※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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古手川唯とヤミの場合(2)

 

「——待って」

 

私は——ヤミさんの背中に向かって、叫んでいた。

 

叫んだ——つもりだった。実際に出た声は、情けないくらい小さかった。

でも——暗殺者の耳には、届いた。

 

ヤミさんが——三歩先で、足を止めた。

 

振り返らない。金色の髪が——背中の真ん中で、微かに揺れているだけ。

 

「……何ですか。もう——」

 

「動画——でしょう」

 

沈黙。

 

渡り廊下の窓から——風が、ひゅう、と吹き込んだ。

 

「……は」

 

ヤミさんが——振り返った。

ワインレッドのジト目が——わずかに見開かれている。この子にしては——大きな動揺。

 

「今日の放課後——って、冒頭だけ見えたの。でも——通知のサムネイル——動画のアイコンだったわ」

 

嘘——だ。半分は。

サムネイルなんて——本当は、はっきりとは見えていなかった。でも——再生マークのようなものが、一瞬だけ。

 

ヤミさんの——首筋の赤みが、また濃くなった。

 

「……古手川唯。あなたの観察力は——暗殺者に向いていますね」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

「褒めていません」

 

ヤミさんが——ゆっくりと、こちらに歩いてきた。

一メートルの距離で——止まった。

 

ジト目が——私を、値踏みするように見ている。

 

「……動画です」

 

ヤミさんが——言った。

 

「結城リトから——送られてきた、動画」

 

「動画って——何の——」

 

聞いておきながら——わかっていた。

あの男が——ヤミさんに送る動画が、風景写真やペットの映像であるはずがない。

 

「…………この間の——やつ——ですね」

 

ヤミさんの声が——初めて、歯切れが悪くなった。

「やつ」という言い方に——具体的な記憶が、込められている。

 

「この間——って——」

 

「……見ますか」

 

「——え?」

 

「見れば——わかります。説明するより——早い」

 

ヤミさんが——ポケットから、端末を取り出した。

 

透明がかった画面。デビルーク製の——薄い端末。

 

「ちょっ——ここで——?」

 

「人がいない場所に移動しましょう」

 

         *

 

非常階段の——踊り場。

 

さっきまで話していた場所とは——反対側。東棟の端。窓が一つだけあって、午後の日差しが斜めに差し込んでいる。

埃が——光の中を、ゆっくりと舞っている。

 

ここなら——誰も来ない。

 

ヤミさんが——壁にもたれて、端末を操作している。

私は——その隣に、肩が触れるかどうかの距離で立っていた。

 

端末の画面に——動画のサムネイルが表示された。

 

暗い部屋。ベッドの上。間接照明の——橙色の光。

 

「再生します」

 

ヤミさんの指が——画面に触れた。

 

映像が——動き始めた。

 

カメラは——手持ちだった。少し揺れている。撮影者の——視点。

 

ベッドの上に——ヤミさんが、いた。

 

制服——ではなかった。あの黒いボンテージ。超ミニスカートに——身体のラインがくっきり出る黒い布。以前の——あの衣装。

 

ヤミさんが——ベッドの縁に座っている。膝を揃えて——手は太腿の上。

 

無表情——だ。今と同じ、あの顔。

 

カメラを持っている人間の——声が聞こえた。

 

『ヤミ』

 

結城リトの——声。

 

画面の中のヤミさんが——カメラを見た。ジト目が——レンズを、まっすぐに見ている。

 

『……またですか。結城リト』

 

呆れたような——でも、拒絶ではない声。

 

『前回も——撮っていたでしょう』

 

『今回は——ちゃんと撮る』

 

『ちゃんと——とは』

 

『最初から最後まで』

 

画面の中のヤミさんの——頬が、ほんの微かに染まった。

でも——表情は変わらない。

 

『……好きにしてください』

 

『好きにする』

 

私は——隣に立つヤミさんを、ちらりと見た。

 

