※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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ナナ・アスタ・デビルークの場合(1)

 眠れなかった。

 

目覚まし時計が鳴る三十分前に——唯の意識は浮上した。

カーテンの隙間から差し込む薄い朝日が、天井に細い線を引いている。

 

眠れなかった理由は——わかっている。

わかっていて、認めたくない。

 

結城リト。

 

あの名前が——一晩中、頭の中をぐるぐると回っていた。

 

布団の中で寝返りを打った。

シーツがひんやりと肌に触れる。パジャマのボタンが一つ外れていて、鎖骨のあたりが空気に晒されている。

 

(……昨夜、何を考えていたんだっけ)

 

考えていた——ことを、思い出してしまった。

 

もし——結城くんに、言い寄られたら。

 

「古手川——」

 

あの爽やかな声で名前を呼ばれて。

あの真っ直ぐな目で見つめられて。

 

「俺、古手川のこと——」

 

(——っ!!)

 

唯は布団を頭まで被った。顔が——熱い。朝から。

 

(馬鹿じゃないの。何を考えているの、私は)

 

あのヤリチン。あの最低男。

何人もの女の子をたぶらかしている、学園の風紀を乱す最大の問題人物。

 

そんな男に——言い寄られるわけがない。

言い寄られたとしても——断る。当然。即座に。

 

「結城くん、あなたの手口は全て見抜いていますから。私を他の女の子と一緒にしないでちょうだい」

 

——そう言って、きっぱりと拒絶する。

 

はず。

 

……はずなのに。

 

昨夜の妄想は——そこから先に進んでしまった。

 

「古手川は、本当に綺麗だな」

 

そう言われたら——どうする?

 

「他の女には言わない。古手川にだけ」

 

(……嘘に決まってるじゃない。何人にも同じことを言ってるくせに——)

 

でも——もし。もし、万が一。

 

「古手川と——結婚したい」

 

(けっ——けけけ結婚っ!?)

 

唯は布団の中で悶えた。足をバタバタさせた。

枕に顔を押し付けて、「ありえない、ありえない、ありえない」と無言で唱えた。

 

結城くんと——結婚。

子供がたくさん欲しいという私の夢と——あの男が——。

 

(子供がたくさん——結城くんの——子供——)

 

脳裏に——映像が浮かんだ。

 

白いウェディングドレス。

教会の鐘。

結城くんがタキシードを着て——あの爽やかな笑顔で——私の手を取って——。

 

「古手川——ううん、唯って呼んでいい?」

 

(——やめなさいっ!!)

 

唯は枕を顔に押し付けたまま、くぐもった悲鳴を上げた。

 

何をやっているの。朝の六時に。

布団の中で。一人で。ヤリチン男との結婚を妄想して悶えている——風紀委員の古手川唯。

 

(……最低)

 

自分が——最低だ。

 

あれだけ「結城くんのような男は絶対に許さない」と誓っていたのに。

あれだけ「あの手口には絶対に引っかからない」と決意していたのに。

 

一度も言い寄られていない。一度も甘い言葉を囁かれていない。

なのに——勝手に妄想して、勝手に動揺して、勝手に眠れなくなっている。

 

(結城くんは——私のことなんて、何とも思っていないのに)

 

その事実が——なぜか、少しだけ——苦しかった。

 

         *

 

唯は布団から出た。

 

シャワーを浴びた。

冷たい水で顔を洗って、昨夜の馬鹿げた妄想を洗い流した。つもり。

 

鏡の前に立った。

 

タオルで髪を拭きながら——制服に手を伸ばした。

 

今日は——気合を入れなければ。

 

あんな妄想をした自分を戒めるために。

結城くんなんかに動揺しない、毅然とした風紀委員であるために。

 

唯は——いつもより丁寧に、制服を着た。

 

ブラウスのボタンを第一ボタンまできっちり留める。

襟を正す。シワを伸ばす。

 

