ラ・ピュセル生存記録 ―その後のボクとリップルとスノーホワイトと― 作:神谷萌
本章は拙作本編の更にIFの話です。
原作とも微妙に違いますし、
拙作本編のその後が必ずここにつながるというものでもありません。
あとそのうちエッッシーン書きますが今回はないです。
異伝 01
痛みがあったのかはよく解らない。
でも、何が起きたのかは解った。
リップルの投げたクナイが、
── ああ、終わるのか。
悲しくもない。
安らぎもない。
ただ、目の前で、リップルが、私と出会ってからずっと無表情だったリップルが、泣きながら、笑いながら、私の身体を何度も刀で刺していた。
それが、最期の光景だった。
死んだはずの私は、ふっと目を覚ました。
「…………あれ?」
そこは、 …………別に見慣れない場所じゃない。
むしろ、見慣れていなければならない光景だった。
なんてことはない、
私は、そのベンチに横になっていた。
身を起こす。
別に寄り付かなかった場所でもない。つい最近も通りかかったばかりだ。
なのに、なぜかひどく懐かしく感じた。
もう来れないはずの場所だからだろうか。
だからといって、別に感無量になるとか、そう言うわけでもなかった。
── とりあえず、どうしよう。
最初に考えたのは、それだった。
魔法の国の誰かと、連絡を取るべきか。
あるいは一旦、自宅に帰ろうか。
そう考えていると ────
「あなた、誰?」
妙に聞き覚えのあるような無いような声で、後ろから声をかけられた。
後頭部のすぐ側に、何かしらの武器を突きつけられている気配を感じた。
私は、傍らにあった『ルーラ』を手に取り、自分も戦う構えを取ろうとして振り返って ────
「え?」
一瞬、思考が停止した。
酷く間の抜けた顔をしていたと思う。
目の前にいたのは、 ──── 私だった。
魔法少女スノーホワイトが
「あなた、どうして私と同じ姿をしているの? それに、その槍はそうちゃんが持ってたはず」
スノーホワイトが、『ルーラ』とはまた別種の長柄の武器を持って、怒りと疑念の視線を私に向けている。
私は別に喜怒哀楽をなくしたわけじゃない。けれど、これほど視線に感情を込めて相手を見ることが、ここしばらくはあっただろうか。
それに、今 ────
「あなたこそ、誰?」
私は訊き返す。
本来なら警戒しなければならない状況。なのに、今はルーラを構える事もできず、突っ立ったまま訊き返した。
「…………え」
私の質問に答える前に、
「あなた、私、どういう事……?」
── ああ、そうか。
「それに、そうちゃんが死んだって……」
彼女の “声” が聞こえる。
「生きて……るんだ……────」
ただし ────
「── ラ・ピュセルの姿で」
私がそれを言うと、彼女は更に目を
「私、なんだ」
「うん。そうみたい」
彼女の問いかけに、私は素直にそう答えた。
確か、並行世界に干渉したり行き来したりする魔法は存在するって聞いた事がある。
「別の世界から、来たんだね」
私と同じ考えに至ったのか、彼女はそう訊いてきた。
「うん」
私はシンプルに答える。
「私の世界では、そうちゃんは交通事故で死んだ」
「本当はクラムベリーと戦ったからだけど」
私が言ったら、彼女はすぐにそう言ってきた。
私の “声” を読んだからじゃない。彼女の中の記憶でもそうなってる。
「でも、この世界では命だけは助かった。そうちゃんの姿はなくなってしまって、ずっとラ・ピュセルの姿でいる事になったけど、とにかく生きてる」
彼女は、冷静な様子で説明してくる。
「会いたい?」
「うん」
彼女に問われて、私は即答した。
── 会いたいよ。
たとえ並行世界の
たとえずっとラ・ピュセルの姿だったとしても。
「あなたには、辛いかも知れないよ?」
その理由が、彼女の “声” になって聞こえてきた。
「それでも会いたい?」
「うん」
彼女の問いに、私はまた即答した。
「解った。じゃあ、連れて行ってあげる」
お互い変身を解いた。
ただ、私の世界と違って、リップルの家はアパートじゃないみたいだ。
とても古くて小さな家。
「あれ、今いない……のかな?」
その、庭と言えるかわからない、敷地の中で掃き出しの窓に沿った小さなスペースを覗き込んで、彼女は呟いた。
「どうする?」
彼女が問いかけてくる。
── 待ちたいな。
そう思っていると、私達が来た方角と反対側から、1台の、レトロな軽自動車が走ってきた。
小さな家の玄関の前で、停まった。
