ラ・ピュセル生存記録 ―その後のボクとリップルとスノーホワイトと― 作:神谷萌
「こうして見ると、恥ずかしい、ね……」
「…………」
お互いに一糸まとわぬ姿で、向かい合って立っている。
恥ずかしさを顕わにしつつも、なんとか照れくさそうに言葉を発したのはラ・ピュセルの方だった。
リップルは、ラ・ピュセルの方を直視できず、視線を伏せるように逸らしてしまっていた。
── 年下相手に何やってるんだろう、私……
一線を越えたい、と言い出したのはリップルの方だった。
とある平日。
貴重な昼休みだと言うのに、また複数の女生徒が、華乃を取り囲んで校舎裏に連れ出した。
「夕凪君を返してよ!」
── またか。
華乃はうんざりする。自身の中学時代から数えて何度目だ。
「私に言われても、そんなの知った事じゃない」
勝手に熱を上げているのは男の方。自分はそもそも興味がない……──── いや?
「アンタの方からちょっかいかけてないんだったら、誰がアンタみたいな片目女、相手にするっていうのよ!」
訴えてきた本人ではない、善意のつもりなのか、それとも他人の不満に自身の悪意の転嫁しているのか、そんな第三者気取りのうちの1人が言った。
「…………」
「ちょっと、なんか言ったらどうなのよ!?」
いつもならここでなにか言い返しているか、場合によっては手が出ていた。
それが、今日は ──── 背筋が薄ら寒くなって、ゴクリ、と喉を鳴らす。
誰それを返して、と言ってきた本人を凝視する。
「なんなのよ、その顔は」
その声で、我に返った。
「気持ちは少し解る」
「は?」
華乃が言った言葉に、相手の表情が意外そうなものになる。
「でも、私じゃどうしようもないのも確か」
華乃が言うと、第三者気取りが苛ついた様子を見せる。
「はっ、結局いつもそんな感じで気取っちゃってさ。そこに顔に傷までついて、『私可哀そうなんですー』ってか」
「そんなんじゃない。私も迷惑してる」
「迷惑って……それがいい気になってるって言ってんのよ!」
言われて、華乃は、面倒くさそうにしつつ、前髪を手でクシャッとする仕種をしてから、
「迷惑なものは迷惑なの。私ちゃんと付き合ってるヒトいるから」
「は!?」
今までの華乃の反応とは違う答えを聞いて、相手が意外そうな顔をする。
「じゃあ、後はいいでしょ」
そう言って、華乃はその場から離れようとする。
「あ! わかった、パパ活とかやってるんでしょ!」
背後から指弾するようにそう言われて、華乃はしかし、今までのような激昂ではなく、疲労感を覚えてため息を吐いた。
そして、軽く相手を振り返り、
「年下」
と、短く言う。
「は?」
「でも同級の男なんかよりよっぽどしっかりしてる。だから同級には興味ない」
呆気にとられている相手に対し、口元で薄く笑ってそう言った。
華乃にとって、1人の相手にそこまで必死になるというのは、今までは理解できなかった感情だったが、今は理解できる気がした。
ただ、それが逆に、やはり今までは感じた事のない不安を掻き立ててきた。
── あいつがいなくなったら、私はどうなっちゃうんだろう。
そもそも、スノーホワイト、小雪というライバルと言うか、リスクファクターがあるのは確かだ。
ただ、それはあまり重要に感じない。
本当に怖く感じたのは、
『本当に、ラ・ピュセル自身が、どこからもいなくなってしまったら』
──── だった。
だから、 ──── 相手にとって決して良くない事だと解っていて、求めた。
繋ぎ止めておきたい、存在している事を感じさせて欲しい。その欲求が止められなかった。
自宅に呼び出して ────
「一線を越える、って……?」
当然と言うか、最初は恥ずかしくて迂遠な表現をしたが、ラ・ピュセルには通じなかった。
「だから!」
華乃は、顔を真っ赤にしつつ、恥ずかしさを振り切って言う。
「エッチな事! セックスよ!!」
「え」
ラ・ピュセルは、一瞬固まる。
それから、自身も顔を真っ赤にして、驚愕の声を出した。
「えぇえぇぇぇ~!?」
──────── そして話は冒頭に戻る。
リップルは伏せがちになってしまう視線をなんとか上げて、相手を見る。
