※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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モモ・ベリア・デビルークの場合(4)

 朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。

 

モモは天井を見つめたまま、まばたきをひとつした。

寝たのか寝ていないのか分からない夜だった。

枕に顔を押しつけた姿勢のまま、何度も意識が浮いたり沈んだりを繰り返して、気づけば朝になっていた。

 

「最近は来ないから、ちょっと気になってさ」

 

リトさんの声が、まだ頭の中に残っている。

寝ている間も、あの声のことを考えていた気がする。

 

モモはゆっくり身体を起こした。

シーツが太腿に絡まっている。寝相が悪かったらしい。

Tシャツが捲れ上がって、おへその辺りまで素肌が出ていた。

 

尻尾が、背中の後ろでだらんと垂れている。

昨夜きゅっと丸まっていたそれは、今は力が抜けて──少しだけ寂しそうに見えた。

 

モモは両頬を、自分の手のひらで挟んだ。

ぱちん、と小さな音。

 

(……しっかりしなさい)

 

昨夜のことを反芻する。

リトさんに「距離を取っている」と指摘された。

過去のベッド潜り込みを掘り返された。

そして——「嫌じゃありません」と、自分から言った。

 

全部、リトさんの掌の上だ。

追い詰めて、引いて、こちらに空白を埋めさせる。

手口は分析できている。

 

分析できているなら——逆に利用できるはず。

 

モモは洗面所の鏡の前に立った。

くせ毛を直しながら、鏡の中の自分と目を合わせる。

シャープな緑色の目。ショートボブのピンク髪。

 

(距離を取りすぎた)

 

昨夜の失敗を分析する。

警戒を前面に出しすぎた。不自然な距離は、逆にこちらの動揺を相手に教えてしまう。

ならば——以前の自分に戻ればいい。

リトさんに好意を持つ、ちょっと積極的なモモ・ベリア・デビルーク。

あの仮面を被り直せば、警戒心を悟られることはない。

 

近づく。でも、触れない。

観察する。でも、見つめない。

会話する。でも、隙を見せない。

 

(わたしの方が、上手よ)

 

── 一歩だけ、自分からリトさんに近づいてみよう。

 

         *

 

リビングに降りると、テレビの音が聞こえた。

 

朝の情報番組。天気予報のジングルが流れている。

美柑さんがキッチンで朝食の支度をしている匂い。味噌汁と焼き魚。

 

モモはリビングの入り口で足を止めた。

 

ソファの前──テレビとの間の狭い空間に、お姉様とリトさんがいた。

 

お姉様が立っている。

いつものペケの衣装。ピンクのロングヘアが背中に流れている。

リトさんが、その後ろに立っていた。

 

リトさんの右手が、お姉様のお尻に触れていた。

 

制服ではなくペケが生成した薄い生地のスカート。

その上から、まるくて大きなお尻の片方を、掌で包むように——ぐに、と。

 

「り、リトぉ……朝からぁ……♡」

 

お姉様の声が、甘く震えている。

困っている。困っているはずなのに——身体はリトさんの方に傾いていて、逃げる様子がない。

頬がほんのり桜色に染まって、長いまつ毛が伏せられている。

 

リトさんの指が動いた。

お尻の丸みに沿って、下から持ち上げるように。

ぷにっ……と、柔らかい肉が指の間で形を変える音が——聞こえるはずがないのに、モモの脳が勝手に再生した。

 

(……っ)

 

足が動かない。

見てはいけない。でも、目が離せない。

あの夜と同じだ。あの時も、こうやって足が止まって——。

 

リトさんの左手がお姉様の腰に回った。

引き寄せる。お姉様の背中がリトさんの胸にぴたりとくっつく。

耳元で何か囁いている。聞こえない。聞こえないけれど、お姉様の耳が真っ赤になったのは見えた。

 

「もぅ……リトのえっち……♡」

 

えっち、と言いながら嬉しそうだった。

困った顔をしているのに、尻尾がリトさんの腕にそっと巻きつこうとしている。

あの本能的な動き。リトさんを離したくないという——。

 

モモは一歩後ろに下がった。

リビングの入り口の壁に、肩が当たる。

 

(——大丈夫)

 

深呼吸する。音を立てないように。

 

(あれくらいのこと、大したことじゃないわ)

 

そうだ。

お尻を触る程度のスキンシップ。あの日見た情事に比べたら、可愛いものだ。

それに——モモだって、かつてはリトさんのベッドに忍び込んでいた。

あの時の自分の方が、よほど大胆だったはず。

シャツ一枚で、リトさんの布団の中に潜り込んで、わざと胸を押しつけて——。

 

