※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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幕間3

 四時間目の——終了チャイムが鳴った。

 

昼休み——だ。

 

教室が——ざわつき始める。弁当を広げる子、購買に走る子、友達のところに移動する子。

いつもの——昼休みの喧騒。

 

私は——机の上の教科書を閉じた。

 

手が——微かに震えていた。

 

(……やるのよ——古手川唯)

 

ラベンダー色のレースが——ブラウスの下で、胸に密着している。

朝から——ずっと意識している。いつもの白い下着より——肌触りが違う。レースの縁が——動くたびに、ほんの少しだけ肌を撫でる。

 

誰にも——見えない。

でも——着けている自分が、知っている。

 

立ち上がった。

 

鞄から——何も取り出さない。ノートも、ペンも、風紀委員の腕章も。

今日は——腕章を外して行く。

 

風紀委員としてではなく——古手川唯として、聞きたいことがある。

 

(……嘘。風紀委員として聞くのよ。個人的な感情なんか——)

 

嘘をつくな——と、心の中の自分が言っている。

 

廊下に——出た。

 

結城くんの教室は——隣だ。

隣——なのに、今日に限って、廊下が長い。

 

教室の入り口に——立った。

 

中を——覗いた。

 

結城くんは——窓際の席にいた。

机に頬杖をついて——友達と話している。笑っている。あの——爽やかな笑顔。

 

(……あの顔で——女を——)

 

胃が——きゅっと締まった。

 

「結城くん」

 

声が——出た。

自分でも驚くほど——平坦な声だった。

 

結城くんが——こちらを見た。

友達も——こちらを見た。

 

「……古手川?」

 

「話があるの。——来てくれる?」

 

教室が——少しだけ静かになった。

風紀委員の古手川が——結城リトを呼び出している。周囲の視線が集まるのを——背中で感じた。

 

結城くんは——一瞬だけ目を細めて——すぐに笑った。

 

「いいよ」

 

軽い。

あまりにも——軽い返事。

 

         *

 

屋上——だった。

 

給水塔の影。フェンスの向こうに——春の空が広がっている。

風が——髪を揺らした。黒髪が——頬にかかる。

 

二人きり——だ。

 

結城くんは——フェンスに背中を預けて、私を見ている。

腕を組んで——リラックスした姿勢。構えていない。

 

私は——結城くんの正面に、二メートルほどの距離を置いて立っていた。

 

風が——吹いている。

スカートの裾が——ふわりと膨らんだ。手で——押さえた。

 

「……で、話って?」

 

結城くんが——首を傾げた。

 

来た。

この顔——昨日の想像通りの、あの顔。

 

(落ち着きなさい——練習した通りに——)

 

「結城くん——あなたに、聞きたいことがあるの」

 

「うん」

 

「あなたの——周りの女の子たちのことよ」

 

声が——少しだけ、裏返った。

 

(しっかりしなさい——‼)

 

「最近——モモさんが、あなたの前でだけ態度が変わっているの。以前は——他の女の子に『リトさんには気をつけた方がいいですわ』って忠告していたのに——最近は、それを言わなくなった」

 

結城くんの表情は——変わらない。

 

「ナナさんも——以前はあなたのことを大声で『スケベ男』と叫んでいたのに——最近は、あなたの近くにいると——目を伏せるようになった」

 

結城くんは——黙って聞いている。

 

「御門先生も——あなたの名前を出す時に、表情が変わるの。以前の余裕が——なくなっている」

 

風が——また吹いた。結城くんの髪が揺れる。

 

「ヤミさんも——あの無表情が、あなたの近くでだけ——ほんの少し、柔らかくなっている」

 

結城くんは——表情を変えない。まだ——余裕がある。

 

「ティアーユ先生も——あなたとすれ違った時に、おかしな赤面をしていたわ。あの人は天然だけど——あれは普通の照れじゃなかった」

 

「籾岡さんだって——あなたのこと『最低』と言っていたのに——最近は何も言わなくなった。あなたを見る目が——変わっている」

 

全部——言った。

昨日から——いいえ、もっと前から溜め込んでいたものを、全部。

 

「……それで——噂よ。あなたが——その——」

 

喉が——詰まった。

 

「ヤリチンだっていう——噂」

 

言った。

直接——面と向かって、言った。

 

