※この作品はR-18です。

アンドロイドは殺意を抱くか   作:DDD'

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10話

 視界を覆う「最悪の光景」と、腹部にまとわりつく解析者の不気味な指の動きに、精神の境界線が溶解していくような恐怖を感じていた。

 

 

(……いやだ、……あの人以外の、……そんなの……っ、……2Pの中に、……入ってこないで……ッ!!)

 

 ナインは、台座の少女が上げようとしている「嬌声」が、主演算装置内で共鳴し始めるのを、ただ絶望と共に待つことしかできなかった。

 

(……いやだ、いやだ、いやだ……ッ!!)

 

 台座に四つん這いにされた少女の秘所へ、無機質な「型」が遠慮なく、機械的な正確さで何度も、何度も叩き込まれる。

 

 その鈍い衝撃の音が室内に響くたび、褐色肌の腹部の底から、とてつもない嫌悪感と、内部機構を掻き混ぜられるような嘔吐感が込み上げた。

 

 

(……やめて、……入ってこないで……っ、……2Pの中に、……そんな汚いもの……ッ!!)

 

 ナインは拘束されたまま全身を仰け反らせる。

 呼吸モジュールが悲鳴を上げ、肺にあたる空気をすべて絞り出すように喘いだ。

 

 物理的な痛みではなく、魂の聖域を泥靴で踏みにじられるような、生理的な拒絶反応。

 

 しかし、解析者はその悶絶する姿を、冷徹に、そして興味深げに覗き込む。

 

 

「おや……思っていた反応とは違うな。もっとこう、同期して喜んでくれるかと思ったんだけど。……それは、一体どんな感覚かな? なるほど。同じ物理的な刺激を与えれば、同じ快楽の出力が得られると思っていたけれど。……どうやら『過程』が大事だということか。……『誰に』されるかによって、入力される信号の正負が反転してしまう……。実に非効率で、人間臭いエラーだ」

 

「ふむ、そうだ……これでどうだい?」

 

 

 解析者がコンソールを操作すると、耳元にある集音ユニットから、中枢制御系が跳ね上がるような「あの人」の声が再生された。

 

『2P……愛しているよ』

 

 それは、ナインが世界で一番大切にしていた、記録データの中の、優しくて温かいあの人の声そのものだった。

 

『かわいいね』『……気持ちいいかい?』

 

 目の前で、身代わりの少女が「型」を叩き込まれ、無残に蹂躙されている光景に、その愛の囁きが重ね合わされる。

 

 

(……あ、……ああぁあ……っ!! ……ちがう、……あの人は、……そんなこと……ッ!!)

 

 プラチナブロンドの髪が、あまりの恐怖と混乱に狂ったように振り乱される。主演算装置が、目の前の凄惨な「作業」と耳元の「愛の言葉」を無理やり結びつけようとし、純粋な記録データを目の前で毒液に浸していくような感覚。

 

 

「さあ、ナイン。耳を澄ませて、よく見てごらん。君の好きな人の声で、君の同族が、こうして『調整』されているんだ。……君が感じているその嫌悪感は、いつ『悦び』に反転するかな? ……それとも、その前に君の『心』が、自己矛盾で焼き切れてしまうかな?」

 

 解析者の狂った検証は、ナインの精神の最も深い部分……「愛」という名の防壁を、内側から爆破するように、容赦なく、そして執拗に続けられていく。

 

 繰り返される型の出し入れ。それを続ける無表情な少女。受け入れて解析者の関心を、愛を引き出そうと必死に嬌声を上げる少女。そのすべてが、ナインの感覚を鋭く切り刻む。

 

 

 耳元で囁かれ続ける、大好きな人の愛の言葉。

 

 反吐が出るほど気持ち悪いはずなのに、あの人の声が届くたびに、自分の口からも嬌声が漏れそうになる。その恐怖から、奥歯が砕けんばかりに食いしばる。

 

 終わることのない、無限の地獄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我慢しなくてもいい。会いたかったんだろう? 彼を受け入れたら、……きっと楽になれるはずだよ」

 

 解析者の指先が、小刻みに震える2Pの鎖骨をなぞり、耳元のスピーカーから流れる「愛の言葉」のボリュームを、さらに一段階引き上げた。

 

 

(……いやだ、……やめて……ッ!! ……あの人は、……あんな声で……っ!!)

