※この作品はR-18です。

クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった   作:稲月

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過去最大の難産でした。子作りだけに。




40話 消灯までの数刻

 

「……ふふっ、本気で言ってるの? 日本にいた頃からスキルが実在していたなんて」

 

 美澄が可笑しそうに笑う。澄んだ声に僅かなからかいが混じる。

 安里はその態度に神経を逆撫でされて、つい口を滑らせた。

 

「くるみ、聞いちゃったもん。検査員の人が、美澄ちゃんは貴重なレアスキル持ちだって」

 

「ああ、こっそり聞いてたんだ。……そうだよ、私だけは固有スキルを調べられたんだ」

 

 別に知られたって構わないというように、美澄があっけらかんと認める。

 なぜ、彼女だけ? Sランクはもう一人いるのに。

 

「まだ全部は知らないんだね。固有スキル解析の魔道具は消耗品なんだって。1個しかなかったみたい」

 

 貴重なそれを使った直後にSSSランクの男子が見つかったとかで、検査員たちが大騒ぎしていた。

 

 スキル解析の道具が貴重だと知って語勢が弱まる安里。もっかい調べて突きつけてやるつもりだったのに。

 

「え……ど、どうでもいいでしょ、そんなこと。いまくるみが言ってるのは、日本で美澄ちゃんがやってたことの話」

 

「つまり?」

 

「とぼけないで。検査員は、()()()()()()()()()()()()スキルって言ってた。それで男の子たちを好き放題操ってたんでしょ?」

 

「残念。かなり惜しいけど、全然違うね」

 

 静かな表情に思わせぶりな態度で、矛盾した事を宣う美澄。

 それに、安里の言い分には致命的な綻びがあった。

 

「仮に今の私にスキルがあるのは事実だとして、日本にいた頃からスキルがあった証拠にはならない。違う?」

 

「——"名前を呼んで、相手が一番欲しい言葉を与えてあげる"……それがトリガーなんでしょ。

 男の子たちはみーんなそう。美澄ちゃんに惚れちゃった子は必ずそれがきっかけだった。

 見た目でも性格でも能力でもなく、皆それが始まり。……そして、竿斗くんも同じ。違う?」

 

「誰だって、欲しい言葉をもらえたら嬉しいものだと思うよ。

 皆が好意的なのは、単純に私の努力? 才能? 

 ……ふふ、こんな風に言ったら、怒られちゃうね」

 

 いつまで経ってものらりくらりと要領を得ない美澄に、安里はだんだん怒りが抑えきれなくなっていた。

 ムカつく。さっさと認めて、ステータスだけよこして出ていけばいいのにッ!

 安里と秋穂は、すでにステータスを譲受する方法にアタリをつけていた。

 

「それに今は固有スキルも遺伝子の中に封印されているんだよ。使えないから危険もない」

 

 それは否定できない部分だった。だから、日本での所業を認めさせる必要があった。

 たとえ今は使えなくても、何をしでかすか分からない危険人物であると断定するために。

 

 安里は内心で歯噛みする。楽にいけるとは思ってなかったけど、ここまで平然と返してくるとも思っていなかった。

 消灯時間も遠くない。ここで逃げ帰ったら今後ずっと不利になる。そんな確信がある。

 

 

 

 

 ……もう一つ。安里は美澄の秘密を握っている。

 真っ黒でSFじみた一つ目の秘密とは全く別の、誰にも知られたく無いであろう恥ずかしい秘密。

 こちらは曖昧な推測ではない。確かな情報であり、紛れもない事実であることは間違いなかった。

 だが、証拠が無い。スマホが燃やされてしまい、記録と一緒に消えてしまった。

 

 それでも、話だけでも突きつけてやればあの余裕の表情を崩せるかも。

 しかし、これは切り札だ。証拠がなくても、一番効果的なタイミングで使うべき一手。

 

 黙りこくってしまった安里と秋穂。美澄がこれほど手強いのは予想外だった。

 そんな二人へ、静かに届く澄んだ声。

 目線の先には、二つ目の秘密を突きつけるか悩む安里。

 

「……それも知ってるんだね。安里さん。」

 

「なに? それって」

 

「私の昔の話」

 

「…………」

 

