※この作品はR-18です。

ヤリチンリトに寝取られるお話   作:大軍

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ティアーユ・ルナティークの場合(3)

 結城君の指が、プリントの上を滑った。

 

「ここなんですけど、減数分裂の第一分裂と第二分裂の違いが——」

 

真面目な質問だった。テスト前の復習。教師として答えるべき質問。

ティアーユは椅子に座ったまま、プリントに赤ペンで補足の図を描き始めた。

 

「えっとね、第一分裂では相同染色体が分離するの。だから染色体数が半分になるのはこの段階で——」

 

結城君が身を乗り出した。

椅子の横に立っている結城君の腰骨が、ティアーユの肩の高さにある。

距離が、また少し縮まった。

 

「ふーん……じゃあ第二分裂は?」

 

「第二分裂は普通の体細胞分裂と同じで、染色体の——あっ」

 

赤ペンが滑って、プリントの上に赤い線がびーっと走った。

結城君の腕が肩に当たった衝撃で。

 

「あ、ごめん。先生、くすぐったかったですか?」

 

「え?」

 

くすぐったい?

肩に腕が当たっただけだ。くすぐったいとは少し違う。

 

「えっと……くすぐったいというか、びっくりしただけで——」

 

「ここ、くすぐったいですか?」

 

結城君の指が、ティアーユの肩に触れた。

とん、と。人差し指の先で、肩の丸みを軽くつつくように。

 

「あ……ちょっと、くすぐったい、かも……」

 

正直に答えてしまった。

指先の圧力が軽くて、肌の表面をぴりぴりと刺激する感覚だったから。

 

「じゃあここは?」

 

指が首筋に移った。

襟ぐりの際。髪の生え際のすぐ下。

 

「ひっ——」

 

小さく声が漏れた。首を竦める。

 

「くすぐったい?」

 

「っ……う、うん……くすぐったい……」

 

質問されたから答えた。それだけだ。

教師として、生徒の質問には誠実に答える。それがティアーユの信条。

——今の質問が、教科に関係ないことに気づいていなかったわけではない。

気づいていた。気づいていたけれど、「やめて」と言うタイミングを逃した。

 

「ここは?」

 

指が下がった。

肩甲骨の辺り。ジャケットの生地の上から。

 

「……くすぐったい……」

 

「ここは?」

 

脇腹。

 

「っ……! そこはっ……くすぐったいっ……!」

 

身体がびくっと跳ねた。脇腹は弱い。昔からくすぐったい場所だ。

椅子の上で身をよじる。でも——逃げきれない。

結城君の指は追いかけてくる。

 

「ふーん、先生、脇腹弱いんですね」

 

観察するような声。まるで実験データを記録しているみたいに冷静で。

なのに指は止まらない。

 

「ゆっ、結城君……えっと、授業の質問は……」

 

「あ、まだ聞きたいことあるんで。もうちょっとだけ」

 

質問。そう、質問。プリントの質問。

でも今結城君がしているのは質問じゃない——いや、質問ではある。

「くすぐったいですか?」という質問。

 

指が、脇腹から少しずつ上がっていった。

肋骨の上を、一本ずつなぞるように。

 

「ここは?」

 

「……くすぐった……い……」

 

声が小さくなっている。

肋骨の上を指が這うたびに、くすぐったさとは少し違う何かが混じり始めていた。

指の行き先が——胸に近づいている。

 

ティアーユの頭の中で、微かな警報が鳴った。

注意しなきゃ。今ここで「やめて」と言わなきゃ。

 

「あの、結城君——」

 

「ここは?」

 

指が、胸の側面に触れた。

 

Iカップの柔らかな膨らみの、一番外側。

ブラウスとブラジャーを通して、指先の圧力が伝わってくる。

 

「っ——」

 

声が出なかった。

注意しようとした。「結城君、そこは」と言おうとした。

でも指が——胸の側面を、するりと撫でた。

 

自分の胸が大きいことは、分かっている。

分かっているというか——日常のあらゆる場面で思い知らされている。

立った姿勢で足元が見えない。実験器具を並べる時、自分の胸が邪魔をして真下の机が確認できない。階段を降りる時、つま先が胸の陰に隠れてしまうから、いつも少し身体を傾ける。

