※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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ナナ・アスタ・デビルークの場合(3)

「……何もないだろ」

 

あたしは——布団から半身を起こして、キャミソールの上から自分の胸をぺたぺたと触り続けた。

平坦な胸板。骨の感触。その上に薄い皮膚が一枚あるだけ。

 

リトが——ベッドの横で固まっている。

何も言わない。眉だけ少し寄せて、あたしの手元を見ている。

 

「ほら、見ろよ。あたしの胸だ。——なんにもないだろ」

 

「……」

 

リトは——何も言わなかった。

否定も、肯定もしない。ただ——見ている。

 

「お前さ、女いっぱいいるんだろ。御門先生も、モモも、籾岡も——みんな胸あるよな」

 

「……まあ」

 

まあ——って。

否定しないんだ。そこは。

 

あたしは——なぜか、その正直さに、少しだけ力が抜けた。

嘘をつかれるより——マシだった。嘘をつく動物は、あたしの一番嫌いなものだから。

 

「あたしは——女として、価値がないんだ」

 

リトが——一瞬だけ、目を細めた。

何を考えているのか、わからなかった。

眉の角度も、口元も、目の奥も——何も読めなかった。

いつもは軽薄に見えるこいつの顔が、今は——のっぺりとした仮面みたいに、何も語らない。

 

でも——あたしには、それを読もうとする余裕がなかった。

 

「モモに言われたんだ。全部。胸のこと。身体のこと。女として足りてないって——全部」

 

「……うん」

 

うん——とだけ、リトは言った。

相槌なのか、理解なのか、同情なのか——わからない。

ただ、あたしの話を——聞いている。黙って。

 

あたしは——キャミソールの裾を掴んだ。

 

「だから——見せてやるよ。あたしの胸。これがどういうもんか——お前みたいなのに見せれば、はっきりするだろ」

 

リトが——何か言いかけた。口が少し開いた。

でも——閉じた。

 

あたしは——キャミソールを、一息にまくり上げた。

 

頭の上まで引っ張り上げて、脱いだ。

くしゃっと丸まったキャミソールが、ベッドの上に落ちた。

 

リトの目の前に——あたしの裸の上半身が、晒された。

 

肋骨が薄く浮いた、細い胴体。

鎖骨が尖って影を作っている。

そして——胸。

 

何もなかった。

 

膨らみは——なかった。

モモのような丸みも、姉上のような柔らかさも、コテ川のような張りも。何一つ。

白い皮膚の上に、肋骨のラインがうっすらと透けて、その上に——乳首だけが、ちょこんと乗っている。

薄いピンク色の、小さな突起。それだけ。

 

それが——あたしの胸の全部だった。

 

リトが——息を呑んだのが聞こえた。

視線が、あたしの胸に落ちて——止まった。

 

止まったまま——動かない。

 

何を見ているんだろう。何もないのに。

見るものなんか、ないのに。

こいつが今まで見てきた胸は——御門先生のHカップとか、姉上のGカップとか、そういうやつだ。

そんなものを見慣れた目に——あたしのこれは、どう映ってるんだろう。

 

胸——じゃない。肋骨だ。肋骨に乳首がくっついてるだけの、ただの板だ。

 

「……っ」

 

恥ずかしかった。

恥ずかしくないわけがなかった。

 

心臓がどくどくと暴れて、耳の奥までその音が響いている。

顔が——熱い。首筋まで赤くなっているのが、自分でもわかった。

耳たぶまで——じんじんと熱を持っている。

裸の肌が、部屋の空気に触れるたびに——鳥肌が立った。

寒いんじゃない。見られている——という事実が、皮膚を粟立たせている。

両手が、反射的に胸を隠そうとする。

 

——でも。

 

あたしは——その手を、下ろした。

 

隠す意味がない。隠すほどのものが——ない。

手を当てたら——自分の手のひらの方が、胸より大きかった。掌で全部隠れてしまう。隠す以前に、覆い切れてしまう。それが——おかしくて、みじめだった。

 

「ほら」

 

声が——掠れた。

 

「見ろよ。これがあたしの胸だ」

 

リトは——やっぱり、何も言わなかった。

ただ——見ている。じっと。

 

その沈黙が——あたしには、もっと辛かった。

何か言えよ。笑えよ。ひどいって言えよ。そうすれば——あたしも、怒れるのに。

 

あたしは——両手で自分の胸を寄せた。

 

