クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
「お、お待たせしましたぁっ!」
俺を引きずりながらその部屋に登場したソフィアさんが大きな声をあげた。
けっこう距離があったはずなのに全然息切れもしていない。このお姉さん、体力オバケや……。
最初に皇女様とまぐわったベッド部屋に近い広さをもつ、畳が敷かれた縦長の和室だ。
クラスメイトの女子たち全員もいるらしい。
……全員、相変わらず全裸である。
近くにいた金髪ギャルっ子が腕で身体を隠しながら、俺をすんごい形相で睨みつけてきた。
ヒエッ。俺は速攻で視線を逸らす。
部屋の上座にはメイドっぽい格好をした鋭い目付きの女性が立っており、遅れてきた俺たち2人を冷たい目で見ている。
……和風建築で和室なのに、メイド? これも前代勇者の趣味が受け継がれてるのか?
「予定時刻から36分遅刻です。
トラブルかと思い遣わせた部下から、貴女が仕事を放り出してお楽しみ中だったことはよく聞いています。
「あぅ、え、ええっと…………す、すみません……」
冷え切った声に、たじたじになりながら謝るソフィアさんも可愛い。
苗字、エリアンドラなんだ。めっちゃ賢そう。
「……はぁ。まあ、よいでしょう。今は仕事が先決です。
さて、奥方の皆様にはすでにご挨拶が済んでおりますが、旦那様には初めてお目にかかりますね。
この勇者離宮で侍女長を務めさせていただきます。どうぞよしなに」
「あっ、は、はい……よろしくお願いします」
なんか、この人めっちゃ怖い!
やたら圧を感じる真顔だ。敬語なのに敬いを一切感じないんですけど……?
旦那様って、え? 俺、全員と結婚する扱いなの?
「では早速、ここでの生活について皆様にご説明いたします」
裸ん坊のソフィアさんがいそいそと気まずそうにノーラさんの隣へ並んだ。
ノーラさんは淡々と話を続ける。
「まず、今いるこちらの部屋が食事部屋となります。
私が立っている正面中央の最奥、ここが上座で、旦那様のお座りいただく位置です。
そして、奥様方はその左右で向かい合うようにし、後方の下座へ向かって横に並んでお座りいただきます」
戦国漫画や大河ドラマとかで見る並びだ。
俺だけ左右ど真ん中1番奥の偉い人ポジション。緊張しちゃうので正直やめてほしい。
「また、奥様方は上座から序列順に並んでいただきます。
序列に変動があった場合は、決してお間違いのないように」
序列? 女子にもランクとかあったりするのか?
でもランクが変動するなんて聞いてないな。
横目でチラリと女子たちの顔を伺うと、彼女たちもハテナ顔だった。知らないらしい。
ついついその身体に目がいきそうになり、慌てて目線を戻す。
「序列についてもご説明します。奥様方にとっては最も重要な事項ですので、よくお聞きください。
奥様方も含め、この離宮に住む全ての女性には“母体評価”が存在します。
ステータスによって判断され、より孕みやすく、より強い勇者様を産むことができる者ほど評価は高くなります。
序列もこの母体評価が基礎となります」
男子の評価が勇者の種のランクなら、女子は母体評価がそれにあたるってことか。
「その上で、旦那様からの評価や種付け回数が加味され、序列が決定いたします。
奥様方にはぜひ、旦那様からのご寵愛を得られるよう努力していただきたく思います」
えっ俺が決めんの!? 種付け回数て、要するに俺とヤリまくった相手が序列高くなるってことかよ。
う、うーむ。俺は喜んでいいのかな、これ。
リアクションに困っていると、金髪ギャルの小声の悪態が聞こえてきた。
(チッ、こんな変態ヤローから格付けされたって何の得もねーし。ムカつく。
つか遠くで飯食えるならむしろ得じゃん)
うぅ……そうッスよね……。
落ち込む俺の耳に、女子たちの厳しい現実を説明する声がまた聞こえてくる。
「序列は、この離宮における生活の全てを決定いたします。
食事、寝床、衣服、私室。与えられる全てが序列に応じて変化する仕組みです。
序列最高位の奥様には、我が国でも最高水準の生活が約束されるでしょう。
一方で、序列が低いまま改善の見込みもない場合、最終的には離宮からの追放が待ち受ける事となります」
うわあ、思ったより選別主義なシステムだった。
いい思い尽くしで忘れかけてたけど、そうだよな。
この世界は、基本的に俺たちに優しくない。
「はぁ!? じゃあこいつに身体売って暮らせっていうのかよ! 絶対ゴメンなんですけど!」
金髪ギャルが俺を指しながら怒りに叫ぶ。
流石にまずいと思ったのか、すぐに顔色を少し悪くして黙り込んだ。
売るって……いや違うとも言えないけど、言い方わるっ!
