土曜日の朝——九時五十八分。
正門の前で——私は、腕時計を見つめていた。
五月の風が——スカートの裾を揺らしている。
制服——だ。休日だけれど——風紀委員の巡回当番だから、制服で来た。
超ミニスカートに——胸が強調されるブラウス。いつもの——この学校の、この制服。
(——別に、意識して着てきたわけじゃない)
ただの制服——だ。
いつも通りの——風紀委員としての、正装。
スカートの裾が——太腿の半ばで止まっている。
ブラウスの胸元が——第二ボタンまで開いていて——谷間の影が、微かに覗いている。
黒い髪が——背中の真ん中まで流れていて、五月の風で——さらさらと揺れた。
(——十時。まだ来ない)
時計を——もう一度見た。
十時ちょうど——約束の時間。
結城くんは——いない。
正門の鉄柵に——背中を預けた。
校庭には——誰もいない。土曜日の学校は——静かだった。
グラウンドの砂が——風に舞って、かすかに目に入った。
十時三分。
十時七分。
十時十二分——。
(——遅い)
苛立ち——が、胸の奥で、じわじわと熱くなっていく。
私がどれだけの覚悟で——この場に立っているか。あの電話をかけた夜の——あの震えを。
それなのに——あの男は、遅刻。
(——ふざけないで)
腕章を——左腕に巻き直した。
布地を——ぎゅっと握る。
「——よぉ」
声が——した。
振り返る——と。
結城リトが——正門の向こう側から、ひらひらと手を振っていた。
Tシャツにジーンズ——ラフな私服。寝起きのような——ゆるい笑顔。
朝の光を浴びて——茶色がかった髪が、きらきらと光っている。
涼やかな目——が、私を見ている。
「悪い悪い、寝坊した」
「——十二分も遅刻よ。結城くん」
「そんなに待った? ごめんな」
悪びれない。まったく——悪びれていない。
あの涼やかな目が——私の全身を、一瞬だけ——なぞった。
「制服で来たんだ。律儀だな」
「当番だもの。当然よ」
「似合ってるよ。——相変わらず」
「——褒めなくていいから。早く入って」
正門の鍵を——ポケットから出した。
手が——震えていないことを、確認した。
*
生徒会室——を、使った。
一階の——奥。窓の外には中庭が見える。
パイプ椅子と長机が並んだ——事務的な部屋。休日は誰も使わない。
私は——長机の向こう側に座った。
結城くんは——対面に座った。
距離——三メートル。長机一つ分。
「それで——話って何?」
結城くんが——椅子の背もたれに体重を預けて、こちらを見た。
足を組んでいる。リラックスした——余裕の姿勢。
「……結城くん」
深呼吸——した。
「あなたがやっていること——全部、知ってるわ」
結城くんの表情は——変わらなかった。
「ララさん。モモさん。ナナさん。ヤミさん。御門先生。ティアーユ先生。——美柑ちゃんまで」
一人ずつ——名前を挙げた。
声が——震えないように。感情を——押し殺して。
「複数の女性と関係を持つこと。教師に手を出すこと。——実の妹に、あんなことをすること」
「うん」
軽い——声だった。
否定しない。驚かない。取り繕いもしない。
「——全部、やめなさい」
私は——机に両手を置いて、身を乗り出した。
「今すぐ——あの子たちとの関係を清算して。先生たちには——二度と近づかないで。美柑ちゃんには——」
「古手川」
結城くんが——遮った。
涼やかな目が——私を、まっすぐに見ている。
「お前さ——俺のこと嫌い?」
「——は?」
「質問。俺のこと、嫌い?」
「嫌いに決まってるでしょう! あなたみたいな——破廉恥な——」
「じゃあさ」
結城くんが——椅子から立ち上がった。
「古手川ともしたいって言ったら——どうする?」
「——何を言って——」
「だって——お前もあいつらと同じだろ? 女じゃん」
