放課後——だった。
結城くんが——私の隣を歩いている。
なぜ——こうなったのか。
「確かめるんだろ? 一人ずつ——って言ったよな」
結城くんの声が——軽い。あまりにも軽い。
まるで——コンビニに寄り道するみたいな口調で。
「今日は——美柑に会いに行こう」
「美柑ちゃん——? 妹さんの——?」
「ああ。古手川が——俺と美柑の関係を確かめたいなら、家に来ればいい」
足が——止まりそうになった。
家——結城くんの家。美柑ちゃんがいる——あの家。
「わ、私が——結城くんの家に行く理由なんてないでしょう」
「あるだろ。風紀委員の調査だ」
結城くんが——振り返った。あの涼やかな目。
「古手川は——俺が妹にまで手を出してるんじゃないかって、疑ってるんだろ」
「——っ」
図星——だった。
以前——噂を聞いた。「小さい子の胸を」という噂。あれがナナさんのことなのか、美柑ちゃんのことなのか——ずっと、頭の片隅にあった。
「疑ってなんか——」
「嘘つくなよ。古手川の目——さっきから泳いでる」
「泳いで——ない——」
泳いでいた。自分でもわかっていた。
「来いよ。実の妹と兄の関係を——自分の目で確かめればいい。何もやましいことなんかない」
結城くんの声には——一片の後ろめたさもなかった。
あの屋上での会話と——同じ。全部さらけ出す余裕。隠すものなど何もないという——自信。
「……わかったわ」
声が——小さかった。
「行くわよ——確かめるだけ。すぐに帰るから」
「ああ。好きにしろ」
結城くんが——また歩き始めた。
私は——その半歩後ろを、ついて歩いた。
*
結城家の玄関——だった。
住宅街の一角。普通の——二階建ての家。庭に小さな植木があって、表札には「結城」と書いてある。
何の変哲もない——家。
ヤリチンの巣窟には——見えない。
結城くんが——鍵を開けた。
「ただいま」
声が——玄関に響いた。
奥から——ぱたぱたと足音が聞こえた。
軽い足音。小さな足音。スリッパではない——素足の、ぺたぺたという音。
「リトー? おかえりー!」
美柑ちゃんが——玄関に駆けてきた。
茶色いロングストレートの髪。大きな丸い目。小柄でスレンダーな身体。
エプロンを——着けていた。料理中だったのか——手にはまだ菜箸を持っている。
その顔が——ぱあっと、花が咲いたように明るくなった。
結城くんの顔を見た瞬間——目が、きらきらと輝いた。
「おかえり、リト! 今日は早いんだね!」
「ああ。客を連れてきた」
結城くんが——横に半歩ずれて、私を見せた。
美柑ちゃんの目が——私を捉えた。
きらきらが——一瞬で、すっと曇った。
ほんの一瞬。まばたきよりも短い時間。でも——私は、見た。
あの丸い目に——警戒の光が走ったのを。
すぐに——笑顔が戻った。
「あ——古手川さん。こんにちは」
「こんにちは——美柑ちゃん。お邪魔するわね」
美柑ちゃんとは——何度か顔を合わせたことがある。
結城くんの家の近くですれ違ったり、学校行事で見かけたり。しっかり者の妹——という印象だった。
でも——今日の美柑ちゃんの目が、いつもと違った。
私を上から下へ——見た。
制服。スカート。胸。
視線が——一瞬、私の胸で止まった。
胸が——ブラウスの下で、呼吸に合わせて上下している。
美柑ちゃんの目が——すっと細くなった。
「どうぞ——上がってください。スリッパ、出しますね」
声は——いつも通り、丁寧だった。しっかり者の小学生の、きちんとした応対。
でも——私は、違和感を覚えた。
美柑ちゃんが——結城くんの靴を、先に揃えていた。
私が玄関に立っている間に——美柑ちゃんは結城くんの脱いだ靴を拾い上げ、かかとを揃え、下駄箱の前に丁寧に並べた。
自然な動作——すぎた。
毎日——やっているのだ。何百回と繰り返して、身体に染みついた動作。
妹が兄の靴を揃える——それ自体は、おかしなことではない。
でも——その手つきが。
まるで——帰宅した夫を迎える妻のように。
*
リビング——だった。
