになった。舌をだらしなく垂らして涎の粒を零しながら、お腹の中の熱を楽しんだ。熱い。大きい。苦しくて気持ちいい……!
「うああっ、お、おぐう……っ!」
お腹を広げられ、奥が潰れる。生まれて初めての感覚が次々に脳を襲う。辛うじてヒトの言葉にならないように注意したが、頭でものを考えるのも限界がきていた。
持ち上げられたままの体を道具のように上下させられ、おちんちんが抜けそうになって、お腹の中身ごと引きずりだされそうになる。すぐに体が落ちて、全てがお腹の中に戻っていく。おちんちんがごりごりと擦って、きもちいい、おちんちんきもちいい……っ!
「ひゃああ、へぇっ…、へ、へっ、へっ! おお、おおんっ」
言葉が分からない。イヌのふりはもうできてなかった。
(あへええ、きもぢいい、あはああっ、ごしゅじんしゃま! ごしゅじんしゃまぁ!)
「よく締まるねぇ、これはどうだい」
脇下を掴む手がお尻に移動して、はずかしいお肉をぎゅっと掴まれる。爪が食い込んだ痛みが刺激的で気持ちいい。後ろから支えられることでご主人様の胸に埋まって、ご主人様の汗が脳を犯した。
(き、きらきらだぁ……、あへへ、へ……)
おちんちんを咥えたお股を支点に、お尻を上下に振られ、小刻みに、そして高速でお腹を削りえぐられた。
「あおっ、おんっ! うぎっ、んぐっ、んぐうっ!」
「はっははは。アリスの体は正直でいい。これはどうだ?」
片腕がお尻から離れ、それでも軽々と支えられながら、もう片方の腕に首を掴み上げられた。太く硬い指がぎゅうと締め付けてくる。
「かっ……! か、ああ……」
「おお、締まる締まる」
息の根を止められ欠け、体が危機に反応する。種を残すため、モコクンの膣は陰茎を締め上げた。それが快感を倍増させる。
(ぐるじ、いのにっ、きもぢいっ! ぎもぢいいっ! あたまおかしくにゃるっ! わかんにゃい! わがんにゃいいい!!)
白目を剥き舌を零しながら、叩き付けられるリズムに合わせ、ぶしょぶしょと音を立てて淫汁を噴き出し続けた。
ガリィッ──肩に強烈な痛みが走る。
「ぎゃああっ!! ひいいっっ!!」
突然、ご主人様に鋭い牙を突き立てられた。牙は深く食い込み、熱い。じくじくと痛みが走ったはずだが、おちんちんが気持ちいい。
おちんちんがお腹を何度も何度も叩いて、苦しくて痛いほどそれがよく分かった。おちんちんがどんどん熱く太くなってると思った。
「おおおっ、おおんっ! おん!」
「がは、いいぞ。珍しくもう……っ」
ご主人様のお口が離れて、噛み裂かれた傷口から背中に熱い感触が流れた。また体を持ち替えられて、腰を掴まれて、すごい速さで上下させられる。
「やああああっっ!! あおおんっっ!!! しょえ、ひゃめえええっっ!!」
首をぶんぶんと振り回し、次々にお腹の底から突き上げてくるおちんちんの気持ちよさから逃れたかったが、その願いは微塵もかなわなかった。無駄な努力をあざ笑うように、ご主人様のおちんちんが大きく存在感を増した。
「おお、おお。アリス、味わえっ」
「あおおおんっ!!」
ぐんと子宮の底を強引に押し付けられ、胎内がごりっと押し退けられる衝撃で、頭の中がチカチカとキラキラで埋め尽くされた。
バチバチッ──頭の中の光が次々と誘爆して視界へ飛び出していき、見えていたはずのご主人様も部屋も真っ白で、すべてを見失った。
(にゃにっ、これにゃにぃ……♡)
なにもわからないまま、ご主人様の手に強く力が籠り、背中とお腹が痛くて気持ちよかった。お腹の奥がまた知らない感触を脳に届けようとしたが、迷子になった。なにが起きているかわからない。
ご主人様の顔がだんだん見えてきた。目を閉じて気持ちよさそうにしている。好き……。かわいい……。
ぬろぉ──と音を立てて、おちんちんが出て行っちゃった。やだぁ……。
「はっ、はあああ……」
「ふう──、は、はぁ……」