(……わたしの方が、もっと際どいことをしていた)

 

それを思えば、お姉様のお尻を触っている程度で動揺するのは馬鹿馬鹿しい。

 

モモは歩幅を整えて、リビングに踏み入れた。

 

「おはようございます、お姉様、リトさん」

 

何も見ていないふりをした。完璧に。

二人の位置から、ちょうど死角になるタイミングで入った。

 

リトさんの手がお姉様のお尻から離れた。

自然に。まるで最初から何もしていなかったかのように。

 

「おう、おはようモモ」

 

「モモ〜おはよう! 今日もいい天気だね〜!」

 

お姉様は何事もなかったかのように笑っている。

頬の赤みだけが、数秒前の痕跡を残していた。

 

モモはいつもの場所に座った。

美柑さんが味噌汁を運んでくる。

ナナが二階からどたどたと降りてくる。

 

「朝飯ー! 美柑、今日の味噌汁なに?」

 

「なめこだよ、ナナさん」

 

日常が動き出す。

いつもの朝。いつもの結城家。

 

モモは味噌汁を啜りながら、視線だけでリトさんを追った。

焼き魚をほぐすリトさんの指。さっきお姉様のお尻を揉んでいた指。

箸の持ち方は綺麗だ。指が長い。

 

(……やめなさい)

 

視線を味噌汁に落とした。

なめこが椀の中でぷるぷる揺れていた。

 

         *

 

チャンスは、昼過ぎにやってきた。

 

日曜日の午後。ララとナナは買い物に出かけた。美柑さんは友達の家に遊びに行っている。

 

リトさんが、リビングのソファで漫画を読んでいた。

 

一人だ。

 

モモは二階の自分の部屋で、それを把握していた。

階下の気配を、デビルーク人の聴覚で読み取っている。

ページを捲る音。ソファのスプリングが軋む音。時折、鼻で笑う音。

 

(行きなさい、モモ)

 

自分を奮い立たせる。

朝の決意を思い出す。

一歩だけ近づく。でも隙は見せない。

 

階段を降りた。

リビングに入る。

 

リトさんがソファで寝転がっていた。

漫画を顔の上に掲げて読んでいる。

Tシャツが少し捲れて、腹筋の下の方が見えている。

 

モモはソファの反対側に座った。

昨夜と同じ距離。クッションひとつ分。

 

「リトさん」

 

「ん?」

 

漫画から目を離さず、リトさんが応じた。

 

「朝、お姉様にベタベタしてましたね」

 

モモの声には、微かな棘を含ませた。

嫌味。からかい。少しだけ攻撃的な——けれど深刻ではない、軽い挑発。

 

「リビングで堂々と。美柑さんやナナが見たら大変ですわよ?」

 

リトさんが漫画を下ろした。

目が合う。

 

「見てたの?」

 

「通りがかっただけです」

 

嘘だ。立ち止まって見ていた。でも、それは言わない。

 

リトさんが、ぷっと吹き出した。

 

「なんだよ、モモも焼きもち?」

 

「焼きもちなんて焼いてません」

 

即答。早すぎた。

否定が早すぎるのは、図星の証拠。

モモ自身がそれを分かっている。畳みかけなければ。

 

「リトさんの節操のなさに呆れているだけですわ。お姉様のお尻を朝から触るなんて、まったく——」

 

「モモは?」

 

「——は?」

 

「モモのお尻は触っていいの?」

 

思考が、一瞬止まった。

 

リトさんの目が笑っている。

ヘラヘラとした、軽い笑い。人を食ったような。

深刻さのかけらもない表情。

——だからこそ、対処に困る。

 

「な、何を言ってるんですか。ダメに決まって——」

 

ぱしん。

 

軽い衝撃が、お尻に走った。

 

リトさんの右手が、モモの左のお尻を叩いていた。

痛くはない。ぱしん、という音の方が大きいくらいの、軽い一打。

ソファに座った姿勢で、横から伸ばした手が——スカートの薄い生地越しに、丸いお尻の一番高い部分を正確に捉えた。

 

「——っ!!」

 

モモの身体が、びくっと跳ねた。

 

熱が走った。

叩かれた場所から、じわりと。

お尻の皮膚が、ぱしん、の余韻でひりひりしている。

それが——不快ではなかった。不快でないことが、問題だった。

 

「り、リトさんっ!」

 

立ち上がった。

顔が熱い。耳まで赤くなっているのが自分で分かる。

 