肩が凝る。慢性的に。朝起きた時から重い。ブラジャーの肩紐が食い込んで、赤い跡がいつもついている。

服を選ぶのも一苦労だ。普通のブラウスではボタンの隙間が開いてしまうし、白衣を着ても前が閉まらないことがある。

——こんなもの、ないほうがいい。何度そう思ったか分からない。

 

その胸に、今、人の指が触れている。

 

くすぐったい。

くすぐったいのだと思う。たぶん。

でも——お腹の底に、じんわりと熱いものが生まれた。

 

「先生、くすぐったかったですか?」

 

質問。また質問。

質問で遮ってくる。注意の言葉を、質問で封じてくる。

「くすぐったかったですか?」と聞かれたら——答えなければならない気がする。

教師だから。質問には答えるのが仕事だから。

 

「……くすぐった……かった……」

 

答えてしまった。

声が震えていた。自分でも分かった。

 

結城君の手が——変わった。

指先で触れていたのが、掌に。

Iカップの膨らみの下に手を滑り込ませて、持ち上げるように。

 

「先生って、すごいですよね」

 

「え……?」

 

「いや、純粋に。こんなに大きいんだなって」

 

掌が、膨らみの重さを確かめるように、ゆっくりと持ち上げた。

ぷるん、と。手の上で胸が揺れた。

ブラウス越しに伝わる体温。結城君の掌が、胸の丸みに沿って形を確かめている。

まるで——果物の熟れ具合を見るみたいに、当たり前の動作で。

 

——軽い。

持ち上げられた瞬間、胸が軽くなった。

いつも重力に引っ張られて、肩紐に食い込んで、背中を丸くさせていたあの重さが——結城君の掌に預けられて、ふわりと消えた。

誰にも持ち上げてもらったことがない。当たり前だ。誰にも触らせたことがない。

この胸は、ティアーユにとって「不便なもの」でしかなかった。

走れば痛い。うつ伏せでは眠れない。可愛い下着はサイズがない。白衣のボタンが飛んだことが三回ある。

そんな——厄介でしかないものを、結城君は「すごい」と言った。

嫌味でもからかいでもなく——純粋に、感心した声で。

 

ティアーユは——何も言わなかった。

 

言わなかった。

 

なぜか。

 

分からない。

いや——分かっている。

結城君の声が、あまりにも自然だったからだ。

「すごいですよね」と。褒めているのか、感心しているのか。

性的な含みが——なかったように聞こえた。

聞こえてしまった。

そして——胸を持ち上げてもらった時の、あの、ふわりと重さから解放される感覚が——気持ちよかった。

気持ちよかったのだと、認めたくなかった。

 

ティアーユの頭の中で、「これは胸を触られている」という認識が——正しく結ばなかった。

くすぐったいかどうかの検証の延長。身体の話。大きさの話。

生物の先生だから、身体のことを聞かれている——そういう処理が、おっとりした脳の中で勝手に行われてしまった。

 

結城君の手が、もう片方の胸にも移った。

同じように持ち上げて、重さを比べるように。

 

「左右で微妙に違うんですね」

 

「あ……うん、人間の身体は左右対称じゃないから……個体差があるのは普通で……」

 

答えていた。

生物の教師として。質問に。

胸を触られながら——自分の胸についての講義をしていた。

 

結城君の指が、胸の側面から少しだけ内側に移動した。

膨らみのカーブに沿って。ゆっくりと。

 

「ここも?」

 

「っ……う……ん……」

 

頷いてしまった。

頷きながら——肩が、僅かに震えていた。

 

指が、胸の頂点に近づいていく。

ブラウスの上から。ブラジャーの上から。

二枚の布を挟んで——指先が、乳首のすぐ横を通過した。

 

「——っ!」

 

ティアーユの身体が、びくっと跳ねた。

触れていない。乳首には触れていない。横を通過しただけ。

なのに——乳首が、勝手に硬くなっていた。

 