体を持ち上げられ、お腹がぽっかりと口を開けたまま、ひくひくと蠢いていた。おちんちんがなくなって寂しくて、なにかを掴むようにきゅうと口を締めた。
ぼたた──、その口をたどって重たいなにかが落ちていく。ねっとりと気だるい体液が太腿を伝った。くすぐったい気がした。
空中で体が動いて、柔らかいカーペットの上に置かれたのが分かった。起き上がってご主人様を舐めに行きたかったが足にも首にも一切力が入らず項垂れることしかできなかった。
バタン──、トットットット──、カラン──。ご主人様のいる方から不思議な音が聞こえてくる。匂いを嗅ぎたかったが、何種類もの強い匂いが混じっていてもうなにも分からず、休むことにした。
「やぁ、──くん。今夜の『ファミリアリス』はなかなかいいよ。ああ、──、──。」
(ああ……、ご主人様の声、おちつく……♡)
愉快気な話し声を子守唄として聞いていた。
また、カラン──と音がして、ぐいっと体が持ち上がった。ご主人様がまたかまってくれると思って、動かない四肢の分を尻尾に働かせた。
腰を腕に巻き付けられて抱えられ、四本の足をだらんと垂らしたまま、隣の部屋に連れてこられ、まもなくベッドの上に横たえられた。
(──また、ご主人様に可愛がってもらえ──!?)
のしりとベッドに膝をついたご主人様が、モコクンの足首を掴み、ぐいと引き寄せた。
真っ赤に腫れ、体液をこぽりと垂れ流し続けている淫猥な蕾にしっかりと硬いそれが押し当てられ、すぐに肉の洞窟を奥までこじ開けた。
「んおおおっっ! あああっ!!」
少し休んだことで狂った神経系が整理されたせいで、ご主人様のおちんちんが脳髄を直接叩いた。背骨が破裂するような衝撃に、顎が跳ねあがって情けない叫び声が溢れ出た。子宮を押し上げられ、突き上げられたその上の臓器が情けない声となって口から飛び出していく。
掴まれた足を体操選手のように天井に向けられて、横向きの体勢のままおちんちんをぶつけられると、さっきよりも深く深く膣内を掘削されてしまい、嬌声を響かせるしかできなかった。
「あおんっ! ンおおっ! おひっ!」
「かはは、ほれもっと啼け!」
「んぎいいっっ!!」
ご主人様の指が胸の先端に食い込み、ぷっくりとした肉に突き刺さる。悲鳴をあげて喜んだ。
バン! バン! と一切の容赦がなく腰が打ち付けられる。その度に、ゴリィ──と体内に音が響き子宮がひしゃげ、体から何かしらが絶えず飛び散った。
「ああっ! へっ、へぇっ! ンオおおおっ! おっ! おっ! おっ! あアっ!」
「ぐは、はっあ……! おおお!」
ご主人様の息が荒く高ぶり、ぐぎ──と子宮に押し付けられた肉棒の先端が爆ぜ、白い邪悪が注ぎ込まれていく。二度目にして、胎内に染みわたっていく感覚をかすかに感じた。
「はーーーっ! はっ、はぁっ……! へ、へっ……へぇっ……」
足が解放されて体が投げ出された。ぴくぴくと四肢が震える。
だがすぐに、また体を持ち上げられた。
(ふああ……、お、おわらにゃ……の?♡)
ドチュ──今度は後ろから、尻尾の付け根をはしと掴まれて、おちんちんが侵入してきた。さっきまでとまったく形が違うように感じ、叩き付けられる快感を一切いなせない。
「んおおおおっっ! しょれっ、うしろやだっ! うしろからしゅごいっっ!」
ばちん!──尻に鋭い痛みが走る。お仕置きのような平手打ちだった。かすかな意識で、ヒトの言葉をこぼしたことを咎められたと分かったが、イヌの身では謝罪もできなかった。代わりに必死に尻を持ち上げた。体勢によっておちんちんが通り抜ける感覚と気持ちよさが違うと分かりつつあったし、モコクンが気持ちよいときはご主人様も気持ちよいと思い込んでいた。必死に自分の中の、おちんちんにいじめてほしい場所が当たりやすいように、胴体を曲げてお尻を差し出した。
「お゛っ!?」
思った通りだった。自分をご主人様のおちんちん専用ケースとして認め捧げた瞬間──
バチバチバチィッ!!
