※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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幕間1

 昼休みのトイレは——静かだった。

 

三階の——東棟のトイレ。ここは教室から少し離れているから、昼休みでも混み合わない。

私は——この場所を気に入っていた。

 

手を——石鹸で丁寧に洗う。指の間。爪の先。手首まで。

泡を——しっかりと流して——ペーパータオルで水気を取る。

 

鏡に——自分の顔が映っている。

 

前髪を——指で整えた。

黒髪のロングストレート。今朝、ちゃんとブラッシングしたから——艶がある。

制服の襟元を——正す。ブラウスの第一ボタン——きちんと留まっている。

リボンの結び目が——少し左にずれていたので、指先で直した。

 

うん——完璧。

 

鏡の中の私は——風紀委員として恥ずかしくない身だしなみをしている。

 

スカート丈も——膝の中央。校則通り。

靴下の折り返しも——左右対称。

ブレザーのボタンに皺はなく——肩のラインがきちんと出ている。

 

(流石に——私ね)

 

少しだけ——口角が上がった。

 

トイレの扉が開いて——女子生徒が入ってきた。一年生の子だろうか。

 

「あ——古手川先輩! こんにちは!」

 

「こんにちは。——食事の後はちゃんと手を洗ってね」

 

「はい!」

 

その子は——にこにこしながら個室に入っていった。

 

挨拶が——気持ちいい。

ちゃんと敬語を使えているし、表情も明るい。

こういう子がいると——この学校もまだ捨てたものじゃないと思える。

 

ペーパータオルを——ゴミ箱に捨てて、トイレを出た。

 

廊下に——出た瞬間。

 

ばっ——と。

 

「——っ」

 

目の前に——人がいた。

 

金色の長い髪。ワインレッドの目。無表情。

黒い——いや、今は制服だ。制服姿のヤミさんが——トイレの入口の前に立っていた。

 

出てきたところ——らしい。

手が——まだ少し濡れている。洗いたてか。

 

ヤミさんも——こちらを見た。

 

一瞬——目が合った。

 

「……ええ」

 

……それは挨拶なのかしら。

 

「こんにちは、ヤミさん」

 

「…………」

 

沈黙——が、落ちた。

 

廊下に——誰もいない。窓から差し込む午後の日差しが、リノリウムの床をぬるく光らせている。

 

ヤミさんは——私の横を通り過ぎようとしている。いつも通り——会話を続ける気がない空気。

 

でも——私は、立ち止まっていた。

 

ヤミさんを——見ていた。

 

制服姿のヤミさん。小柄だけど——足取りに隙がない。ムチムチっとした体型を、制服が包んでいる。スカート丈は短め——だけど、以前のボンテージに比べれば許容範囲。

 

問題は——そこじゃない。

 

ヤミさんは——結城くんの妹の、美柑ちゃんと親しい。

 

唯一の友人——と言ってもいいくらい、二人は仲がいい。放課後に一緒にいるところを何度か見かけたことがある。たい焼きを食べ歩いているとか。

 

つまり——ヤミさんは、結城家に出入りしている可能性がある。

 

美柑ちゃんに会いに行く——という名目で。

 

結城家——結城くんの、家。

 

あの——ヤリチンの、巣に。

 

「ヤミさん」

 

声をかけた——つもりだった。

 

でも——声は出なかった。

喉元まで来た言葉を——飲み込んでしまった。

 

代わりに——視線を送った。

 

(あなた——結城くんの家に、行ったりしているの——?)

