※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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金色の闇の場合(2)

 放課後の廊下は──騒がしい。

 

部活へ向かう生徒たちの足音。笑い声。誰かを呼ぶ甲高い声。

窓から差し込む西日が、リノリウムの床を橙色に染めている。

 

私は──その喧騒の中を、一人で歩いていた。

 

金色の闇──それが、私の名前。

正確には、コードネーム。暗殺者としての。

 

かつて私は──宇宙で最も恐れられる殺し屋だった。

トランス能力──体細胞を自在に変形させる力。髪を刃に変え、腕を鉄槌に変え、指先を針に変える。

依頼を受け、標的を殺す。それだけが──私の存在理由だった。

 

感情は──不要だった。

名前も──不要だった。

私は兵器であり、道具であり、それ以外の何でもなかった。

 

でも──今は。

 

彩南町という──小さな街で、暮らしている。

 

制服を着て、学校に通っている。

授業を受けて、チャイムが鳴ったら教室を出て、放課後になったら帰る。

たい焼き屋に寄ることもある。公園のベンチで本を読むこともある。

 

殺しの依頼は──もう、受けていない。

 

平和──というものが、どういうものなのか。

正直に言えば──まだ、よくわからない。

 

ただ──悪くない、とは思う。

 

廊下の角を曲がると──生物室の前を通りかかった。

扉が半開きになっていて、中から声が聞こえる。

 

「えっと……この培養液の温度なんだけど……もう少し下げた方がいいかしら……」

 

ティアーユの声だった。

 

ティアーユ・ルナティーク。

生物学教師──そして、私を造った人間。

私の身体を構成する細胞の提供者。言うなれば──母のような存在。

 

彼女が──御門涼子の勧誘で、この学校の教師になった。

おっとりしていて、気が弱くて、実験中に転ぶ。試験管を割る。薬品を自分にかける。

天才科学者のはずなのに──日常生活は壊滅的に不器用だ。

 

私は──彼女のことを、どう思っているのだろう。

 

恨んでいるのか。感謝しているのか。

私を生み出し──結果的に、兵器として利用される道を作った人。

でも彼女自身は──そんなつもりではなかったことも、知っている。

 

複雑──としか、言いようがない。

 

ただ──彼女がこの街にいるということは。

私がこの街にいる理由の──ひとつには、なっている。

 

生物室の扉の前を──足を止めずに通り過ぎた。

 

          *

 

階段を降りて──下駄箱に向かう。

 

靴を履き替えていると──後ろから声がした。

 

「ヤミちゃーん!」

 

振り向かなくても──わかる。

 

黒咲芽亜。ナナの友人で──私の妹のような存在。

赤紫色のお団子ヘアが、ぴょこぴょこと揺れながら近づいてくる。

 

「ヤミお姉ちゃん、今日これから暇? 一緒にクレープ食べに行かない?」

 

「……今日は、用事があります」

 

「えー、つまんないー。じゃあ明日は?」

 

「……明日のことは、明日考えます」

 

「それ絶対断るやつだし!」

 

芽亜が──頬を膨らませた。

この子は──いつもこうだ。距離が近い。遠慮がない。

でも──嫌いではない。

 

「……また今度」

 

「ぜったいだからね! 約束!」

 

約束──という言葉に、少しだけ胸の奥が動いた。

暗殺者だった頃──約束という概念は、存在しなかった。

あるのは契約と、遂行と、報酬だけ。

 

「……ええ」

 

芽亜が──にぱっと笑って、ナナの方へ走っていった。

 

校門を出る。

四月の風が──金色の髪を揺らした。

 

歩きながら──考える。

 

この街で──私は、友人と呼べる存在を得た。

 

結城美柑。

 

結城リトの──妹。

小学生で、しっかり者で、料理が上手くて。

私にたい焼きの美味しい店を教えてくれた人。

私の過去を知っても──「ヤミちゃんはヤミちゃんだよ」と言ってくれた人。

 

美柑は──私にとって、唯一の親友。

 

彼女といると──「普通の女の子」でいられる気がする。

それが錯覚だとしても──心地よい錯覚だった。

 