運転席から、背が高くてスラッとした女性が降りてきた。
「あれ……リップル……」
私の世界と同じように、左眼に深い傷がある。
でも、左腕はある。
何より、笑顔だった。
私は、リップルのあんな自然な笑顔を見た覚えがない。
そして、助手席から ────
「あ、あ……あ……」
この時の私、周囲から見たら、凄く間の抜けた顔をしていたと思う。
クルマの後ろから、2人でスーパーの袋を持って、家の中に運び込もうとしていた。
玄関の扉が開いて、一度2人が入って、荷物を下ろして、また出てくる。
──── そこが、限界だった。
「そうちゃん!」
「あっ!」
彼女が止める声は聞こえたけど、もう止まれなかった。
私はラ・ピュセルに抱きついていた。
「なっ、小雪!?」
戸惑っている声。 ──── 聞きたかった。
「そうちゃん! そうちゃん! そうちゃん!! 会いたかった、会いたかったよ!! そうちゃん!!」
「並行世界から、来たんだ……」
「うん」
ラ・ピュセルの、また半信半疑っていう感じの言い方に、私は答える。
家の中に入れてもらって、部屋の中で私達は話した。
その間、私はずっとそうちゃんの ──── ラ・ピュセルの胸に顔を埋めるようにして抱きついていた。
「あの、ごめんね、華乃。私が連れてきちゃったから……」
“この世界の私” が、困ったようにリップルに言っている。
「気にしないで。他の誰かならともかく、小雪だし」
リップルはそう言ってくれた。
変身を解いているから、リップルの本心は解らない。でも、それが解ったとしても、今、ラ・ピュセルから ──── そうちゃんから離れるなんて無理だった。
リップルは、怒るどころか、私の背中を優しくさすってくれていた。
私は一気に話した。私の世界ではそうちゃんが死んじゃったこと、最初の “ゲーム” で知り合った魔法少女は私とリップル以外死んだこと、最低で変態な師匠に一時期仕えていたこと、それからは悲劇が起きないように、決断できる自分になろうとしたこと、その結果 “魔法少女狩り” なんて呼ばれるようになったこと、魔法の国の闘争に巻き込まれたこと、そこまでしても、救おうとしても救おうとしても周りで魔法少女がどんどん死んでいくこと……────
「そっか、ボク死んじゃったのか。うん ──── あれで助かったのが奇跡だってずっと思ってたけど、やっぱりそうなんだな。でも、死んじゃったら、小雪も華乃も助けてあげられないよな」
ラ・ピュセルは、自分が死んだ、って言われて、困ったようにしてるけど、穏やかな声を私に聞かせてくれる。
ずっと聞きたかった……この声……
岸辺颯太の姿じゃない。でも、短い間でも私を無条件に安心させてくれたラ・ピュセルの姿。
「トップスピードも、死んだ……」
リップルが呆然としたように言っているのが聞こえた。
この世界の話も聞いた。ファヴとクラムベリーの “ゲーム” では、今ここにいる3人の他に、トップスピードも右腕を
この世界の魔法の国は、私のいた世界よりずっと平穏みたいだった。ずるい。そう思った。誰より一番、 “この世界の私” に嫉妬した。 “魔法少女狩り” にならずに済んだ、スノーホワイト、姫河小雪に。
「でも」
そこで、ラ・ピュセルの顔が曇った。
「ボクは直接殺してる。魔法少女や魔法使いを何人か。リップルにも手伝わせて」
ああ、そうなんだ。
やっぱり、何もかも都合よくなんていかないんだ。
キークの “魔法少女育成計画” は、この世界のラ・ピュセル達は知らないらしい。そのものがなかったのか、キークのターゲットになった “クラムベリーの子供達” にたまたまラ・ピュセル達が含まれなかったのかは、解らない。
その代わり……ラ・ピュセルは名深市のマスターになった。つまりクラムベリーの後任になった。
それも仕組まれたことだった。名深市を実験場にするための。
その事件で、ラ・ピュセルは何人かの魔法少女を殺した。それでも、私にとってのキークの事件より多くの魔法少女を救った。
ただ、その中で1人だけ、 ──── その事件の最初、つまりカラミティ・メアリの次に殺すことになった魔法少女のことは今でも忘れられない、って言う。
「クラムベリーの “ゲーム” で、家族全員を失ったっていう子だった。…………早くに亡くしてた父親以外、全員が魔法少女にされたんだ」
その子が魔法少女として生き残っていた、という事は、つまり……────
