クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
軽く汗を流した後、夕食会場の和室に皆で集う。
侍女たちがテキパキと配膳する様子をぼんやりと眺めていた。
俺の分はノーラさんが持ってきてくれた。俺にだけ分かる距離で、優しげな笑みをくれる。
くう! 冷静沈着メイドさんの特別スマイルはキクぜ……!
配膳が終わった頃、一番奥にいる春風が一人どんよりと悲しいオーラを纏っているのが何となく見えた。
今朝に引き続き、よほど貧しい献立だったんだろう。不味いのに妙に腹持ちのいいあの豆だ。
……可哀想に、今回の最下位は避けようのない事故だったからなあ。
明日はそこそこ食えるはずなので頑張って耐えてくれ。
ふと視線を感じて目線を動かすと、宇佐美と目が合った。
かと思いきやブンッと逸らされる。整った横顔に映える赤い頬。
これは……俺の気のせいでなければ、完全にデレてないか? 自意識過剰?
なんでそんなイケイケなファッションの癖にウブ丸出しなんだよ! 可愛いかよ!
最近の食事は隣同士で会話している女子もそこそこいて、初期の頃のような肌を刺す沈黙は無い。
飯の味もしないくらいだったので本当に助かる。
できれば俺もみんなと会話したいところなんだけど、一人だけ殿様席だからうまくいかない……。
何より一番近くに座る二人が、今いちばん話しかけにくい相手トップツーなのである。
このSランク二人とは初日以来全く話していないな……。
というか美澄さんとは転移以来たったの一言も話した事がない。高嶺の花すぎて俺からは緊張しちゃう。
結局何も言えずに豪勢な夕食を孤独にモソモソ食べる。
めちゃくちゃ美味いんだけど量がヤバくて、毎回胃袋が破裂しそうになるんだよなぁ。
残すのも忍びないし、いっそノーラさんや侍女たちとシェアしたっていいんだけど。
そんな時だった。
「釣谷君」
凪いだ水面のように澄んだ、透き通った美しい声。
食事の喧騒の中で、その声だけが真っ直ぐに俺の耳へ響く。
たった一言で、俺の世界が時を止めた。
「君は、みんなをSランクにするつもりなんだよね」
一滴の雫が水面に落ち、静かに広がる波紋のように。
声が、俺の心をスゥと揺らした。
あまりに美しく、そして感情の凪いだ声。
喉から返事が出るまでに、何秒かかっただろうか。
「…………そう、だよ。いつまでかかるか分からないけど、必ずそうする」
学校中の誰もが憧れ慕う、完璧な美少女。
異世界に来てからずっとその鳴りを顰めていた彼女が、初めて俺に口を開いた。
「どうして?」
感情が、全く乗らない声。
責められてるわけでも疑われているわけでもないのに、なぜか、息が詰まる。
「……この序列制度が、気に入らないんだ。皆をSランクにして、序列の存在意義を壊したい」
どうにか言葉を絞り出す。自分の感情すら分からなくなってきた。
彼女の"凪"に引かれるように、俺の心まで凪いでゆく。
「その先は?」
……その先? 全員Sランクにして、序列を壊して、理不尽な待遇格差が無くなって……。
——全員孕ませるまで、ひたすら子作りをする?