ヤミさんは——端末の画面を、無表情で見つめていた。

自分が映っている動画を——他人のものでも見るかのように。

 

「ヤミさん——これ——」

 

「黙って見ていてください」

 

映像が——変わった。

 

カメラの位置が——変わっている。三脚——か、どこかに固定されたらしい。

画面は——ベッドの全体を映している。斜め上からの——俯瞰気味のアングル。

 

ヤミさんが——四つん這いになっていた。

 

黒いボンテージは——まだ身体についているが、下半身だけが剥がされている。ミニスカートが腰まで捲り上げられて——白いお尻が、カメラに向かって突き出されている。

 

ムチムチとした——小柄な身体。白い肌。太腿の内側が——間接照明の光で、てらてらと光っている。

 

結城リトが——ヤミさんの背後に立っていた。

 

すでに——挿入していた。

 

ずぷっ♡——ずちゅっ♡——。

 

ゆっくりとした——ピストン。腰を引いて——押し込む。引いて——押し込む。

 

『……んっ……』

 

画面の中のヤミさんから——小さな声が漏れた。

 

押し殺した声——だった。喘ぎ声を出さないように——唇を噛んでいる。でも——腰が動くたびに、鼻から息が漏れる。

 

『ヤミ——声、出せよ』

 

『……出しません』

 

『出さないと——もっとやるぞ』

 

『……好きに——してください——』

 

ぱんっ♡——。

 

結城リトの腰が——叩きつけるように押し込まれた。

 

『——っ♡♡』

 

ヤミさんの背中が——びくんと反った。白い肩甲骨が——ボンテージの隙間から浮き上がる。

 

結城リトの手が——ヤミさんの金色の髪を、鷲掴みにした。

長い髪を——手首に巻きつけるようにして——ぐいっと引いた。

 

ヤミさんの頭が——引き起こされた。シーツに伏せていた顔が——強制的に上を向かされる。

首が——反って。喉の白い線が——間接照明に照らされている。

 

画面の中のヤミさんの口が——開いた。声にならない声が——零れた。

 

結城リトが——髪を引いたまま、腰を動かし始めた。

 

ぱんっ♡——ぱんっ♡♡——ずちゅっ♡♡——ぱんっ♡♡♡——。

 

リズムが——速くなった。

結城リトの腰が——ヤミさんの白いお尻に打ちつけられるたびに——肉がぶるんっ♡と波打つ。小柄な身体が——衝撃で前に押し出されて——両腕で踏ん張っている。

 

陰茎が——引き抜かれるたび、カリ首の段差が膣口を擦る。ぬるっ♡——と粘膜が引っ張られて——押し込まれると、ずちゅっ♡♡——と水音が弾けた。

 

太腿の内側を伝っていた透明な液が——もう白く濁り始めていた。先走りと愛液が混ざって——結合部がてらてらと光っている。

 

『……っ♡……ん♡……っ♡♡……』

 

声が——漏れ始めていた。

唇を噛む力が——追いつかなくなっている。鼻から——甘い吐息が、リズミカルに漏れている。

 

「……この体勢は——」

 

隣のヤミさんが——呟いた。画面を見つめたまま。

 

「髪を掴まれると——トランス能力が、反応してしまうのです。髪が——武器であると同時に、感覚器でもあるので」

 

「感覚器——」

 

「ええ。引かれると——全身に、電流のような刺激が走ります。それが——下腹部に直結して——」

 

ヤミさんの声が——一瞬、途切れた。

 

「……逃げられなくなります」

 

私の——太腿の内側が、じわっと熱くなっていた。

自分の身体が反応していることに——気づきたくなかった。でも——スカートの下で、膝がきゅっと閉じている。無意識に。

 

映像の中で——結城リトの空いた手が、ヤミさんの腰を掴んだ。

引き寄せるように——ぐいっと。そして——腰の動きが、変わった。

 

奥を——突くような。短く、深い、突き上げ。

 

ずどっ♡♡——ずどっ♡♡♡——。

 

