※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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金色の闇の場合(4)

 朝の食卓が──普通だった。

 

あまりにも──普通だった。

 

結城家のダイニング。味噌汁の湯気が立ち昇る。焼き鮭の匂い。白い皿に盛られた卵焼き。

美柑が──エプロンをつけて、配膳をしている。

 

「リト、お味噌汁おかわりいる?」

 

「ん、もらう」

 

「はいはい。──あ、ヤミさんも食べてね。卵焼き、ヤミさんの分多めにしてあるから」

 

「……ありがとうございます」

 

美柑が──笑っている。

いつもの、まっすぐな笑顔。目に隈もない。声も明るい。

昨夜──泣きながら兄に肛門を犯されていた少女と──同一人物とは思えない。

 

結城リトが──味噌汁を啜っている。

涼しい顔。爽やかな朝の表情。昨夜の──あの獣じみた腰の動きの片鱗すら見えない。

 

二人の間にある空気は──穏やかで、温かく、平凡な兄妹の朝食そのもの。

 

(……まるで)

 

まるで──何もなかったかのように。

 

昨夜のことが──嘘だったかのように。

 

私は──箸を動かしながら、二人の顔を交互に見ていた。

暗殺者の観察眼が──嘘を見破ろうとする。

 

でも──嘘が、見つからない。

 

美柑の笑顔に──影がない。

結城リトの態度に──後ろめたさがない。

 

「ヤミ、今日も学校だろ? 一緒に行くか?」

 

「……結構です。一人で行きます」

 

「そっか。気をつけてな」

 

結城リトが──にこっと笑った。

 

その笑顔を見た瞬間──昨夜の映像が、脳裏にフラッシュバックした。

美柑の小さなお尻を掴む大きな手。「美柑──もう一回」という低い声。びくびくと痙攣する小さな身体。

 

同じ手が──今、味噌汁の椀を持っている。

同じ声が──「気をつけてな」と言っている。

 

官能小説──だ。

 

図書室の奥にあった──あの棚の本。

あの中の世界に──迷い込んだような感覚。

日常と淫猥が隣り合っていて──境界線が見えない。

 

現実の方が──小説よりも、質が悪い。

 

「ヤミさん、大丈夫? 卵焼き、口に合わなかった?」

 

「……いえ。美味しいです」

 

「よかった! ヤミさんがそう言ってくれると嬉しいな」

 

美柑が──にぱっと笑った。

 

あの笑顔は──本物だ。嘘じゃない。

この温かい食卓は──美柑にとって、本当に幸せな日常なのだろう。

 

だからこそ──私は、何も言えない。

 

朝食を終えて──結城家を出た。

四月の朝の空気を吸い込んで──頭を切り替える。

 

考えなければならない。

昨夜見たものについて──どうするべきか。

 

美柑に直接聞くのは──難しい。

結城リトを問い詰めるのは──もっと難しい。

 

一人で抱えるには──重すぎる。

 

(……誰かに、相談するべきなのか)

 

誰に?

この街で──私に近い大人は──。

 

ティアーユの顔が──浮かんだ。

 

          *

 

放課後。

 

生物室の前に──立っていた。

 

ティアーユ・ルナティーク。

私を造った人間。クローンの──元となる細胞の提供者。

この学校の生物学教師。

 

彼女との関係は──複雑だ。

母のような存在であり──罪人でもある。

私を生み出し──結果的に、兵器として利用される運命を作った人。

 

会うたびに──気まずい。

ティアーユも──私の顔を見ると、罪悪感で目を伏せる。

私も──彼女とどう接していいのか、わからない。

 

だが──今は。

その気まずさが──むしろ有利かもしれない。

 

性的な話題を持ち出すには──普段の会話相手よりも、こういう微妙な関係の方が──かえって切り出しやすい。

相手が動揺すれば──そこから情報を引き出せる。

 

暗殺者の思考──だ。

 

生物室のドアを──開けた。

 

「……失礼します」

 

「あ──ヤ、ヤミちゃん……!」

 