——でも、ボタンを全部留めると。

 

B88の胸が——ブラウスを内側からぱつんと押し上げる。

ボタンとボタンの間が引っ張られて、生地がぴんと張り詰めている。

前から見ると——胸の膨らみが布地を押し広げて、ボタンの隙間から肌色がちらちらと覗く。

 

きっちり着れば着るほど——胸が強調される。

 

唯は眉を顰めた。

 

リボンをきつく結んだ。

リボンが胸の上に来ることで——谷間のラインが、より強調された。リボンの結び目が胸の膨らみの上に乗っかって、二つの山の存在感を主張している。

 

スカートは——規定丈。膝が隠れる長さ。

でも——B88・W59・H87の唯の身体には、規定丈のスカートでも十分にヒップラインが出る。

プリーツスカートの布地がお尻の丸みに沿って引っ張られて、歩くたびにヒップがぷりんぷりんと上下に揺れる。

 

ソックスを引き上げた。膝下の規定丈。

脚は——太腿が露出するわけでもないのに、ソックスとスカートの間に見える膝上の肌が、清潔感と色気を同時に放っている。

 

ブレザーを着た。ボタンを留めた。

ブレザーのボタンが——胸のところでぱつんと張る。留めると余計に胸が目立つ。でも留めないのは風紀委員として許されない。

 

鏡を見た。

 

完璧。

一つの乱れもない、風紀委員の制服。規定通り。正しい着方。

 

なのに——鏡に映る自分は、どう見ても——エロい。

 

制服が悪い。この身体に合わない制服が悪い。

ちゃんと着れば着るほど、胸とお尻の大きさが際立つ。

ブラウスのボタンの隙間。ブレザーの張り。スカートのヒップライン。

 

全部——規定通り。なのに全部——男の視線を集める。

 

(……私のせいじゃない。この身体がいけないのよ)

 

唯は鏡から目を逸らした。

 

髪をブラシで丁寧に梳かした。黒髪ロング。毛先まで手入れが行き届いている。

ヘアピンで前髪を留めて、額を少しだけ出した。

 

最後に——自分の目を、鏡の中で見つめた。

茶色のツリ目が、真っ直ぐに自分を見返している。

 

(今日は——動揺しない。何があっても)

 

(結城くんに会っても——平気な顔をする。いつも通り、睨みつけてやる)

 

(昨夜のことは——なかったことにする。全部。結婚とか——子供とか——ウェディングドレスとか——っ)

 

また——顔が赤くなった。

 

唯は鏡を睨みつけて——洗面所を出た。

 

         *

 

朝食を食べた。トーストと目玉焼き。

牛乳を飲んで、歯を磨いて、鞄を持って。

 

玄関で靴を履く。ローファー。磨いてある。

 

(行ってきます)

 

家を出た。

 

通学路。春の朝の空気が少し冷たくて、頬に心地いい。

桜はまだ蕾だけれど、枝の先が少しだけ膨らんでいる。

 

歩きながら——唯は、無意識に背筋を伸ばしていた。

 

いつもより——少しだけ、歩幅が狭い。

いつもより——少しだけ、肩が張っている。

 

緊張している。

 

なぜ——結城くんに会うだけで、こんなに身構えるのか。

 

(別に。いつも通りよ。いつも通り、あの男を監視して、問題があれば指導する。それだけ)

 

それだけの——はず。

 

でも——今朝、いつもより丁寧に制服を着た理由。

いつもより丁寧に髪を梳かした理由。

いつもより丁寧にローファーを磨いた理由。

 

その全部が——結城リトという名前に繋がっていることを、唯は自覚していた。

 

自覚して——否定した。

 

(違う。私は風紀委員として、ちゃんとした身だしなみで学校に行くだけ。結城くんは関係ない。関係ないったら関係ない)

 

校門が——見えてきた。

 

唯は——深呼吸をした。

 

