※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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御門涼子の場合(3)

 保健室のドアが開いた。

 

ノックもなし。がちゃ、と無遠慮に。

 

「先生ー、ちょっといいですか」

 

——その声を聞いた瞬間、鳥肌が立った。

 

自分でも驚いた。鳥肌? 私が?

空調の効いた保健室で?

 

顔を上げた。

 

結城リト。

 

ドアの枠に軽くもたれて立っている。制服のブレザーは脱いでいて、白いワイシャツの袖を肘まで捲っている。

ネクタイは少し緩めてあって、第一ボタンは外れている。鎖骨が——覗いている。

 

——久しぶりだ。

 

最後にこの子が保健室に来たのは、いつだったかしら。二週間? 三週間?

噂ばかり耳にしていたけれど、顔を合わせるのは随分と間が空いていた。

 

結城リトの顔を——改めて見た。

 

整っている。

十六歳の男の子の顔。でも——少年と青年の境目にいる、あの独特の色気がある。

輪郭が少し大人びていて、顎のラインがシャープになった気がする。前に見た時より——ほんの少しだけ。

目元が涼やかで、まつ毛が長い。唇は薄くて、口角がわずかに上がっている。

何か面白いことを知っているような——余裕のある表情。

 

(——なに、この子)

 

私は——自分の中に生まれた感覚に、少し戸惑った。

 

惹きつけられている。

この子の——何に? 顔? 雰囲気?

 

違う。もっと——根本的なもの。

 

色気だ。

 

十六歳の男の子から——色気を感じている。

濃密な、じわりと肌の表面を撫でるような——生々しい色気。

ワイシャツの隙間から覗く鎖骨。捲った袖から見える前腕の筋。首筋に光る薄い汗。

 

教師として一線を守ってきた二十六歳の私の中で——何かが、ぴくりと反応した。

 

「どうしたの、結城くん。怪我?」

 

声は——いつも通り出せた。穏やかで、少しだけ気だるい。養護教諭の声。

大丈夫。動揺は見せていない。

 

「いや、ちょっと手切っちゃって。絆創膏もらいに」

 

結城くんが右手を掲げた。人差し指の先に、小さな切り傷。血は——ほんの少しだけ滲んでいる。

 

「あら、見せて」

 

私は椅子から立ち上がった。

 

——立ち上がった瞬間、結城くんの視線が動いた。

 

わかる。

私は——視線の動きに敏感だ。何百回と男の視線を浴びてきた身体が、自動的に検知する。

 

結城くんの視線は——私の胸元に行った。

ピンクのノースリーブの胸元から覗くHカップの谷間。立ち上がった拍子に白衣がはだけて、胸が——ふるんっと揺れた。

 

一瞬。ほんの〇・五秒。

結城くんの視線が胸に吸い寄せられて——すぐに顔に戻った。

 

でも——私は見逃さなかった。

 

そして——もう一つ。

 

結城くんの瞳孔が——開いた。

 

暗い場所でもないのに。明るい午後の保健室で。

あの涼やかな目の中の黒い部分が——ほんの一瞬、ぐっと広がった。

 

(——ロックオン、ね)

 

私は——内心で、少し笑った。

 

この反応は知っている。

男が女を——「獲物」として認識した時の、あの瞳孔の反応。

無意識の身体反応。交感神経の興奮。アドレナリンの微量分泌。

医師として知っている。そして——女として、何度も見てきた。

 

結城リトの目が——私を「女」として見た。

 

(へえ……)

 

面白い。

ヤリチンの噂は聞いている。複数の女子生徒と噂されている、あの結城リト。

その目が——今、私を捉えている。

 

十六歳の少年が。二十六歳の女を。

 

悪い気は——しなかった。

いいえ、正直に言えば——少し、ぞくっとした。

 

あの目には——経験がある。

男の子が綺麗な女の人を見て「わあ綺麗だな」と思う目とは、質が違う。

「どうやって手に入れるか」を考えている目。品定めではなく——攻略を計算している目。

 

(この子、本当に十六歳?)