「……
ステータスは非常に優秀ですが、それは市井に放てば悪しき者どもに母体として利用されかねないということ。
残念ですが、貴女様は離宮から解放されることはありません。
どうしても反抗されるというのであれば、後顧の憂いを断つため処刑となるでしょう」
金髪ギャルが言葉を失う。
こいつらはやるといったらやるだろう。
ここにいる全員がよく知っていることだ。
……こわい。
逃してすらもらえないなんて。
今のノーラさんの理屈は、そのまま俺にも当てはまる。
SSSなんていう訳のわからない高ランクの子種なんだ。逃すくらいなら殺すとなったっておかしくない。
俺が死んでも、Aランクの桃田が一応の代えになるだろう。
あまりに重い現実に、部屋の空気もずんと重くなる。
部屋に差し込む夕陽だけが、場違いな明るさで俺たちの顔を照らしていた。
ノーラさんは平気な顔で話を戻す。
「もし子を孕んだ場合は、特別待遇となります。
序列に関わらず私室が与えられ、出産まで専属の侍女が付き、皇女殿下の管理のもとで子育てを行っていただく予定です。
今の我が国にとって、才ある子は何にも代え難い宝。
旦那様の子を孕むことだけが、皆様方に課された重大な任務なのです」
一貫して俺たちの価値を子作りにしか見出していないその言葉に、それでも返す者はいなかった。
ノーラさんの話が終わると、すぐにメイド服の侍女たちが夕食を運んできた。
1人用サイズの盆に乗せられた食事が畳の上に並べられていく。
さすがに食事時は服を着ていいらしい。
1人1人に着物と帯が着せられる。こっちは和服なのか……。
下着はもらえず1枚の布を羽織っただけだが、何だかようやく人間に戻れたような気がするなぁ。
食事はあっという間に並び終えられ、ノーラさんの言葉に従い順に席についていく。
席とはいっても、座布団に座るお座敷スタイルだ。
当然、俺は上座最上位である。
ソフィアさんが紙を確認しながら、母体評価順に女子たちを上座から左右に座らせていく。
俺の目の前、1番近くで左右に向かい合って座るのは、うちのクラス……いや学校全体でも有名な、超のつく美人たちだった。
右には、モデルのような体型に美しい黒のロングヘア、何より清楚に整った完璧な顔を持つ、
左には、華奢でしなやかな身体にライトブラウンのボブカット、庇護欲をそそる可愛らしい顔つきをした、
男子の誰もが憧れる学校イチの美少女ふたりが、一枚の薄い布だけを羽織って俺の目の前に座っているのだ。
……き、きまずい。
栗栖さんは桃田の彼女だ。親友同士の約束で「必ず守る」とは言ったものの、いざ目の前にするとどう声をかけたらよいかわからない。
だって、俺がいるかぎり桃田とは2度と会えない可能性が高いのだ。
俺のランクが高かったせいで桃田はここに来れなかったよ、なんてとても言えない。
明らかに元気も無さそうだ。暗い顔でじっと床を見つめており、今にも泣き出しそうな雰囲気である。
そして美澄さんも、表情の暗さはおんなじだった。
……実は俺も転移前まで、美澄さんに片想いしている身の程知らずな男の1人だった。
2年生になって同じクラスになれた時は、家に帰ってから自室で小躍りしたものだ。
だが今は、一目惚れしたはずのあの美しい顔が暗い悲しさに覆われている。
そして数刻前、俺はこの2人も含めたみんなの前で、皇女セレンとの激しいセックスを実演しているのだ。
命の危険すらある異世界であんな痴態を見せつけておいて、今更どんな顔をしたものか……。