 

そういう意味を込めた——つもりの——視線。

 

ヤミさんが——足を止めた。

 

振り返って——こちらを見た。

 

ワインレッドのジト目が——私を見ている。

 

ぽかん——としていた。

 

何を言いたいのか——まったく伝わっていない顔。

 

(そうよね——視線で伝わるわけないわよね——)

 

当たり前だ。テレパシーじゃないのだから。

 

でも——聞けない。

 

「結城くんの家に行ってますか?」なんて——藪蛇すぎる。

 

何を言っても——「なぜそんなことを風紀委員に聞かれなければならないのですか」と返されるに決まっている。そして——ごもっともだ。

 

ヤミさんが——ぽかんとした顔のまま、私を見ている。

 

廊下の沈黙が——痛い。

 

ヤミさんは——宇宙一の暗殺者だと噂されている。

あの無表情の下に——どれほどの力が隠れているのか。

金色の髪を——自在に変形させて、武器にする。

 

髪を——武器に。

 

金色の——長い髪。

 

あの髪が——変形したら。

 

例えば——。

 

ヤミさんの髪が——何本もの触手のように伸びて。

結城くんの——手首と足首に、巻きつく。

 

ぎりっ——と。金色の鎖。

 

『——なに——ヤミ——!?』

 

結城くんが——ベッドの上で、大の字に拘束されている。

四肢を——金色の髪で縛られて——動けない。

制服のワイシャツが——はだけて——薄い胸板が露出している。

 

ヤミさんが——その上に、跨っている。

 

制服のスカートが——大きく開いて——白い太腿が、結城くんの腰を挟んでいる。

 

ジト目が——上から結城くんを見下ろしている。

 

「……黙ってください。暗殺者の仕事中です。貴方と交われば貴方を始末できると聞きました……」

 

冷たい声。感情のない——淡々とした声。

 

結城くんの——ズボンのベルトを、髪の触手が器用に外していく。ジッパーを下ろす。

中から——。

 

(——中から——何が——)

 

いやいやいやいや。

 

(ストップ——ストップストップストップ——‼)

 

頭を——ぶんっと振った。

 

何を考えているの——私は——‼

 

昼休みの——廊下で——トイレの前で——ヤミさんが結城くんに跨る妄想を——‼

 

「…………」

 

ヤミさんが——怪訝な顔をしていた。

 

ワインレッドのジト目が——わずかに細くなっている。

「この人は何を考えているんだろう」という——純粋な疑問が、その無表情に浮かんでいる。

 

「……失礼します」

 

ヤミさんが——小さく言って、踵を返した。

 

金色の髪が——ふわっと揺れる。短いスカートから伸びる白い脚が——廊下を歩いていく。

 

足音が——ほとんどしない。暗殺者の歩き方。

 

角を曲がって——見えなくなった。

 

「…………」

 

私は——廊下に一人で立っていた。

 

トイレの前で——一人で——顔を真っ赤にして。

 

(何をしているの——古手川唯——‼)

 

頬を——両手でぱしんっと叩いた。

 

痛い。でも——頭が冷える。

 

あの妄想は——何だったのか。

 

ヤミさんの髪が——結城くんを縛って——跨って——。

 

(違う——私は——ヤミさんが結城くんに何かされていないか心配しただけで——)

 

心配——?

 

結城くんに——何か「されている」か心配——?

 

なぜ——「されている」が前提なのかしら。

ヤミさんなら——逆に結城くんを制圧する方が自然でしょう。

 

だから——さっきの妄想の方が現実的で——。

 

(——現実的じゃないわよ——‼ どっちも——‼)

 

はぁ——と、溜め息をついた。

 

最近——おかしい。

 

結城くんが——頭から離れない。

 

あのエロ漫画を拾ってから——妄想が止まらなくなっている。

結城くんと——誰かの——組み合わせが、勝手に浮かんでくる。

 

美柑ちゃん。ヤミさん。次は——誰なの。

 

(違う——次なんてない——‼ これは一時的な——ホルモンバランスの乱れよ——‼)

 

もう一度——頬を叩いた。

 

ぱしんっ。

 

痛い。

 

身だしなみを——整え直した。

前髪を直して。襟元を正して。リボンの位置を確認して。

 

鏡がないから——手探りで。

 

大丈夫。私は——風紀委員。

古手川唯。

 

こんな——破廉恥な妄想に負ける人間では——ない。

 

廊下を——歩き出した。

 

教室に——戻る。

 

何事もなかったかのように——午後の授業を受ける。

 

何も——考えていない。

 

何も。

 

……ヤミさんの太腿は——なぜあんなに白いのかしら。

 

(——考えるなっ——‼)

 

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