清潔で、整頓されている。テーブルの上には花が活けてあり、クッションの位置まで揃っている。
ここを管理しているのが——小学生だとは信じられなかった。
「リト——着替え、出してあるからね」
美柑ちゃんが——リビングの椅子の背もたれにかかった衣類を指差した。
Tシャツとスウェットパンツ。きちんと畳まれて——用意してある。
「おう」
結城くんが——無造作にネクタイを緩めた。
ブラウスのボタンに手をかける。
「ちょ——結城くん——ここで——⁉」
私は——目を逸らした。
「ん? 自分の家だけど」
「人がいるのに——着替えるなんて——」
「美柑しかいないし。いつもこうだから」
いつも——こう。
結城くんが——ブラウスを脱いだ。
裸の上半身が——一瞬、視界に入った。引き締まった腹筋。広い肩。
目を逸らしたのに——見えてしまった。
美柑ちゃんが——結城くんの脱いだブラウスを、さっと受け取った。
自然に——まるで息をするように。
「リト、今日のシャツ——汗かいてるから、すぐ洗うね」
「頼む」
美柑ちゃんが——ブラウスを鼻に近づけて、一瞬——匂いを嗅いだ。
嗅いだ——ように見えた。
(……今——匂いを——)
気のせい——かもしれない。洗濯物の汚れ具合を確認しただけ——かもしれない。
美柑ちゃんが——Tシャツを広げて、結城くんの頭からかぶせた。
袖を通す手が——結城くんの腕に沿って、すっと滑った。
「はい、できあがり」
にこっ——と笑う。
あの笑顔。兄を見上げる、無邪気な笑顔——のはずだ。
でも——何か、違う。
無邪気さの奥に——所有の色が、滲んでいる。
「この子は——あたしのお兄ちゃんです」と。
まだ——一言も言っていないのに。あの目が、あの手つきが——全部、それを主張している。
「古手川さん——お茶、何がいいですか?」
美柑ちゃんが——キッチンに向かいながら聞いた。
「あ——お構いなく——」
「麦茶でいい? リトは——冷たいのだよね」
結城くんに——確認すらしない。知っている。当然のように。
「ああ」
美柑ちゃんが——冷蔵庫からピッチャーを取り出した。グラスを三つ。氷を入れて。
結城くんのグラスにだけ——氷が多い。
知っている——のだ。結城くんの好みを。全部。
私は——ソファに座ったまま、その背中を見ていた。
エプロン姿の小学生。キッチンに立つその姿は——どう見ても、この家の「奥さん」だった。
*
夕食の準備が——始まった。
「リト——今日はハンバーグだよ。リトの好きな、デミグラスの」
「おう。楽しみだな」
「古手川さんも——一緒に食べていきますよね?」
「え——いえ、私は——」
「食べてけよ、古手川。美柑の飯、うまいから」
結城くんが——あっさりと言った。
断る隙——を与えない。
「……じゃあ——お言葉に甘えて」
美柑ちゃんの顔が——一瞬、強張った。
口元は笑っている。でも——目が。あの丸い目が。
「あたしが作ったご飯を——この女が食べるの」と。
すぐに——また、にこっと笑った。
「いっぱい食べてくださいね」
キッチンに立つ美柑ちゃんは——手際がよかった。
玉ねぎを刻む手。ひき肉をこねる手。フライパンを振る手。
小学五年生とは思えない——熟練した動き。
「リトー、味見して?」
美柑ちゃんが——小皿を持って、テーブルに向かった。
結城くんが——椅子に座ったまま、美柑ちゃんの方を向いた。
私は——ソファから、その光景を見ていた。
美柑ちゃんが——結城くんの正面に立った。
背中が——こちらを向いている。小さな背中。エプロンの紐が蝶結びになっている。
その背中の向こうに——結城くんの顔がある。
美柑ちゃんが——少し背伸びをするように、結城くんの顔に近づいた。
角度——のせいだ。
ソファからだと——美柑ちゃんの頭と、結城くんの顔が——重なった。
箸が——見えない。美柑ちゃんの後頭部が邪魔で——二人の顔の間に何があるのか、見えない。
ただ——二つの顔が、近づいて。
くっついた——ように。
「——っ⁉」
心臓が——跳ねた。
キス——?