「助けてあげたかった。もとに戻してあげたかった。でもだめだった。心が完全に壊れきってた。会話もできなかった。少しでも、言葉の欠片だけでもクラムベリーと共通点のある相手を無差別に殺すようになってた。結局その子にできたのは、殺して
カラミティ・メアリやそれ以降の悪辣な相手と違って、相手を憎みきることも、悪と断じきることもできないまま殺した。そのことはずっと、ラ・ピュセルの ──── そうちゃんの心の傷になっていた。
「この時にはリップルにも手伝ってもらった。その子の魔法はボクとすごく相性が悪かったから……」
「大丈夫、私はその前からあなたの “共犯者”」
ああ、いいな。リップル。
“共犯者”。
中学生の私が憧れてた “お姫様と守る騎士” じゃなくて、お互い同じ場所に立ってる関係。
私の世界でも、あの時の私がリップルほど強ければ、 ──── いっそ、最初から隣にいたのが私じゃなくてリップルだったら、そうちゃんは死なずに済んだかも知れない。
「その次に、魔法少女の連続失踪事件が起きてね」
私と違ってラ・ピュセルは人事部門の下にいた。だから本来その捜査は管轄外だった。だけどラ・ピュセルが名深市のマスターになってから担当した魔法少女が何人か巻き込まれたことで、黙っていられず介入した。
「その時の主犯も殺したよ。ただ、さっきの子の傷を引きずってた時期だから、もう名前も忘れちゃった。ただ、ボクの髪の毛でおびき出せる気持ち悪いやつだったってことは覚えてる」
…………名前が出なくても誰の事だか解った。そっか、最初に殺したんだ。この世界の魔法の国が私の世界より平穏なのは、ただの偶然じゃなかった。あの人がいなければ、私が見舞われた事件の半分ほどは起きていない。私もそうしておけばよかった。殺さないまでも、再起不能に。
「ボクは名深市のマスターでいられればよくて、それ以上は魔法の国の機関に深入りしていないから、なにか揉め事があっても気付いていないだけかも知れないけどね」
ラ・ピュセルは、気休めでも本心でもある声をかけてくれた。
それでもラ・ピュセルはヒーローだと思った。 “魔法少女狩り” なんて悪意ある二つ名をつけられて、なおぼろぼろと指の隙間から救いたい命をこぼしていった私とは大違いだ。
「──────── 小雪、これからどうする?」
ラ・ピュセルは、あくまで優しい声で訊いてきた。
「元の世界に戻れる方法を探す? 失踪事件の時のツテから頼んでみようか」
「やだ」
私を気遣って言ってくれたことを、私は即答で否定した。
「やだ! やだ! もうやだ!! 戻りたくない! 帰りたくない!! この先ずっと “魔法少女狩り” なんかでいたくない! あんな世界! どうなったっていい!! なんで、そうちゃんもアリスも朱理ちゃんもいない世界のために命かけなきゃならないの!? 痛い思いしなきゃならないの!? 辛い思いしなきゃならないの!!!? もう知らない! みんなどうでもいい!! この世界で暮らしたい! そうちゃんのいる世界で暮らしたい!!」
止まらない言葉になって一気に出た。そして、子どもみたいにわぁわぁと声を上げて泣いた。こんな泣き方、ずっとしてなかった。することもないと思っていたのに、止まらなかった。
「あの、この世界のそうちゃんは……────」
「知ってる! 解ってる!! この世界のそうちゃんはリップルのものだって」
困ったような “この世界の私” に、私は泣きながら言い返す。
「それでもいい! むしろそれがいい!! そうちゃんとリップルが仲良くしているところを見ていたい! あんな世界に比べたら、2人が生きて幸せでいる世界の方がいい!!」
「わかった。匿ってあげる。別の世界から来た小雪でも、これ以上辛い目に遭わせたくない。戸籍がいるけど、ボクが両親に土下座してなにか手を考えてもらう」
やっぱり、ラ・ピュセルはスーパーヒーローだ。誰かを殺してでも何十人も救ったヒーローは、自分の手を汚さないだけで何百人と殺してきた私も助けると言ってくれた。
「もう泣かないで、小雪。大丈夫だから」
大丈夫。大丈夫。ラ・ピュセルが言うんだから、もう、絶対大丈夫 ────────
pixivの某氏の作品にリスペクトを受けたことを白状しておきます。
女を助けるヤツの正装だぜ。
【挿絵表示】
覚書
SS20型 初代 スズキ セルボ
本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』
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