目覚まし時計が鳴るより先に——目が覚めた。
布団の中で——天井を見つめる。
朝日がカーテンの隙間から差し込んで、部屋を薄く照らしている。
昨日のこと——が、頭の中を駆け巡った。
お風呂。リトの身体を洗った。リトの——おちんちんを、手で。
泡だらけの指で——根元から先っぽまで——何度も何度も——。
リトが——私の手の中で、どくどくって。
「——っ❤」
顔が——熱い。
布団を頭まで引っ張り上げて、枕に顔を押し付けた。
(やった……私——リトのを——手で——)
思い出すだけで——心臓が早くなる。
リトの——あの太くて硬かった感触が、手のひらに残っている。
指の間を通り抜けていく——あの熱い脈動。
そして——その後。
リトが——私の身体を洗ってくれた。
背中を——脇腹を——胸を——。
乳首を——つまんで。
あそこを——指で——。
「っ——❤❤」
枕に顔を埋めたまま——足をばたばたさせた。
シーツが乱れる。布団がぐしゃぐしゃになる。
イった。リトの指で——イった。
お風呂の椅子の上で——背中を反らせて——声を我慢できなくて——。
あんな声——出したことなかった。
トイレで一人でする時は——息を殺して、静かに。
リトの指は——それとは全然違って——勝手に声が出て——止められなかった。
(恥ずかしい——恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい——)
枕を抱きしめて——くるりと横を向いた。
膝を抱えるように丸くなって——太ももをぎゅっと閉じる。
昨日の——余韻が、まだ身体の奥に残っている気がする。
お腹の奥が——じんわりと温かい。乳首が——パジャマの生地に触れるだけで、少しだけ敏感。
(……でも)
恥ずかしい——けど。
嬉しかった。
リトが——私の身体を、「女」として扱ってくれた。
子供の身体——ぺたんこの胸——毛も生えてない——そんな私を。
リトの指は——ちゃんと、気持ちいいところを知っていて——。
「明日も——今日みたいに、洗ってね」
自分から——そう言った。
リトは——「隅々まで、な」と。
今日のお風呂——どうなるんだろう。
昨日と同じことを——してくれるのかな。
それとも——もっと。
もっと——って、何。
わからない。でも——「もっと」が欲しいと思っている自分がいる。
(あたし——変わっちゃったのかな)
変わった——のかもしれない。
でも、悪い気はしない。
リトとの距離が——昨日、確実に近くなった。
妹特権——の、その先。
美柑は——枕から顔を上げて、ゆっくりと息を吐いた。
目覚まし時計を見る。六時半。
いつもより——三十分早い。
身体を起こして——パジャマのボタンを外しながら、鏡の前に立った。
キャミソールの下の——薄い胸。ほんの少しだけ膨らんだ、つぼみ。
昨日リトに触られた——乳首が、キャミソール越しにうっすら透けている。
指で——そっと触れてみた。
こりっ。
「っ——❤」
びくっと肩が跳ねた。
昨日の——リトの指の感触が、蘇る。
(だめだめ——朝から何やってるの、私——)
慌てて手を離して——制服に着替えた。
顔を洗って——髪を整えて——鏡の中の自分を見る。
いつもの——結城美柑。しっかり者の、リトの妹。
少しだけ——頬が赤い気がするけど。
*
小学校の教室は——いつも通り騒がしかった。
「おはよー、美柑ちゃん!」
「おはよう、さやかちゃん」
隣の席のさやかが——ぶんぶんと手を振る。