世界が真っ白に開けた。
「お゛っお゛っお゛っお゛ぉ゛っっ!!♡」
おちんちんの凶暴さが増した。
「ぐうっ! イクぞ、アリス!」
(うああ……?♡ い……?)
びゅるる──お腹が苦しい。おちんちんが勢いよく抜けて、背中とお尻に熱いものが落ちてきた。
ずりと膝がシーツを引きずって伸び、ベッドの上にお尻だけ高く掲げた情けない山ができた。
「ふう──、まだまだ尽きんな」
ご主人様が喜んでいて、うれしかった。
二の腕を掴まれ、ベッドから引きずり降ろされる。壁の前のデスクに乗せられ、正面から両後足を掴まれ大きくV字に広げられる。
ずぶう──、逆流するすべてを押しのけておちんちんが撃ち込まれる。
「お゛ぉ゛んっっ!!♡」
思い切り顎が跳ねあがって、ゴンと壁に後頭部を打ち付けた。だがそんなことは起きていないかのように、激しい衝突音を奏でながら腰が打ち付けられる。ご主人様のチクチクとした体毛が陰核に突き刺さった。
「い゛っ、おおっ、んあああっっ!!♡」
「はぁ、はぁっ! 出る!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!♡」
ご主人様からいただく濁った愛を受け止めきれなくなって、おちんちんは押し返されるように外に飛び出し、あふれ出した愛情が全身に降り注いだ。目や鼻が、脈動とともに迸る臭い体液に打ち付けられて覆われていく。
「はぁっっっ……はああっっ……」
息を整える間もなく、また持ち上げられてベッドへ落とされる。うつ伏せのままぐしゃぐしゃのシーツが顔にへばりつく精液を拭い、お尻の肉が脇によけられ、またおちんちんが突き入れられた。
「ぐう゛う゛っっ!! あ゛へえ゛っっ!♡ もっ、やあ……っ♡」
ぐりぃっっ!──お尻の穴に鋭い痛みが走って上体が跳ねた。唐突に硬い括約筋を指でこじ開けられた。
「あ゛がっっ!?」
訳も分からないままに、二つの穴を目いっぱい広げられ、叩き付けられ、蹂躙され続けた。ご主人様の親指がどんどん侵入してきて、口から舌の根本までを追い出して、肺の中の空気がすべて抜け出た。
「お゛……、ぁ……」
胎内に何度目かもわからぬ熱の広がりを感じ、すがるようにシーツを握りしめようとしたが、前足にもう力が入らない。その感覚を最後に、モコクンの意識はプツリと音を立て、途切れた。
*
「……ぁ……、は……っ」
背に感じるひんやりとした感触で目を覚ます。ぶるりと体が震え、寒さで脳がわずかに覚醒した。体中が軋み、すべての筋肉が職務放棄をしていた。必死に腕を引きずって体重を支えられる体勢をとり、時間をかけて起き上がる。
(ここ、どこ……)
記憶が混濁している。股間と肩にズキンと重たい痛みが走り、ぶわっと涙が溢れてくる。頭が理解する前に、受け止めきれない悲しみと後悔が漏れ出していた。
「うそ……、うそうそ……やだよぉこんなの……」
カピカピと硬い頬を涙が伝う。ぼろぼろと落ちる涙を手で拭うと、ぬるりとした感触を覚えて気が狂いそうになった。
「おええっっ」
その場で脚の上にわずかに嘔吐してしまう。それも胃液ではないなにかが吐き出されて、自分の体にはなに一つも純潔が残されてないと悟った。
一頻り泣き、悲しみが虚しさを下回る程度に落ち着くと、ベッドを降り、とぼとぼと歩いた。隣の部屋までたどり着くと、一人掛けの椅子の上に、制服と下着が丁寧に置かれていた。この穢れ切った体のまま、現実へ戻っていかなければいけないのだと突き付けられ、その場で崩れ落ち、また泣いた。
泣いて、泣いて、悔しさのあまり強く握りこんだ指の爪が手のひらの皮を割いた。
泣いて、泣いて、疲れ切ってまた意識を手放した。