結城くんが——長机の端を回り込んで、こちら側に来た。
一歩。
二歩——。
「女なんてさ——」
結城くんの声が——変わった。
あの涼やかな声の——奥に、別の色が混じった。低く——粘りつくような。
「ちんぽ突っ込まれるために生まれてきた生き物だろ?」
心臓が——跳ねた。
「男より弱くて——ちょっとバカだしさ。気持ちよくされたら——もう、考えるのやめちゃうだろ? お前らって」
「——何てことを言うの」
椅子から——立ち上がった。全身が——怒りで震えていた。
「女性を侮辱するのもいい加減にしなさい! そういう——そういう考え方が——」
「でもさ——事実じゃね?」
結城くんが——一歩、近づいた。
「ヤミだって。御門先生だって。ティアーユ先生だって。ナナも。モモも。——全員、ちんぽ入れたら言うこと聞くようになったぜ?」
「それは——あの子たちが——あなたに騙されて——」
「じゃあ古手川はどうすんの?」
結城くんが——もう一歩。
距離——二メートル。
「一生——男と付き合わないで死ぬの?」
「……っ」
「子供——たくさん欲しいんだろ? 前に言ってたじゃん」
「なんで——それを——」
「聞こえたんだよ。お前が友達と話してるの——たまたま」
結城くんの目が——私を射抜いている。
「子供欲しいなら——セックスしなきゃダメじゃん。生物として——当然の行為だろ?」
「…………」
言い淀んだ——自分に、気づいた。
反論が——出てこない。
子供が欲しいという願望は——本物だった。将来——家庭を築いて。優しい夫と。子供が一人が二人いる、にぎやかな家。
それが——私の、夢だった。
でも——今の話とは、関係ない。
「それとこれとは話が違うわ。——学校で。複数の女の子と。先生と。妹と。——ダメなことはダメなの!」
声が——裏返った。
結城くんは——私を見つめたまま、ふう、と息を吐いた。
「そっか」
軽い——声。
「じゃあ——話しても無駄だな」
結城くんが——ポケットに手を突っ込んで、私を見た。
「一つ——ゲームしない?」
「——ゲーム?」
「鬼ごっこ」
「は——?」
「この学校の中で——俺から逃げ切れたら、お前の言う通りにする。全部やめる」
心臓が——止まりかけた。
「本当——に?」
「ああ。逃げ切れたら——約束する。もう誰にも手を出さない」
「…………」
「でも——」
結城くんの目が——細くなった。
あの——涼やかな目が。
「捕まったら——古手川を、俺のものにする」
空気が——凍った。
生徒会室の——蛍光灯が、じじ、と微かに鳴っていた。
「俺のもの——って、どういう——」
「そのまんまの意味だよ」
結城くんが——歩き出した。
こちらに——向かって。
ゆっくりと——確実に。
一歩。
「お前の身体——全部、俺のものにする」
二歩。
「あの胸も——あのお尻も——まだ誰にも触られたことない場所も——全部」
三歩——。
距離——一メートル。
結城くんの手が——伸びかけた。
私は——椅子を蹴った。
がたんっ——と椅子が倒れる音が、がらんとした校舎に響いた。
身体が——反射的に動いていた。
考えるより先に——足が動いた。
生徒会室のドアに——飛びついて——ノブを引いた。
ばんっ——とドアが開いた。
廊下が——目の前に広がっていた。
土曜日の——誰もいない、長い廊下。
ワックスが塗られた床が——窓からの日差しを反射して、きらきらと光っている。
走った。
全速力で——走った。
ローファーの底が——廊下を叩く。
ぱたぱたぱたぱた——と、自分の足音だけが、無人の校舎に反響する。
スカートが——走るたびに翻って、太腿が露出する。
ブラウスの胸元が——走る振動で揺れて——ボタンの隙間から、白い肌が覗く。
髪が——背中でばさばさと暴れている。
(——逃げ切れたら、全部やめてくれる)