当然、目の前にあるのはラ・ピュセルの ──── 起伏に富んだ女性の肢体。
視覚情報と感情的な感覚に齟齬が生じて、少し混乱する。これは同性愛なのだろうか、異性愛なのだろうか。
「えっ、と、どうすればいい?」
頬を紅潮させつつも、リップルよりも明らかに余裕がありそうな様子で苦笑したまま、ラ・ピュセルは訊く。
「え、えっと、その……」
訊かれたリップルの方も、何からどうしたらいいのか解らず、言葉が詰まってしまう。
すると。
「じゃあ、ボクがしてあげて……いい?」
「えっ?」
ラ・ピュセルの想定外の言葉に、リップルは反射的には訊き返すような言葉を出してしまったが、
「う、うん、してくれて、いい」
と、顔を紅潮させたまま肯定した。
「じゃあ……」
ラ・ピュセルはそう言って、リップルに近付いたかと思うと、きゅっと抱きしめてきた。
「最初はほら……リップルが好きなやつ」
家族のぬくもりをほとんど知らないリップルが、度々ラ・ピュセルに求める抱擁。いつもは、体温が感じられて安心する。ただ、今はお互い裸で、今までと違って肌が直接触れ合う。温かいを通り越して、熱く感じた。
すっと力が抜けたところで、女性としては大柄なラ・ピュセルに、リップルは完全に主導権を握られてしまったように感じた。
ままならない物で、華乃とラ・ピュセルなら体格が釣り合うが、魔法少女の身体能力で、変身前の普通の人体に対して力加減を間違えたら壊してしまう。感情の昂ぶる行為をする時に、いつものように力加減ができる保証がない。だから、リップルも変身した状態で事に及んでいる。その為にリップルには若干の圧迫感があった。
ただ、リップルには、今はその圧迫感さえ心地よく感じた。求めている人が、求めてくれる感覚が嬉しかった。
自然と、リップルの方からも腕を伸ばして、ラ・ピュセルに抱きつき返す。
「ん……ちゅ……」
キスをされる。むしろ求め返すように受け入れた。
舌など入れてこない、ラ・ピュセルに相応のキス。ただ、何度も繰り返される。
抱擁とキスをたっぷりと堪能されてしまったところで、
「リップル、布団の上に座って」
と、ラ・ピュセルがリップルに言う。ハッキリとした言葉で言ってしまうところが、ムードを完全に作りきれない未熟さを感じさせる。
リップルは、言われるままに、すとん、と尻を布団の上に下ろすと、
「リップルの身体、触るね?」
と、ラ・ピュセルがそう言って、最初に乳房に触れられた。
男性にイメージするガツガツさのない、揉むのではなく撫でる感じの丁寧な愛撫。
「はぁ……」
リップルは、熱は絡まっているものの、安堵するように息を吐き出す。
── あ、そうなんだ。
リップルは、自分の中から湧いてくる熱に浮かされつつ、それが理解できたような気がした。
家庭環境もあって男性不信気味の、リップル、細波華乃にとって、ラ・ピュセルはその男性に対して嫌悪感を覚える部分をほとんど削ぎ落とした男性、無意識にそのように捉えられていたのだ。
リップルには、同性にも嫌悪感がある。でも同性じゃない。そんな都合のいい存在。
「ラ・ピュセル……」
「え?」
「そんなに、私の事、好き?」
「好きだよ」
即答された。自分が都合のいい相手を束縛しているのならともかく、相手に求められたら拒めない。
「じゃあ……今度は、リップルのここ、触るね?」
そう言うラ・ピュセルは、既に手をその上に置いている。
「ああ」
リップルは、受容の答えを返しつつも、ゴクリ、と喉を鳴らした。
すっ、と、滑らかなラ・ピュセルの指が、リップルの秘裂に優しくもスムースに割って入り、綻ばせる。
「はぁ……はぁ……」
先程と同じ。リップルは行為への熱と安堵感の両方が混ざった息を吐く。
陰唇を指でなぞった後に、すっと膣口の中に侵入させる。
「あ、……ぁ、あ……」
「大丈夫? 痛くないか?」
ここでも、ラ・ピュセルはハッキリとした口調で聞く。
「痛くない。気持ちいい」
リップル自身も、思わずそう答えていた。
くちゅくちゅと水音がたつ。リップルがそこを見ると、もう恥ずかしいぐらいに愛液が滴っていた。
気持ちいい、嬉しい、切ない、幸せ、そんな感覚と感情が綯い交ぜになって、リップルの頭の中でぐるぐると渦を巻く。困惑か混乱のようでいて、熱くて心地の良いものだった。
