※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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御門涼子の場合(2)

 鏡の前に立つのが、嫌いじゃない。

 

朝。シャワーを浴びた後の、まだ湿った身体。

栗色のショートボブから雫が一筋、鎖骨を伝って——胸の谷間に消えた。

 

私は——鏡に映る自分を、静かに見つめた。

 

白い肌。きめ細かくて、二十六にしては張りがある。

鎖骨のラインは綺麗に浮いていて、首筋から肩にかけての曲線が滑らかに流れている。

腰がきゅっと締まって、そこから臀部へと膨らむシルエット。

そして——胸。

 

Hカップ。

 

数字で言うと生々しいけれど——事実だ。

重力に逆らって丸みを保っているこの胸は、遺伝と体質に恵まれた結果に過ぎない。

自慢するつもりはない。でも——卑下する気もない。

 

これが私の身体。御門涼子の身体。

二十六年間、一度も他人に明け渡したことのない——私だけのもの。

 

タオルで髪を拭きながら、クローゼットを開けた。

今日のインナーは——ピンクのノースリーブ。胸元が大きく開いたやつ。

ボトムスは超ミニのタイトスカート。黒。

腿丈のストッキングを通して、白衣を羽織る。

 

下着は——着けない。

 

昔からそう。ブラジャーの締め付けが嫌い。ショーツのラインが服に響くのも嫌い。

面倒くさいのよ、あれは。

 

玄関の姿見で最終チェック。

白衣の裾からタイトスカートのヒップラインがくっきり見えている。ノースリーブの胸元からは谷間がたっぷりと覗いている。ストッキングの太腿の境界線が、スカートの裾からちらりと見える。

 

——うん。いい女だわ。

 

自分で言うのもどうかと思うけれど。

鏡に映る自分が好きだ。嫌いになったことがない。

 

髪型も、顔立ちも、身体も——全部、私のものだから。

誰かに見せるためじゃなく、自分が「これでいい」と思える自分でいたい。

 

コーヒーを一杯だけ飲んで、家を出た。

 

         *

 

彩南高校の保健室。

ここが——私の城。

 

白いカーテン。消毒液の匂い。デスクの上のカルテの山。

窓から入る日差しが、白い空間をぬるく照らしている。

 

私はデスクチェアに座って、コーヒーを啜った。

インスタントじゃない。豆から挽いた、ちゃんとしたやつ。保健室に自前のミルとドリッパーを持ち込んでいる。

養護教諭が保健室でコーヒーを淹れるのは規約違反かもしれないけれど——まあ、誰も文句は言わない。

 

この学校での私の立ち位置は——わかっている。

 

「御門先生って、マジで美人」

「あの胸ヤバくない? 先生なのにエロすぎ」

「でも優しいし、相談しやすいよね」

「話聞いてくれるし、怒らないし」

「御門先生がお嫁さんだったらなー」

 

——全部、聞こえている。保健室の壁は薄いのよ。

 

生徒たちからの評価は——悪くない。

「妖艶な美人」で「優しい先生」。保健室に来やすい雰囲気を作っているつもりだし、実際にそうなっている。

男子生徒は私の身体をじろじろ見るけれど——慣れた。中学の頃からずっとそうだったから。

視線を気にしていたらきりがない。気にしないと決めたのは、もう十年以上前のこと。

 

教師陣からの評価も——まあまあ。

「御門先生は有能だけど、あの格好はちょっと……」という声があるのは知っている。

でも——これが私のスタイルなの。着たい服を着る。それだけ。

医師としてもしっかり仕事をしているし、検診データの管理は誰よりも正確だし、生徒の相談記録もちゃんと残している。

見た目で判断されるのは面倒だけれど——実績で黙らせればいい。

 

コーヒーを一口。

苦みが舌の奥に広がって、頭がすっきりする。

 

——私は、いい女よ。

 

別に自惚れじゃない。客観的事実。

容姿は恵まれている。頭も悪くない。医師免許も持っている。仕事もできる。

二十六歳、独身。彼氏なし。

 