内側から、ぐっと押し合わせるように。

姉上がよくやっている仕草。モモが鏡の前でやっていたのを見たことがある。あの——谷間を作る、あの仕草。

 

何も——起きなかった。

 

肋骨の上で皮膚が少し動いただけ。

寄せる肉がないから、指と指が——胸の真ん中で、触れ合った。

指同士がぶつかっている。そこに胸があるべきなのに——指しかない。

 

「——谷間もない。寄せても何もない。指が当たるだけだ」

 

声が——笑っていた。自分でも気持ち悪いくらい、乾いた笑い声だった。

 

リトは——ソファに背中を預けるみたいに、ベッドの縁に腰を下ろした。

ぎし、とスプリングが軋んだ。

そして——少しだけ首を傾げて、あたしの胸を見ている。

 

まるで——テレビでも見てるみたいな、力の抜けた姿勢だった。

真剣なのか、興味があるのか、退屈なのか——全然、わからない。

 

「次——」

 

あたしは——自分の乳首を、人差し指と親指でつまんだ。

 

小さな突起が、指の腹に触れた。

ぷにっとした、柔らかい感触。それだけ。周りには何もない。膨らみの頂点に乗っているはずの乳首が——ただ平坦な胸板の上に、直接くっついている。

 

「乳首だけだ。あるのは——これだけ」

 

つまんだまま、少し引っ張った。

薄い胸の皮膚が、一緒に引っ張られる。

 

ぴりっ——と、小さな痛み。それだけ。

 

「揉んでみろって言われても——揉むものがないんだよ」

 

あたしは——自分の胸を揉むフリをした。

 

右手で、左の胸があるはずの場所を包み込む。

指が——肋骨に当たった。

ごりっ、と硬い骨の感触。その上に薄い肉があるだけで——掌に収まるも何も、掌が余る。

 

ぎゅっと握っても、指の間から溢れる柔らかさは——ない。

何も掴めない。骨と皮膚を掴んでいるだけ。

 

モモだったら——こうはならない。

モモの胸を揉んだら、ちゃんと指の間から柔らかい肉がはみ出して、ぷにっと弾力が返ってくるんだろう。

姉上だったら——もっとだ。両手でも収まりきらないくらい、溢れて、揺れて、重みがあるんだろう。

あたしには——その重みがない。揺れもしない。走っても、跳んでも——何も動かない。動くものが、なにも、ない。

 

「なんも——ないだろ」

 

声が——かすれた。

笑おうとしたのに、笑えなかった。

 

リトは——あたしの手の動きを、目で追っていた。

あたしが自分の胸を揉むのを。つまむのを。寄せるのを。

ずっと——無言で、見ていた。

瞬きの回数すら、少ない気がした。

 

何を考えてるんだろう、こいつ。

 

でも——そんなことを考える余裕は、あたしにはなかった。

自分の胸を自分で晒して、自分で触って、自分で貶している——その作業に、あたしの全部が使われていた。

 

「あたしは——赤ちゃんができても、母乳が出ないかもしれない」

 

声が——自分でもびっくりするくらい、静かだった。

 

「こんな胸じゃ——出ないだろ。乳腺とか、そういうの——あるわけないじゃん、こんなぺたんこに」

 

「……」

 

リトは——黙ったまま、ほんの少しだけ、頷いた。

聞いている——ということだけは、わかった。

 

「子供を産んでも——おっぱいあげられない母親って、なんだよ。哺乳瓶か? ずっと哺乳瓶で育てるのか? 赤ちゃんがおっぱい探して泣いてるのに——あげられないんだよ、あたしは。ここに——何もないから」

 

自分の胸を——指先で、とん、と突いた。

小さな音もしなかった。

突いた指の先に、ただ肋骨の硬さが返ってきただけ。

 

あたしは——デビルーク星にいた頃のことを、思い出していた。

王宮の庭には動物がたくさんいて、子供を産んだ獣は——当たり前みたいにおっぱいをあげていた。

赤ちゃんが母親の腹に潜り込んで、乳首を探して、見つけて、ちゅうちゅう吸って——母親は目を細めて、気持ちよさそうにしていた。

あたしは、それを見るのが好きだった。

いつか自分もああなりたいと——思ったことがある。ぼんやりと。

 

でも——あたしの胸は、あの母親たちとは違う。

何もない。中身がない。

容れ物が——最初から、空なんだ。

 