いつもの朝。いつもの教室。いつもの友達。
でも——私の中身は、昨日までとは違う。
一時間目の算数。先生の声が——右から左に抜けていく。
ノートの上にシャーペンを走らせるけど——頭の中は、リトのことでいっぱい。
リトの手。リトの指。泡の感触。
「——❤」
思い出して——顔が熱くなった。
慌ててノートに顔を近づけて——隠す。
「美柑ちゃん? 大丈夫? 顔赤いよ?」
さやかが——横から覗き込んできた。
「だ、大丈夫。ちょっと暑くて——」
「えー? 今日そんな暑くなくない?」
「エアコンが——効きすぎてるのかも——逆に——」
意味がわからないことを言ってしまった。
昼休み。お弁当を広げて——さやかともう一人の友達、ゆいちゃんと三人で食べる。
「ねーねー、美柑ちゃん。今日なんか変じゃない?」
ゆいちゃんが——玉子焼きを箸でつまみながら、じーっとこっちを見た。
「変? 変じゃないよ。いつもと同じ」
「いつもと同じじゃないよ〜。朝からぼーっとしてるし、授業中ノート全然進んでなかったし」
「それに——」
さやかが——にやっと笑って、顔を近づけてきた。
「さっきから、ときどき一人でにやにやしてるよね?」
「にやにや——してない!」
「してたしてた! しかもすぐ真っ赤になるの!」
「な、なってない——」
「なってるなってる! 今もなってる!」
二人に——左右から挟まれた。
逃げ場がない。
「もしかして——好きな人できた?」
「えっ——」
「やっぱり! その反応!」
「違う違う違う! 好きな人とかそういうんじゃなくて——」
「じゃあなに〜? 何かあったんでしょ〜?」
ゆいちゃんが——ぐいぐい来る。
リトの指が——私のあそこを——と、言えるわけがない。
お兄ちゃんと一緒にお風呂入って——手コキして——指でイかされました——なんて、口が裂けても。
「何もないよ——本当に——昨日ちょっと夜更かししちゃっただけ」
「嘘だ〜。美柑ちゃんが夜更かしなんてするわけないじゃん」
「したの! 動画見すぎちゃって——」
「どんな動画?」
「——えっと——猫の動画」
「猫?」
「そう。猫。すっごく可愛い猫の動画があって——ついつい——」
苦しい。苦しすぎる。
「ふーん。猫ねえ」
さやかが——信じてなさそうな顔で、お弁当をもぐもぐ食べた。
「まあいいけど。美柑ちゃんがそこまで隠すなら、よっぽどのことだね」
「隠してない——」
「はいはい。でも——もし話したくなったら、いつでも言ってね?」
ゆいちゃんが——優しく笑った。
ありがとう——と思いながら——絶対に話せないと思った。
一生話せない。墓まで持っていく。
(……でも——友達に心配されるくらい、顔に出てたんだ)
自分では——普通にしてるつもりだった。
でも——身体の奥にある温かさが、表情に滲み出ているのかもしれない。
リトの指の——あの感触が。
放課後——ランドセルを背負って、帰り道を歩きながら。
今日の夕飯は何にしよう——と考えながら、同時に別のことを考えていた。
今日のお風呂——昨日みたい洗ってくれるのかな。
それとも——リトは、何事もなかったみたいに、いつも通りなのかな。
リトは——いつもそうだ。
何があっても——翌日には涼しい顔をしている。
私が——こんなにドキドキしているのに。
リトは——きっと、いつも通り。
(だったら——私から、仕掛けてみようかな)
足が——止まった。
仕掛ける——って、何を?