ブラウスの薄い生地の上から、ブラジャー越しに——小さな突起が主張し始めている。

ティアーユは自分の胸を見下ろした。

 

見えてしまっている。

ブラウスの上から、ぷっくりと盛り上がった二つの点が——。

 

(やだ……)

 

腕で隠そうとした。

その腕を——結城君の手が、やんわりと押さえた。

 

「先生」

 

「……っ」

 

「この突起、なんだろう」

 

白々しい声だった。

知っているくせに。分かっているくせに。

結城君の人差し指が——ブラウスの上から、勃ち上がった乳首に触れた。

 

こりっ。

 

「ぃっ——!」

 

声が漏れた。

高い声。自分の声じゃないみたいな——甘い、声。

 

指先が乳首の先端を捉えている。ブラウスとブラジャー越しに、つまむように。

 

「硬くなってる。なんの反応ですか、先生」

 

「ゆっ、結城くっ——やめっ——」

 

注意しようとした。

「やめなさい」と。教師の声で。厳しい声で。

 

——出なかった。

 

声が、途中で折れた。

「やめ」の先が出てこない。

それは怒りの声ではなく——困惑の声だった。

 

結城君の指が、乳首をつまんだ。

 

きゅっ。

 

「いたっ……!」

 

痛い。

痛い——はずだ。つねられたのだから。

実際に、ぴりっとした痛みが乳首から脳に走った。

 

なのに。

 

声が——「いたい」だけではなかった。

「いたっ」の語尾が、微かに——震えていた。

痛みの中に、別の何かが混じっていた。

甘くて、熱くて、お腹の底がきゅっと縮むような——。

 

ティアーユは自分の声に驚いた。

 

(今の……なに……?)

 

結城君の指が、乳首をくりくりと転がした。

ブラウス越しに。布の摩擦が加わって、刺激が増す。

 

「先生、これくすぐったいですか? それとも痛いですか?」

 

また質問。

質問で注意を封じる。答えさせる。答えたら——もう「やめて」を言うタイミングがなくなる。

 

「っ……い、痛い……痛いから、やめ——」

 

「痛い? ごめんなさい」

 

指が離れた。

 

一瞬だけ。

 

そしてもう一度——今度は反対側の乳首を、きゅっとつまんだ。

 

「こっちも痛いですか?」

 

「ぁっ——!」

 

今度の声は——痛みだけじゃなかった。

甘い。はっきりと、甘い声が混じっていた。

 

ティアーユは自分の口を手で押さえた。

今の声を、自分が出したのだと信じたくなかった。

 

結城君の目が——一瞬だけ、光った。

光ったように見えた。

獲物を見つけた時の——。

 

(違う。そんな目じゃない。結城君は、ただの——)

 

         *

 

ティアーユの心臓が、こめかみの辺りで暴れていた。

 

結城君の指が、まだ胸の近くにある。

離れてはいるけれど、いつでも触れられる距離。

 

(言わなきゃ)

 

今ここで、はっきり言わなければ。

教師として。大人として。

「こういうことはやめなさい」と。

 

——でも「やめなさい」は強すぎる。

 

結城君が傷つく。

結城君は悪い子じゃない。悪い子じゃないはずだ。

くすぐったいかどうか聞いていただけで。

触ったのは——ちょっとふざけすぎただけで。

それを教師が頭ごなしに叱ったら——。

 

(傷つけてしまう)

 

ティアーユの中で、それが最も大きな恐怖だった。

相手を傷つけること。

自分の言葉で誰かが傷つくこと。

 

それは——ヤミちゃんのことがあるから。

わたしの存在が、誰かを傷つけた。

だからもう、これ以上——誰も。

 

ティアーユは、意を決した。

 

右手を伸ばした。

結城君の左手を——握った。

 

「結城君」

 

声が、震えていた。

自信なんてなかった。教師としての威厳もなかった。

ただ、一人のおっとりした女が、精一杯の勇気を振り絞って。

 

「……こういうことは、やめようね……?」

 

語尾が上がった。

命令ではなく——お願い。

「やめなさい」ではなく、「やめようね」。

 

