※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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金色の闇の場合(5)

 結城リトが──目の前にいる。

 

昇降口。夕日。ワイシャツの袖を捲った腕。鎖骨。

 

「──触らないでください」

 

そう言って──後ろに退いた。

退いたはずなのに──目が、離せない。

 

結城リトの──身体を。

 

ワイシャツの胸元。開いた第一ボタンの隙間から覗く肌。

鎖骨の下の──薄い胸板。

捲った袖から見える前腕。適度な筋肉がついた──男の腕。

 

そして──。

 

視線が──下がった。

 

制服のズボン。ベルトの下。

 

──股間。

 

(っ!)

 

慌てて──視線を逸らした。

 

何を見ている。何を──見ようとしている。

 

昨夜の映像が──勝手に蘇る。

結城リトがズボンを下ろした時の──あの。

硬く勃起した陰茎。太い幹。張り詰めたカリ首。

美柑の小さな身体には不釣り合いなほどの──。

 

(やめなさい。考えるのを──やめなさい)

 

暗殺者の自制心で──思考を遮断した。つもりだった。

 

だが──目が、戻ろうとする。ズボンの前面に──。

 

結城リトは──何も気づいていない。

困ったような顔で──頭を掻いている。

 

「ヤミ、怒ってる? 俺、なんかした?」

 

「……していません」

 

嘘だ。あなたは──昨夜、とんでもないことをした。

 

「そっか。よかった。──帰り道、一緒に行こうぜ」

 

「……結構です」

 

「そう言うなよ。──あ、そうだ。美柑がたい焼きの新しい店がどうとか言ってたけど、知ってる?」

 

たい焼き──。

 

美柑が言っていた。抹茶カスタード。新メニュー。日曜日に一緒に行こうと──。

 

「……知っています」

 

「じゃあ寄ってこうぜ。俺も気になってたんだよ」

 

「…………」

 

断るべきだ。この男と──二人で──。

 

「美柑の分も買って帰ろう。あいつ、喜ぶからさ」

 

美柑の名前を出された。

 

美柑のため──という口実を──使われた。

 

「……わかりました」

 

なぜ──承諾してしまったのか。

 

自分でも──わからない。

 

          *

 

商店街の──たい焼き屋。

 

「新メニュー」と書かれた手書きの看板。小さな店。焼き立ての甘い匂いが──鼻腔をくすぐる。

 

行列が──五人ほど。

 

結城リトと──並んで立っている。

 

「ヤミ、何にする?」

 

「……抹茶カスタード」

 

「俺もそれにしよ。美柑にはあんこだな。あいつ、あんこが一番好きだから」

 

美柑の好みを──知っている。当然だ。兄だから。

兄として──妹の好みを把握している。それだけのことだ。

 

それだけの──はずだ。

 

「はい、お待たせ。たい焼き三つね」

 

店主が──焼き立てのたい焼きを渡してくれた。

 

結城リトが──財布を出した。

 

「俺払うよ」

 

「自分の分は自分で払います」

 

「いいって。昨日泊まってくれたお礼」

 

「……勝手にしてください」

 

結城リトが──苦笑した。

 

たい焼きを──手に持った。温かい。

紙袋越しに──焼き立ての熱が、掌に伝わる。

 

一口──齧った。

 

抹茶カスタードが──とろりと溢れた。

甘い。ほろ苦い。クリームが──舌の上で溶ける。

 

「うまいな、これ」

 

「……悪くないです」

 

「ヤミ、口にクリームついてる」

 

「え──」

 

結城リトが──手を伸ばした。

 

「──っ!」

 

身構えた。暗殺者の反射で──距離を取ろうとした。

 

だが──結城リトの指は、私の頬に触れただけだった。

口の端についたクリームを──親指で拭った。

 

ぬるっ──という感触は──なかった。乾いた指先。温かい体温。

 

「ほら。取れた」

 

「…………」

 

心臓が──うるさい。

 

ただクリームを拭われただけだ。それだけのことだ。

なのに──頬が、じわっと熱くなっている。

 