それだけが——頭の中にあった。
逃げなきゃ。逃げ切らなきゃ。
後ろから——足音が聞こえた。
私の——倍のテンポで。
ぱん、ぱん、ぱん——と、余裕のある歩幅の、男の足音。
「古手川ー」
声が——廊下に反響した。
楽しそうな——声。
「逃げても——いいけどさ。この学校——俺の方が詳しいぜ?」
角を——曲がった。階段に——飛び込んだ。
二階——へ。
一段飛ばしで——駆け上がる。
スカートの裾が——跳ね上がって、白い太腿が露わになる。
心臓が——ばくばくと打っている。
恐怖——だ。
でも——それだけじゃない。
身体の奥で——何かが、熱い。
(——違う。怖いだけよ。怖いだけ——)
二階の廊下に——出た。
教室が——並んでいる。全部——施錠されている。
隠れる場所——を、探さなきゃ。
後ろの階段から——足音が、近づいてくる。
ぱん、ぱん、ぱん——。
「鬼がー——行くぞー」
結城リトの——声が。
無人の学校に——こだました。
古手川唯の処女膜をめぐる——鬼ごっこが、始まった。
*
走る——走る——走る。
二階の廊下を——突き当たりまで。
窓から差し込む光が——床のワックスに反射して、行き先を白く照らしている。
捕まったら——犯される。
それが——確定している。
結城くんは——冗談を言わない。あの目は——本気だった。
捕まったら——この身体を、好き勝手にされる。
(——どこに逃げれば)
頭が——回転する。走りながら——校舎の構造を、思い出す。
風紀委員として——何百回も巡回した校舎。隅から隅まで——知っている。
トイレ——。
個室に入れば——鍵がかかる。
でも——上だ。トイレの個室は——上が開いている。あの男の運動神経なら——壁を乗り越えて、上から入ってこられる。
狭い個室の中で——逃げ場がない。便器に押し付けられて——スカートを捲り上げられて——後ろから——。
(——だめ。トイレはだめ)
教室——。
広い。机と椅子がある。障害物にはなる。
でも——追い詰められたら終わりだ。教壇の前で——机に押し倒されて——クラスメイトが座る椅子の前で——。
(——だめ)
足が——階段を駆け下りていた。一階に戻る。
後ろの足音が——遠い。距離は——まだ保てている。
一階の廊下——東棟。
(——どうしたらいいの)
捕まったら——結城くんに、無理やり犯される。レイプ——される。
あの動画のヤミさんみたいに——四つん這いにされて——髪を掴まれて——。
胸も——お尻も——あそこも——好き勝手にされて。
イかされて——イかされまくって——意識が飛ぶまで——。
ヤミさんの蕩けた顔が——また、頭をよぎった。
(——やめて。考えるな。走れ)
廊下の角を——曲がった。
——止まった。
結城くんが——いた。
角の向こう側に——壁にもたれて、腕を組んで、立っていた。
先回り——された。
「おっ」
涼やかな声——。あの、軽い声。
汗ひとつ——かいていない。息も——切れていない。
「速いな、古手川。——でも、こっちは近道知ってっから」
距離——五メートル。
結城くんが——壁から背中を離して、こちらに向き直った。
その時——目が。
私の目が——結城くんの、股間に——吸い寄せられた。
ジーンズの——前。布地の下に——隆起が、見えた。
すでに——硬くなっている。デニムの生地を——内側から押し上げている。
あの動画で——ヤミさんの中に入っていた——。
(——いやっ)
目を——逸らした。
(——だめ。あんな——あんな凶悪なもので突かれまくるなんて——)
ヤミさんの身体が——あんなに跳ねていた。あの小柄な身体が——ベッドから浮き上がるほど痙攣していた。
五時間——壊され続けて——白目を剥いて——。
あれが——私の身体に。
私の——中に。
(——逃げなきゃっ!)