胸が——ブラウスの中で上下に揺れた。

深呼吸したせいで、ボタンの隙間がぱっと広がって、一瞬だけ——白いブラジャーの端が覗いた。

 

唯は慌ててブラウスの前を押さえた。

 

(……この胸。本当に——邪魔)

 

校門をくぐった。

 

今日も——戦場が始まる。

視線との戦い。噂との戦い。

 

そして——自分自身との戦い。

 

昨夜の妄想が——まだ、頭の隅にこびりついている。

 

結城くんの声。結城くんの笑顔。結城くんの——「唯って呼んでいい?」。

 

(——ないから。ないったら。あんな男に——絶対に——)

 

唯は風紀委員の腕章を、ぎゅっと握りしめた。

 

         *

 

一限が始まる前に——保健室に寄った。

 

風紀委員として、毎週月曜の朝は保健室に顔を出すことにしている。

体調不良者の有無の確認と、備品の在庫チェック。それが——私の自主的な業務。

 

保健室のドアをノックした。

 

「失礼します」

 

「あら、古手川さん。おはよう」

 

御門先生が——デスクの椅子に座っていた。

 

白衣を羽織った姿。その下は——いつもの、ピンクのノースリーブにタイトスカート。

谷間が深く見えるカットの胸元。Hカップの膨らみが——布地の中で存在感を放っている。

 

唯は——御門先生を見て、一瞬、息を呑んだ。

 

今日の先生は——いつもと、何かが違う。

 

妖艶——という言葉が、頭に浮かんだ。

 

肌が——艶々している。

白くてきめ細かい肌が——まるで表面に薄い膜を張ったように、ぬめるような光沢を帯びている。

頬がほんのりと色づいていて——唇も、いつもよりぷっくりと潤っている。

栗色のショートボブが——柔らかく揺れて、耳の後ろにかかる一房が、うなじの白さを際立たせている。

 

(——綺麗……)

 

思わず——見惚れてしまった。

 

御門涼子先生。二十六歳。養護教諭であり名医。

薄緑色の知的な目。整った顔立ち。スレンダーだけどグラマラスな身体。

保健室の椅子に座っているだけで——その存在が、部屋の空気を変えている。

 

唯は——御門先生のことを、女性として尊敬していた。

 

知性があり、能力があり、一人で生きていける強さがある。

男に依存しない。媚びない。自分の正義を持っている。

生徒たちに慕われながらも——どこか、孤高の気品がある。

 

(先生みたいな大人の女性に——私もなりたい)

 

そう思っていた。ずっと。

 

同時に——こうも思う。

 

(先生は——これまでに、何人の男性と付き合ってきたのかしら)

 

二十六歳。あの美貌。あの身体。

男が放っておくはずがない。何人もの男性に言い寄られて——何人かとは、そういう関係になったこともあるのだろう。

 

大人の恋愛。大人の——経験。

 

(私には想像もつかない世界ね……)

 

唯は内心で嘆息しながら——チェック表を取り出した。

 

「先生、今週の保健室利用者ですが——」

 

「ええ、見せてちょうだい」

 

御門先生がチェック表を受け取る時——指先が、微かに震えていた。

 

気のせいかもしれない。でも——医学的な知識がある先生の手が震えるなんて、珍しい。

 

「先生、お身体の具合は——」

 

「ええ? あら、大丈夫よ。ありがとう」

 

御門先生がにっこりと微笑んだ。

いつもの——穏やかで、少しだけ気だるい、大人の笑顔。

 

「古手川さん、相変わらず真面目ね。朝一番に保健室に来てくれるの、あなたくらいよ」

 

「風紀委員として当然のことをしているだけです」

 

「当然——ね。なかなか、当然のことを当然にできる人はいないのよ。偉いわ」

 

御門先生の目が——柔らかく細められた。

励ましの言葉。先生から——もらえると、嬉しい。

 

「古手川さんみたいな子が風紀委員をやってくれているから、この学校は安心ね」

 