今——キスした——?
身体が——前のめりになった。ソファから腰を浮かせて——首を伸ばして——角度を変えようとした。
美柑ちゃんが——身体を引いた。
手に——箸を持っていた。小皿の上の箸。ソースがついている。
「……おいしい」
結城くんの声。何でもない声。唇が——ソースで、少しだけ濡れている。
味見——だった。箸で——「あーん」をしていたのだ。
(……味見——よね。ただの——味見——)
でも——見えなかった。
二人の顔が重なっていた、あの一瞬。美柑ちゃんの後頭部に隠されて——本当に箸だけだったのか。唇と唇が触れていなかったのか。
確認——できなかった。
「ほんと? よかったぁ」
美柑ちゃんが——嬉しそうに笑った。
その箸を——自分の口に、ちょん、と当てた。
結城くんの唇が触れたはずの箸を——何の抵抗もなく、自分の唇に。
あの動作も——角度のせいで。ちょうど美柑ちゃんが横を向いた瞬間に見えた——だけ。
もし——私がソファに座っていなかったら。もし——もう少し近くにいたら。
あの一瞬の「重なり」が——本当は何だったのか、わかったのかもしれない。
結城くんは——何も言わなかった。私の方を見もしなかった。
当たり前のことが起きただけ——という顔をしている。
私は——ソファの上で、拳を握りしめていた。
爪が——掌に食い込む。
(普通——よね。妹が兄の世話をする。味見をさせる。それだけの——こと——)
それだけのこと——のはずだ。
なのに——心臓が、どくどくと鳴っている。
料理の湯気の向こうで——美柑ちゃんが、鼻歌を歌いながらハンバーグを成形している。
幸せそう——だった。
リトのために料理を作る小学生。帰ったら服を着替えさせ、好みの飲み物を出し、味見は「あーん」で。
まるで——新婚の妻のような。
(妹——よね。ただの、妹——よね——?)
自分に——問いかけた。
答えは——出なかった。
*
「ちょっと——トイレ」
結城くんが——立ち上がった。
「あ、リト——待ってて」
美柑ちゃんが——手を洗って、エプロンで拭きながら、結城くんの後を追った。
「——え?」
私は——二人の背中を見た。
結城くんが——廊下を歩く。美柑ちゃんが——その半歩後ろを、ぱたぱたとついていく。
トイレの前で——美柑ちゃんが立ち止まらなかった。
結城くんがドアを開けて——美柑ちゃんが、そのまま一緒に入ろうとしている。
「ちょっと——美柑ちゃん——⁉」
私は——思わず声を上げた。
「トイレに——一緒に入るの——⁉」
美柑ちゃんが——振り返った。
きょとん——とした顔。何がおかしいの? という顔。
「え? うちは——いつもこうだよ?」
「いつも——⁉」
「リトが用足す間——タオル渡したり、手洗いの準備したりするの。小さい頃から——ずっとそうだから」
美柑ちゃんの声は——平坦だった。
嘘をついている声——ではなかった。
本当に——当たり前だと思っている。
「で、でも——もう高校生と小学生よ——⁉ 兄妹でも——トイレは別々に——」
「古手川さんちは——そうなんですね」
美柑ちゃんが——にこっと笑った。
にこっ——と。でも目が——笑っていない。
「うちのことに口を出すな」と——あの丸い目が言っている。
「うちは——うちのやり方があるから」
結城くんが——何も言わずにトイレに入った。
美柑ちゃんが——その後に続いた。
ドアが——閉まった。
かちゃ——と、鍵の音。
私は——廊下に一人、取り残された。
(……普通——? 普通なの——? 兄妹でトイレに一緒に入るのが——?)