『あっ♡——あっ♡♡——や——結城リト——そこは——っ♡♡♡』

 

画面の中のヤミさんの——声が、変わった。

 

押し殺していた声が——剥がれ落ちた。甘く——切なく——身体の奥から絞り出されるような声。

 

結城リトの陰茎が——奥まで沈むたびに、カリ首が子宮口を突き上げる。ヤミさんの身体が——その度にびくっと跳ねて——でも髪を掴まれているから逃げられない。

 

引いて——叩き込む。引いて——叩き込む。

 

ぱんぱんっ♡♡♡——ずちゅっ♡♡♡——ぱんっ♡♡♡♡——。

 

ヤミさんのお尻が——叩きつけのたびに赤く染まっていく。白い肌に——結城リトの腰骨の痕が、薄桃色に浮き上がっている。

 

『やっ♡♡——だめ——です♡♡♡——奥——奥に——当たって——っ♡♡♡♡』

 

ヤミさんの——両腕が崩れた。顔が——シーツに埋まる。お尻だけが——突き上がった姿勢。

結城リトの手が——そのお尻をがっしりと掴んで、叩きつけるように腰を振っている。

 

ぱんぱんぱんっ♡♡♡♡——。

 

『あっ♡♡♡♡——あっ♡♡♡♡♡——イく——っ♡♡♡♡♡♡——』

 

びくっ♡♡——びくっ♡♡♡——。

 

ヤミさんの全身が——痙攣した。絶頂——だ。シーツを掴む指が——白くなるほど力んでいる。

 

結城リトは——止まらなかった。

 

絶頂の最中——そのまま腰を突き続けて——。

 

ずぶっ♡♡♡♡——と深く沈めて——止まった。

 

どくっ♡♡——どくっ♡♡♡——。

 

『ぁ♡♡♡♡♡♡——あっ♡♡♡♡♡♡♡——なか——出てる——っ♡♡♡♡♡♡♡♡』

 

中出し——だった。

 

結城リトの腰が——ヤミさんの奥に密着したまま。脈打つリズムが——腰の微かな震えから伝わっている。

 

ヤミさんの身体が——力を失って、ベッドに崩れ落ちた。

結合部から——白い液体が、つう、と太腿を伝って滴り落ちた。

 

結城リトが——ヤミさんの身体を、仰向けにひっくり返した。

 

そして——覆いかぶさるように、カメラを手に取った。

 

顔——を、撮影している。

 

至近距離から——ヤミさんの顔が、画面いっぱいに映った。

 

「——」

 

私は——息を止めた。

 

無表情の——あのヤミさんの顔が——。

 

別人——だった。

 

ワインレッドの目が——とろんと蕩けて、焦点が合っていない。半開きの唇から——涎が、頬を伝って流れている。頬が——紅潮して——汗が額に浮いて——金色の髪が、顔に張り付いている。

 

淫ら——という言葉が、これほど正確に当てはまる顔を、見たことがなかった。

 

あの冷たいジト目が——甘く蕩けて。

あの無表情の唇が——半開きで——ぷるぷると震えて——。

 

「……恥ずかしい——ですね」

 

隣のヤミさんが——呟いた。

無表情——のまま。でも——声に、かすかな熱があった。

 

「今の私からは——想像できない顔だと思います」

 

「…………うん」

 

想像——できない。

今、隣に立っている無表情のヤミさんと——画面の中で蕩けきっている女が、同一人物だということが——信じられない。

 

「ここから——」

 

ヤミさんが——画面を指差した。

 

「記憶が——ないですね」

 

「記憶が——ない——?」

 

「はい。ここから先は——撮影されていたことも含めて、結城リトからこの動画を見せられるまで——知りませんでした」

 

映像が——続いている。

 

画面の中のヤミさんの——目が、変わった。

さっきまでの蕩けた目とも——違う。虚ろ——だ。意識が——飛びかけている。

 