結城くんの顔を——見た。

 

結城くんは——笑っていなかった。

でも——怒ってもいない。焦ってもいない。困ってもいない。

 

涼やかな目が——私を、静かに見ている。

 

「私は——本当のことが知りたいの」

 

声が——震えた。震えるな——と思っているのに、止まらない。

 

「噂は——本当なの? あなたは——本当に——あの子たちと——」

 

言葉が——続かなかった。

「何を」しているのか——具体的に口にするのが怖い。

 

沈黙が——屋上に落ちた。

 

風が——二人の間を吹き抜ける。

フェンスが——かたかたと揺れている。

 

結城くんが——口を開いた。

 

「本当だよ」

 

——。

 

空気が——変わった。

 

「噂じゃない。事実だ」

 

結城くんの声は——穏やかだった。

まるで——天気の話をするように。

 

「モモとは——関係がある。ナナとも。御門先生とも。ヤミとも。ティアーユ先生とも。籾岡とも。古手川が気づいた通りだよ」

 

足元が——揺れた。

 

揺れて——ない。屋上は動いていない。揺れているのは——私の方だ。

 

わかっていた——はずだ。

状況証拠から——そうだろうと、思っていた。

 

でも——本人の口から聞くと。

 

「……っ」

 

胃が——ぐっと押し上げられる感覚。

目の奥が——熱い。

 

(泣くな——泣くな古手川唯——‼)

 

なぜ——泣きそうなのか。

怒りだ。きっと——怒りで涙が出そうなのだ。

 

「——信じられない」

 

声が——低くなった。

 

「あなた——そんなことが——許されると思っているの?」

 

結城くんを——睨んだ。

ツリ目に——力を込めて。風紀委員の目で。

 

「複数の女の子と——同時に——そんなの——不誠実じゃない! あの子たちの気持ちを——弄んでいるの?」

 

声が——大きくなっていた。

拳を——握りしめている。爪が——掌に食い込む。

 

「弄んでなんかないよ」

 

結城くんは——静かに答えた。

 

「なっ——」

 

「みんなのことは——大事に思ってる」

 

「大事に思っているなら——一人の子と誠実に——!」

 

「なぜ?」

 

「——え?」

 

結城くんが——一歩、近づいた。

 

「なぜ——一人じゃないとだめなんだ?」

 

「そ——そんなの——常識でしょう!?」

 

「誰の常識?」

 

「みんなの——社会の——当たり前の——‼」

 

声が——裏返っていた。

論理的に——反論しようとしているのに、言葉が感情に追い越されている。

 

「付き合うっていうのは——一人の人を大切にすることでしょう!? 一人の相手に——誠実に——ちゃんとデートして——ちゃんと将来を考えて——」

 

(——デート——)

 

昨日の妄想が——フラッシュバックした。映画館。カフェ。夕暮れの商店街。ポップコーン。ブラックコーヒー。

 

(今それを思い出すな——‼)

 

結城くんが——私を見ている。

穏やかな——でも、芯のある目。

 

「古手川の言う通りだと思うよ。一対一の関係は——大事だ」

 

「なら——」

 

「でも——俺たちはそれとは違う形で、幸せになってる」

 

「幸せ——?」

 

「うん。モモも、ナナも、御門先生も、ヤミも、ティアーユ先生も、籾岡も——みんな、自分で選んでる。強制なんかしてない。みんなが——望んでることだ」

 

「望んで——」

 

言葉を——繰り返した。意味を飲み込めなかった。

 

「そんな——ありえない——」

 

「古手川は——あいつらが不幸そうに見えたか?」

 

「——っ」

 

返せなかった。

 

モモさんの——あの大人しくなった横顔。不幸そうだったか?

ナナさんの——目を伏せた表情。苦しそうだったか?

御門先生の——声が揺れた瞬間。辛そうだったか?

ティアーユ先生の——あの赤面。怯えていたけど——嫌悪ではなかった。

籾岡さんの——悪口が消えた横顔。苦痛に歪んでいたか?

 

違う——違った。

 

みんな——どこか、満たされたような顔をしていた。

 

以前より——生き生きとしていた。

 

「嘘——そんなの——」

 

頭が——混乱していた。

論理が——組み立てられない。

 

一人の相手と誠実に付き合うべき。それが——正しいこと。常識。道徳。風紀。

でも——当事者たちが幸せだと言ったら——私は何を根拠に否定するの?