身体を——反転させた。
来た道を——全力で走り返す。
スカートが——捲り上がって、太腿の付け根まで見えている。もう——直す余裕なんてなかった。
走るたびに——胸が、ばいんっ、ばいんっ、と上下に揺れる。ブラウスのボタンが——悲鳴を上げている。B88の胸が——制服の中で暴れ回っている。
髪が——顔に張り付いている。額に——汗が浮いている。
後ろから——足音。
ぱん、ぱん、ぱん——。
近づいて——くる。
(——どこ。どこに逃げれば)
更衣室——。
結城くんが別の場所を探している間に——隠れて——やり過ごせるかもしれない。
でも——見つかったら。あの狭い空間で——ロッカーに押し付けられて——
『見ぃつけた』
『いやっ——ここ更衣室よ——やめ——んんっ♡』
『じゃあ、服脱がないとな』
ロッカーの冷たい金属が背中に当たって——制服を一枚ずつ剥がされて——
(——だめ。何を想像してるの私)
図書室——。
静かで——広い。本棚の間に——隠れられるかもしれない。
でも——あの場所は。みんなが勉強する場所よ。
『静かにしろよ。ここ図書室だぜ?』
『あなたがっ——あなたが静かに——あっ♡——んんっ♡♡——本——倒れ——っ♡♡』
口を塞がれて——声を殺しながら——背中で本が崩れ落ちる音——
(——だめ、だめ。なんで具体的に想像できてるのよ)
音楽室——。
防音壁がある。外に——音が漏れない。
でも——あそこは。みんなが美しい音楽を奏でて——学ぶ場所。
『いい声出すじゃん、古手川。——もっと聞かせろよ』
『やめっ——ここ音楽——あっ♡♡——ぱんっ♡——ぱんっ♡♡——やだっ♡——お尻の音が——反響して——っ♡♡♡』
グランドピアノの蓋に手をついて——背後から突かれるたびに——不協和音が——がしゃん♡——がしゃん♡♡——
(——だめっ! なんでピアノまで鳴ってるの!)
理科室——家庭科室——。
実験台がある。調理台がある。生徒たちが——学ぶための場所。
『実験しよーぜ。古手川の身体で。卵子と精子をくっつけたらどうなるかな』
『実験って——何言って——いやっ——そこ♡♡♡』
白衣を着せられて——実験台に押し倒されて——
(——だめだめだめ! しかも隣の家庭科室で子供を作るなんて、ダブルで最悪!)
昇降口——。
下駄箱の陰に——隠れられる?
『お前の靴、ここだろ。——知ってんだよ、下駄箱の番号くらい』
『うそっ——見つかっ——いやっ♡——靴箱が——ガタガタ——揺れて——イっ♡——イっちゃ——昇天っ♡♡♡』
(——やめなさい古手川唯。昇降口で昇天とか語呂で犯されてどうするの)
やっぱりトイレ——?
鍵が——かかる。それだけで——アドバンテージがある。
でも——。
『鍵? 上から入るに決まってんだろ』
ひょい——と壁を乗り越えて——狭い個室に——二人。
『やっ——狭いっ——座らせないで——あっ♡♡——咥えさせないでっ♡♡♡——私は——便器じゃ——んぐっ♡♡♡♡』
(——だめ! 風紀委員が便器にされるとか絶対だめ!)
多目的室——。
あの部屋は——広い。用途を選ばない、多目的な——。
『多目的だろ? 何に使ってもいいんだよ』
『レイプは多目的に含まれません!!——あっ♡♡——含まれてっ——入ってっ——っ♡♡♡♡』
(——だめよ! 多目的の解釈を広げるな!)
放送室——。
密室——で。マイクがある。機材がある。
『あ、マイク入ってるぜ。——全校放送』
『嘘っ——あっ♡♡——消してっ——消して——あっ♡♡♡——やだっ♡♡♡——聞こえてっ——誰もいなくても——校舎中にっ♡♡♡♡——私の声がっ♡♡♡♡♡♡』
(——絶対だめ!! 一生分の破廉恥がスピーカーから流れるなんて!!)