結城リトが——また、腰を動かし始めた。

 

射精した直後——のはず。なのに——陰茎は、萎えていなかった。

ヤミさんの中に入ったまま——再び、硬さを取り戻している。

 

『…………っ♡♡♡♡——』

 

画面の中のヤミさんから——声が出た。

 

声——というより、獣の鳴き声だった。

 

『あ゛っ♡♡♡♡♡♡——あ゛あ゛っ♡♡♡♡♡♡♡♡——』

 

喉の奥から——絞り出される、原始的な音。言語ではない。思考ではない。身体が——快楽に支配されて、反射的に発している——ただの振動。

 

ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡♡♡——。

 

結城リトの腰が——機械のように動いている。疲労がない。汗すら——それほどかいていない。

あの涼やかな目が——カメラ越しに、ヤミさんの壊れた顔を見下ろしている。

 

『あ゛♡♡——あ゛♡♡♡——あ゛♡♡♡♡——や゛っ♡♡♡♡♡——また——またイく——っ♡♡♡♡♡♡♡♡』

 

びくんっ♡♡♡♡——びくんっ♡♡♡♡♡——。

 

ヤミさんの全身が——弓なりに反った。小さな身体が——ベッドから浮き上がるほどの痙攣。指先が——足先が——ぴんと伸びて——震えている。

 

結城リトは——止まらない。

 

絶頂している身体を——さらに突き上げて——。

 

ずぶっ♡♡♡——ずちゅっ♡♡♡♡——ばちゅんっ♡♡♡♡♡——。

 

『ひ゛っ♡♡♡♡♡♡♡♡——あ゛あ゛あ゛っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡——』

 

もう——声とも呼べない。

喘ぎ声を通り越して——悲鳴を通り越して——壊れた楽器のような音が、端末のスピーカーから漏れ続けている。

 

ヤミさんの身体が——ずっと痙攣していた。

絶頂が——終わらない。一回が終わる前に——次が来て——重なって——波が止まらない。

 

結城リトの腰は——一切速度を落とさない。

無限の精力——と言うしかなかった。人間の——十六歳の男の子の体力では——あり得ない持続力。

 

画面の中のヤミさんの——目が、完全に白く反転した。

 

『あ♡♡♡♡♡♡♡♡——♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡——♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡——』

 

声が——もう、ただのハートマークのような音になっていた。

舌が——口から垂れ出ている。涎が——顎から首を伝って——鎖骨を流れ落ちている。

 

身体中が——汗で光っていた。ボンテージの布地が——汗で肌に張り付いて——半分剥がれかけている。

太腿が——精液と愛液でぬるぬると光っていて——結合部からは、白い泡が——ぶくぶくと溢れ出している。

 

結城リトが——また、奥で射精した。

 

どくっ♡♡——どくっ♡♡♡——どくどくっ♡♡♡♡♡——。

 

ヤミさんの身体が——反射で跳ねた。意識のない身体が——熱量にだけ反応して、びくびくと震えている。

 

そして——引き抜いた。

 

ずるっ——ぬぽんっ——。

 

ヤミさんの穴から——大量の白い液体が、どろりと溢れ出した。

 

映像は——まだ続いていた。

 

時刻が——画面の隅に表示されている。

最初が——二十三時。今の時点で——午前四時を過ぎている。

 

五時間——。

 

五時間——犯され続けていたのだ。

 

画面の中のヤミさんは——もう動いていなかった。

ベッドの上に——仰向けに横たわっている。

 

全身が——精液と汗にまみれていた。

 

金色の髪が——べっとりと濡れて、枕とシーツに張り付いている。

ボンテージは——ほぼ原形をとどめていなかった。破れて——ずれて——身体の半分以上が露出している。

 

白い肌のあちこちに——赤い痕。指の跡。キスマーク。噛み痕。

太腿の内側が——精液で白く汚れて——乾きかけた液と新しい液が、層になっている。

 