「……ありがとうございます。先生にそう言っていただけると、励みになります」

 

少し——照れた。

 

御門先生は、生徒の話をよく聞いて、適切にアドバイスをくれる。

穏やかに諭しながらも——芯のある言葉を持っている。

 

こういう大人になりたい——と、改めて思った。

 

チェック表を確認しながら——話を続けていると。

 

御門先生が——棚の上にあるファイルを取ろうと、椅子から立ち上がった。

 

白衣の裾がふわっと揺れた。タイトスカートに包まれた長い脚が——すっと伸びる。

腿丈ストッキングのレースの縁が、太腿の肌に食い込んでいるのがちらりと見えた。

 

御門先生が——棚に手を伸ばした。

 

その時——。

 

ぐらっ。

 

御門先生の膝が——内股に折れ曲がった。

がくがくと——膝が笑っている。まるで——立っていられないように。

 

「——っ」

 

御門先生が棚の縁を掴んで——かろうじて体勢を保った。

 

「先生っ!? 大丈夫ですか!?」

 

唯は思わず駆け寄った。

 

御門先生の肩に手を添える。白衣越しに——先生の身体が、微かに震えているのがわかった。

膝が——まだ、かくかくと定まらない。太腿の筋肉が——力を入れようとしても、うまく力が入らないように見える。

 

「あ、ああ——大丈夫、大丈夫よ。ちょっと立ちくらみが——」

 

「顔色は悪くないですけど——座ってください。お水持ってきます」

 

「いいのよ、古手川さん。そんな大げさな——本当に、大丈夫だから」

 

御門先生が——唯の手を軽く握り返した。

苦笑しながら——ぽろりと。

 

「昨夜——ちょっと、眠れなくて……」

 

「眠れなかった——んですか?」

 

「ええ……色々あって、ね」

 

御門先生が——椅子に座り直した。

スカートの裾を直す手つきが——いつもより、落ち着きがない。太腿を合わせる動作が——少し、ぎこちなかった。

 

座った瞬間——御門先生の肩が、ぶるっ——と震えた。

 

小さな震え。一瞬だけ。

まるで——下半身から何かが垂れ落ちそうになったのを堪えるような——そんな、不自然な震え方。

 

御門先生はすぐに——何事もなかったかのように、微笑んだ。

いつもの——大人の余裕のある笑顔。

 

でも——唯は、その震えを見逃さなかった。

 

「先生——本当に大丈夫です? 体調が悪いなら、今日は無理しない方が——」

 

「ふふ、ありがとう。本当に——ただ寝不足なだけよ」

 

「先生でも——眠れない夜があるんですね」

 

その言葉に——御門先生が、ふっと表情を緩めた。

 

どこか——遠くを見るような目になった。

薄緑色の瞳に——昨夜の何かが映っているように見えた。

 

「ええ……本当に昨日は——激しくて……」

 

「——え?」

 

激しくて——?

 

何が——激しいの?

 

眠れなかった理由が——激しかった?

 

御門先生が——はっ、と口を押さえた。

 

一瞬——薄緑色の目が大きく見開かれて。

頬に——さっと赤みが差した。

 

「——激しい雨が降っていたでしょう? 昨晩。雷もすごくて——それで、ちょっと眠れなくて」

 

昨晩——雨が降っていただろうか。

唯の記憶では——昨夜は曇りだったような気がする。

 

「……そうでしたっけ」

 

「降ってたのよ。うちの方だけかもしれないけど——ね」

 

御門先生が——またにっこりと微笑んだ。

 

でも——目が、笑っていなかった。

ほんの一瞬だけ——動揺が透けて見えた。

 

(……激しくて?)