普通——じゃない。どう考えても——普通じゃない。
でも——他人の家のルールに、口を出す権利が私にあるのか。
風紀委員の管轄は学校であって——各家庭の生活習慣まで——。
(——確かめるのよ。確かめに来たんでしょう——古手川唯)
足が——動いた。
トイレのドアの前に——立った。
古い家のドアだ。木製の——隙間がある。蝶番の側に——数ミリの隙間。
覗く——なんて。盗み見るなんて。風紀委員として——最低の行為。
でも——結城くん自身が言ったのだ。「自分の目で確かめろ」と。
私は——ドアの隙間に、目を寄せた。
*
最初に見えたのは——美柑ちゃんの後頭部だった。
茶色いロングストレートの髪が——揺れている。
膝をついていた。
トイレの床に——小さな膝を——ぺたん、と。
結城くんが——便座に座っている。ズボンが——膝まで下りている。
美柑ちゃんが——結城くんの股間に、顔を埋めていた。
ちゅぽっ♡——
水音が——聞こえた。
(——うそ——)
頭が——真っ白になった。
美柑ちゃんが——結城くんの——口で——。
(やめ——やめなさい——美柑ちゃん——‼)
叫びそうになった。ドアを叩きそうになった。
今すぐ——この子を助けなきゃ——結城くんに——無理やり——。
でも——手が、止まった。
美柑ちゃんの——手が。
結城くんの太腿の上に、両手を置いている。
押し返すように——ではなかった。支えるように。自分の身体を安定させるために。
結城くんの手は——頭を掴んでいない。
便座の縁に——両手を置いている。力を入れていない。何もしていない。
美柑ちゃんが——自分で——やっている。
自分から——膝をついて。自分から——咥えて。自分の意思で——頭を動かしている。
(——自分から——?)
ちゅぽっ♡——じゅるっ♡——ちゅぱっ♡♡——
美柑ちゃんの頭が——前後に揺れている。
ゆっくり——ではなかった。一定のリズムで。迷いのない動き。
慣れている——と、思った。
何度も——何度も——繰り返してきた動き。身体に染みついた——あの靴を揃える手つきと同じ——。
美柑ちゃんの口元が——一瞬、見えた。
唇が——結城くんの陰茎の根元まで、ぴったりと密着していた。
鼻先が——結城くんの下腹部に触れている。全部——口の中に収めている。
小学五年生の——小さな口に。
(——全部——入って——)
信じられなかった。
御門先生は——あの大人の女性の先生は——途中で顎が疲れて止まった。
喉の奥を使わせてほしいと——自分から頼んだほどだった。
なのに——美柑ちゃんは——苦しそうな素振りを、一切見せない。
美柑ちゃんが——ゆっくりと口を引いた。
ずるるっ——♡
結城くんの陰茎が——美柑ちゃんの唇から現れた。
唾液で——てらてらと光っている。硬く張り詰めて——血管が浮いて——カリの部分がくっきりと膨らんでいる。
美柑ちゃんの舌が——伸びた。
小さな舌。ピンク色の。
その舌が——カリの裏側を——ちろちろ♡——と舐め上げた。
裏筋に沿って——根元から先端まで——舌先が、蛇のように這い上がる。
先端に到達すると——舌先をくるっ♡と回して——尿道口を、ちゅっ♡と吸った。
「っ——」
結城くんの腹筋が——微かに震えた。
あの結城くんが——反応している。
あの——御門先生のフェラでも、自分から腰を動かすだけの余裕を見せていた結城くんが。
喉奥を好きに使っても、射精まで先生を何十分も使い続けた——あの男が。
美柑ちゃんの——舌一つで——腹筋を震わせている。
美柑ちゃんが——また、全部を口に含んだ。
ずぷっ——♡♡
喉が——膨らんだ。小さな喉が——結城くんの形に、ぐぼっと突き出ている。
えずかない。涙を流さない。鼻水も出ない。
御門先生が——顔中をぐちゃぐちゃにしながら、やっとの思いで受け入れていた行為を——この小学生は、何の苦もなく——。
じゅぽ♡——じゅぽ♡——じゅぽっ♡♡——
美柑ちゃんの頭が——速度を上げた。
リズムが——変わった。
さっきまでの一定のテンポから——不規則な、緩急のある動きに。
深く咥えて——浅く引いて——カリだけを唇で包んで、きゅっ♡と締めて——また深く。