ヤミさんの目は——半開きだった。白目が——覗いている。口は——開いたまま。涎と——何かが、頬を伝っている。

 

意識は——完全に飛んでいた。

 

結城リトの手が——画面に入ってきた。

 

ヤミさんの身体を——ぐいっと、ベッドの端に押しやった。

 

ごろん——と。

 

ヤミさんの身体が——ベッドの端で、だらんと止まった。腕が——ベッドの外に、垂れ下がっている。

 

まるで——使い終わった道具を、隅に退けるような動作だった。

 

それから——結城リトの声が聞こえた。

 

『おつかれ——ヤミ』

 

軽い——声。

五時間、一人の女を壊し尽くした男の声には——聞こえない。あっけらかんとした——日常の声。

 

映像が——終わった。

 

画面が——黒くなった。

 

非常階段の踊り場に——沈黙が、落ちた。

 

端末のスピーカーから聞こえていた喘ぎ声と肉音が消えて——代わりに、窓の外から——鳥の声が、聞こえた。

 

私は——端末の画面を見つめたまま、動けなかった。

 

隣のヤミさんは——端末をポケットにしまった。

 

「まあ——こういうことです」

 

淡々——だった。

今見たものの余韻など——なかったかのように。

 

「触手に犯された時でも——ああは、ならなかったと思います」

 

ヤミさんが——壁にもたれたまま、天井を見上げた。

 

「触手は——身体を犯しましたが、心まではらしていなかった。あの時の私は——暗殺者として、自分を保っていた」

 

「…………」

 

「結城リトは——違いました」

 

ヤミさんの声が——ほんの微かに、震えた。

無表情の——奥で。

 

「身体も——心も——全部、持っていかれます。そして——記憶すらなくなるほどに壊されても——翌朝、目が覚めた時——」

 

「目が覚めた時——?」

 

「……また、したくなるのです」

 

沈黙——。

 

私は——壁に背中を預けた。

ずる——っと、壁を滑り落ちて——床に座り込んだ。

 

力が——入らなかった。

 

スカートが——床に広がる。膝を——投げ出した。風紀委員らしからぬ——だらしない座り方。

 

もう——どうでもよかった。

 

風紀も。常識も。「あんな男には絶対に引っかからない」という誓いも。

 

全部——どうでもいい。

 

だって——もう、世界がめちゃくちゃだ。

 

ナナさんが——リトと。モモさんが——リトと。御門先生が。ティアーユ先生が。美柑ちゃんが。

 

そして——宇宙一の暗殺者が。あの無表情の女が。五時間犯されて——記憶をなくして——ボロ雑巾のように捨てられて——それでも「またしたくなる」と。

 

窓から——午後の日差しが、差し込んでいた。

青い空——が、見えた。

雲が——何事もなかったかのように、流れている。

 

私は——空を見上げた。

 

「…………」

 

ヤミさんが——私を見下ろしている。

ジト目——いつもの無表情。

ついさっき、白目を剥いて涎を垂らしていた顔と——同じ顔。

 

「古手川唯——大丈夫ですか」

 

「…………」

 

私は——空を見上げたまま。

 

大丈夫——なわけがない。

大丈夫なわけが——ないのだけれど。

 

もう——怒る気力もなかった。

悲しむ気力もなかった。

戦う気力も——呆れる気力すらも。

 

全部——使い果たした。

 

「…………私」

 

声が——出た。

自分でも——どんな感情で言っているのか、わからない声。

 

空を——見上げたまま。

 

青い空に——白い雲。鳥が——一羽、横切っていく。

 

「——どうしよう」

 

ヤミさんが——私を見ている。

 

私は——空を見ていた。

 

「私——どうしたらいいのかしら」

 

誰に——言っているのかも、わからなかった。

 

ヤミさんは——何も答えなかった。

 

窓の外で——鳥が鳴いた。

 

風が——非常階段の踊り場を、すう、と通り抜けた。

 

五時間目の——予鈴が、遠くで鳴った。

 

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