……彼氏、なし。

 

窓の外を見た。

校庭で体育の授業をしている生徒たちが、小さく見える。若い身体が跳ねている。

 

二十六年間——私は、自分の身体を誰にも渡していない。

 

恋愛経験が少ないわけじゃない。

告白されたことは——数えきれないくらいある。中学で五回。高校で十二回。大学で……もう覚えていない。

社会人になってからも、合コンに誘われたり、患者さんに連絡先を渡されたり。

 

でも——どれも、違った。

 

顔がいいだけの男。ステータスを自慢する男。私の胸ばかり見る男。

「御門さんって綺麗ですよね」と言いながら、目が身体に張り付いている男。

 

全部——違う。

 

私が求めているのは——そういうのじゃない。

 

理想が高いのは、わかっている。

でも——妥協したくない。この身体も、この心も、「この人になら」と思える相手にだけ渡したい。

そう思える人が現れないなら——一生独身でいい。

 

本気でそう思っている。

 

寂しくないと言えば嘘になるけれど——寂しさで妥協するほど安くはないつもり。

帰宅すれば一人きりのマンション。テレビの音だけが響くリビング。シングルベッドの広さ。

それでも——自分を安売りするよりはずっといい。

 

いい女でいたい。

誰かのためじゃなく、自分のために。

自分が自分を好きでいられるように——今日も白衣を纏って、背筋を伸ばして、保健室の椅子に座る。

 

それが——御門涼子という女の生き方。

 

         *

 

午前中の保健室は静かだった。

一年生の女子が腹痛で来たのと、三年生の男子が擦り傷の処置に来たくらい。

 

カルテを整理しながら——ふと、思い出した。

 

結城リト。

 

あの名前を聞かない日が、最近ない。

 

「結城くんと誰々が付き合ってるらしい」

「結城くん、また女の子と帰ってたって」

「あの子も結城くんに——」

 

職員室でも、廊下でも、保健室に来る生徒の口からも——あの名前が出てくる。

最初は「また男子高校生の色恋沙汰か」と聞き流していた。

でも——噂の量が、異常だ。

 

一人、二人じゃない。名前が挙がる女子生徒の数が——五人、六人と増えていく。

しかも噂の相手は同級生だけじゃなく、下級生まで含まれている。

 

十六歳の男の子が——そんなに多くの女の子と関係を持っている?

 

(……まさかね)

 

私は苦笑した。

高校生の噂なんて、尾ひれがつくものよ。一つの出来事が十倍に膨らんで広がる。

結城くんが少し顔がいいから、女子と話しているだけで噂になる——そういうパターンでしょう。

 

でも——仮に。

仮に噂の半分でも本当だとしたら。

 

十六歳の男の子が、複数の女の子と肉体関係を持っている。

 

養護教諭として——それは、看過できない。

 

性感染症のリスク。望まない妊娠のリスク。精神的なダメージ。

十代の性行為は——適切な知識と避妊がなければ、取り返しのつかない結果を招く。

 

私は医師でもある。

身体の仕組みは誰よりも知っている。ホルモンバランスの変化も、心身への影響も。

十代で複数の相手と関係を持つということは——身体的にも精神的にも、確実にリスクを背負うということ。

 

(あの子——結城くんは、わかっているのかしら)

 

今は若いから、身体が無理を通す。快楽が全てを上書きする。

でも——十年後、二十年後。人間関係が壊れた時。信頼を失った時。

「若い頃にそういうことをしていた」という過去が——確実に、足を引っ張る。

 

私は——結城くんの保健室での顔を思い出した。

 

爽やかな笑顔。人当たりのいい態度。「先生、ちょっと相談があるんですけど」と来るたびに、自然な距離感で話す。

近すぎず、遠すぎず。でも——ほんの少しだけ、普通の生徒より近い。

 

あの距離感は——計算されているものなのかしら。

 