「ヤミって無表情なのに、こういう時だけ顔赤くなるよな」

 

「赤くなっていません」

 

「めちゃくちゃ赤い」

 

「……殺します」

 

「こわっ」

 

結城リトが──笑った。くしゃっと、少年のような笑い方。

 

(……何をしているんですか、私は)

 

暗殺者が──たい焼きを食べている。ヤリチンと呼ばれる男と並んで。

商店街を歩きながら。夕日の中で。

 

滑稽だ。おかしい。ありえない。

 

なのに──。

 

足取りが──軽い。

 

会話のテンポが──心地よい。

 

こんな時間は──暗殺者の人生には、存在しなかったもの。

 

美柑と一緒にいる時と──少し似ている。だけど──違う。

 

何が違うのかは──考えたくなかった。

 

「じゃ、ここで。気をつけて帰れよ、ヤミ」

 

分かれ道に──着いた。

 

「……ええ」

 

「美柑のたい焼き、預かっとくから。冷めちゃうけど」

 

「……温め直せばいいでしょう」

 

「そうだな。──じゃあな」

 

結城リトが──手を振って、歩いていった。

 

背中を──見送った。

 

広い肩。少し猫背気味の歩き方。カバンを右肩に掛けて──夕日の中に消えていく。

 

あの背中。

昨夜──美柑の上に覆いかぶさっていた、あの背中。

 

同じ──背中だ。

 

          *

 

帰り道を──一人で歩いた。

 

頭の中が──ぐちゃぐちゃだった。

 

ティアーユの言葉が──蘇る。

 

「……止まらないの……結城君は……」

 

ティアーユも──結城リトに。

手首を掴まれて。髪を引かれて。首を絞められながら──後ろから。

 

そして──美柑。

あの小さな身体が──「やめて」と泣きながら。

 

結城リトは──何人の女を、あの手で──。

 

暗殺者としての自分が──警告を発している。

あの男は危険だ。近づくべきではない。

 

だが──。

 

たい焼きの味が──まだ、舌の上に残っている。

口の端を拭われた時の──指の温度が、頬に残っている。

 

「ヤミって無表情なのに、こういう時だけ顔赤くなるよな」

 

あの──くしゃっとした笑顔。

 

(……何を考えているんですか)

 

えっちぃのは──嫌いです。

 

(嫌い、です)

 

胸が──どくどくと、脈打っていた。

 

帰宅した。

一人暮らしの部屋。殺風景だ。最低限の家具しかない。

 

制服を──脱いだ。

 

いつもの──黒いボンテージに着替える。

暗殺者としての戦闘服。肌に密着する黒い布地。露出が多い──と言われるが、これが一番動きやすい。

 

鏡の前に立った。

 

黒いボンテージに包まれた──自分の身体。

金色のロングヘア。葡萄酒色の目。白い肌。

 

暗殺者の身体──だ。

 

誰かに触れられるためではなく──誰かを殺すための身体。

そう──育てられた。

 

なのに──今。

 

この身体が──誰かの温度を、覚えている。

 

頬に触れた──結城リトの指先を。

 

夜が──来た。

 

          *

 

深夜。

 

決めた。

 

これ以上──一人で悩んでいても、答えは出ない。

直接──結城リトに、聞く。

 

美柑との──あの行為について。

 

暗殺者は──状況が不明な時、情報を取りに行く。

待って答えが来ることは──ない。

 

トランス能力を──発動した。

 

背中の肌が──変形する。黒い布地の隙間から──金色の髪が伸びて、形を変えていく。

 

翼──だ。

 

金色の髪が編み上げられた──大きな翼が、背中に広がった。

 

窓を開けた。夜風が──頬を撫でる。

 

飛んだ。

 

夜空を──結城家に向かって。

 

彩南町の夜景が──眼下に広がっている。街灯の光。民家の灯り。夜の空気は冷たくて──身体が引き締まる。

 

結城家の──二階。

結城リトの部屋の窓が──見えた。

薄い光が──カーテンの隙間から漏れている。まだ起きている。

 