 

私は——薬棚に向かった。

絆創膏と消毒液を取るために。

 

歩く。

白衣の裾が揺れる。タイトスカートに包まれたヒップラインが——歩くたびに左右に揺れる。ストッキングのナイロン越しに、太腿の筋肉が滑らかに動いている。

ヒールの音が、こつ、こつ、と保健室に響いた。

 

背中に——視線を感じた。

 

見ている。

結城くんが——私のお尻を見ている。

 

わかる。あの視線の温度が、背中から腰にかけて、じわりと這うように降りている。

 

——ふふっ。

 

私は——薬棚の前で、少し考えた。

 

絆創膏は上の棚にある。手を伸ばせば届く。

消毒液は——下の棚。

 

私は——下の棚を開けるために、腰を曲げた。

 

わざと。

 

タイトスカートのお尻が——結城くんの方を向いた。

ミニスカートの裾が太腿の付け根まで上がって、ストッキングの境界線が——がっつり露出した。

素肌とナイロンの境目。腿丈ストッキングのレースの縁が、ぱつんと太腿の肉に食い込んでいる。

そしてその上——タイトスカートに包まれたヒップの丸みが、ぷりんと強調される角度。

下着を着けていないから——スカートの布地の下に、お尻の形がそのまま浮き出ている。パンティラインがない分、逆に生々しい。布一枚の向こうに、裸のお尻がある。そのことが——見ている側にじわじわと伝わる。

 

(——ほら。見なさい)

 

消毒液を取り出しながら——私は、自分の中の醜い喜びを自覚していた。

 

やっていることは——挑発よ。

男の視線を集めて、見せつけて、でも触れさせない。

安売りはしない。ただ——「見たいでしょう?」という無言のメッセージを送る。

 

なぜこんなことをしているのか。

 

……わからない。嘘。わかっている。

 

結城リトの——あの目。

あの「攻略を計算している」目に——私は、火をつけたくなった。

この子の中にある「狩猟本能」に、私という獲物をちらつかせたい。

 

自分が惚れる気はない。

二十六歳の養護教諭が、十六歳の生徒に本気になるなんて——ありえない。

でも——惚れさせるのは、別。

 

あの手練手管で何人もの女を落としてきたという少年が、私には手が届かない。

そういう構図を——作りたい。見たい。楽しみたい。

 

それが——いい女の遊び方でしょう?

 

私は消毒液と絆創膏を持って、結城くんの方に振り向いた。

 

結城くんは——私の目を見ていた。

お尻を見ていた視線を、私が振り向く直前に、顔に戻していた。

 

この切り替えの速さ。

普通の男子高校生なら——振り向いた瞬間、まだお尻を見ていて、慌てて目を逸らす。

でも結城くんは——もう、私の目を見ている。涼しい顔で。

 

(——やるじゃない)

 

「はい、座って。消毒するわね」

 

私はベッドの縁を指差した。結城くんが腰を下ろす。

私は——結城くんの正面に立った。

 

立ったまま、少し前屈みになって、結城くんの右手を取る。

 

この姿勢だと——私の胸元が、結城くんの目の高さに来る。

ピンクのノースリーブと白衣の隙間から——Hカップの谷間が、真正面から覗く。

下着を着けていないから、胸の柔らかい膨らみが、サラリとした布地に直接包まれていて——乳首の位置まで、うっすらとシルエットが浮いている。

 

わざとよ。

 

椅子に座って処置すればいい。横に座ればいい。

でも——私は立ったまま、前屈みで、結城くんの手を取っている。

 

結城くんの指を持ち上げた。人差し指。小さな切り傷。

消毒液を含ませたガーゼで、傷口を軽く拭う。

 

「しみる?」

 

「大丈夫です」

 