俺まで暗い顔になって、ぼんやりと食事を見つめる。
部屋の中には、その人数にはそぐわぬ気まずい静寂が鳴り響いている。
「では、どうぞお召し上がりくださいませ」
ノーラさんの合図が下されるが、なかなか誰も手を動かさない。
……もきゅもきゅ。
部屋の隅、女子たちの並びから外れたところに座るソフィアさんがおいしそうに食べる姿を見て、ようやく俺は箸を手につけた。
のそのそと皆が食事を始めて、少し部屋の緊張が和らいだ頃だった。
すぐ横から、小さな声がかけられた。
「……ねえ、釣谷くん。……
何かを恐れるような、泣きそうな声だった。
桃田のことだ。
手元を見つめたまま暗い顔で問いかけてきた栗栖さんへ、幾秒か悩んでから俺は応える。
「あいつは、この城にいる大公爵とかって人のところに行ったよ。
……あいつ、Aランクだったんだよ。だから、ほら、命は保証されてるんだ」
栗栖さんの動きがゆっくりと固まる。顔は暗いままだ。
「わたし……また、会えるのかな……?」
声はもう、ほぼ泣いていた。
慌てて励ますための言葉を捻り出すが、つい虚妄を交えてしまう。
「あ、会えるはずだよ! だってあいつは俺たちとおんなじ城にいるんだしっ。
すぐは無理かもしれないけど、あいつに優秀な子供ができたら、その褒美に栗栖さんと合わせてくれたりさ!」
嘘だ。きっともう会えない。会わせる理由がない。
それに子供ができたらなんて、あいつが他の女性とまぐわうことが前提だ。
当然、栗栖さんの顔は全く晴れない。
「……子供。……そうだよね。私も、子供を作らなきゃいけないんだ……」
ぽろぽろと、食器の上に涙が落ちていく。
俺はもう、声すら出せずにそれを見ていることしかできなかった。
……なあ、桃田。
やっぱりこんなの、役得なんかじゃないよ。
食事が終わり、侍女メイドさんたちがテキパキと上品な所作で片付けていく。
何を食べたかまるで覚えていなかった。
泣き止んだ栗栖さんは顔を伏せていて、食事も半分以上残していた。
他の女子たちも、食べきっている人の方が少ないようだ。
ノーラさんが部屋に戻ってきて、みなへ声をかける。
「……今回は全員同じ食事でしたが、次からは序列ごとに量も内容も変わります。
いずれも栄養は十分取れるようにいたしますが、食べられるうちに食べておく事をお勧めしておきましょう。
では、1時間ほどの腹休めののち、最初の夜伽といたします。
子作りを希望される奥様は、今のうちに旦那様へお取り次ぎください。
旦那様の希望がなければ、序列の最も高い奥様にお務めいただきます」
……初日からいきなりか。だが予想通りではある。
お相手は立候補制らしい。
が、まあ誰も立候補なんてしないだろうな。悲しいが当然だ。
ということは、俺の相手は美澄さんか栗栖さんになるのか……?
暗すぎる雰囲気の食事のあとでは、喜ぶ気持ちはあまり湧かなかった。
どんな顔で臨めばいいか1人悩む俺へ、1つの影がすっと立ち寄ってくる。
そこから掛けられた声は、予想外の人物のものだった。
「あ、あの! ……釣谷くん。少しだけ、お話しさせてもらえませんか?
……大事なご相談が、あるんです」
それは、1番近くにいた2人のマドンナのどちらでもなく。
今まで深く関わったこともないはずの、引っ込み思案なクラスメイトだった。
夢も希望もないドロドロギスギスな世界で、快楽だけが癒しをくれる。
そんな小説が、私は好きです。