窓の前で──ホバリングした。

 

翼が夜風を叩く音が──静かだが、確かに響いている。

 

窓を──こんこん、と叩いた。

 

数秒の間。

 

カーテンが──揺れた。

 

結城リトの顔が──ガラス越しに見えた。

目が──まん丸に見開かれている。

 

「──ヤミ!?」

 

窓を開けた。

 

「な、なんで──窓から──飛んでんの!?」

 

「……入れてください」

 

「えっ──あ、うん。入って入って」

 

結城リトが──慌てて窓を大きく開けた。

 

翼を畳んで──部屋の中に滑り込んだ。

着地。靴底が──フローリングの床を踏んだ。

 

結城リトの部屋。

机。ベッド。漫画の本棚。十六歳の男の子の──普通の部屋。

 

昨夜──美柑がこの部屋で。このベッドの上で。

 

ベッドのシーツは──綺麗に整えられている。何の痕跡もない。

 

結城リトが──パジャマ姿で、私の前に立っていた。

半袖のTシャツとスウェットのズボン。

 

「びっくりした。どうしたんだよ、こんな時間に」

 

「……話があります」

 

「話?」

 

「…………」

 

言わなければならない。

 

ここまで来たのだから──言わなければ。

 

暗殺者の呼吸で──覚悟を決めた。

 

「結城リト。あなたと──美柑が、していることを──見ました」

 

結城リトの表情が──固まった。

 

笑顔が──消えた。涼やかな目が──わずかに、鋭くなった。

 

「…………いつ」

 

「泊まった夜です。美柑が──あなたの部屋に行くのを。その後の──全てを」

 

沈黙が──部屋に落ちた。

 

時計の針の音だけが──かちかちと刻んでいる。

 

「美柑は──小学生です。あなたの──実の妹です」

 

声が──震えていた。自分でも驚くほど。

 

「あなたが──何をしているのか、わかっていますか」

 

結城リトが──黙っている。

 

「美柑は──途中から、やめてと言っていました。止まらなかった。泣いていました。あれは──」

 

感情が──溢れてきた。

暗殺者の無表情が──保てない。

 

「返答次第では──殺します」

 

目が──熱い。

 

あなたが──私の唯一の親友にあんなことをして──。

 

「殺し──ます……っ」

 

顔が──燃えるように、赤くなっていた。

殺す、と言いながら──声が震えて──目が潤んで──暗殺者の威厳が、まるでない。

 

結城リトが──。

 

「しっ」

 

人差し指を唇に当てた。

 

「声──大きい。美柑に聞こえる」

 

「──っ」

 

はっ──とした。

 

確かに──隣の部屋は、美柑の部屋だ。

壁一枚向こうに──美柑が寝ている。

 

この会話を──美柑に聞かれたら。

美柑が──知ることになる。私が全部を見ていたことを。

 

「……すみません。声を──抑えます」

 

声量を──落とした。

 

小さい声で──続けた。

 

「……改めて聞きます。美柑と──何をしているのですか」

 

結城リトが──私の目を、見つめた。

 

あの涼やかな目。嘘のない──ように見える──目。

 

そして──結城リトは、答えずに。

 

一歩──近づいた。

 

「ヤミ」

 

「──何ですか」

 

「お前──美柑のこと、心配してくれてるんだな」

 

「…………当然です。美柑は──私の、友達ですから」

 

「美柑のために──こんな夜中に飛んできて、俺に殺すとまで言って。──お前、優しいな」

 

「──え」

 

優しい──?

 

暗殺者の──私が?