——そして産まれた自分の子供に、命を賭して魔王と戦う、過酷な運命を背負わせる。
「………………」
「残酷だね。釣谷君」
責めるような響きは無い。同情も無い。ただ、事実を述べただけ。そんな声。
ぞわり、と悪寒が肌を駆ける。
ああ、俺は目を逸らしていた。
この先に、本当に幸せがあるのか。自分が何をしようとしているのか。
「私もね、同じ」
初めて、その声に感情が乗った。
悲哀と悔恨と諦観が少しだけ乗った、深く暗い深海に沈んで行くような、重い声。
「自分が助かるためなら、他の全部を犠牲にしてしまっても仕方ないんじゃないかって、思ってる」
——だから、ごめんね。
最後に静かに伝えられた謝罪の意味は、俺には分からなかった。
それから先の会話は、もう無かった。
僅かな会話の記憶は、努めて意識から排除しようとした。
俺にできることは少ない。せめて最初に立てた目標くらいは完遂したい。
そこから先の話は、今はいいんだ。きっと考えても辛くなるだけ。
食休み中、難しい顔をする俺を見かねて夕凪とくるみがやってきた。
「さーおーとくんっ! どうしたのぉ? 悩みごと?」
「私、何でも聞くよっ! 力になれるかわかんないけど、頑張るよ!」
無邪気な二人についほっと息を吐いた。
「……いや、何でもないよ。考えなくてもいい事まで考えちゃってただけ。二人の顔見たら元気出た」
くるみがにっこり笑い、夕凪は心配そうな色を残しつつも小さく笑みを浮かべた。
俺も幸せ者だなあ、美少女二人がいつも俺を心配してくれるんだから、くよくよ悩んでる場合じゃないな!
ようやく吹っ切れた俺は二人と気ままに雑談してから、キリのいいところで切り上げて別れを告げた。
風呂は夜伽の相手と入ることにしているんだ。そろそろ時間だからな。
『……夕凪ちゃんは二人の会話、聞こえてた?』
『ううん、何か話してはいたけど聞き取れなかったし、すぐ終わっちゃった』
『向こうも
『早めに……潰そう。竿斗くんは、絶対渡さない』
『さんせーい! くるみ、あの子きらいだし』
——あの子が今までやってきたこと考えたら、死んだって文句言えないよね。
わいわいガヤガヤと風呂から上がる。
委員長に菅沼に春風。意気投合した三人が湯船で好き勝手にはしゃいで、くつろぐどころでは無かった。
親戚の子供が遊びにきた実家みたいな雰囲気だった。湯船で泳ぐんじゃないッ!
明智は相変わらず離れたところでマイペースにくつろいでいるし、柏葉さんは最後の最後まで恥ずかしがって裸を正面から見せてくれなかった。
俺の中の柏葉さんに対する王子様像が薄れて、今やすっかり奥手で可愛らしい純情少女としての印象が根付いている。
午前は俺の目の前でオナニーなんてしていたくせに、まさか裸すらNGとは。
『そ、それとこれとは話が別だッ!』
赤い顔で必死に身体を腕で隠す彼女の姿は、思わずキュン死するかと思う威力を誇っていた。
ふへへ、とその光景を反芻しながらみんなと大広間へ歩いていると、正面に影。
廊下の曲がり角から覗く、複数の人影だ。
(ほら、きたよ〜。いけ〜)
(ま、まって! 押すなってばッ!)