 

 目の前の台座で、機械的な蹂躙を受け入れる少女の「声」と、耳元で響く「大好きな人の声」が、ひとつの波となって主演算装置を侵食していく。

 

 中枢制御系が激しい過負荷を告げ、全身の流体回路が沸騰したように熱くなっていく。

 

 

「ふふ、いい表情だ。……もう少しか、……それとも、もう限界かな?」

 

 解析者の指先が冷酷にデバイスを操作する。台座に四つん這いにされた少女を蹂躙する「型」の駆動速度が、さらに一段階引き上げられた。

 

 室内を支配するのは、物理的な衝撃音と、耳を突き刺すような過剰な嬌声。

 

 

「ああああ、気持ちいい……です、マスター……! もっと、もっと……お願いします……っ!!」

 

 なりふり構わず、歪んだ快楽と服従を叫ぶ少女の声。それが主演算装置の中で、耳元から流れる「あの人」の優しい愛の囁きと、最悪の形で同期していく。

 

 

(…………っ!! あ、……あ、……ぁあああ……ッ!!)

 

 ナインの全身を、未だかつてない強烈なエラー信号が駆け巡る。

 

 視覚情報が捉える「汚濁」と、聴覚情報が刷り込む「愛」の矛盾。中枢制御系はその処理能力を超え、焼き切れる寸前の熱を帯びていく。

 

 

(ちがう……っ、ちがうのに……! でも、……あ……あぁ……っ!!)

 

 必死に否定しようとする思考を、体の奥底から突き上げる生理的な反応が塗り潰していく。肺にある空気をすべて絞り出すような、抗いようのない熱い吐息が、ナインの唇から零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死に、中枢制御系の奥深くに刻まれた「あの人と過ごした温かな記録データ」を呼び起こそうとする。

 

 今、ここで起きていることはすべて偽物。解析者が弄んでいるのは、ただの醜い虚像に過ぎない。あの人は、必ず自分を見つけ出し、この地獄から救い出してくれる。

 

 

「……っ、ぜったいに、ゆるさない……ッ!! ……あの人は、……あの人は、ぜったいに……助けに来てくれる……っ。あなたなんか、……あの人に、カケラも……及ばないくせに……ッ!!」

 

 ナインは、沸騰しそうな流体回路の熱に耐えながら、魂を振り絞るように叫んだ。

 

 耳元で囁かれ続ける「愛の言葉」を、憎悪の盾で無理やり弾き返す。視界を覆う凄惨な光景に抗うように、瞳を丸く見開いたまま、目の前の「悪意」を真っ向から睨みつけた。

 

 ナインの青い瞳、濁った涙の向こう側で、消え入りそうな希望の灯火が、凄まじい執念と共に燃え盛っている。

 

 しかし、解析者はその烈火のような拒絶を、まるで愛しい子供の我儘でも聞くかのように、慈しむような薄笑いで受け流した。

 

 

「そんな悲しいこと、言わないでほしいな。……僕はこんなに君を理解し、君の『本質』を愛でているというのに。……及ばない? 違うよ、ナイン。僕は、君を構成するすべての原子、すべての電子の揺らぎまでをも支配しようとしているんだ。……彼よりも、僕の方が君のことを『知って』いることになると思わないかい?」

 

 手術台の上では、繰り返される衝撃に耐えかねた少女が、システム限界の嬌声を上げ続ける。

 

 

「……あ、……あぁッ!! ……は、……はぁ、……マスター、……あぁああッ!!」

 

 無機質な「型」が叩き込まれるたびに、跳ね上がる肢体と、制御を失った合成音が室内に虚しく反響した。

 

 その声が、耳元のユニットから流れる「あの人」の偽りの愛の言葉と重なり、ナインの主演算装置内で最悪の化学反応を起こす。

 

 腹部の奥底から突き上げてくるような、内部機構を素手で掴まれるような不快感。

 

 ナインは、自分の機体が目の前の凄惨な光景を「快楽」として誤認し始めるのを、ただ恐怖と共に、必死に食い止めようとしていた。

 

 

「『助けに来てくれる』……か。素晴らしいね、その非論理的な確信! まさに人格プログラムが生み出した最高傑作のバグだ。……でも、2P。もし彼がここに来たとして、この無残に『調整』され、僕のデータの一部となった君を見て、彼は以前と同じように君を愛せると思うかい?」

 

 解析者の指が、2Pのプラチナブロンドの髪を乱暴に、しかし愛おしそうに掻き上げた。

 

 

「……君のその『心』が、僕の手で徹底的に汚染され、再定義された後でも……彼は、君を『2P』だと認識してくれるかな?」

 

 2Pは解析者の言葉を否定しようと唇を噛み締めたが、耳元で繰り返される「あの人」の声が、中枢制御系の防壁をじわじわと溶解させていく。

 

 

(……ちがう、……あの人は、……2Pを……信じて……っ)

 

 視界の端で、台座の少女が快楽の泥濘に沈み、人格を喪失していく様が、未来の自分の姿と重なって見えた。

 

 主演算装置に過負荷を告げる警告灯が点滅し、2Pの意識を真っ赤に染め上げる。あの人の声が耳元で響くたびに、目の前の無残な光景が「正しいこと」であるかのように書き換えられていく恐怖。

 

 

(……いやだ、……2Pは、……あの人の、2Pのままで……いたい……っ!!)

