※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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御門涼子の場合(1)

 朝の廊下は、いつも戦場だ。

 

唯にとって——学校とは、視線と戦う場所だった。

 

昇降口から教室まで、約三分の道のり。

その三分の間に、唯は少なくとも五回は男子の視線を浴びる。

 

最初は廊下ですれ違う二年の男子。目線が——胸に行って、顔に戻る。

次に階段を上る時、後ろにいた男子。目線が——お尻に行って、逸らされない。

教室の前で立ち話をしている男子グループ。唯が通ると、一瞬だけ黙って、通り過ぎてからひそひそ話が始まる。

 

「古手川って、やっぱスタイルすげーよな」

「あの胸で風紀委員はずるい」

「お尻もヤバくない? スカートの形でわかんだけど」

 

聞こえている。全部、聞こえている。

 

唯は背筋を伸ばしたまま、前を向いて歩いた。

制服はきっちり着ている。ブラウスの第一ボタンまで留めている。スカートは規定丈。

なのに——B88の胸がブラウスを内側から押し上げて、ボタンの隙間から肌色が覗く。

お尻の膨らみがスカートの布地を引っ張って、歩くたびにヒップラインがくっきりと揺れる。

 

(……私は、ちゃんと着ているのに)

 

ちゃんと着ていても——身体が、制服に収まらない。

それが苛立たしい。自分の身体が——自分の意思に反して、男の視線を集めてしまう。

 

教室に入った。

 

席に着く。鞄を机の横に掛ける。

 

「おはよ、古手川さん」

 

隣の席の女子が声をかけてきた。

唯は微笑んで「おはよう」と返した。

 

「ねえ聞いた? また結城くんの噂」

 

——また。

 

唯の眉が、僅かに動いた。

 

「今度は何?」

 

「なんかね、籾岡さんとできてるんじゃないかって。最近あの二人、帰る時間が同じらしいよ」

 

籾岡里紗——と——結城リト。

 

唯は——一瞬、言葉を失った。

 

「籾岡さん? あのギャルの——?」

 

「うん。なんか最近、籾岡さんの格好もすごいことになってるじゃない? あれって結城くんの影響なんじゃないかって」

 

唯の脳裏に——籾岡の姿が浮かんだ。

へそ出しのブラウス。限界のスカート。胸元が大きく開いた制服。

 

あの格好が——結城くんの影響?

 

(まさか——あの籾岡さんまで——?)

 

唯は唇を引き結んだ。

 

今度は——籾岡里紗?

 

(結城くんの周りで、おかしくなっていく女の子が——増えている——)

 

唯の胸の奥で、冷たいものがぎゅっと締まった。

 

         *

 

昼休み。

 

唯は風紀委員の腕章をつけて、校内の見回りに出た。

一人で歩く。いつもの巡回ルート。

 

二階の廊下を曲がった時——見つけた。

 

籾岡里紗。

 

廊下の窓際にもたれて、スマホをいじっている。

制服は——案の定、ひどい有様だった。

 

スカートは太腿の付け根が見えるほど短い。

ブラウスの裾はスカートから出ていて、へそが丸見え。白い腹が廊下の蛍光灯に照らされている。

胸元のボタンは二つ外れていて、黒いブラジャーのレースが僅かに覗いている。

ブレザーは肩から落ちかけて、片腕しか通していない。

 

そして——腰骨の上に、黒い紐が見えた。

スカートの上からちらりと覗く——Tバックの紐。

 

唯は歩み寄った。

 

「籾岡さん」

 

風紀委員の声。ぴしっとした声。

 

籾岡がスマホから顔を上げた。

 

「あ、ユイじゃん。お疲れー」

 

にへら、と笑う。前にも見た、あの軽い笑顔。

 

「お疲れじゃないわ。その格好——前より酷くなってない?」

 

唯は籾岡の全身を見下ろした。指を折る。

 

「スカートが短すぎ。ブラウスが出てる。ボタンが外れてる。下着が見えてる。——四点」

 

「え、下着見えてる? どこどこ?」

 

籾岡が自分の腰を見下ろした。Tバックの紐が——がっつり見えている。

 

「ここ。この紐」

 

「あー、これ? Tバックだからしょうがないんだよねー。普通のパンツだとスカート短いから見えちゃうし」

 

悪びれもしない。

 

「Tバックを履いてくること自体が問題なの!」

 

「えー、でもさあ、パンツのライン響くのもダサいじゃん? ユイだってそういうの気にしない?」

 

「気にしないわよ! 私は規定通りの——」

 

「ほんとに? ユイのお尻ってめちゃくちゃ大きいじゃん。普通のパンツで透けない? スカートの上からラインくっきりだけど」

 