走りながら——頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていた。
どの部屋を思い浮かべても——犯されるイメージが、先に来る。
逃げ場を考えているはずなのに——どこで犯されるかを、シミュレーションしている。
(——おかしい。私、おかしい)
汗が——首筋を伝って、ブラウスの襟に染み込んでいく。
呼吸が——荒い。心臓が——ばくばくと叩いている。
後ろの足音が——近い。
ぱん、ぱん——。
「古手川ー。そろそろ疲れてきたんじゃないのー?」
楽しそうな——声。息が——まったく乱れていない。
(——あの体力。五時間ヤミさんを犯し続けた体力——)
人間じゃない——。あれは——化け物だ。
あの涼やかな顔の下に——底なしの精力を隠した——。
「行き止まりだぜー。その先」
——行き止まり。
廊下の先を——見た。
突き当たりに——窓。その横に——階段。
上り階段——だ。三階——いや。
屋上——。
頭の中で——何かが、弾けた。
(——そうだ。屋上)
結城くんは——私が外に逃げると思っている。
一階に降りて——正門から——校庭へ。
逆——だ。
逆を突けばいい——。
屋上に——上がる。屋上のドアは——風紀委員が鍵を持っている。
入ったら——内側から施錠すれば——ドアは頑丈な防火扉だ。上から乗り越えることも——できない。
完全な——密室。
結城くんが——入れない密室。
(——屋上に逃げる!)
階段に——飛び込んだ。
一段飛ばしで——駆け上がる。
三階——通過。
さらに——上へ。
屋上への——最後の階段。
ポケットの中で——鍵の束が、じゃらじゃらと鳴っている。
風紀委員の鍵——屋上の鍵は——ある。確かに——ある。
後ろの足音が——階段の下で、反響した。
近い——でも、まだ間に合う。
屋上のドアが——見えた。
灰色の——防火扉。ステンレスのノブ。
あと——五段。
三段——。
一段——。
ドアの前——に、立った。
ポケットから——鍵を出す。手が——震えている。
鍵穴に——差し込んだ。
がちゃり——と、鍵が回った。
ドアを——開けた。
五月の——青い空が、目の前に広がった。
風が——吹き抜けた。汗ばんだ頬を——五月の風が、撫でていく。
屋上——だ。
コンクリートの床。錆びたフェンス。給水タンク。
誰もいない——広い、空。
(——勝った)
振り返って——ドアの内側のロックに手をかけ——。
「読めてたよ」
声が——した。
背後——じゃない。
目の前——だ。
屋上の——給水タンクの陰から。
結城リトが——歩いてきた。
涼やかな目——。汗ひとつ——かいていない。
Tシャツの裾が——五月の風に、ぱたぱたと揺れている。
「風紀委員が鍵持ってること——知ってっから。お前が上に来るって——わかってた」
「——嘘」
「先に来て——待ってた」
足が——動かなかった。
距離——三メートル。
結城くんが——一歩、近づいた。
逃げなきゃ——ドアから——。
身体を——反転させた。
ドアの——ノブに手をかけた。
引いた——。
開かない。
もう一度——引いた。
開かない——。
「あ——鍵——」
さっき——鍵を開けてドアを通った時、鍵は——鍵穴に刺さったまま——。
外側——だ。
鍵は——屋上の外側に、刺さったまま。
そして——風で。
ドアが——自動的にロックされていた。
がちゃり——という、小さな音が。
さっき——確かに、聞こえていた。
ドアが閉まった音——だと思っていた。
違う——。
ロックがかかった音——だった。
「…………」
振り返った。
結城リトが——三メートル先に、立っていた。
青い空を背景に——逆光で。
涼やかな目が——私を見ている。
屋上——。
フェンスに囲まれた——コンクリートの檻。
逃げ場——なし。
「鬼ごっこ——終わりかな?」
結城くんが——笑った。
風が——吹いた。
私のスカートが——ふわりと、捲れた。