 

「……何を言っているんですか。私は──暗殺者です。優しい人間では──ありません」

 

「暗殺者とか関係ないだろ。お前は──友達を心配して、ここに来た。それって──めちゃくちゃ優しいことだよ」

 

「…………」

 

優しい。

 

その言葉を──生まれてから今まで──誰にも、言われたことがなかった。

 

兵器として──育てられた。

道具として──使われた。

暗殺者として──恐れられた。

 

「優しい」という形容詞は──私の辞書には──存在しなかった。

 

「……そんな──こと──」

 

声が──掠れた。

 

(何ですか──その言葉は)

 

(こんな──タイミングで──ずるい──)

 

質問を──していたはずだ。

問い詰めて──いたはずだ。

 

なのに──結城リトの一言で──全部が、崩れそうになっている。

 

「……礼は……言いません」

 

小さい声で──俯きながら。

 

「でも──ありがとう、ございます」

 

矛盾している。自分でも──わかっている。

 

結城リトが──また、一歩近づいた。

 

近い。距離が──近い。

 

「ヤミ」

 

「……何ですか」

 

「お前──可愛いな」

 

「──はぁっ?」

 

思わず──素の声が出た。

 

「泣きそうな顔で殺すとか言ったり、照れて小さい声になったり。──可愛い」

 

「か──可愛くないです。私は暗殺者です。殺します」

 

「ほら、また殺すって言ってる。可愛い」

 

「殺──」

 

結城リトの手が──私の頭に、触れた。

 

金色の髪の上を──大きな掌が、ゆっくりと撫でた。

 

さらさらと──髪の毛が、指の間を流れていく。

 

「っ──」

 

身体が──硬直した。

 

トランス能力が──反応しなかった。

髪は──私の武器だ。触れられたら、自動で変形して攻撃するように訓練している。

 

なのに──反応しない。

 

結城リトの手──には。

 

「えっちぃのは──」

 

「撫でてるだけだろ」

 

「…………」

 

撫でられている。頭を。髪を。

 

子供にするように──ゆっくりと。丁寧に。

 

誰にも──こんなふうに、頭を撫でられたことは──ない。

 

温かい。

 

結城リトの掌は──大きくて──温かくて──。

 

「──っ」

 

結城リトの腕が──私の肩に回った。

 

引き寄せられた。

 

結城リトの胸に──顔が、押し付けられた。

Tシャツの布地。石鹸の匂い。男の体温。

 

抱きしめられている──のだと、理解するまでに数秒かかった。

 

「──な──何を──」

 

「いいから。じっとしてろ」

 

低い声が──頭の上から降ってくる。

 

結城リトの心臓の音が──耳に響いている。

どくん、どくん、と──規則正しい鼓動。

 

私の心臓は──その倍の速さで暴れている。

 

暗殺者の訓練を──全部忘れている。

押し退けることも──攻撃することも──できない。

 

身体が──動かない。ニュルニュルされた時のように──力が入らない。

 

いや──違う。

力が入らないんじゃなく──力を、入れたくないのだ。

 

(何を──されているんですか、私は)

 

抱きしめられている。あの男に。ヤリチンに。

美柑を──ティアーユを──何人もの女を──。

 

その腕の中に──今、私がいる。

 

「……離して──ください」

 

声に──力がなかった。

 

「もうちょっとだけ」

 

結城リトの手が──背中を、ぽんぽんと叩いている。

子供をあやすように。

 

そして──もう一方の手が。

 

背中を──下に、滑っていった。

 

腰を越えて──お尻の上を通過して──。

 

スカートの──裾に、触れた。

 

ぺらっ──と。

 

黒いボンテージのスカート部分が──後ろから、捲られている。

 

(──っ⁉)

 

気づいた。気づいているのに──。

 

結城リトの顔が──私の頭の上にある。見えない。

何をしているのか──わからない。ような、フリをしている。

 

スカートが──ゆっくりと、持ち上げられている。

夜風が──太腿の裏側に、ひやりと当たった。

 

(やめ──てください──)

 

言うべきだ。言わなければ──。

 

でも──胸の中の鼓動が、うるさすぎて──言葉が、出てこない。

 

結城リトの心臓の音を──聞いている。

私の心臓の音が──重なっている。

 

二つの鼓動が。

 

抱きしめられている温かさの中で──混ざり合っている。

 

ドキドキが──止まらなかった。

 

えっちぃのは──嫌いです。

 

嫌い──なのに。

 

止まらなかった。

 

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