ティアーユが──実験台の前で振り向いた。

 

金色のロングヘア。緑色のクリッとした目。甘い顔立ち。

黒のスカートスーツに──白いブラウス。

そして──Iカップの胸が、ブラウスの前面をぱつんと押し広げている。ボタンの隙間から──布地が引っ張られて、微かに肌色が覗いている。

 

豊満──という言葉では足りない身体。

ウエスト56。ヒップ90。それでこの胸。

スカートの上からでも──お尻の丸みがはっきりとわかる。

 

この身体を持っていながら──私の知るティアーユは、驚くほどウブだ。

性的な話題が出ると顔を真っ赤にして「えっと……その……」と目を泳がせる。

 

「ティア。少し──お時間をいただけますか」

 

「え、ええ、もちろん……! どうしたの、珍しいわね、ヤミちゃんから来てくれるなんて……」

 

ティアーユの目が──潤んだ。

嬉しいのだろう。自分から距離を取っている私が──自主的に会いに来た。

 

罪悪感と喜びが混じった──複雑な表情。いつものティアーユだ。

 

「……座ってもいいですか」

 

「どうぞどうぞ──あ、お茶入れるわね?」

 

「……結構です」

 

「でも──」

 

「結構です」

 

「……はい」

 

しゅんとした顔で──ティアーユが向かい側に座った。

 

さて──どう切り出すか。

 

「……ティア。少し──聞きたいことがあります」

 

「何かしら? 何でも聞いて」

 

「……異性との──身体的な関係について」

 

ティアーユの目が──まん丸になった。

 

「え……えぇっ?」

 

「私は──その分野について、知識が不足しています。生物学教師として──教えていただけませんか」

 

嘘だ。

図書室の官能小説で──ある程度の知識はある。

だが──鎌をかけるには、無知を装う方がいい。

 

ティアーユが──ぱちぱちと瞬きした。

頬が赤くなっている。でも──。

 

「あ……そ、そうよね……ヤミちゃんも、そういうお年頃よね……」

 

食いついた。

 

予想外だった。

もっと拒絶されるか、照れて話題を逸らされるかと思っていたのに──ティアーユは、真面目な顔になった。

 

教師の顔──だ。子供に性教育をする──あの、責任感に満ちた表情。

 

「えっと……何から話せばいいかしら……身体の仕組みのことは、理科の授業で習った?」

 

「……一通りは」

 

「じゃあ……あの……男の人と女の人が、お互いを好きになって……その……スキンシップが進んでいくと……」

 

ティアーユが──両手の人差し指を突き合わせながら、しどろもどろに話し始めた。

 

「……キスをしたり……抱き合ったり……もっと……その……親密な……えっと……」

 

顔が──りんごのように赤い。

 

教師として真面目に教えようとしているのに──自分自身が恥ずかしさで死にそうになっている。

 

私は──質問の角度を変えた。

 

「ティア。男性は──女性に、力ずくで迫ることがありますか」

 

ティアーユの目が──一瞬、揺れた。

 

「ち、力ずく……?」

 

「はい。女性が嫌がっているのに──やめない。そういうことは──あるのでしょうか」

 

ティアーユが──口を開いて。閉じて。また開いた。

 

「それは……あの……一般論として……男の人の中には……その……」

 

目が──泳いでいる。

だが──泳ぎ方が、おかしい。

 

一般論を語ろうとしているのに──目が、自分の体験を思い出しているように見える。

 

「……男の人は……時々、加減が……わからなくなることがあるの……特に……その……興奮すると……」

 

ティアーユの声が──小さくなった。

頬が──さらに赤くなっている。でも──表情が、恐怖ではない。

 

どこか──熱を帯びた、甘い赤みだ。

 

「一般論、ですか」

 

「え、ええっ! 一般論よ、一般論!」

 

ティアーユが──あたふたと手を振った。

Iカップの胸が──その動きに合わせてぶるんと揺れる。

 

「あの……でもね、ヤミちゃん。もし──誰かにそういうことをされそうになったら……」

 