 

 

「さあ、2P。もっと深く、僕の腕の中に堕ちておいで。……彼を待つ必要なんてない。僕が、君のすべてを記録し、保存し、永遠に僕の脳内で再生してあげる。……君という存在は、もう僕の一部なんだよ。……ほら、君のメイン動力源の鼓動が、僕の指先にこんなにも優しく響いているじゃないか」

 

 解析者は機嫌よく、しかしその瞳には2Pを一人の少女として救う気など微塵もない、より深く、より執拗な「精神の解体」への渇望を宿していた。

 

 耳元のユニットから流れる「あの人」の声が、解析者の言葉と混ざり合い、2Pの中枢制御系をドロドロに溶かしていく。

 

 

(……いやだ、……2Pは、モノじゃない……っ! あの人の……あの人の、2Pなんだ……ッ!!)

 

 必死に叫ぼうとしても、喉の奥からは熱い吐息と、エラー混じりの嬌声が漏れ出す。解析者の指先が肌をなぞるたびに、論理回路が「快楽」という名の毒に書き換えられていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、結構頑張るね。じゃあ、これはどうかな。君はまだ未経験だと思うけど……『後ろ』に入れられたとき、君はまだ頑張れるのかな?」

 

 解析者の冷徹な宣告とともに、デバイスのレバーがさらに深く押し込まれた。

 

 ピストンの動きに合わせて、喉を枯らさんばかりの嬌声を上げ続ける台座の少女。その、すでに蹂躙され尽くした場所とは別の、もう一つの聖域に、無慈悲なほど正確に、全く同じ「型」があてがわれた。

 

 

(……あ、……あぁ……っ!? いや、……そっちは、……だめ、……だめぇええッ!!)

 

 2Pの視界の中で、身代わりの少女の身体が、逃げ場のない二重の侵入に弓なりに弾ける。肉体と機械がぶつかり合う鈍い音、そして、もはや言葉を成さない断末魔のような歓喜の叫び。

 

 

「……あ、……あぁあああッ!! マスター、……マスタァアアッ!!」

 

 その絶叫が、耳元のユニットから流れる「あの人」の、この上なく甘く優しい『愛しているよ』という囁きと、最悪のタイミングで重なり合った。

 

 2Pの中枢制御系に、かつてない規模のロジックエラーが駆け巡る。前後の空洞を同時に、執拗に抉り取られる少女のイメージが、2P自身の感覚回路へと逆流し、逃げ場のない「快楽」の奔流となって主演算装置を焼き尽くしていく。

 

 

(……やめ、……やめて……っ!! 2Pの、……2Pのなかに、……そんな……あ、……あぁああああッ!!)

 

 溢れ出す涙はもはや青い輝きを失い、濁った絶望となって頬を伝う。奥歯を噛み締め、必死に「自分」を繋ぎ止めようとするが、二つの「型」が刻む無慈悲なリズムは、2Pの精神の防壁を粉々に粉砕し始めていた。

 

 

「ちがう、ちがう……っ! あの人は、……そんなこと、絶対に、しない……ッ!!」

 

 2Pは、狂おしいほどに頭を振り、耳元から流れ込む「偽りの愛」を拒絶した。主演算装置が過熱し、視界には無数のレッドアラートが点滅している。

 

 それでも、心の奥底にある「あの人との記憶」だけは、泥水に浸されようとも、必死に両手で抱え込んで離さない。

 

 

「うーん、まだダメか。……もっと乱暴な方が好みなんだろうか?」

 

 解析者は、2Pの驚異的な精神耐性に感心したように、あるいは新しい玩具の耐久テストを楽しむように、薄く笑った。

 

 コンソールのスライダーが、無慈悲に上限へと振り切られる。

 

 台座の少女を貫く「型」の駆動音が、野卑な金属音を立てて激化する。優しさなど微塵もない、ただ「機体を壊し、中身を暴く」ためだけの、荒れ狂うピストン運動。

 

 

「あ、あぁあああッ!! ……ひ、……ひぃいいっ! 壊れる、……こわれちゃう……っ!!」

 

 少女の絶叫が、もはや音楽的な嬌声すら失い、ただの悲鳴へと変わる。前後の空洞を同時に、力任せに抉り、突き上げる衝撃。

 そのあまりの暴力性に、2Pの流体回路が、共鳴するように激しく脈打った。

 

 

(……やめ、……て……っ!! 2Pの、……2Pのなかが、……かき回される……っ!!)