昨日は——「洗う」が口実だった。
今日は——まだお風呂の時間じゃない。
帰ってから——リトが学校から戻ってくるまでの時間。
リトが帰ってきてからの——夕飯までの時間。
その間に——何かできないかな。
(でも……何をすればいいんだろう)
わからない。経験がない。当たり前だ——小学五年生に、誘惑の方法なんて。
でも——テレビや漫画で見たことがある。
女の人が——男の人を、その気にさせる方法。
(やってみよう——かな)
心臓が——どくどくと速くなった。
*
家に帰って——制服から私服に着替えた。
いつもなら——Tシャツとハーフパンツ。楽な格好。
今日は——少し考えた。
タンスの中を——ごそごそと漁る。
キャミソール——は、いつも着てる。その上に何を着るか。
大きめのTシャツ。——これだ。リトのお下がりの、オーバーサイズの白Tシャツ。
肩が落ちるくらい大きくて——首元がだるんと開いている。
下は——ショートパンツ。太ももが全部見えるくらいの、短いやつ。
鏡の前で——確認する。
Tシャツの首元から——キャミソールの肩紐が見えている。
かがむと——胸元が開いて、中が見えそう。
ショートパンツから——白い太ももが、むき出し。
(……これで——リトは、気にしてくれるかな)
胸がないから——谷間なんて見えない。
でも——乳首の位置くらいは——うっすら。
(えっちだと——思ってくれるかな)
わからない。自信がない。
御門先生の——あのHカップとか——モモさんの尻尾とか——と比べたら、私の身体なんて。
でも——昨日、リトは。
この身体を——ちゃんと触ってくれた。
だから——きっと、大丈夫。
たぶん。
リトが——学校から帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、リト」
いつもの声で——いつもの出迎え。
リトが——リビングに入ってきた。
制服のネクタイを緩めながら——ソファに腰を下ろす。
「今日、暑かったな——」
「そうなんだ。アイス食べる?」
「おー、ある?」
「棒アイス、買ってあるよ。ソーダ味」
冷凍庫から——アイスキャンディを二本取り出した。
一本をリトに渡して——自分も袋を開ける。
ソファの——リトの隣に座った。いつもより——少し近い。
リトが——アイスをかじった。
私は——アイスを口に含んだ。
ここから——だ。
心臓が——うるさいくらい鳴っている。
アイスの先端を——唇に当てて。
ちゅっ——と、吸った。
ちゅぱっ——。
舌の先で——アイスの表面を、ぺろっと舐め上げる。
下から上まで——ゆっくりと。溶けたアイスが——唇を濡らす。
ぺろっ——ちゅっ——ぺろぺろ——。
アイスを——口の中に深く含んで、引き抜く。
ちゅぽっ——と、音を立てて。
これ——フェラっぽく見えてるかな。
そもそもフェラがどういうものか——動画で見たことしかないけど。
こういう感じ——で、合ってるよね?
横目で——リトを見た。
リトは——テレビを見ていた。バラエティ番組を。
(見てない——!)
あからさまに——リトの方を向いて、アイスを舐めた。
ぺろっ❤ ちゅっ❤ れろっ——❤
「美柑、アイス溶けてるぞ。手が汚れる」
「あっ——ほんとだ」
溶けたアイスが——手首まで垂れていた。
慌てて——舐め取る。
「食べ方汚いな」
「う、うるさい——」
失敗した。全然色っぽくなかった。
(次——次だ)
リトが——テレビを見ながら、だらっとソファに沈み込んでいる。
私は——立ち上がって、リトの前のテーブルでお茶を入れるふりをした。
背中を向けて——かがむ。
ショートパンツの裾が——太ももの付け根まで上がる。
お尻の丸みが——ショートパンツの布地を押し上げて——形がくっきり出ているはず。
(見て——リト——)
ちらっと——振り返った。
リトは——スマホをいじっていた。
(見てないーーー!)
もう一度——今度は、正面を向いて。
リトの前に——お茶を置くために、テーブルに身を乗り出した。
オーバーサイズのTシャツの首元が——がばっと開く。
キャミソールの中——薄い胸が——見えるはず。
「はい、お茶」
「お、サンキュ」
リトが——お茶を受け取った。
目線は——お茶のコップ。
(胸元——見てくれなかったの——?)
そもそも——見るほどの胸がないのかもしれない。
御門先生なら——この体勢で、とんでもない谷間が見えるんだろう。
私は——ぺたんこだ。見えても——何もない。
(うう……やっぱり胸ないと駄目なのかな……)
落ち込みかけて——いや、まだだ。まだ手がある。
ソファに——リトの隣に座り直した。
今度は——独り言作戦。
テレビを見るふりをしながら——ぽつりと。
「……最近——なんか、お尻の穴のあたりが——むずむずするんだよね……」
「——は?」
リトが——こっちを見た。
見た。やっと——こっちを見た。
「お尻の穴——って」
「うん……なんか、お風呂入ってる時とか——洗ってると——変な感じがして……」
心臓が——爆発しそう。何を言ってるんだ、私は。
でも——リトが、こっちを向いている。初めて——ちゃんと反応してくれた。
「痒いとか——そういう?」
「痒い——んじゃなくて……なんか——むず、って……」
リトの目が——一瞬だけ、細くなった気がした。
何かを——考えている目。
「それ——いつから?」
「えっと——最近……? 昨日とか——」
嘘だ。むずむずなんてしてない。
でも——キャラクター設定……じゃなくて、ネットで見たことがある。
リトが——女の人のお尻に興味があるって——噂で。
「気になるなら——今日の風呂で、俺が見てやろうか」
「——え❤」
心臓が——止まった。
見てやる——って。お尻の穴を? リトが?