美柑の兄──結城リト。

 

あの男のことを考えると──眉間に皺が寄る。

 

学園では──「ヤリチン」と呼ばれている。

複数の女性と関係を持っている、という噂。

どこまでが本当かは知らない。興味もない。

 

……興味は、ない。

 

ただ──あの男は、妙な気配を持っている。

私の暗殺者としての勘が──「結城リトは普通の人間ではない」と告げている。

表面上は爽やかで人当たりが良い。笑顔が自然で──誰に対しても距離の詰め方が巧い。

 

だが──その裏に、計算がある。

人を観察し、弱点を見抜き、そこを突く。

それは──暗殺者が標的の急所を探る行為と、構造が似ている。

 

(……あの男は、危険です)

 

美柑にも──以前、そう伝えた。

 

「リトは大丈夫だよ。お兄ちゃんだもん」

 

美柑は──笑って、そう言った。

兄を信頼している目だった。無邪気で──疑いのない目。

 

その目が──少し、気になった。

 

結城リトが──美柑に何かをするとは思わない。実の妹だ。

でも──あの男の周りにいる女性たちが、次々と「変わっていく」のを、私は見ている。

 

モモ・ベリア・デビルーク。最近──結城リトの近くで、以前とは違う顔をしている。

ナナも──時々、リトの話題になると落ち着かない様子になる。

 

あの男は──女を変える。

それが良い変化なのか悪い変化なのか──私には判断がつかない。

 

ただ──。

 

私には関係のないことだ。

 

えっちぃのは──嫌いです。

 

それが──私の、揺るがない信条。

 

結城リトがどれだけ女性と関係を持とうと──私には無関係。

あの男のセクハラも──次にあったら、本当に殺します。

 

「……殺します」

 

口に出してみた。

通りすがりのサラリーマンが──ぎょっとした顔でこちらを見て、早足で去っていった。

 

……声に出すべきではなかった。

 

          *

 

校舎を出ず──そのまま、図書室に向かった。

 

最近──放課後の図書室に通うのが、習慣になっている。

 

放課後の図書室は──静かだ。

人の声が抑えられていて、紙とインクの匂いがして、空調が一定の温度を保っている。

暗殺者だった頃──任務と任務の間の待機時間に、本を読む習慣がついた。

活字を追うことは──思考を整理する手段であり、同時に、感情を殺す手段でもあった。

 

今は──少し、違う。

本を読むことが──純粋に、好きだ。

それだけのことだと思う。

 

図書室の扉を開けて──中に入る。

図書委員の生徒が一人、カウンターに座っているだけだった。

手前の書架を通り過ぎ、奥へ──さらに奥へ。

 

図書室の奥──壁際の、さらに裏手。

書架と書架の隙間を縫って──突き当たりを右に曲がる。

窓のない壁に面した一角に──古い書架が押し込められている。

 

普通の生徒は──まず、ここまで来ない。

寄贈書籍や廃棄待ちの本が並ぶ──図書室の死角。

 

蛍光灯の明かりが──ここまでは届かない。薄暗い。空気が少し埃っぽい。

 

この場所が──目的地だった。

 

書架の一番奥。壁際の棚。

背表紙に──小さく「文芸・成人向け」と手書きのラベルが貼られている。

 

官能小説──というカテゴリーの、本がならんでいた。

 

私は──この棚の存在を、一ヶ月前に偶然知った。

落とした消しゴムを追って書架の裏に回り込んだ時──この奥まった一角に迷い込んだのが始まりだった。

 

最初は──知らない分野の本だと思って、一冊手に取った。

表紙は地味だった。文庫本。タイトルに──「被虐」という単語があった。

 

開いて──読んだ。

 

十ページほどで──異変に気づいた。

心拍数が上がっている。呼吸が浅くなっている。

頬が──熱い。

 

その日は──棚に本を戻して、足早に図書館を出た。

 

翌日──また、来た。

同じ棚の前に──立っていた。

 

それから──週に三回は、ここに来ている。

 

えっちぃのは──嫌いです。

嫌い──なのに。

 