── でも、私ばかり、気持ちよく、なっちゃ……
途切れ途切れにそんな事を考える。
リップルが、ふと気がつくと、性器以外にも熱く感じる部分があった。左脚の太ももから膝のあたりだ。
「あ……」
ラ・ピュセルが、自分の性器をそこに押し付けていた。無意識なのか、敢えて言葉にしていないのか、どちらかは判断がつかなかったが、一緒に気持ちよくなろうとしているように見えた。
自分の熱で息苦しい中、リップルは軽く左膝を動かす。
「ん、ふ……」
ラ・ピュセルの方も、艶めかしい声を漏らした。
リップルが、自分の大事なところを大事な人に弄ばれる感覚に、快感と幸福感を味わっていると、ラ・ピュセルの顔が近づいてきた。
ラ・ピュセルはキスしたがっている。それはリップルのぼんやりした頭でもすぐ解る。自分も欲しい。リップルはそれを受け容れる。
対等とは言えないものの、お互いの性器を刺激しあいながらキスを楽しみあった後、一度、ラ・ピュセルがぎゅ、と、リップルを抱きしめてきた。
「ん、何を……」
ぼんやりとした頭で、リップルが訊ねると、
「任せて」
と、ラ・ピュセルはまだ余裕があるように言う。
そのまま体位を入れ替えられ、布団の上で、リップルが背中からラ・ピュセルに抱えられる姿勢になった。先程より脚を大きく開かせられる。
リップルは、不公平だと感じたが、文句として言葉に出す意志には至らなかった。
「ほら……これ……」
ラ・ピュセルはそう言うと、人差し指でリップルの陰核を上下に擦るように刺激しながら、中指と親指で尿道口の周りを強めに押しながら擦る。
「ひゃっ、ふぁ! ひゃう!!」
リップルは、何度も声を出す。
「これ……気持ちいい?」
ラ・ピュセルは耳元に問いかけてくるが、リップルは、息と嬌声を漏らしながら、ようやく何度か頷いて、肯定の答えを返した。刺激は強すぎるが、気持ちいい。やめてほしいとは思わない。
「これね、男の気持ちよさにちょっと近いんだよね」
ラ・ピュセルはいたずらっぽくそんな事を言ってくる。どっちの身体も経験した上での行為とか、反則だ、リップルはそうも思ったが、快感と多幸感が強すぎて言葉にできない。
「ひゃっ、ひゃう、ひゃんっ……あ、ぁ、ひぁっ!!」
リップルの身体が強張る。女性のオーガズムを登らされ、その頂点で潮を激しく飛ばした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
余韻も深い。リップルは、とろん、として、背後のラ・ピュセルに体重を預けていた。
「最後、ちょっと乱暴だった?」
少し慌てたかのような様子で、ラ・ピュセルが訊く。
リップルは、ふるふる、と首を横に振る。
「気持ちよかった。それに、すごく幸せ……」
リップルがそう答えると、ラ・ピュセルは、ほっ、と安堵した様子を見せる。
「ラ・ピュセル」
「うん?」
── ずっと、一緒にいてね。
リップルはそう言おうとして、言えなかった。
その代わりに伝えられた言葉は ────
「私を好きになってくれて、ありがとう」
「リップル」
情事に使った、以前からの煎餅布団を部屋の端に寄せ、ラ・ピュセルが泊まり込むのに買った、高いとは言えない
「その……何かあったの? また学校で友達と喧嘩した……とか」
ラ・ピュセルは、あくまで心配していった言葉だったが、
「スノーホワイトか、お前は」
「どういう意味かな?」
と、妙な返しをされて、茶化されてしまう。
「確かに嫌なことはあったけど、今もう解消したから」
「え、大丈夫なの?」
リップルの言葉に、ラ・ピュセルは訊き返すが、
「大丈夫なの」
と、リップルはそう言いながらラ・ピュセルの腕に抱きつき、彼女にとっては貴重な笑顔を見せた。
子供っぽい反応がラ・ピュセルっぽくないんだけど、
だからっつって大人びらせると年齢設定逸脱するし、
思ったより大変だった。
本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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