考えすぎかもしれない。

でも——養護教諭として、あの噂を無視するわけにはいかない。

いずれ、ちゃんと話をしなければ。教師として。大人として。

 

コーヒーが冷めていた。

ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干して、カップを洗った。

 

         *

 

そして——もう一つ、気になっていることがある。

 

ティア。

 

ティアーユ・ルナティーク。

中学の頃からの付き合いの、私の唯一と言っていい親友。

天才科学者で、おっとりしていて、気が弱くて、びっくりするほど隙だらけの——あの子。

 

私の勧めでこの学校の生物学教師になったティア。

教師としてはまだ慣れないことだらけで、生徒に振り回されているけれど——真面目にやっているのは知っている。

 

でも——最近、ティアの名前まで噂に出てくる。

 

「ティアーユ先生と結城くんが——」

 

最初に聞いた時は、馬鹿馬鹿しいと思った。

ティアよ? あのティアが? 生徒と?

 

ありえない。

ティアは——そういう人じゃない。

 

でも——ティアの性格を知っているからこそ、少しだけ引っかかる。

 

あの子は——断れない。

 

「やめて」と強く言えない。

嫌なことをされても、「相手を傷つけてしまう」と思って、曖昧な態度しか取れない。

中学の頃からずっとそうだった。嫌な役割を押し付けられても笑って引き受けて、一人で泣いていた。

 

もし——結城くんがティアに何かしているなら。

 

ティアは——抵抗できない。

 

(……聞かなきゃ。ティアに、直接)

 

そう思っている。もう何日も前から。

でも——聞けない。

 

聞いてしまったら——答えが返ってくる。

もし「何もないわよ」と言われたら、それでいい。疑った自分が恥ずかしいだけ。

 

でも——もし、ティアが目を逸らしたら。

もし、あのおっとりした声が震えたら。

もし——「ごめんなさい……」と、あの子が謝ったら。

 

私は——どうすればいいのかしら。

 

親友として怒ればいい? 「何やってるの!」と叱ればいい?

それとも——教師として、管理職に報告する?

でも——そうしたら、ティアのキャリアは——。

 

コーヒーミルに新しい豆を入れた。

がりがりと豆を挽く音が、保健室に響いた。

 

挽きながら——考えていた。

 

ティアの顔。あの穏やかで、少し困ったような笑顔。

金色のロングヘア。甘い顔立ち。Iカップの胸。

外見だけなら——私より上かもしれない。年齢も同じ二十六歳。

 

でもティアには——私にある「鎧」がない。

大人の余裕という鎧。毅然とした態度という鎧。「私に触れるな」という無言の壁。

 

ティアは——丸腰なのよ。

あの子は、誰に対しても柔らかくて、優しくて、無防備で。

だから——狙われる。

 

(……ティア。あなた、大丈夫なの?)

 

保健室の窓から、中庭が見えた。

昼前の日差しが明るくて、生徒たちが笑い合っている。

 

その中に——結城リトの姿があった。

 

女子生徒と話している。自然な距離感。爽やかな笑顔。

 

私は——少しだけ、目を細めた。

 

あの笑顔の裏に——何があるのか。

噂通りの男なのか、それとも噂が一人歩きしているだけなのか。

 

わからない。

でも——教師として、いずれ向き合わなければならない。

 

ティアのことも——聞かなければ。

聞けないまま放置するのは——親友として、最低だ。

 

ドリッパーにお湯を注いだ。

コーヒーの香りが——保健室にゆっくりと広がった。

 

苦い香り。

朝も昼も夜も——この苦さだけが、私の味方。

 

私は——いい女でいたい。

自分を安売りせず、妥協せず、背筋を伸ばして生きていたい。

 

でも——最近、少しだけ。

この保健室が——広すぎる気がする。

 

白いカーテン。白い壁。白いベッド。

全部、白い。何も汚れていない。

 

それが——正しいことなのか、寂しいことなのか。

二十六歳の私には——まだ、わからない。

 

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