結城くんの声は——落ち着いていた。

でも——右手を持つ私の指先が、結城くんの脈に触れていた。

手首の内側。橈骨動脈。

 

速い。

わずかに——脈拍が速い。

 

(……やっぱり。平気な顔して、ドキドキしてるのね)

 

脈拍は嘘をつかない。

医師の私の指先は——嘘を見抜く。

 

「結城くん、最近保健室に来なかったけど。元気にしてた?」

 

世間話のトーンで聞いた。消毒を続けながら。

 

「はい、おかげさまで。先生も——お変わりなく」

 

結城くんが——私の顔を見上げた。

 

「っていうか——先生、前より綺麗になりました?」

 

——。

 

一瞬。

音が——消えた。

 

消毒液を含んだガーゼを持つ手が——ほんの一瞬だけ、止まった。

 

「……何を言ってるの、急に」

 

声は出た。でも——喉の奥に、微かな引っかかりがあった。

 

「いや、なんか、オーラが違うっていうか。前から綺麗だなとは思ってたんですけど——今日、なんか特に」

 

結城くんは——真っ直ぐに私を見ていた。

あの涼やかな目。口角がわずかに上がった唇。

 

お世辞じゃない——と、思ってしまった。

 

いや。

お世辞かもしれない。この子は——そういうことを自然に言えるタイプだ。

何人もの女を落としてきた男が、女を褒める言葉を選び抜いているだけかもしれない。

 

でも——「前から綺麗だなとは思ってた」。

 

この言葉が——刺さった。

 

「前から」思ってた。

今日初めて気づいたんじゃなくて——ずっと思ってた。

 

何回も保健室に来て、何回も私の顔を見て——ずっと、「綺麗だな」と。

 

(——やめなさい、涼子。こんな言葉で揺れるのは、普通の女よ)

 

普通の女なら——ここで、少し笑って、「ありがとう」と言って、距離が縮まる。

普通の女なら——「前から思ってた」という言葉の重みに、きゅんとする。

普通の女なら——この真っ直ぐな目に、心を開いてしまう。

 

でも——私は普通の女じゃない。

 

御門涼子は——この程度じゃ、落ちない。

 

……落ちない。

 

絶対に。

 

「あらあら、結城くん。女の子にそういうこと言って回ってるの? 先生、噂は聞いてるわよ?」

 

軽く。笑いながら。余裕のある声で。

大人の女が、少年のお世辞をあしらうトーン。

 

でも——心臓が、少しだけ速く打っている。

 

「噂は噂ですよ。先生に言ったのは——本心です」

 

結城くんは——表情を変えなかった。

あの少し笑ったような、余裕のある顔のまま。

 

本心。

十六歳の男の子が、二十六歳の女に対して——「本心」。

 

(……この子——本当に厄介だわ)

 

私は——絆創膏を結城くんの指に巻きながら、自分の鼓動を数えていた。

 

速い。

いつもより五拍は速い。

 

でも——気づかれていない。はず。

指先で結城くんの脈を測っていたように、結城くんも私の脈を測れるわけじゃない。

 

絆創膏を貼り終えた。

 

「はい、おしまい。傷は浅いから、明日には塞がるわ」

 

指を離す瞬間——結城くんの指が、ほんの一瞬だけ、私の手に触れた。

 

ぴく。

 

背筋に——電流のようなものが走った。

 

指先。

結城くんの人差し指の腹が——私の手の甲を、さらりと撫でた。

 

偶然? わざと?