「っ——」

 

唯の頬が——かっと赤くなった。

 

籾岡の目が——唯のお尻を見ている。にやにやしながら。

 

「あとさ、ユイの胸ってDどころじゃないでしょ。Fくらいある? ブラウスぱっつんぱつんだもんね」

 

「わ、私の体型の話はしてないでしょう!」

 

「してるしてる。だってユイもさ、なんだかんだエロい身体してんのに、それ隠してるのって逆に男の目引くっていうか——」

 

「引かないわよ!」

 

「引くって。ていうかさ——」

 

籾岡が——にやっと笑った。

いつもの軽い笑顔とは少し違う。少しだけ——意地悪な笑顔。

 

「ユイってさ、そのガード固い感じが逆に——男好きしそうっていうか。男の方からしたら、崩したいって思うタイプじゃない?」

 

「——は?」

 

唯の思考が——一瞬、止まった。

 

崩したい。

ガードが固いから——崩したい。

 

(崩す——って——)

 

唯の脳裏に——一瞬だけ、映像が閃いた。

 

壁に押し付けられて。ブラウスのボタンを外されて。

「破廉恥な!」と叫びながら——88センチの胸を、大きな手で——。

スカートの中に手を入れられて——お尻を掴まれて——。

 

その「大きな手」の持ち主の顔が——。

 

(——っ!!!)

 

唯は首を横に振った。激しく。

 

「な、何を馬鹿なことを言って——そんなこと、あるわけないでしょう!」

 

声が裏返った。顔が真っ赤になっている。耳まで熱い。

 

籾岡が——けらけらと笑った。

 

「うっわ、顔真っ赤。ユイ、もしかして今なんか想像した?」

 

「してないっ! 絶対にしてないっ!」

 

「絶対にって言うやつ、だいたいしてるんだよねー」

 

「っ——籾岡さんっ!」

 

唯が一歩詰め寄ると、籾岡はひらひらと手を振って後ずさった。

 

「はいはい、ごめんごめん。ブラウス直せばいいんでしょ? へそ、しまいまーす」

 

籾岡がだらだらとブラウスの裾をスカートに押し込みながら、「じゃーねー、ユイ」と手を振って去っていった。

 

唯は廊下に一人残された。

 

心臓がまだ速い。

頬がまだ熱い。

 

(籾岡さんに——からかわれただけ。それだけ。深い意味はない)

 

唯は深呼吸した。

 

「崩したいタイプ」——その言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。

そしてさっき一瞬だけ脳裏に閃いた——あの映像。

 

あの「大きな手」の持ち主。

 

唯は——考えないようにした。

考えないようにして、巡回報告書を胸に抱えて、歩き出した。

 

ローファーの音が——誰もいない廊下に響いた。

 

 

         *

 

 

 五時間目の終わりに、唯は頭が痛くなった。

 

痛い——というほどではない。

ずきん、とこめかみの奥で鈍い拍動がするだけだ。

疲れているのかもしれない。最近、ちゃんと寝ていない。

 

原因は分かっている。

 

結城リト。

 

あの男のことを考えると——頭痛がする。

噂の数が、もう数えきれない。

 

全員が——あの男と何かがあるかもしれないと囁かれている。

全員が——少しずつ、何かが変わっている。

 

なのに——証拠がない。

誰も「結城くんにこうされた」とは言わない。

むしろ逆だ。名前を出すと——庇う。褒める。話を逸らす。

 

(……守っている? あの男のことを?)

 

唯はこめかみを押さえた。

 

考えるだけで——苛々する。

あの爽やかな笑顔。あの自然な距離感。女の子の隣にいても不自然じゃない、あの空気。

 

(あんな男が——どうして——)

 

唯は席を立った。頭痛薬をもらいに行こう。保健室に。

 

         *

 

保健室のドアをノックした。

 

「はい、どうぞー」

 

聞き慣れた声。穏やかで、少しだけ気だるい。

 

唯はドアを開けた。

 

保健室の中は——いつも通りだった。

消毒液の匂い。白いカーテンで仕切られたベッド。デスクの上に広げられたカルテ。

窓から差し込む午後の日差しが、白い空間をぬるく照らしている。

 

御門涼子先生が——デスクの椅子に座っていた。

 

白衣。その下に、ピンクのノースリーブシャツ。胸元が大きく開いていて、谷間が——惜しげもなく覗いている。

超ミニのタイトスカート。座った状態だと、太腿がほぼ全部見えている。腿丈のストッキングの境界線——素肌とナイロンの境目が、椅子の縁でくっきりと分かれていた。

 

唯は——一瞬だけ、御門先生の身体を見た。

 

