ラ・ピュセル生存記録 ―その後のボクとリップルとスノーホワイトと― 作:神谷萌
えっちシーンなしです
今回説明回臭いので、
多分読み飛ばしても大丈夫じゃねぇかなと思います。
(重要なのは華乃がクルマ弄ってるあたりぐらい)
『誰より強いラ・ピュセルがいいの!!!!』
『ボクがそんなに強いとは思わないけど……』
嘘つき。
ムチャクチャ強いじゃん。
「何してるの?」
週末。
リップル……華乃がセルボの後ろの部分を開けて、なにかやってた。
エンジン? 自動車のエンジンって前についてるものだと思ってた。あ、でもバスとかは後ろか。
華乃は手に、なにか円筒形の缶と、漏斗を持ってる。
私は洋間の掃き出しの窓に腰掛けて、それを見てた。
「オイルの補充」
華乃は、視線はセルボの方に向けたまま、短くそう答えてきた。
「クルマのオイルって……それって、お店とかでやってもらうものじゃないの?」
よくわからないけど、お父さんとお母さんがそんな話をしてた気がする。
「普通はね。でもこの子は2ストだから、交換じゃなくて補充。こまめにやってあげないと」
「ふーん」
正直よくわからないまま、ただ返事だけした。
「手伝おうか?」
「すぐ終わるから大丈夫」
私は言ったけど、華乃はリップルらしく短く答えた。
旧いけどボロっちいって感じじゃない。小さい軽自動車だけど、なんだかスポーツカーって感じ。背が高くてスラッとした
「…………」
手持ち無沙汰の私は、マジカルフォンを手にしてた。
匿名のオープンのチャットルームっていうのがあった。私の世界ではどうだったかな。なんかそういうのって覚えてないや。2台目のマジカルフォンを渡された時は、確かに嬉しかったはずなんだけど。
雑談系の部屋に入った。挨拶して、最初は周囲の話題を見ながら、私からも他愛もない話題を振ってた。
「…………」
特に深い考えがあったわけじゃない。ただ、漠然とした意識で、なんとなく入力してた。
『最強の魔法少女って誰だろう?』
まず、
『それって、普通の魔法少女の枠で、ってことでいい?』
と返ってきた。
『うん』
私はそう返す。確かに、三賢人の現身とかだと、無体すぎるし。
私はてっきり、ラピス・ラズリーヌあたりの名前が上がると思ってた。実際、 ──── ブルーベル・キャンディの名前はあがってきた。
でも、それと同じくらいの頻度で、
『ラ・ピュセルじゃない?』
って書き込みがかなり来た。
意外に感じた。でも並んでいる他の名前を見て納得した。
“ラピス・ラズリーヌ” って答える人はあまりいなかった。私の知っている最強格の “ラピス・ラズリーヌ” は、3代目。でも、このチャットでは “ブルーベル・キャンディ” と呼ばれてた。というか、そうとしか呼ばれてなかった。
そうか。2代目が生きてるのか。
…………なんで生きてるのか考えたら、ラ・ピュセルの名前が上がってくる事に理解がいった気がした。きっとラ・ピュセルが助けたからだ。
『ラ・ピュセルってそんなに強いの?』
って私が聞いてみたら、
『アイツのテリトリーで悪さするのは手の込んだ自殺』
『行動範囲狭いくせに、マスターやってるから、どのセクションの誰と繋がってるかわからない。だから上の人達も滅多なことができない』
『相方のリップルが居るのも厄介。2人一緒にいたらまず無理ゲー』
とか返ってきた。
まぁリップルも最強候補の名前にぼちぼち上がってるし、それは納得。
だけど…………「手の込んだ自殺」って、一体なにやったらそう言われるのそうちゃん。
『ステラ・ルルが何度も弟子入り志願してるけど、いつも追い返されてる』
ちょっと待って、あの子も最強格に名前が上がってていいほど強いはずだけど!?