何事か騒いでいるその影の中から、一つの影が飛び出してくる。
「……あ……——……!」
それは、頬を赤く染めて困惑したように立ち尽くす、宇佐美瑠奈の姿だった。
一瞬俺と目が合ったかと思えば、そこに立ち尽くしたまま目線を床にうろうろと彷徨わせる。
普段のキャラからはまるで想像できない、もじもじと恥じらう彼女の姿はただひたすらに可愛かった。
そして、察する。この子は俺を待ってるんだ。
「……みんな、先に大広間に向かっててくれるか?」
「ガッテン承知! ぐへへ、釣谷氏も隅におけねーですなぁ……うへ、うへへ」
「えっ? 釣谷くんは? 来ないのー?」
「ほら、日向、私たちは初めてなんだから準備もあるだろう、行くぞ」
空気を読んだ彼女たちが俺を置いて先へ進んでいく。
通路の奥で覗き見していた二人のギャルの姿も、彼女たちによって強制連行されていった。ナイス判断。
俺は、目の前で真っ赤になっている純情ギャルへと真っ直ぐ目を向けた。
薄い小麦色の肌によく似合う、ウェーブがかったロングの金髪。
大きな瞳も今は恥らいで薄められ、ぷるんと瑞々しい唇も横一文字に引き結ばれている。
俺との距離は、四歩分。今日の午後、実践訓練の始まった時と同じ距離。
もう分かってる。途中から何となく察していた。
彼女はとんでもないイケイケ人間に見えて、その心は誰よりも乙女らしく可愛らしい。
……親友の星宮とはまるで正反対だな。そのギャップに笑いそうになるが、今は抑える。
誤魔化しも茶化しも一切無し。
俯いたままの彼女へ、真っ直ぐぶつける。
「宇佐美」
「…………何」
「お前を抱きたい。今日、夜伽に来てくれないか」
「…………名前で、呼んでよ」
真っ赤っかになって可愛らしいリクエストが飛んでくる。
俺は黙ったまま、ゆっくり歩いて彼女との距離を縮める。
一歩、二歩。
彼女が顔を上げ、濡れた瞳で俺を見る。構わず進む。
三歩。
俺も真っ直ぐにその目を見返す。絶対に逸らしてやらない。
四歩。
身体がくっつくほどの、ゼロ距離。
互いに真っ直ぐ、見つめ合う。
その熱い頬に、そっと右手を添えた。
「瑠奈。……抱きたい。俺と一緒に来い」
「………………ぅん」
頬に添えた手で彼女の顔をス、と引き寄せて。
ゆっくり目を閉じた彼女の口へ、顔を寄せる。
——ちゅ……。
桜色の柔らかさが触れ合った。
十秒以上、そうしていたかもしれない。
そしてようやく離した互い唇の間に、薄く細い唾液の橋が掛かる。
大きな瞳がぽわんと潤んで、頬は真っ赤に染まり、半開きの口元から熱い息が漏れている。
そして俺は彼女の柔らかい手を取って、大広間へと連れ込んだ。
大広間には既に俺と宇佐美以外の全員が揃っていた。例の如く全員が裸だ。
俺の手に繋がれて引き連れられる宇佐美へ、驚きや興味に満ちた視線が集まっていくのを感じる。
驚愕の表情で呆然とする夕凪のことも、今は見えないフリをする。
ベッドの上には夜伽対象が揃っていた。菅沼がニヤニヤしながら指で下品なジェスチャー。あいつは犯し殺す。
着物を脱いで宇佐美とともにベッドへ乗ろうとすると、ノーラさんが止めた。
「宇佐美様はBランクのため、避妊薬をお飲みいただきます」
「え? いや、宇佐美はAなんじゃ……」
ノーラさんともあろう人が間違えたのかと困惑した俺をよそに、横から出てきた宇佐美が素直に薬を飲んだ。
ど、どういう事だ? 本当にBランクになったのか?
「……ウチ、今日の検査でBに落ちたんだ。なんでか分かんないケド」
「え……? まさか……」
「だから、アンタの言ってた事も信用する。……あんでしょ? 評価、下げる方法」
「……ああ、あるよ。知りたい?」
「ううん。もう、いらない。ウチは、ここでの生き方は決めたから」
その言葉ほど、嬉しいものはなかった。
人目も気にせず、もう一度熱い接吻をする。
今度はお互い丸裸で、すべすべな肌の感触が身体の前面にむちっと押し付けられる。
彼女は驚いて目を見開いたが、一切の抵抗をしなかった。
ぷはぁ、と口を離して伝える。
「瑠奈。お前は最後に抱く。だから、覚悟して待ってて欲しい。
……言っただろ、"一晩中抱く"って」
「…………ぅ、ぅん。……待ってる」
もはや別人のように健気な表情で頷く小声の彼女。
裸を恥じるように腕で身体を隠す姿は、あまりの可愛さに胸が張り裂けそうだった。
さて、待ち人もいる事だし、そうと決まれば早速初戦だ。