「はい」

 

「身体は……大事にしないと、ダメよ……? わかる?」

 

ティアーユが──真剣な目で、私を見つめた。

教師として──保護者として──私の身体を心配してくれている目。

 

「男の人は……好きな人ができると……時々、乱暴に……その……求めてくることがあるの」

 

声が──少しだけ、震えていた。

 

「例えば……その……激しく押し倒してきたり……」

 

ティアーユの目が──遠くを見ている。

 

「手首を掴んで……動けないようにしたり……」

 

語っている内容が──一般論から──具体的な体験に、ずれ始めている。

 

「髪を引っ張られたり……強い力で抑えつけられて……逃げられなくて……」

 

ティアーユの声が──掠れた。

頬が──真っ赤。でも──目が、潤んでいる。恐怖の涙ではない。

 

「あの──ティア」

 

「──だから! そういう時は、ちゃんと『やめて』って言わなきゃダメなの!」

 

ティアーユが──急に声を大きくした。

我に返ったように──教師の顔を取り繕う。

 

「……言えば、やめてもらえるのですか」

 

「…………」

 

沈黙が──重い。

 

ティアーユが──目を伏せた。

金色の長い睫毛が──震えている。

 

「……やめて、って……言っても……止まらない人は……」

 

声が──ほとんど聞こえないほど小さくなった。

 

「……止まらないの……結城君は……あっ」

 

ティアーユの目が──大きく見開かれた。

 

口を──両手で塞いだ。

 

「ちっ──違うの! 今のは──えっと──一般論として──結城君という名前は──その──」

 

「……結城君、と言いましたね」

 

「言ってない! 言ってないわ! えっと──えっと──ゆうき──有機化学の話をしてたの! 有機的なアプローチで──」

 

有機化学。

 

無理がある。明らかに──無理がある。

 

ティアーユが──机の下で、太腿をもじもじと擦り合わせていた。

スカートの奥で──脚が落ち着きなく動いている。

 

「あの──と、とにかくヤミちゃん! 身体は大事にしなきゃダメ!」

 

「……はい」

 

「それとね──もう一つ大事なことがあるの」

 

ティアーユが──指を一本立てて、真面目な顔をした。

教師の顔──だが、頬はまだ赤い。

 

「男の人が……もし……その……特殊なことを求めてきても……嫌なら嫌って言っていいのよ?」

 

「特殊なこと……とは」

 

「例えば……その……」

 

ティアーユの声が──また、小さくなった。

 

「お尻を叩かれたり……とか……」

 

顔が──さらに赤くなった。

 

「……目隠しされたり……とか……」

 

目が──泳いでいる。

 

「……言葉で……その……罵倒されたり……とか……」

 

声が──震えている。そして──その震えには、恐怖だけでなく──熱が、混じっている。

 

「ティア」

 

「っ──何かしら?」

 

「それは──嫌なことの例を挙げているのですか。それとも──」

 

「い、嫌なことよ! 嫌なことに決まっているでしょう!」

 

ティアーユが──立ち上がった。Iカップの胸がぶるんと揺れる。

 

「ダメよ──そういうの──ぜったいに──」

 

「……はい」

 

「特に……首を軽く絞められながら……後ろから──激しく──っ」

 

ティアーユの目が──どこか遠い場所を見ていた。

唇が──微かに開いて──舌先が、下唇を舐めた。

 

「あっ──ち、違うの! 今のは──ダメな例として──こういうことをされちゃダメってこと──!」

 

ティアーユが──再び座り込んだ。机に突っ伏すように──顔を腕に埋めた。

 

「ごめんなさい……私、何を言ってるんだろ……」

 

「…………」

 

私は──ティアーユを見ていた。

 

呆れている──のだと思う。

天才科学者であり、真面目な教師であるはずのこの人が──自分の性癖を生徒に暴露している。

「ダメな例」として挙げているはずの行為が──明らかに、本人の願望リストになっている。

 

呆れている。

 

でも──同時に。

 

胸の奥が──どくどくと、脈打っていた。

 