棚に並ぶ背表紙を──指先でなぞった。

 

一冊の文庫本を──引き抜く。

 

【堕ちた諜報員──囚われのエージェント・ノワール──】

 

スパイの女が──敵国に潜入し、正体を暴かれ、捕らえられる話。

拷問室に連れ込まれた女スパイが──敵の男たちに、衣服を剥がされ、尋問という名の──。

 

この本を──三回、読んだ。

 

最初に読んだ時──女スパイが鎖で吊るされて、背中を鞭で打たれる場面で──本を閉じた。

残酷だと思った。非道だと思った。

 

でも──閉じた本を、また開いた。

 

女スパイは──どれだけ打たれても、情報を吐かなかった。

歯を食いしばり、血を流しながら──「……殺せ」と言った。

その強さに──共感した。

暗殺者として──もし私が捕らえられたら、同じことを言うだろう。

 

そして──場面が、変わった。

 

拷問官の男が──方針を変えた。

鞭ではなく──手で。

女スパイの、震える身体を──撫で始めた。

 

痛みには耐えられた女が──優しさには、耐えられなかった。

 

声が──漏れた。

 

『や、やめ……っ』

 

その声が──紙面の上の活字なのに──耳の奥で、響いた。

 

──本を、棚に戻した。

 

もう一冊──別の本を、手に取る。

 

【通学路の獣──或る少女の抵抗と陥落──】

 

気が強くて、正義感の強い、小さな少女の話。

毎朝──通学路で、男に身体を触られる。

痴漢。

少女は──最初、怒った。叫んだ。抵抗した。

男の手を振り払い、「やめなさい!」と声を上げた。

 

でも──男は、毎日現れた。

同じ時間に。同じ場所で。同じ手が──少女のスカートの中に。

 

少女は──抵抗し続けた。一週間。二週間。一ヶ月。

でも──身体が、変わっていった。

 

男の指が触れると──嫌なはずなのに、身体が反応する。

「やめなさい」の声が──日に日に、小さくなっていく。

 

少女は──自分の変化に、怯えた。

 

『わたしは──おかしくなんか、なってない……!』

 

その一行を読んだ時──。

 

私の──下腹部に、熱が灯った。

 

本を持つ手が──かすかに、震えている。

 

ページをめくった。

 

少女が──電車の中で、男の指に犯されている。

立ったまま──吊り革を握りしめて──制服のスカートの奥に、男の手が入り込んでいる。

少女は──唇を噛んで、声を殺している。周囲の乗客は──気づかない。

 

『んっ……やめ……っ……やめ、なさい……っ」

 

声が──嫌悪ではなく、懇願に変わっている。

少女の目に──涙が浮かんでいる。

でも──腰が、逃げていない。

 

活字を追う目が──止まった。

 

身体が──熱い。

 

制服のスカートの下──太ももの内側を、じわりと、汗が伝っていた。

いや──汗では、ない。

 

もっと──奥の方から。

 

ショーツの布地が──湿っている。

 

(……これは)

 

生理的な反応だ。

暗殺者の身体にも──生理現象はある。体温調節の一環として、体液の分泌が──。

 

……違う。

 

こんな言い訳は──自分でも無理がある。

 

本に書かれている──少女が男に触られる描写を読んで。

私の身体が──反応している。

 

ショーツの布地が──股間に張り付いている。

歩くたびに擦れる感覚が──さっきまでは気にならなかったのに──今は、やけに──鮮明だった。

 

本を──片手で持ったまま。

 

もう片方の手が──スカートの裾に触れた。

 

薄暗い書架の陰。蛍光灯がちかちか明滅する奥まった通路。

人の気配は──ない。暗殺者の感覚が、半径二十メートル以内に誰もいないことを確認している。

 

指先が──スカートの布地を、ゆっくりと、たくし上げた。

 

太ももの内側に──指が触れる。

自分の肌なのに──ひやりと冷たい指先が、熱を持った肌に触れると──ぞくっとした。

 

指が──ショーツの縁に、触れた。

 

布地が──濡れている。

想像していたよりも──ずっと、湿っていた。

 