 

その言葉の——裏側にあるもの。

何か——引っかかる。でも、それが何なのか——唯にはわからなかった。

 

「先生、無理しないでくださいね。体調のことは、保健の先生がちゃんとしてなきゃですから」

 

「ふふ、生徒に心配されるなんて——先生失格ね」

 

御門先生が——自嘲気味に笑った。

 

その笑い方が——なぜか、とても色っぽかった。

「先生失格」という言葉に——普段とは違う重みがあるように聞こえたのは、気のせいだろうか。

 

「じゃあ先生、また昼休みに来ます」

 

「ええ、いつでもどうぞ。古手川さん——学校のこと、よろしくね」

 

保健室を出た。

 

ドアを閉めて——廊下を歩きながら、唯は考えていた。

 

御門先生の——あの膝の震え。肌の艶。「激しくて」という言い間違い。

 

何かが——おかしい。

 

でも——何がおかしいのか、わからない。

わからないから——釈然としない。胸の奥に、小さなモヤモヤが残っている。

 

(先生は——大丈夫よね)

 

あの先生は——強い人だ。

知性があり、能力があり、大人の分別がある。

男に惑わされるような人じゃない。

 

(大丈夫。先生は——大丈夫)

 

自分に言い聞かせて——唯は、教室に向かった。

 

でも——あの。

 

『本当に昨日は——激しくて……』

 

そう呟いた時の——御門先生の、蕩けるような目が。

 

頭から——離れなかった。

 

         *

 

 

昼休み。

 

今日の見回りは——ナナと一緒だった。

 

ナナ・アスタ・デビルーク。

ララの双子の姉妹。ピンクのロングツインテールに、紫のツリ目。小柄でスレンダーな身体。

風紀委員ではないけれど、最近は唯の見回りに自主的についてくるようになっていた。

 

「——で、コテ川。今日はどこ回るんだ?」

 

ナナが腕を組んで、ぷりっとした顔で聞いてきた。

身長151センチ。でも態度だけは一人前に堂々としている。

 

「二階の廊下と、中庭ね。最近中庭で弁当食べてる時にスカート短くしてる子がいるから」

 

「了解。あたしがびしっと言ってやるよ」

 

「あなたが言うとトラブルになるから、発見だけしてちょうだい」

 

「えー、なんでだよ」

 

ナナが頬を膨らませた。

この生意気な態度。子供っぽいとも取れるし、真っ直ぐだとも取れる。

 

唯は——ナナの横顔を、ちらりと見た。

 

(ナナは——大丈夫、よね)

 

大丈夫、というのは——結城くんのことだ。

 

ナナは——結城リトと同居している。

 

ララの婚約者であるリトの家に、ララと一緒に住んでいる。

つまり——毎日、同じ屋根の下で暮らしている。朝も夜も。

 

唯がどれだけ「結城くんには気をつけなさい」と言っても——物理的に距離を取れない環境にいる。

 

それが——唯には、不安だった。

 

「ナナさん」

 

「なんだよ」

 

「結城くんのこと——最近、何かなかった?」

 

ナナの眉が——ぴくっと動いた。

 

「リト? あいつがどうした?」

 

「どうした、じゃなくて。あの男と毎日同じ家にいるんだから——変なことされてないか聞いてるの」

 

「変なことって——」

 

ナナの紫の目が、きょとんとした。

それから——ぷっと吹き出した。

 

「ないって! あいつがあたしに何かするわけないだろ。あたし、リトのこと見張ってんだからな。姉上のために」

 

「見張ってるのはいいけど——油断しないでね。あの男は、油断した隙をつくタイプだから」

 

「コテ川、心配しすぎだって。あたしはリトなんかに引っかかるようなタマじゃないぞ」

 

ナナが——胸を張った。

Aカップの、ほとんど平坦な胸を。

 

……胸。

 

唯は——ナナの身体を、風紀委員的な視点で確認した。

制服をそれなりにきちんと着ている。スカートは規定丈より少し短いが、まあ許容範囲。

ブラウスは——余裕がある。胸元が張っていない。ボタンの隙間から肌色が覗くこともない。

 

身長151センチ。体重43キロ。B68のAカップ。ウエスト54。ヒップ77。

 