ティアーユの手が、結城君の手を握っている。

強く。自分でも驚くほど強く。

注意しているのに——手を離せない。

離す理由がない。いや、離すべきだ。注意しているのだから。手を握る必要なんてない。

 

なのに——指が、結城君の手に絡みついている。

 

結城君の顔を、ティアーユは見上げた。

椅子に座っているティアーユと、立っている結城君。目線の位置が違う。

 

結城君の唇が、一瞬だけ——弧を描いた。

 

にやり。

 

ほんの一瞬。まばたきしたら見逃すくらいの。

唇の端が、ほんの僅かに持ち上がった。

 

——見えた。

見えた、はず。

でも次の瞬間には、もう消えていた。

 

「すみません、先生」

 

結城君の声が——変わった。

さっきまでの、実験的で冷静で計算された声じゃない。

いつもの。爽やかで、少し申し訳なさそうな。いい子の声。

 

「ふざけすぎました。ごめんなさい」

 

頭を下げた。

綺麗なお辞儀。角度も深さも完璧。

反省している生徒の模範のような姿勢。

 

「あ……う、ううん、いいの……ふざけてただけよね……」

 

ティアーユは慌てて首を振った。

許してしまった。即座に。反射的に。

 

謝られたから。

謝られたら——許すしかないではないか。

反省しているのに追い打ちをかけたら、それこそ結城君が傷つく。

 

「大丈夫、気にしないで。でも、その……もうしないでね?」

 

「はい、もちろん。本当にすみませんでした」

 

結城君が微笑んだ。

爽やかに。まっすぐに。反省して、心から申し訳なく思っています、という顔で。

 

——セクハラなど、最初からなかったかのような空気が、生物準備室を満たした。

 

ティアーユは気づいた。

自分がまだ結城君の手を握っていることに。

 

「あっ——ご、ごめんなさい……手……」

 

慌てて離そうとした。

指が——一瞬、離れたくなさそうに絡まった。

自分の指が。結城君のじゃない。自分の指が。

 

ぱっ、と手を放した。

椅子の上で、ティアーユは膝の上に両手を乗せた。

 

結城君がプリントを畳んで、鞄にしまった。

 

「先生、ありがとうございました。減数分裂、よく分かりました」

 

「え、ええ……いつでも聞いてね……」

 

「じゃ」

 

結城君が背を向けた。

ドアに向かって歩いていく。

制服の背中。まっすぐな背筋。何事もなかった歩き方。

 

ドアノブに手をかけた。

 

振り返った。

 

「先生」

 

「……なに?」

 

「手、あったかかったです」

 

にこっ、と笑った。

 

ドアが閉まった。

 

足音が遠ざかっていく。

廊下の奥へ。

静かになっていく。

 

ティアーユは——椅子に座ったまま、動けなかった。

 

両手を、胸の前で組んだ。

さっきまで結城君を握っていた右手が——まだ温かい。

 

心臓が、どくどくと鳴っている。

乳首が、まだ硬いままだった。

ブラウスの上から、ぷっくりと突起が見えている。

 

ティアーユは両腕で胸を抱え込むようにして、椅子の上で身体を丸めた。

 

(何だったの……今の……)

 

分からない。

分からないけれど——ひとつだけ、確かなことがある。

 

「やめようね」と言った。

結城君は「すみません」と謝った。

もうしないと言った。

 

解決した。はずだ。

 

なのに——ティアーユの右手は、まだ結城君の手の温度を覚えている。

握った感触を。指の形を。

 

「……大丈夫」

 

ティアーユは自分に言い聞かせた。

 

「大丈夫。もう終わったんだから」

 

赤ペンを拾い上げた。

採点の続き。八枚目の答案。

 

文字が——滲んで見えた。

 

目が潤んでいた。

泣いているわけじゃない。泣く理由がない。

ただ——何かが、胸の奥で詰まっている。

名前のつけられない感情が。

 

ティアーユは目を拭って、採点を続けた。

 

丸。三角。丸。丸。

 

窓の外で、午後の陽が傾き始めていた。

 




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