 

「あなたの——手口よ——きっと——騙して——」

 

「騙してない。古手川が信じないなら——直接あいつらに聞いてみてもいい」

 

「……っ」

 

聞ける——わけがない。

「あなた、結城くんと肉体関係があるんですか」なんて——風紀委員だって聞けない。

 

結城くんが——もう一歩、近づいた。

距離が——一メートルを切った。

 

あの涼やかな目が——間近にある。

風に揺れる前髪の隙間から——真っ直ぐに、私を見ている。

 

心臓が——喧しい。ラベンダー色のレースが——ブラウスの下で、胸の鼓動に合わせて揺れている気がする。

 

「古手川——そんなに信じられないなら」

 

結城くんが——少しだけ笑った。

 

いつもの——爽やかな笑み。でも——目の奥に、何か別のものが光っている。

 

「見てみるか?」

 

「——は?」

 

「俺たちが——どういう関係なのか。言葉じゃ信じられないって言うなら——自分の目で、確かめたらいい」

 

「見るって——何を——」

 

意味が——わからない。

 

見る——?

何を——見るの——?

 

結城くんの関係を——目で確かめる——?

 

「どういう——こと——?」

 

声が——掠れていた。

 

結城くんは——少し間を置いて、口を開いた。

 

「一人ずつ——確かめろよ」

 

「……え?」

 

「モモ、ティアーユ先生、籾岡、御門先生、ナナ、美柑、ヤミ——一人ずつ」

 

結城くんが——フェンスから背中を離して、私の方に向き直った。

 

「そいつらと俺が——どういう関係なのか。古手川が自分の目で見て、自分の耳で聞いて——確かめればいい」

 

「確かめるって——」

 

「簡単だろ。古手川が聞きたいことを——本人たちに、直接聞けばいい」

 

声が——穏やかだった。

脅しでも——挑発でもない。

ただ——事実を差し出すように。

 

「俺が騙してるって思うなら——なおさら、本人に聞くのが一番だ。俺のいないところで聞いてもいい。俺がいるところで聞いてもいい。好きにしろ」

 

「…………」

 

返す言葉が——なかった。

 

逃げ道を塞がれた——のではない。

むしろ——全ての扉を開けられた。

 

どこからでも確かめていい——と。

何を聞いてもいい——と。

 

隠すもの——など、何もないと言っている。

 

「古手川——お前は風紀委員だろ」

 

結城くんが——少しだけ、笑った。

 

「調査——得意じゃないのか?」

 

(——煽ってるの——? この男——)

 

違う——煽りではない。

あの目に——悪意はない。

 

ただの——自信だ。

 

結城リトは——本気で、自分たちの関係に後ろめたさがない。

 

「……考えさせて」

 

やっと——それだけ、声に出した。

 

「いいよ。待ってる」

 

結城くんが——私の横を通り過ぎた。

 

屋上の扉に——手をかける。

 

「古手川」

 

振り返らないまま——結城くんが言った。

 

「いつでもいい。お前が準備できたら——俺に言え」

 

扉が——開いて、閉まった。

 

屋上に——一人、残された。

 

風が——また吹き始めていた。

髪が——ぐしゃぐしゃに乱れる。直す気力が——ない。

 

私は——フェンスに背中を預けて、ずるずると座り込んだ。

 

スカートの裾が——コンクリートの床に広がる。

膝を——抱えた。

 

空が——青かった。

雲が——何事もなかったかのように流れている。

 

「……確かめる——」

 

呟いた。

 

一人ずつ——呼んで。

本人たちの口から——聞く。

 

結城くんとの——関係を。

 

(私に——そんなこと——できるの——?)

 

できない——はずだった。

風紀委員として——そんな調査をする権限はない。

 

でも——。

 

結城くんが——許可した。

本人たちに聞けと——言った。

 

(聞いたら——どうなるの——)

 

聞いたら——知ってしまう。

全部——知ってしまう。

 

結城リトと——あの子たちが、何をしているのか。

どんな顔で——どんな声で——。

 

(——やめなさい——古手川唯——‼)

 

膝に顔を埋めた。

 

昼休みの——チャイムが、遠くで鳴った。

 

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