『精神感応系が効かないっていうか、効き方がおかしい。うるるはそれで酷い目にあった』
…………匿名性って知ってる? うるる。
でも、そうか。3年あれば私がすっかり “魔法少女狩り” なんて呼ばれるようになるぐらいだから、元々戦闘型のラ・ピュセルにそれだけの期間があれば、最強格って言われ始めてもおかしくないかも知れない。
…………少し興味が出てきた。
破壊者としての “魔法少女狩り” と呼ばれるのはもう嫌だったけど、それとは別に、強者としての “魔法少女狩り” には自負があるのかも知れない。
模擬戦をお願いした。
「いいの? だって……」
「悪意を込めて呼ばれることと、強さに自信を持つことは別。ラ・ピュセルだってそうでしょ?」
ちょっと戸惑うラ・ピュセルに、私はため息を吐きながらそう返した。
──── それを黒歴史として封印したい。
結論から言います。
手も足も出ませんでした。
そこからでも挽回を図ろうと、間合いを取り直そうとしたら尻尾で弾かれた。
「ごっ、ごめん……大丈夫だった?」
倒れ込んで、一瞬すぐに起き上がれなかった私に、慌てて声をかけてきた。
それと同時に、私は “声” を聞いてしまった。
まだ全然本気を出してない。
本来戦闘向きじゃない私より強いだろうって予測はしてたけど、ここまで一方的だとは思わなかった。
リップルとも手合わせしてもらった。
リップルも私の世界よりずっと強かった。
両腕があるから、ぐらいじゃ説明つかない程には強かった。
これだけは認めたくなかった。
“この世界のスノーホワイト” と、ようやく勝負になった。
それですら、やや向こうが優勢だった。
ラ・ピュセルとリップルが近くにいて、甘ったれてヌクヌクしてただろうと思ってたら大間違いだった。
華乃の家に帰って、洋間で1人になったところで、いろいろと考えた。
本来、私の強みは “勝てる戦術を考える事”。
だから、3人がこうも強い理由を分析してみた。
模擬戦に意義はあったかもしれない。 “声” で、模擬戦の内容以外も知ることができた。
そもそも、私が知ってるラ・ピュセルとは戦い方が全然違った。
私の知ってるラ・ピュセルは、トレードマークの大剣を手にして、騎士や戦国武将の如く名乗りを上げて、それから正面から突進してくるタイプだった。
まずその剣の使い方が違った。あの頃と違って、普通に人間が振り回せるぐらいの大きさを常用にしてあった。
正面から突っ込んでなんかこないし、その前に予告なんかしてこない。
バトルフィールドに入った瞬間に黙って動く。障害物に隠れる。相手の死角を狙って走る。徹底した一撃離脱戦をとる。だから剣もあのサイズなんだ。
自分に選択権のあるフィールドなら、平気でトラップもしかける。
1人でなんとかしようとしない。不利だと思ったら、素直にリップルを呼ぶ。
私の騎士なんて言ってたそうちゃんから徹底的に甘さを抜いた戦士。それがこの世界の、今のラ・ピュセルだった。
でも、それだけじゃ説明つかないことがある。
あの身体能力はどういうこと?
ラ・ピュセルは確かに戦闘型としてポテンシャルが高い方だったけど、素早い方じゃなかったはず。
それが、向こうの世界のリップルを見慣れてる私が、目で追うことも難しかった。
…………
「ああーっ!?」
その事に気がついて、私は思わず声に出してた。
廊下を兼ねている台所の方から、バタバタと音がして、部屋の扉が開けられた。
「どうかしたの!? 大丈夫!?」
「あ、う、うん。ちょっと考え事してただけ」
焦ったような華乃に訊かれて、私は思わず誤魔化した。いや、実際考え事してたのは事実だから、嘘ではないんだけど……
「あまり心配させないで」
華乃はそう言いつつも、安堵のため息を吐いてから、自分の居室の和室に戻っていった。
そりゃ、突然同居人の部屋から大声が聞こえてきたら、びっくりして見に来るよね……
それで、私が気付いたこと。
戦闘型の魔法少女が能力を高めたいなら、できるだけ魔法少女の姿でいるようにするって、どこかで聞いた覚えがある。 …………あの最低の師匠が言ってたんだっけ?