ティアーユが語った内容──手首を掴まれる、髪を引かれる、押さえつけられる、叩かれる、目隠し、罵倒、首を絞められながら後ろから──。

 

図書室で読んだ官能小説の──あのシーンが、蘇る。

スパイの女が拷問官に──。気の強い少女が痴漢に──。

 

そして──昨夜。

美柑が──「やめて」と泣きながら──結城リトに──。

 

全部──繋がっている。

 

結城リトという男を中心に──この街の女たちが──。

 

「……ティア」

 

「は、はいっ」

 

ティアーユが──顔を上げた。目が──うるうると潤んでいる。

 

「……ありがとうございました。参考になりました」

 

「え──参考に──って──ごめんなさい、私、ちゃんとした性教育ができなくて──」

 

「いえ。十分──伝わりました」

 

伝わった。

伝わりすぎた──かもしれない。

 

生物室を──出た。

 

廊下を歩く。放課後の校舎は静かだ。

自分の足音だけが──リノリウムの床に反響している。

 

頭の中が──混乱している。

 

美柑のこと。ティアーユのこと。結城リトのこと。

 

結城リトは──私の親友の兄であり。

ティアーユの──言葉の端に名前が出た男であり。

この学校で「ヤリチン」と呼ばれている男。

 

あの男は──何人の女を──。

 

(……私には、関係のないことです)

 

関係ない。関係ないはずだ。

 

えっちぃのは──嫌いです。

 

(……嫌い、です)

 

昇降口に向かった。

靴を履き替えて──校舎を出ようとした。

 

その時──。

 

「お、ヤミ。まだ学校いたのか」

 

心臓が──跳ねた。

 

声のした方を──振り向いた。

 

結城リトが──昇降口の柱にもたれて、立っていた。

 

カバンを片手に。制服のブレザーを脱いで、ワイシャツの袖を肘まで捲っている。

ネクタイは少し緩んでいて──鎖骨が覗いている。

 

夕日が──結城リトの横顔を照らしていた。

涼やかな目。片方だけ上がった口角。少年と青年の境目にある──あの、独特の色気。

 

朝の食卓では──ただの、少し軽薄な少年に見えた。

だが──夕日に照らされたこの男は。

 

「今朝、なんか元気なかったけど、大丈夫か?」

 

その声が──低い。

朝食の時の声と──同じ。

昨夜、美柑に「もう一回」と囁いた声と──同じ。

 

「美柑も心配してたぞ。──一緒に帰るか?」

 

結城リトが──にっこりと笑った。

爽やかな笑顔。裏のない──ように見える──笑顔。

 

その笑顔の裏に──何がある。

 

この男は──昨夜、何をした。

ティアーユに──何をしている。

この学校の──何人の女を──。

 

「…………」

 

声が──出なかった。

 

暗殺者として──数えきれない修羅場をくぐってきた。

だが──今、この男の前で──私の心臓は、制御を失ったように脈打っている。

 

恐怖──ではない。

怒り──でもない。

 

では──何なのか。

 

わからない。わからないことが──一番、怖い。

 

結城リトが──一歩、近づいた。

 

「ヤミ? 顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」

 

その手が──私の額に向かって伸びてきた。

 

「──触らないでください」

 

反射的に──後ろに退いた。

 

結城リトの手が──空気を掴んで、止まった。

 

「……お、おう。ごめん」

 

結城リトが──困ったような顔をした。

 

朝のバッグの時と──同じ顔だ。

無害な少年の──困惑した顔。

 

(……この顔の裏に──)

 

私は──何も言わずに、背を向けた。

 

校門に向かって──歩いた。

 

足音を殺さなかった。

暗殺者の訓練を忘れたように──がたがたと不格好な足取りで。

 

背中に──結城リトの視線を感じた。

 

あの目が──私を見ている。

 

昨夜、美柑を見ていた。

ティアーユを──見ていた。

 

そして今──私を。

 

(…………結城リト)

 

あなたは──何者ですか。

 

その問いに──答えは返ってこなかった。

 

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