——小さい。

 

自分のB88と比べるのは酷だけれど——それを差し引いても、ナナの体型は——子供のそれに近い。

スレンダーで、手足が長くて、少年のような身体。

胸は——ほぼ平坦。制服のブラウスがふわりと余っている。お尻も小さくて、スカートの中で布地が遊んでいる。

 

(……結城くんは——こういう体型の子に、興味があるのかしら)

 

唯は——自分でも酷いことを考えているとわかっていた。

わかっていたけれど——考えてしまった。

 

結城くんの噂の相手は——モモ、籾岡、ティアーユ先生。

モモはB78。小柄だけど胸はそこそこある。

籾岡はDカップ。ギャルだけどスタイルはいい。

ティアーユ先生に至っては——Iカップ。化け物じみたスタイル。

 

名前が挙がるのは——全員、胸がそれなりにある女性ばかり。

 

つまり——結城くんは、胸が好き。

 

少なくとも——噂の傾向から推測すると、貧相な体型の女の子には手を出していない。

 

ナナは——Aカップ。

 

(……大丈夫。ナナの体型なら——結城くんも、相手にしないわ)

 

唯は——そう結論づけた。

我ながら大変失礼な結論だとわかっていたけれど——安心材料が欲しかったのだ。

 

ナナは——無垢で、生意気で、動物が好きで、性的なことに免疫がなくて。

もし結城くんに甘い言葉を囁かれたら——この子は、どうなるだろう。

 

「リトなんかスケベなだけのやつだぞ。姉上に変なことしたら、あたしがぶっ飛ばしてやる」

 

ナナが拳を握って、力強く宣言した。

ツインテールが揺れる。紫の目が、真っ直ぐに前を向いている。

 

小さい。

身体も、胸も、経験値も——全部小さい。

でも——この真っ直ぐさは、唯に少し似ていると思った。

 

(……この子は、守らなきゃ。私が)

 

風紀委員として——というより、年上の女として。

 

「ナナさん。もう一度言うわよ。結城くんには絶対に気を許しちゃダメ」

 

「わかってるって。何回目だよ、それ」

 

「何回でも言うわ。あの男は——」

 

唯は——言葉を選んだ。

 

「——あの男は、女の子の弱いところを見つけるのが上手いの。自分では平気だと思っていても、気づいた時にはもう遅い——そういうタイプよ」

 

ナナが——少しだけ、目を丸くした。

 

「コテ川……なんか今日、妙に真剣だな」

 

「いつも真剣よ」

 

「いや、なんか……違う。いつもより——なんていうか——」

 

ナナが唯の顔をじっと見つめた。

 

「コテ川、もしかして——寝不足か? 目の下、ちょっとクマできてる」

 

(っ——)

 

バレている。

寝不足が——顔に出ている。

 

「……少し寝つきが悪かっただけよ」

 

「何かあったのか? 悩み事とか?」

 

「ないわ。何もない」

 

「ふーん。まあコテ川って真面目だから、考えすぎて眠れなくなるタイプだよな」

 

ナナが——にっと笑った。

純粋な、子供のような笑顔。

 

その笑顔を見て——唯の胸が、少しだけ、きゅっとした。

 

(この笑顔を——結城くんに奪われたくない)

 

ナナは——まだ知らない。

この学校で何が起きているのか。女の子たちの目が、どう変わっていっているのか。

 

知らないままでいてほしい——と、唯は思った。

 

二人で廊下を歩く。

風紀委員の腕章をつけた唯と、自主パトロールのナナ。

 

唯の歩幅に合わせて、ナナが小走りについてくる。

 

小さい背中。

薄い肩。

揺れるツインテール。

 

この子だけは——守る。

 

唯は——そう決めて、背筋を伸ばした。

 

ブラウスの第一ボタンが——ぎしっと軋んだ。

B88の胸が——決意とともに、ぱつんと張った。

 

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