「み、見るって——」
「洗う時に確認するだけだ。変なところがないか」
いつもの——あの声。涼しい顔。何でもないことみたいな。
「……うん。じゃあ——お願いしようかな……」
声が——かすれた。
顔が——たぶん真っ赤。
(やった——のかな——?)
リトが——またテレビに視線を戻した。
涼しい顔。何を考えているかわからない顔。
私は——ソファの上で、心臓を押さえていた。
お風呂——で、リトが、私のお尻を見る。
洗う——って言ってたけど。洗うだけじゃ——ないかもしれない。
昨日——「洗う」は、「洗う」だけじゃなかった。
乳首を——つまんで。あそこを——指で——。クリトリスを——くるくるって——。
今日は——お尻の穴を——?
「——❤❤」
太ももを——ぎゅっと閉じた。
期待している——自分がいる。
怖い——のと、ドキドキするのと。
恥ずかしい——のと、嬉しいのと。
全部が——混ざって、お腹の奥がきゅうっと縮んでいる。
(あたし——本当に変わっちゃったんだ)
昨日までの美柑は——こんなこと、考えもしなかった。
リトのお尻の穴を見て——なんて、絶対に言わなかった。
でも——昨日の夜、リトの指で——あれを、知ってしまった。
知ってしまったら——もっと欲しくなった。
知らなかった頃には——戻れない。
リトが——伸びをして、立ち上がった。
「風呂、先入るか?」
「え——もう? まだ夕飯——」
「夕飯の前にさっぱりしたい。今日暑かったし」
いつもと——順番が違う。
いつもは——夕飯の後にお風呂。
でも——リトがそう言うなら。
「……うん。一緒に入ろう」
「おー」
リトが——脱衣所に向かって歩いていった。
私は——ソファから立ち上がって、リトの背中を見つめた。
大きな背中。広い肩。
あの手が——今日も、私の身体に触れる。
昨日よりも——もっと。
お尻の穴——まで。
「——❤」
足が——震えていた。
怖い——でも、嬉しい。
逃げたい——でも、行きたい。
私は——リトの背中を追いかけた。
脱衣所の——ドアに、手をかける。
リトは——もう服を脱ぎ始めている。
「早くしろ。湯、冷めるぞ」
「う、うん——今行く——」
Tシャツを——脱いだ。キャミソールを——脱いだ。
ショートパンツを——下ろして。下着を——。
リトの前で——裸になるのは、毎日のことだ。
毎日——一緒にお風呂に入っている。
でも——今日は、違う。
今日は——「見られている」と意識している自分がいる。
リトの視線が——私の身体を一瞬だけ、なぞった気がした。
「入るぞ」
「うん」
浴室のドアが——開いた。
湯気が——ふわっと頬に触れた。
昨日と——同じ浴室。同じシャワー。同じ椅子。
でも——今日の私は、昨日の私じゃない。
リトが——椅子に座った。
「美柑。今日は——お前が先に洗え」
「え——あたしが先?」
「おう。自分で洗ってみろ。——お尻の穴も」
リトの目が——私を見ていた。
涼しい顔——の奥に。何かが——光っている。
「洗い方——見ててやるから」
「————❤❤」
見てる——って。
私が——自分のお尻の穴を洗うところを?
リトが——椅子に座って、腕を組んで。
私のことを——じっと見ている。
(どうしよう——)
顔が——熱い。身体中が——熱い。
自分で仕掛けたくせに、自分で言い出したくせに——。
こんな展開——想像していなかった。
リトの目が——待っている。