 

わからない。この子の場合——どっちもあり得る。

 

「ありがとうございます、御門先生」

 

結城くんが立ち上がった。私より低い身長。でもあと数年すれば——超えるだろう。

成長期の少年の身体。細いけれど、しなやかな筋肉がワイシャツの下に透けている。

 

「先生——またお話しに来ていいですか」

 

結城くんが——微笑んだ。

 

その笑顔は——ずるい。

爽やかで、真っ直ぐで、裏がないように見える。

でも私は知っている。この笑顔の裏に——何がある可能性があるのか。

 

「ええ、いつでもどうぞ。保健室はいつでも開いてるわ」

 

私は——にっこりと笑い返した。

大人の余裕を——全部載せた笑顔。

 

結城くんがドアに向かって歩き出した。

 

「あ、結城くん」

 

呼び止めた。自分でも少し驚いた。呼び止めるつもりはなかったのに。

 

「はい?」

 

結城くんが振り向いた。

 

「……風邪に気をつけなさいね。最近、冷えるから」

 

——何を言っているの、私。

風邪? そんなことを言うために呼び止めたの?

 

「はい。先生も」

 

結城くんが小さく笑って、ドアを閉めた。

 

         *

 

一人になった保健室。

 

私は——デスクの椅子に座り直して、両手で顔を覆った。

 

(……何をしてるの、涼子)

 

指の隙間から——誰もいない保健室が見える。

白いカーテン。白い壁。さっきまで結城くんが座っていたベッドの縁が、少しだけ凹んでいる。

 

胸に手を当てた。心臓が——まだ、少しだけ速い。

 

「前から綺麗だなとは思ってたんですけど」

 

あの言葉が——頭の中で、ぐるぐると回っている。

 

(馬鹿ね。あんな——十六歳の男の子の言葉に——)

 

私は——自分を叱った。

 

最初は余裕だった。

あの子の瞳孔が開いたのを見た時——「ロックオンされた」と気づいて、面白がっていた。

胸元を見せつけて、お尻を向けて、脈拍まで測って——全部、私の手のひらの上のつもりだった。

 

惚れさせて、満足する。

いい女の遊び。余裕の上の余裕。

 

なのに——たった一言で。

 

「先生、前より綺麗になりました?」

 

たったこれだけの言葉で——心臓が跳ねた。

 

悔しい。

普通の男の「綺麗ですね」なら、何も感じない。何百回と言われてきた。

でも——結城リトの「綺麗になりました?」は、少し違った。

 

何が違ったのか——わかりたくない。

わかったら——負けだから。

 

コーヒーを淹れよう。

私は立ち上がって、ミルに豆を入れた。

 

がりがり、と豆を挽く音が、静かな保健室に響いた。

 

挽きながら——思い出していた。

結城くんの指が、私の手の甲に触れた感触。あのさらりとした一瞬。

 

(……偶然よ。偶然に決まってる)

 

でも——もし、わざとだったら。

 

この私を——あの手口で。

 

(——ないわ。ないない。あの子は生徒。私は教師。それだけ)

 

コーヒーの香りが、保健室に広がった。

苦い匂い。落ち着く匂い。

 

カップに口をつけた。熱い液体が喉を焼く。

 

——大丈夫。

私は——御門涼子。

いい女で、強い女で、自分を安売りしない女。

 

十六歳の男の子の一言で揺らぐような——安い女じゃない。

 

そう自分に言い聞かせながら——コーヒーを飲み干した。

 

舌の奥に残った苦み。

それが——さっきの鼓動の残響と、少しだけ混ざった。

 

保健室の時計が——静かに時を刻んでいる。

午後の日差しが白いカーテンを透かして、床に長い影を作っていた。

 

次にあの子が保健室に来た時——私は、どんな顔をするのかしら。

 

余裕のある笑顔? 大人のあしらい?

 

それとも——。

 

(——やめなさい。考えすぎよ)

 

私はカップを洗って、デスクに戻った。

 

カルテの束を開く。仕事に集中する。

文字を追う。数字を確認する。

 

でも——文字の合間に、ちらちらと。

 

あの涼やかな目が。

あの真っ直ぐな声が。

 

「先生——またお話しに来ていいですか」

 

——消えない。

 

(……面倒な生徒ね、本当に)

 

私は——ため息をついた。

ため息のあと——ほんの少しだけ、口元が緩んだことに、私は気づかないふりをした。

 

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