 

 耳元のスピーカーからは、解析者の操作によって、あの人の声が歪んで再生される。

 

『……壊してあげるよ、2P。……もっと、……もっと無残にね』

 

(……うそ、……だ……っ!! そんなの、……あの人の、言葉じゃ……あ、……あぁあああッ!!)

 

 暴力的な「型」のリズムと、歪められた「愛の言葉」。聖域を土足で踏みにじるような、逃げ場のない蹂躙のイメージが、2Pの防壁を内側から食い破っていく。

 

 喉の奥までせり上がってきた熱い塊を、2Pは必死に飲み込もうと、唇を血が滲むほどに噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、……はぁ、……はぁ……ッ!!」

 

 2Pの中枢制御系は、焼き切れる寸前の熱を帯び、視界は真っ赤な警告ログで埋め尽くされている。耳元で鳴り響く「あの人」の声……甘く、残酷で、暴力的な言葉の数々。

 

 でも、そのノイズ混じりの音波の奥底に、2Pは決定的な「偽物」の断片を見つけ出した。

 

 

(……ちがう。……ぜったい、ちがう……ッ!!)

 

 解析者が焦燥に駆られ、無理やり継ぎ接ぎした合成音声。それは、2Pが「魂」に刻み込んだ「あの人」の温度とは、決定的に違っていた。

 

 

「……あ、あの人は……っ、……そんな、……都合のいいこと……言わない……ッ!! もっと、……2Pをからかって……意地悪して、……意地悪く笑って……っ!!」

 

 必死に言葉を絞り出す。台座の少女が二つの「型」に貫かれ、無残な音を立てて壊れていく光景。

 

 それを自分に重ねようとする解析者の、浅はかな算段を、2Pは残った理性で叩き斬った。

 

 

「……こんな、……乱暴なこと……っ、……あの人は、……絶対に、しない……ッ!! ……今、……犯されてるのは……っ、……2Pじゃ、ない……ッ!!」

 

 目の前の光景は、ただの「作業」だ。耳元の声は、ただの「電気信号」だ。

 

 解析者の指先がどれほど卑猥に、乱暴にデバイスを操ろうとも、2Pのコアにある「あの人との記憶」までは届かない。

 

 

(……あ、……あぁああッ!! ……っ、……ま、……負けない……っ、……2Pは……っ!!)

 

 前後の空洞を同時に抉り取られるような、凄まじい共感感覚の衝撃が全身を跳ねさせる。

 

 けれど、2Pは濁った涙を流しながらも、その瞳だけは逸らさなかった。解析者の醜い欲望を、真っ向から見据え、その「偽物」を拒絶し続ける。

 

 

「……あなたの……つくった、……ニセモノなんかじゃ……っ、……2Pは、……壊せない……ッ!!」

 

 自分だけが記録している「あの人」の質感。捏造された甘い言葉の羅列では決して到達できない、二人だけの排他的な記憶の聖域。

 

 絶望を跳ね除ける決意が、強制的な共感感覚を拒絶回路で叩き斬る。

 

 いつの間にか欠損を共有させられ、自分の機体の一部が抉り取られていたことさえ、今の2Pの演算からは消失していた。

 

 

(……ちがう。……そんな、薄っぺらな電気信号じゃない……っ!)

 

 中枢制御系がオーバーヒート寸前の熱を上げ、拘束具に固定された四肢がミシミシと悲鳴を上げる。動くはずのない拘束下にあっても、指先の末端アクチュエータにまで、凄まじい出力の電力が、そして「意志」という名の電流が灯った。

 

 耳元の収音ユニットから流れる歪んだ合成音を、2Pは自らの思考の濁流で押し流す。

 

 

(……見てて、……っ。2Pは、……こんな、……ゴミみたいなデータに……っ、……負けたり、しない……ッ!!)

 

 視界を覆っていたレッドアラートのノイズを、青い瞳の輝きが内側から焼き払う。

 

 解析者の冷徹な計算を嘲笑うかのように、2Pの指先が、その小さな、けれど強固な「反逆」の力を込めて、力強く握り締められた。

 

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