(……っ)

 

息を──止めた。

 

指先が──布地の上から、割れ目をなぞった。

 

くにっ──と、柔らかい肉が、布地越しに沈む。

 

ぬる──と。指の腹に、湿った感触が広がる。ショーツの薄い布地を通して──粘度のある液体が、指に伝わってくる。

 

「……っ」

 

声が──喉の奥で、引っかかった。

 

本の中の少女が──男の指に犯されている。

私の指が──自分の割れ目を、布地の上から、押している。

 

くちゅ──と、小さな音がした。

 

布地が──もう限界だった。指の腹に吸い付くように──ショーツの布地が陰唇の形に食い込んでいる。

その布地の上から──中指の腹で、上の方を──くりっ──と、押した。

 

びくっ。

 

腰が──跳ねた。

 

本を持つ手が──ぐらついた。文庫本のページが、ぱらぱらと勝手にめくれる。

 

(──だめ、です)

 

何がだめなのか──自分でも、わからない。

 

指を──止めた。

止めた──のに。指が──まだ、そこにある。布地の上で──動かないまま、割れ目の熱を感じている。

 

ショーツの布地が──指の腹に張り付いたまま。

じわり──と、新しい液体が滲んでくるのが──わかった。

 

もう一度だけ──指を、動かした。

 

くちゅっ。

 

陰核の膨らみを──布地越しに捉えて──くりくり──と。小さな円を描くように。

太ももが──勝手に、内側に閉じようとする。でも──指を挟み込む形になって──逆に、圧が強くなった。

 

ぬるっ──と、ショーツの布地が完全に濡れ透けて──指の腹に、直に肉の感触が伝わる。

 

「…………ん……っ」

 

唇の隙間から──空気が漏れた。

 

本の──ページ。

少女が──泣きながら、男に「もうやめて」と言っている。

でも──身体は、男の指から逃げていない。

 

少女の身体が──快楽を覚えてしまったことを。

少女自身が──一番、恐れている。

 

その恐怖が──。

 

私には──。

 

──ぴぴっ。

 

電子音が──静寂を裂いた。

 

指が──弾かれたように離れた。

 

携帯端末のアラーム。

 

画面を見た。

 

『17:00 美柑の家──お泊まり』

 

──。

 

美柑の家に──泊まる日だった。

 

先週──美柑が言っていた。

 

「ヤミさん、今度の水曜日うちに泊まりに来てよ! 新しいたい焼きの食べ比べしよう!」

 

水曜日。今日──だ。

 

本を──閉じた。

文庫本を──棚に戻す。背表紙を整える。指で位置を直す。

 

……指。

 

濡れた──右手の指。

 

中指と薬指の先が──てらてらと光っている。

粘度のある──透明な液体。

 

ハンカチで──指を拭いた。

白いハンカチに──小さな染みが移る。

 

ショーツは──まだ湿っている。歩くたびに──布地が肌に張り付く感覚がある。

でも──替えはない。このまま行くしかない。

 

美柑の家──結城家。

 

つまり──結城リトの家でもある。

 

あの男が──いる家に。この状態で──行く。

 

「…………」

 

ショーツが──濡れている。

官能小説を読んで──自分で触って──濡らした、ショーツを履いたまま。

 

結城リトの家に。

 

(……何も、問題ありません)

 

問題はある。

明らかに──ある。

 

でも──美柑との約束を、破るわけにはいかない。

美柑は──私の、唯一の親友だから。

 

書架の陰から──出た。

図書室の明かりが──まぶしい。

 

図書室の出口に向かって──歩く。

足取りは──いつも通り。感情を消した無表情。足音を殺した歩行。

 

でも──スカートの中だけが。

 

じんわりと──熱を持ったまま。

 

校舎を出ると──四月の風が、頬に当たった。

少しだけ──冷たくて、気持ちよかった。

 

美柑の家への道を──歩き始めた。

 

えっちぃのは──嫌いです。

 

嫌い──なのに。

 

棚の奥の──あの本たちが。

 

明日も──私を、呼んでいる気がした。

 

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