 見透かされた。何も言ってないのに。

 手札の全てが丸見えにされてしまった。……まずいかも。

 

「恥ずかしいな……できれば秘密にしてくれる?」

 

「そっちの態度で決めようかな。くるみも、こーんな恥ずかしい話は口にすらしたくないもん」

 

 言葉は安里が優位に見えて、正体不明の悪寒が安里を震わせる。

 少しだけ頬を赤くした美澄が、まるで名案かのように、意味不明な提案をする。

 

「秘密にしてくれるなら、私も安里さんのこと、秘密にするよ」

 

「……はぁ? くるみの何を秘密にしてくれるの?」

 

「今日の夕ご飯、美味しかった? ハンバーグ、食べてたよね」

 

 ……意味が分からない。気が触れたのか?

 だが、安里はもう震えが止まらなかった。なんで、こんなに嫌な予感……。

 

「ナイフ。使ってたね」

 

「……だから何?」

 

「雪村先生に渡して、自殺させようとした。そうでしょ?」

 

 

 ——はぁ? 何の話? 自殺?

 

 

「可哀想に。私たちには魔法防護がかかってるから、勝手に死ぬこともできないんだよ」

 

「……ま、まって、何のはな——」

 

「魔法の中には直前に触れた人物を二十人まで遡って調べられるものがあるんだ」

 

 そういえば、美澄の手元には分厚い本がある。……魔法の教科書?

 

「皆は雪村先生が自分で隠し持っていたと思うだろうけど」

 

 ま、まさか……! まさかこいつ——

 

「調べられたらバレちゃうね。安里さん。先生が凶器にしたナイフ、貴方が使った物だって」

 

 

 冤罪を、吹っ掛けてきたッ!

 

 

「意味、わかんない……! くるみはそんな話知らないッ!

 それにくるみが食事に使ったからって、先生に渡した証拠にはならないでしょ」

 

 何とか冷静さを保ちながら、全力で頭を回転させる。

 これはハッタリだ。そうに決まってる。実際にくるみは何も関与していない。

 そもそも食後に侍女がすぐ回収したのだから、先生や美澄が安里の使ったナイフを手に入れるなんて不可能だ。

 調理部屋も侍女以外は侵入禁止のはず。

 

 嫌な汗で背中がじっとり濡れる。

 でももし本当に、何らかの方法で安里のナイフが先生の手に渡っていたとしたら。

 

「じゃあ、調べてもらう?」

 

 先生自身には手に入れられないはずのナイフ。それを直前に触れたのが安里だと魔法で出てしまったら……。

 きっと、それだけで捕まったりはしない。でも今後、二度と信用もされないだろう。

 

 博打に出るほどのリターンは、無い。

 完全に封じられた。人が自殺に使ったナイフなど、廃棄が普通だ。二十人に触れられるまでには時間がかかるはず。

 すぐに処分されてナイフが無くなる可能性はある。だけどそれをわざわざ確かめるのは不自然だ。疑われるかもしれない。

 

「〜〜〜〜ッ! わかったッ! 秘密ッ! この、悪魔ッ!」

 

 身の安全を期すには、飲むしか無かった。

 安里は、負けた。こいつはやっぱり、危険だ!

 

 

「ねえ、待って。それって、いつ起きた事なの」

 

 

 秋穂が質問を挟んだ。……確かにそうだ。

 安里たちは、今日の夜伽の時間が終わってからあまり間を置かずにここへ来た。

 その時、先生はまだ大広間にいたはず。そもそも自殺未遂なんて事すらハッタリ?

 

 感情の乗らない、凪いだ声が部屋に響く。

 

「——今だよ」

 

 遠くで、悲鳴が聴こえた気がした。

 

 

 ■

 

 

「…………」

 

 二人の去った部屋に沈黙だけが訪れる。

 美澄は静かに座ったまま、浅く息を吐いた。

 

 ナイフの件は完全にでっちあげだ。魔法だってそんな都合のいいものは無い。

 安里と先生が使っていたナイフが同じ種類だと気付いていたから、言ってみただけ。

 先生がそっと自分のナイフを懐にしまうのも見ていた。

 

 何が起こるか分かっていても、しかし助けはしなかった。

 自分にも余裕が無かったから。

 