で、こっちのラ・ピュセルは24時間365日ラ・ピュセルのまま。 “本来、変身を解除した状態” で少しだけ身体能力に抑制がかかるけど、それでもビルに跳び乗るなんて簡単にできるぐらい、と言ってた。
だから、日常生活では力をかけすぎたりしないようにしないといけない。ところが本人はそれで “困った” 様子がないし、 “この世界の私” から聞いた限りだと多分無意識にやってる。無自覚なまま常に身体にとんでもない負荷かけてる。
それを3年もやってたら、そりゃ身体能力も上がるなんてもんじゃない。
今のラ・ピュセルだったら、クラムベリーと同格どころか、普通にぶった斬っちゃうんじゃないかな。
リップルと、 “この世界のスノーホワイト” が強いのもこれで説明できる。
元々弱点だった素早さを補うため、リップルに鍛錬してもらってる、とは聞いてた。それは今も続いているとも。
これが、鍛錬する側とされる側が、本人達が知らない間に何度も逆転してるんだ。
ラ・ピュセルとリップルだと、近接型のラ・ピュセルにとって、 “基本が遠隔型だけど近接もできる” リップルは相性悪い。
だからずっと、ラ・ピュセルはリップルの方が強いと思い込んだまま。
本人達が知らない間に、どんどんお互い高めあっていくものだから、リップルも化け物じみてくる。
“この世界のスノーホワイト” にしてもそうだ。
水準として化け物に片足どころか腰まで突っ込んでそうな2人が常にそばにいるから、傍目にも自己評価的にも弱そうに見える。実際2人と比べると一段劣る。でもその “劣る” が充分一流で通用する。
………… “この世界のスノーホワイト” は、積極的に動けるようになりたいと言い出したのは、最初の、ファヴとクラムベリーの “ゲーム” の最中。ラ・ピュセルが動けない時期に、2人分のキャンディーを集めてた。リップル達とチームを組むようになったのはトップスピードから声をかけてもらったからだけど、その頃から自分で動けるようにならないと、と思い始めたんだって言う。
彼女を「ラ・ピュセルとリップルに甘やかされてる弱い子」と見下してたことが恥ずかしい。私は全部失ってからようやく動いて、 “魔法少女狩り” になった。彼女は全部失う前に動いた。 “魔法少女狩り” にならなかったのは、彼女自身の功績もあった。自分自身が違うんだから、その結末だって違う。当たり前だった。
ラ・ピュセルに精神感応系が効かない、変な効き方をする、って件。
これはあくまで私の予測で確証はないけど、言ってた当人のうるるの魔法を考えると、なんとなく想像つく。
うるるの魔法は、対象に自分の言うことを信じ込ませる “嘘をつくのがとても上手いよ”。
この世界の、今のラ・ピュセルに「お前は男だ」って言う。
半分真実で半分嘘になる。
じゃあ「お前は女だ」って言う。
やっぱり、半分真実で半分嘘になる。
本人がこう、自己認識と実態が歪なものだから、「真実でも嘘でもない状態」が自身の中に存在していて、結果うるるの魔法は変なかかり方をする。嘘を信じて笑いながら身体は殴ってた、みたいなことがあったのかも知れない。
プク様あたりも相性悪いだろうな。被害者として扱われても英雄として扱われても、褒められている一方で貶されているように感じそう。これだと相手を尊ぶどころか嫌悪感がどんどん膨らんでいくかも知れない。我慢に我慢を重ねて限界になったところでドカンといって抜剣するんじゃないかなぁ。
何よりタチが悪いのは、ラ・ピュセル本人は自身の現状を肯定的に受け入れている上に前向きだから、こうした “認知の空白帯” が存在していることが外部からわからないこと。
ただ、逆に思考自体は正常だから、精神感応系でも私のように受け手、相手の思考を読み取るタイプの魔法は、普通に効く。
じゃあなんで、当のラ・ピュセルは、
『ボクがそんなに強いとは思わないけど……』
という低い自己評価なのか。
これは、「だいたいクラムベリーのせい」で説明できる。
クラムベリーって、実力から言うと上澄みの部類に入る。たぶん今の私でも
そのクラムベリーに、この世界のラ・ピュセルは再戦を挑んで、とどめはさせずともほぼ判定勝ちにしていいところまでいった。
そして、私達の世界と同じように、最後はスイムスイム組に殺されてる。
そのスイムスイムは、やっぱりリップルが殺した。
だから、この世界のラ・ピュセル達の認識だと、
「確かに強かったけど、全体からしたら大したことないんじゃないか」
「あいつより強いやつは他にゴロゴロいるんじゃないか」
になる。あるいはそうちゃんの感覚なら、
「4クール構成だと、1クール目は強敵なんだけど、2クール目入ったあたりからギャグ担当になり始める敵キャラ」
というかも知れない。
思考しながら、いろんなメモを大学ノートに書いていると、コンコン、と扉がノックされた。
「なに?」
扉越しに私が訊くと、華乃が少しだけ扉を開けて顔を見せた。
「晩ごはんできた」
「あっ、ごめん! 手伝おうと思ってたのに!」
私は、慌てて立ち上がった。
「なんだか凄く考えてたみたいだから」
華乃は、口元で笑って、そうフォローしてくれる。
「うん、でも私居候だし、多少言って聞かせてもいいよ」
「そう? でもそこまでのことじゃなかったから」
華乃とそう話しながら、私は食卓が用意された和室に移動する。
まいったな。
戦うのはもう嫌だ、っていってこの世界に残ったのに、思ったより自負は強かったらしい。
私ももう一度戦えるようになろう。
ただし、誰も彼も救おうとしない。そんなことをしたから、私は前の世界で “魔法少女狩り” になった。
今度は、ラ・ピュセル、リップル、 “この世界のスノーホワイト” のためだけに戦う。
それなら、きっと誇り高くいられる。
本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』
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