舌は——止まっていない。咥えたまま——舌の裏面で竿を擦り、舌先でカリの段差を弄び、頬を窄めて真空を作って——。
同時に——全部を、やっている。
「——っ」
結城くんの手が——便座の縁を、ぎゅっと握った。
指が——白くなっている。
あの余裕のある男が——便座にしがみついている。
(……嘘——結城くんが——こんな——)
御門先生の時と——全然違う。
あの時の結城くんは——終始、支配者だった。先生の頭を掴み、自分のペースで喉を犯し、好きなタイミングで射精した。
でも——今。
結城くんは——美柑ちゃんに、されている。
主導権が——完全に、この小学生の口の中にある。
ちゅぽっ♡♡——じゅるるっ♡♡——ちゅぱっ♡♡♡——
水音が——狭いトイレに反響して。ドアの隙間から——私の耳に。
美柑ちゃんの小さな手が——結城くんの太腿を、きゅっと握った。
合図——のように。
結城くんの腰が——微かに浮いた。
来る——と、思った。
美柑ちゃんが——根元まで深く咥えたまま——喉を、ごくっ♡と動かした。
嚥下する動き。飲み込む動き。陰茎を咥えたまま——喉の筋肉で、先端を搾るように。
どくんっ——♡♡
結城くんの太腿が——震えた。
どくっ♡——どくっ♡♡——どぴゅっ♡♡♡——
美柑ちゃんの喉が——こくっ♡——こくっ♡♡——と動いた。
飲んでいる。
精液を——口から一滴も溢さず——全部——飲み込んでいる。
御門先生は——喉で出された時、むせた。精液がごぽっと口から溢れて、顔中がぐちゃぐちゃになった。
美柑ちゃんは——目を閉じて。静かに。こくっ♡、こくっ♡と。
まるで——温かいスープを味わうように。
数秒——の沈黙。
美柑ちゃんが——ゆっくりと口を離した。
ぷはっ——♡
唇に——白い糸が一本、結城くんの先端との間に光って——ぷつん、と切れた。
「リト——おいしかった」
美柑ちゃんが——見上げた。
あの丸い目。無邪気な——大きな目。
ソースの味見をした時と——同じ笑顔で——結城くんを見上げている。
「ん——ありがとな、美柑」
結城くんの声が——少しだけ、掠れていた。
余裕——が、わずかに崩れている。あの涼やかな声に——ほんの少しだけ、息が混じっている。
何分——だったのか。
五分——いや、もっと短かったかもしれない。
御門先生が——顎を痛めて、喉を差し出して、顔中をぐちゃぐちゃにして——やっと搾り出した一回を。
この小学生は——五分もかからず——涙一つ流さず——きれいに、全部飲んで——。
私は——ドアから顔を離した。
足が——震えていた。
廊下の壁に手をついて——かろうじて立っている。
(——あの子は——ただの妹なんかじゃ——)
心臓が——喧しい。
呼吸が——浅い。
ドアの向こうで——水を流す音が聞こえた。
美柑ちゃんが——結城くんの身体を拭いているのだろう。服を整えているのだろう。
あの靴を揃える手つきで——あのTシャツをかぶせる手つきで。
全部——同じなのだ。
靴を揃えるのも。着替えを手伝うのも。味見を「あーん」でさせるのも。トイレで——口で——。
美柑ちゃんにとっては——全部が、「お兄ちゃんのお世話」。
全部が——日常。
ドアノブが——がちゃり、と動いた。
(——出てくる——‼)
私は——反射的に、廊下の壁際まで後ずさった。
見ていなかった——フリ。何も聞いていない——フリ。
ドアが——まだ開かなかった。
鍵を開ける音が——して。でも——ドアが開かない。
中から——声が聞こえた。
「リト——入れてからにして」
美柑ちゃんの——声。小さな声。甘い声。
「ん。——立て。こっち向いて」
結城くんの——声。静かな声。指示する声。
ごそ——と、衣擦れの音。
私は——また、ドアの隙間に目を寄せていた。
やめなさい——と。頭の中で叫んでいるのに——身体が、言うことを聞かない。
美柑ちゃんが——立ち上がっていた。
結城くんに向き合う形で——背を向けて——壁に両手をついている。
スカートが——めくり上げられていた。小さなお尻が——露出している。
白い。小さい。丸くて——薄い。子供の——お尻。
結城くんが——ポケットから何かを取り出した。
黒い——何か。