「……女として——生きてる意味、あるのかな」

 

その言葉が口から出た瞬間——あたしは自分でも、とうとうここまで来たんだな、と思った。

 

リトは——なんにも言わなかった。

 

あたしの裸の胸を見て、あたしの自虐を全部聞いて、あたしが泣きそうな顔で笑っているのを見て——ただ、そこにいた。

慰めもしない。否定もしない。同情もしない。

 

何を考えているのか——本当に、一ミリもわからなかった。

 

この男は——あたしの言葉を聞いているのか、流しているのか。

あたしの胸を見て、可哀想だと思っているのか、何も感じていないのか。

 

——わからない。

 

でも——あたしには、そんなことを考える余裕なんか、なかった。

 

長い——沈黙があった。

 

あたしは裸のまま座って、リトはベッドの縁に腰かけたまま、あたしの胸を見ていて。

部屋の中には——あたしの呼吸の音と、窓の外の鳥の声しかなかった。

 

「——なあ、ナナ」

 

リトが——ようやく、口を開いた。

 

声が——軽かった。

 

あたしが今まで延々と吐き出した自虐と苦しみの重さに比べて——リトの声は、びっくりするくらい、軽かった。

まるで「今日の晩飯なに?」くらいの温度で、リトは言った。

 

「じゃあさ——お前の身体、好きにしていいか?」

 

空気が——止まった。

 

好きにしていい。

 

好きにしていいか——と。

 

あたしが——泣きながら自分の身体を全否定して、母乳も出ないかもしれないって、女として生きる意味があるのかって——そこまで全部吐き出した後に。

 

こいつは——その全部を聞いた上で——「じゃあさ」って。

 

「じゃあさ」——って。

 

なんだよ、その軽さ。なんだよ、その——なんでもないみたいな声。

あたしの苦しみとか、全部聞こえてたのかよ。聞こえてた上で——その反応なのかよ。

 

頭の中が——ぐるぐると回った。

 

怒るべきだ。ぶっ飛ばすべきだ。「ふざけんな」って叫んで、枕を投げつけて、部屋から叩き出すべきだ。

 

でも——あたしの中の、怒る場所は——もう、空っぽだった。

 

モモが——全部、壊していった。

 

あたしのプライドも。自尊心も。「あたしは女だ」って思える何もかもを。全部、全部。

 

だから——リトの、あの軽い声が、あたしの空っぽの中に——ぽとん、と落ちてきた。

他に何もないから——その声だけが、底に当たって、小さく響いた。

 

好きにしていいか、と。

この——何もない身体を。

 

あたしは——自分の胸に、もう一度目を落とした。

何もない、平坦な胸。乳首だけが、薄いピンク色で——冷たい空気に晒されて、少しだけ硬くなっていた。

 

この胸を——「好きにしたい」と言う人間が、いるのか。

こんな——何もない身体を。

 

(——どうでもいい)

 

そう思った。

 

自暴自棄だった。わかっている。

冷静なあたしなら、こいつをぶっ飛ばして、部屋から叩き出して、二度と入ってくるなと叫んでいた。

 

でも——冷静なあたしは、昨日モモに殺された。

 

今ここにいるのは——空っぽのあたしだ。

プライドも、警戒心も、自尊心も、全部モモに剥がされた後の——裸のあたし。

 

「……いいよ」

 

声が——出た。自分の口から。

 

「好きにしろよ」

 

リトの顔が——ほんの一瞬、何かが動いた。

口角なのか、目尻なのか——わからない。あたしには読めなかった。

読める状態じゃなかった。

 

「……マジで?」

 

リトの声が——さっきと同じ軽さのまま、確認するみたいに聞いてきた。

 

「マジだよ。——どうせ、何もないんだから。好きにしたって——何も変わんないだろ」

 

あたしは——膝を抱えていた腕を、ゆっくり解いた。

裸の上半身が——リトの前に、無防備に晒される。

 

小さな肩。薄い鎖骨。肋骨の浮いた胴体。そして——何もない胸。乳首だけの、あたしの胸。

 

「ほら。——好きにしろよ。ヤリチン」

 

声は——強がりだった。

強がりだとわかっていた。

 

身体が——震えていた。

寒さじゃない。恐怖でもない。

あたしの中の——最後の、最後の一枚が剥がれようとしている、その震え。

 

でも——もう、止まれなかった。

 

自分を守る理由が——もう、見つからなかった。

 

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