Hカップ。

その数字を、唯は知っている。保健室の身体測定データを整理する手伝いをした時に——先生のデータが目に入ってしまったのだ。

自分のB88でも持て余しているのに——95。しかもウエスト58。ヒップ91。

グラマラスという言葉では足りない。妖艶——という言葉がこれほど似合う人を、唯は他に知らない。

 

栗色のショートボブ。薄緑の知的な目。整った顔立ち。白くきめ細かい肌。

 

二十六歳。

大人の女。完成された美。

 

「あら、古手川さん。どうしたの?」

 

御門先生が——にっこりと笑った。

穏やかな笑顔。包み込むような。

 

「頭が少し痛くて……頭痛薬をいただけますか」

 

「もちろん。座って待ってね」

 

御門先生が椅子から立ち上がった。

白衣の裾が揺れて——タイトスカートに包まれたヒップラインが、ぷりんと揺れた。

薬棚に向かう背中。ストッキングに包まれた長い脚。ヒールの音がこつこつと保健室に響く。

 

唯は——ベッドの縁に座って、御門先生の後ろ姿を見ていた。

 

(……先生は、大丈夫よね)

 

ふと——思った。

 

御門先生。この学校でもっとも美しい教師。

妖艶で、大人の余裕があって、生徒からの信頼も厚い。

 

こんな先生が——結城くんなんかに。

 

唯の中で——邪推が、頭をもたげた。

 

御門先生は——男性経験が、あるのだろうか。

 

二十六歳。独身。美人。スタイル抜群。

男が放っておくはずがない。合コンでも街でも、声をかけられない日はないだろう。

 

でも——御門先生は、プライベートの話をほとんどしない。

恋人がいるという話は聞いたことがない。休日に誰かと出かけているという噂もない。

 

(もしかして——男性経験が少ないのかしら)

 

唯は自分の邪推に少し罪悪感を覚えながらも——考えてしまった。

 

あの完璧な容姿。あの妖艶な身体。

なのに——いつもニコニコと穏やかで、色気をひけらかすようなことはしない。

生徒に対しても公平で、誰に対しても優しい。

 

(先生は——ちゃんとしている人だもの)

 

御門先生が——薬と水の入った紙コップを持って戻ってきた。

 

「はい、これね。食後に飲んだ方がいいから、お昼食べた?」

 

「はい、食べました」

 

「じゃあ大丈夫ね。無理しないでね、古手川さん」

 

御門先生が——唯の隣に座った。

ベッドが少し沈む。白衣の裾が唯の腕に触れた。

 

近い。

でも——嫌な近さではなかった。

お母さんのような——安心する近さ。

 

唯は薬を口に含んで、水で流し込んだ。

 

「最近、疲れてるみたいね。何か心配事でもある?」

 

御門先生の声は——穏やかだった。

唯を見る薄緑の目は——柔らかくて、温かい。

 

唯は——一瞬だけ、言いかけた。

結城くんのこと。噂のこと。みんなが変わっていくこと。

 

でも——言わなかった。

 

「いえ……少し寝不足で。風紀委員の仕事が立て込んでて」

 

「もう、真面目なんだから。ちゃんと休むのも仕事よ?」

 

御門先生が——唯の頭をぽんっと撫でた。

大人の手。柔らかくて、温かい。

 

唯は——少しだけ、肩の力が抜けた。

 

(——やっぱり。先生は大丈夫)

 

御門先生は——いつも通りだ。

穏やかで、優しくて、大人の余裕がある。

 

あの笑顔に——裏はない。唯はそう信じた。

結城くんの噂が学校中を蝕んでいても——この保健室だけは、安全だと。

 

「ありがとうございます、先生」

 

唯は立ち上がった。

 

「いつでもおいで。保健室は古手川さんの味方よ」

 

御門先生が——にっこりと笑った。

あの妖艶な容姿に、全く似つかわしくない——柔らかい、母親のような笑顔。

 

唯は保健室のドアを閉めた。

 

廊下に出ると——さっきより、少しだけ頭痛が和らいでいた。

 

(先生に話を聞いてもらって、楽になったのかも)

 

唯は風紀委員の腕章を直して、歩き出した。

 

御門先生は大丈夫。

あの先生は——結城くんなんかに、揺らがない。

 

唯は——そう信じていた。

信じていたかった。

 

保健室のドアの向こうで——御門先生がどんな表情をしているか、唯は知らない。

唯が去った後の保健室で——先生のスマホが震えたことも、知らない。

画面に表示された名前を見た瞬間——御門先生の薄緑の目が、ほんの一瞬だけ揺れたことも。

 

唯は——知らない。

 




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