小さな——でも、美柑ちゃんの身体に対しては十分すぎる太さの——。
アナルプラグ——だった。
黒いシリコンの——栓。根元が細くなって、先端に向かって膨らむ形状。一番太い部分が——美柑ちゃんの手首くらいある。
(——そんな——ものを——あの子に——)
結城くんが——プラグに何かを塗った。透明なジェル。ローション——だろう。
手慣れた動作。何度もやってきた——手つき。
「美柑——力抜け」
「ん——わかってる」
美柑ちゃんの声が——柔らかかった。
怖がっていない。嫌がっていない。
結城くんの手が——美柑ちゃんの小さなお尻の谷間に、プラグの先端を当てた。
「入れるぞ」
「うん——」
美柑ちゃんが——壁についた手に、きゅっと力を込めた。
ぬぷっ——♡
プラグの先端が——美柑ちゃんの穴に沈んだ。
「っ——♡」
美柑ちゃんの肩が——びくっと震えた。
でも——声は出さなかった。唇を噛んで——ぐっと耐えている。
結城くんが——ゆっくりと、プラグを押し込んでいく。
ぬぷぷっ——♡♡
一番太い部分が——穴の入り口を、じわじわと押し広げている。
白い肌が——黒いシリコンの周りで、ぐいっと引き伸ばされていく。
「は——♡ ん——♡♡」
美柑ちゃんが——結城くんの方に首だけ振り向いた。
あの丸い目が——潤んでいる。唇が——半開きで、小さく息を吐いている。
「リト——もうちょっと——ゆっくり——」
「わがまま言うな。いつものサイズだろ」
「だって——さっきので——ちょっと——敏感になって——♡」
さっきの——フェラの時に、自分も感じていた——ということだろうか。
結城くんが——最後の一押しをした。
ずぽんっ——♡♡
プラグの一番太い部分が——穴の中に飲み込まれた。
根元のくびれが——括約筋にぴたりと嵌まって——プラグが固定された。
美柑ちゃんの小さなお尻の谷間に——黒い台座だけが見えている。
「——♡♡」
美柑ちゃんの膝が——一瞬、かくんと折れかけた。
結城くんの手が——腰を支えた。
「大丈夫か」
「だい——じょぶ——♡」
大丈夫——と言いながら、目尻に涙が滲んでいる。
結城くんが——美柑ちゃんのスカートを下ろした。
プリーツスカートが——すとんと落ちて、お尻を覆い隠した。
外から見れば——何もない。普通の小学生のスカート。
でも——その下に。
結城くんが——美柑ちゃんの頭を、ぽんぽんと叩いた。
「いい子だ」
「……えへへ——♡」
美柑ちゃんが——照れたように笑った。
褒められて——嬉しそうに。お兄ちゃんに「いい子」と言われて——。
お尻の中に——あんなものを入れられて——「いい子」と——。
(——やめて——見せないで——もう——)
私は——ドアから離れた。
今度こそ——離れた。
廊下を——よろよろと歩いて、リビングのソファに——崩れ落ちるように座った。
*
ドアが——開いた。
結城くんが——先に出てきた。何食わぬ顔で。手を拭きながら。
美柑ちゃんが——その後ろから出てきた。
歩き方が——普通だった。
普通——に見えた。少しだけ歩幅が小さい気もするけれど——気のせいかもしれない程度の。
「お待たせ、古手川さん」
美柑ちゃんが——にこっと笑った。
あの笑顔。さっきと同じ——しっかり者の小学生の、丁寧な笑顔。
「ハンバーグ——もう焼けるよ。もうちょっと待っててね」
「え——え、ええ——ありがとう——美柑ちゃん——」
声が——裏返った。自分でもわかった。
美柑ちゃんが——キッチンに戻った。
エプロンの紐を結び直して——フライパンの前に立つ。
「リト——お皿、出してくれる?」
「はいはい」
結城くんが——食器棚から皿を取り出している。
日常——だ。兄妹の——何の変哲もない、夕食前の光景。
美柑ちゃんが——フライパンを傾けて、ハンバーグを皿に移している。
立って——歩いて——料理して。
(——あの子の——お尻の中に——今——あれが——)
思考が——止まらない。
美柑ちゃんが——皿を持って、テーブルに運んだ。
歩くたびに——スカートが揺れる。太腿の上で——ふわりと。
あのスカートの下に。下着の下に。あの小さなお尻の穴の中に——黒いプラグが——今この瞬間も——。
