クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
それは、高校の教室で生物の授業を受けている時だった。
青白く光る魔法陣が突如、教室の床を覆うようにグワっと現れたかと思えば、すぐに目が焼けそうなほどの眩しい光を発しだした。
教室は光で真っ白に染まり、クラスメイトたちの悲鳴が聞こえる。
あまりの眩しさに目を瞑る。
そして一瞬の浮遊感。
これが、俺たちが地球と永遠の別れを告げた瞬間だった。
座っていたはずの椅子の感覚がなくなり、尻餅をつく。
光が収まったのを瞼越しに感じて目を開くと、そこは数秒前までいたはずの教室ではなく、大理石で造られた巨大な広間だった。
やたら高い天井は何本もの太い石柱に支えられており、ステンドグラスから差し込む光が顔を照らしてくる。
まるでそう、教科書やアニメの中で見たような王城の中の景色だ。
「え!?なに! なんなの!?」
「ここどこだよ!? 学校は!?」
「……こっ、これは……! まさかきた!きたのか!?」
すぐそばにはさっきまで一緒に授業を受けていたクラスメイトたち。
混乱で騒いでいる者、怯える者、中には目を輝かせている者もいる。
足元の床にはバカでかい魔法陣。
……王道だな。
突然の事にも関わらず、なぜか冷静な頭でそんな台詞を流す。
他のみんながぞろぞろと立ち上がるのに合わせて、俺もひとまず立ち上がって周りを見る。
俺たちの足元に広がる魔法陣の外側を、槍やら剣やらを持った全身鎧の兵士たちが円を描くように取り囲んでいるようだ。
そして、黒板があったはずの真正面。
そこに立っていたのは、思わず息を呑むほどに美しい、金髪の少女だった。
黒板があった所より少し距離があるはずなのに、その姿はくっきりと俺の目に焼きつく。たぶん、同い年くらいだ。
光を溶かしたような長く美しい金髪。
長い睫毛に縁取られた瞳は透き通っていて、小さな唇が口元を薄く赤く彩る。
え? なんだ、この子。めっちゃ可愛い。
神様に造られた人形かのような美しい顔に、こんな状況なのにもかかわらずついじっと見惚れてしまう。
そしてその頭には目立つ王冠。
……あ〜、やっぱり召喚者は王女に限るよね。
「皆さま、突然の事とは思いますが、まずは落ち着いてわたくしのお話をお聞き願えますか?」
凛とした声が神殿に響く。
決して大きな声ではないのに、心の隅まで滲みいるような美しく透き通った声だ。
騒いでいたクラスメイトたちも皆そちらを見て目が釘付けになる。
ていうかこれ、クラスまとめての勇者召喚だよね?
みんなそれぞれチートスキルを貰って世界救うやつ!
「はじめまして、ニホンの皆さま。
ここはドラングレイヴ帝国の王城。皆様の住んでいた国とは別の世界にある人族の国です。
そしてわたくしはこの国の第三皇女、セレン・ノクティス・ドラングレイヴと申します。
本日はこの世界に迫る"大きな危機"を乗り越えるため、皆さまにご助力いただきたく、別の世界からこうしてお呼び出しさせていただきました」
やっぱり! 王道の中の王道だこれ。
大きな危機ってどうせ魔王とかなんだろ。
スキルとかレベルとか絶対あるじゃん。
召喚特典で激ツヨ能力を貰えるやつじゃん!
あ、でもクラス転移か……なら能力にはきっと当たり外れがあるよな。
能力によっては立ち振る舞いも考えなきゃいけないか?
くそ、頼む! チートスキルこい!
クラスメイトたちがこそこそ話し出す。
「え、これって最近流行ってるあれじゃない?」
「何? 誘拐とかってこと!?」
「うおおおキター! 美少女ハーレムの夢が叶う!」
「私は冒険とか戦いとか、ほんとに危ないのは絶対ゴメンなんだけど……!」
そうだよね、最近は異世界転移もポピュラーだし、大体状況を把握してる人も多いっぽいな。
そうなると尚更スキルが大事だぞ……!
下手したら追放とかされかねない。
でも確認とかどうするんだ?
(ステータス!)とか小声で言ってみたり、さっきからこっそり色々試してるけど何も出ない。
特別な道具とかで調べるパターンか?