「何するんですかっ! セクハラですわよ!」

 

声を荒げた。怒りの演技。

怒っている——怒っているはずだ。

お尻を叩かれたのだから、怒るのが正常だ。

風紀委員の古手川さんなら、ここで平手打ちのひとつも飛ばすだろう。

 

だが——モモの心臓は、怒りとは違うリズムで跳ねていた。

 

ドクン。ドクン。ドクン。

 

「ごめんごめん」

 

リトさんが、片手を上げて降参のポーズをとった。

ヘラヘラ笑っている。反省の色は皆無。

 

「つい。モモが可愛いこと言うから」

 

「可愛くないですっ! わたしは怒ってるんです!」

 

怒っている。怒っている演技をしている。

演技——だ。

本当に怒っているなら、とっくにこの場を離れている。

なのにモモの足は動かない。

リトさんの前に立ったまま、両手を腰に当てて、頬を膨らませている。

 

「もう! リトさんのそういうところが——」

 

「ん? どういうところ?」

 

「……節操がないところです!」

 

モモは踵を返した。

今度こそ、リビングを出る。

背中にリトさんの笑い声が追いかけてくる。

 

「わりぃわりぃ」

 

軽い。軽すぎる。

あの男にとって、女のお尻を叩くことは挨拶程度の行為なのだ。

——だからこそ厄介。

特別な意味を持たない接触。だから怒りきれない。怒りきれないから、モノにされる。

 

廊下に出て、壁に背中を預けた。

右手で胸を押さえる。

ブラウス越しに、心臓の暴走が伝わってくる。

 

お尻が、まだ熱い。

ぱしん、の手形が残っているような気さえする。実際には残っていないのに。

 

(……セクハラよ、あんなの)

 

そう。セクハラだ。

怒るべきだ。

リトさんは最低だ。

 

——なのに。

 

叩かれた瞬間の感覚が、まだ手のひらの温度として残っている。

リトさんの手は、大きかった。

 

モモは自分の左のお尻に、そっと手を当てた。

スカート越しに。丸い膨らみの、一番高いところ。

リトさんの手が触れた場所。

 

すぐに手を離した。

 

(何してるの、わたし……)

 

         *

 

夜。

 

モモは自分のベッドに潜り込んでいた。

 

パジャマ代わりのTシャツとショートパンツ。

シーツを胸の辺りまで引き上げて、横向きに丸まっている。

目は閉じている。けれど、眠れていなかった。

 

今夜もだ。

 

考えているのは——リトさんのこと。

お尻を叩かれた感覚。

あのヘラヘラした笑顔。

「モモが可愛いこと言うから」という、あの台詞。

 

(可愛い、なんて……)

 

あれはお世辞だ。口説き文句ですらない。

からかいだ。

分かっている。分かっているのに、その言葉が頭の中をぐるぐる回る。

 

枕に顔を押しつけた。

目を閉じて、呼吸を深くする。

眠ろう。今夜は眠ろう。明日は学校だ。

プリンセスが寝不足で学校に行くなんて、みっともないにも程がある。

 

——かちゃ。

 

音がした。

 

モモの全身が、一瞬で覚醒した。

 

ドアノブが回る音。金属が擦れる、小さな、小さな音。

地球人の耳には聞こえないかもしれない。

だがデビルーク人の聴覚は、その音を正確に捉えた。

 

ドアが開く。

 

蝶番が微かに軋む。

廊下の暗がりから、光がほんの僅かに差し込んだ。

 

足音。

 

裸足の足が、フローリングを踏む音。

体重を分散させた、静かな歩み。

一歩。二歩。三歩。

ベッドに近づいてくる。

 

モモは——動かなかった。

 

目を閉じたまま。

呼吸を、眠っている時のリズムに合わせた。

すう、すう、と。規則正しく。安らかに。

シーツの下で、尻尾がぎゅっと身体に巻きついた。

 

(リトさん——だ)

 

匂いで分かった。

ボディソープの残り香と、その下にある体温の匂い。

何度もベッドに忍び込んだ時に嗅いだ、あの匂い。

 

リトさんが、ベッドの傍に立っている。

 

見下ろされている気配。

暗闇の中で、リトさんの視線がモモの顔に注がれているのが分かる。

肌が、その視線の圧を感じ取っている。

 

心臓が暴れそうになるのを、必死で抑えた。

呼吸が乱れたら、起きていることがバレる。

すう、すう、と。眠っている人間の呼吸。

 

五秒。

十秒。

永遠のような沈黙。

 

リトさんが——動いた。

 




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