美柑ちゃんが——私の前に、皿を置いた。
「はい——古手川さんの分。デミグラスソース、たっぷりかけたよ」
笑顔——だ。何ともない笑顔。
テーブルに座る時——美柑ちゃんの動きが、ほんの一瞬だけ——固まった。
椅子に腰を下ろす瞬間。お尻が座面に触れる瞬間。
「——っ」
微かに——唇が、きゅっと結ばれた。眉が——ぴくりと動いた。
でも——すぐに、何事もなかったかのように座り直した。
「いただきます」
美柑ちゃんが——手を合わせた。
結城くんが——隣に座った。
「古手川も——食えよ」
「い——いただきます——」
フォークを——持った。手が——震えている。
ハンバーグを——切った。デミグラスソースが——皿の上に広がる。
口に運んだ。
おいしい——と思った。本当に——おいしかった。
肉汁が溢れて、ソースが絡んで。小学生が作ったとは思えないクオリティ。
「おいしいでしょ? 美柑の得意料理なんだ」
「ええ——本当に——おいしいわ——美柑ちゃん」
「えへへ——ありがとうございます」
美柑ちゃんが——照れたように頬を染めた。
その顔が——さっきの「えへへ——♡」と重なった。
プラグを入れられて——「いい子」と言われて——照れた、あの顔と——同じ顔。
(——やめなさい——古手川唯——‼ 食事中に——そんなこと——)
ハンバーグを——もう一口。
おいしい。おいしいのに——味が、頭に入ってこない。
「美柑ちゃん——毎日、こうやってご飯を作ってるの?」
「うん。リトの分と——あたしの分。お父さんは——仕事で遅いから」
「お母さんは——?」
「マンガ家で——ずっと缶詰。ほとんど家にいないの」
美柑ちゃんが——にこにこしながら話している。
「だから——あたしがリトのご飯を作って、洗濯して、掃除して。全部——あたしがやるの」
「大変——ね。小学生なのに——」
「大変じゃないよ。だって——リトのためだもん」
美柑ちゃんの目が——きらきらしていた。
リトのため——と言う時の、あの目。
料理を作るのも。洗濯をするのも。掃除をするのも。靴を揃えるのも。着替えを用意するのも。
トイレで——口で——するのも。
お尻に——あれを入れられるのも。
全部——「リトのため」。
全部が——この子にとっては、同じ重さの「お世話」。
美柑ちゃんが——ハンバーグを食べながら、足をぷらぷらさせている。椅子が高くて——足が床に届かないのだ。
子供——だ。まだ——子供。
足が届かない椅子に座って。手作りのハンバーグを食べて。お兄ちゃんの隣で、にこにこして。
その小さなお尻の中に——黒いプラグを埋め込まれたまま。
座るたびに——奥を突かれているはずだ。
フォークを口に運ぶたびに——身体が微かに揺れて、プラグの角度が変わっているはずだ。
なのに——美柑ちゃんの顔は、平気だった。
ハンバーグを——おいしそうに食べている。結城くんに「おかわりは?」と聞いている。笑っている。
私にだけ——わかる。
さっき椅子に座った瞬間の——あの、一瞬の硬直。唇が結ばれた、あの一瞬。
あれだけが——唯一の綻び。
それ以外——完璧だった。
この子は——あの異物を体内に抱えたまま、日常を演じている。
兄の客をもてなし、料理を振る舞い、笑顔で会話をしている。
小学五年生が——。
「古手川さん——おかわり、いる?」
「い——いえ——十分よ——ごちそうさま——」
「そっか。じゃあ——お皿、下げるね」
美柑ちゃんが——立ち上がった。
立ち上がる瞬間——また、一瞬だけ。
腰が——ぴくっと揺れた。
プラグが——動いたのだ。座っていた分、奥に押し込まれていたものが——立った衝撃で、角度が変わって——。
美柑ちゃんの耳が——ほんの少しだけ、赤くなっていた。
でも——皿を重ねる手は、震えていなかった。キッチンに運ぶ足取りは、乱れていなかった。
この子は——壊れている。
壊れているのに——壊れていないフリが、完璧すぎて——壊れていることに気づけない。
私以外の誰かが見たら——ただの、しっかり者の妹にしか見えないだろう。
私だけが——知っている。
あのスカートの下の秘密を。あの笑顔の裏側にあるものを。