いまのところ、体の感覚も特に変わった気はしない。
また皇女が口を開く。
自然とクラスメイトたちも静かになり、その言葉を聞く。
「皆さまにご助力いただきたい危機というのは、他でもありません。
ここから遥か北、悪しき魔族たちの住まう地に誕生した魔王を討ち滅ぼすため……」
わお、まじ王道だな。
俺たちが勇者として魔王を倒してくれとかそんな感じか。
まあチートスキルさえくれるなら快く……
「たくさん子作りをして、魔王を倒す勇者を産んで欲しいのです」
え?
こづくり?
いま、子作りって言ったのか?
……まさかのR18パターンかよ!
勇者を産むって、もう魔王は産まれているらしいのに随分と悠長だな。
ていうか、もしかしてチート能力とかはない? 冒険は? ダンジョンは?
あっでもこれ、もしかしなくてもめっちゃエッチしまくれるのか?
ならええか……。いやええのか?
スキルとかないなら日本に帰れない可能性もあるよな……。
クラスメイトたちも困惑しているが、皇女様は構わず話を続ける。
「まずは、殿方の持つ“勇者の種“を検査いたします。
男性の方はおひとりずつ、あちらの部屋へお進み下さい。
女性の皆さまは先にこれからの生活の場へご案内しますので、この者について行ってください」
皇女がそう言って、この大きな広間の横にある通路と、案内役の女性をそれぞれ指し示す。
いやいや、話が急すぎるって!
説明不足すぎるし、俺たちの意思とか確認なしかよ!
つーか勇者の種ってナニ!?
疑問と困惑に包まれて頭が追いつけずにいると、突然女性の大きな声が響く。
「ま、待って下さい! 急に生徒を拉致してこんな真似、認められません!」
あ、みかちゃん先生だ。
そっか、教室には当然先生もいたもんな。
さっきは黒板の前に立ってたから、今は皇女に一番近いところにいるみたいだ。
ちっこいから気づかなかった。
先生は皇女に対して、すぐに学校に皆を返すべきとか、人道に反するとか、正当な扱いを求めて大きな声をあげている。
教師としては若手ながらも、責任感の塊みたいな人だ。こんなのは許せるはずもない。
対する皇女は何も言わず、隣の兵士に目配せをした。
え、まさか、先生を拘束するつもりか?
だが、兵士は騒ぐ先生を無視して、こちらにいる1人のクラスメイトの元へ真っ直ぐ向かってきた。
あれは、
性格が悪すぎてみんなからの好感度はかなり低い子だ。
顔もお世辞にも可愛いとは言えないし……。
でも彼女は今、特に騒ぐでもなく普通に話を聞いているだけのようだ。
もしかして、人質?
そう思った矢先、兵士は突然剣を抜き、棒立ちする毒島さんの首元へその刃を突き刺した。
ぐじゅり、と音を立てて引き抜かれる剣。
目を大きく見開きながら、声も出せずに両手で首を抑えて倒れ込む毒島さん。
その手元からは大量の血が吹き出している。
白かった床がすごい勢いで赤く染まっていく。
クラスメイトたちの叫び声が神殿に響く。
そして、毒島さんはあっという間に動かなくなった。
頭が、真っ白だ。
俺は目の前の光景をただ呆然と見ていた。
え? 殺した?
なんで? あの子は逆らってないじゃん。
また、凛とした声が響く。
「別に、皆さま全員が我が国に必要という訳では無いのです。
勇者の種を持たぬ男性や母体に相応しくない女性は欲しておりませんので、処分も厭いません。
我が国に反抗的な態度を取る者も、もちろん」
広間に静寂が響く。
恐怖で誰も口を開けない。
「……とはいえ、必要ないからと言って必ず殺すというつもりもありませんよ?
今は皆さまの立場を理解していただくため、1人消費したに過ぎません。
大人しく指示を聞いてくださるのであれば、勇者作りに不要な者も平民として町へ下る事を許しましょう」
青白い顔で声を失う先生、泣いて腰が抜けた女子、床にゲロを吐く男子に、指ひとつ動かせず固まる俺。
異世界への希望と期待は、一瞬で地獄への恐怖と絶望に変わった。
あんなに簡単に殺されてしまうんだ。
きっと俺たちには、転移特典みたいな戦う力は与えられていない。
反抗すれば、命はない。
……ああ、大ハズレだ。
この世界で俺たちには、自由なんて無いんだ。
ただ勇者を作るためだけの道具。家畜同然の存在。
脳は理解を拒んでいるが、鮮烈な赤色と鉄の臭いが否応なしに現実を突きつけてくる。
そこから先は、みかちゃん先生も含め誰も反抗することはなかった。
クラスメイトはもう死ななです。
男子は知らないけど。