 二人がこの部屋を訪れた時は、まさか本当に秘密を知られてしまったのかと思い覚悟を決めたが。

 でも蓋を開けてみれば可愛らしい勘違いで、心底ホッとしていたのだ。

 

 悪い推理では無かったし、実際に合っている部分もあった。

 意図的に、相手の求める言葉を的確に与えていたのは確かだ。必要な事だった。

 

 安里は、その先を疑った。目に見えない何か。説明のつかない"異常"。

 

 ——間違ってはいないよ。

 

 特別賢い訳じゃないけど、勘の鋭い女の子だ。

 

「…………」

 

 必死に美澄を追い出そうとする二人の表情が脳裏に蘇る。

 酷いなぁ、別に彼を取ったりしないのに。

 

 羨ましいとも思う。あんなに綻びだらけの理論で、それでも正面からぶつかって行けるほどの大きな感情。

 それは彼への愛情であり、独占欲であり、疑いの余地も無い"本物"だった。

 

 美澄にはそれが無い。決して持たないようにしてきた。

 

 感情に振り回されるのは、愚かだから。弱みになるから。壊される原因になるから。

 事実、彼女たちは確固たる証拠を持たぬまま感情で踏み込み、結果として美澄の前から退いた。

 

 他人の感情は、支配するためにある。

 

 だから削ぎ落として、整えて、磨き上げて。

 誰にも隙を見せない"完璧"を作り上げた。

 

 すべては、あの過ちを繰り返さないため。

 愛する母を、二度と悲しませないため。

 死にゆく母が最後に夢見た、美しい私であるために。

 

「…………」

 

 まさか、異世界に誘拐されることになるなんて。

 まだ誰も気づいていないけど……間違いないと確信していた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 皆は、彼は。

 いったい、どんな感情を向けるんだろう。

 

 

 ■

 

 

「どう? 悪くない取引でしょ」

 

 ベッドに腰掛ける部屋の主と、自分勝手に椅子に腰掛けた招かれざる客人。

 夜伽時間が終わった直後、二人の少女が、与えられた個室で会話していた。

 正確には、押しかけた客人の方から一方的に取引を持ちかけている。

 

「心配しなくても、桃田だってうまくやってるよぉ。たしかこの城にいるんでしょ?」

 

 客人たる明智黒実が笑いかけるのは、離宮生活をずっと暗い顔で過ごす栗栖愛莉だ。

 

「この方法なら、子供さえ出来なきゃいつかは出ていける。

 そこそこ優秀な男に宛てがおうって、桃田のとこに行かせてもらえるかもよ?」

 

 互いにとって、確かに利のある取引だった。

 明智が手のひらの上で転がすのは、白くて丸い、小さな錠剤。

 避妊薬だ。Bランク以下が夜伽をするときに飲まされる、精子から胎を守るための薬。

 

「ぼく以外にこれをくれる女子、いないんじゃないかな〜」

 

 夜伽直前にベッドの前で飲まされる薬を、明智は舌の奥に隠していたのだ。ちょっとした特技だった。

 釣谷に寝バックをリクエストしたのも、間違って飲み込まないようにうつ伏せになって耐えるため。

 二回抱かれた明智の手元には、二錠の薬。これで二回は避妊できる。

 

「たぶん、明日か明後日にはきみも強制的に釣谷に抱かれるよ? 

 期待のSランクなんだから、放置なんて許されるわけないよねぇ」

 

 明後日だ。栗栖の優れた頭脳は答えをとっくに出していた。

 今日の午前。あのズボラで自信家な検査員が、クラスメイトの検査結果の紙を隠さずに机に放置していた。

 習ったばかりの文字に複雑な表と計算式。見えたのは一瞬だけだが、それで充分だった。

 

 淫紋による妊娠確率の操作、釣谷のスキルによるステータス上昇。

 いずれも夜伽の頻度を下げて日を置けば射精を一回されるあたりの効果は高まるが、間が長すぎると上昇が鈍っていく。

 六日から七日ごとに一回。そこで効果が最大になる。それ以上は無意味。

 

 今日でもう四日目になる。六日目には……きっと抱かれる。避妊なんて許されない。

 まだ抱かれていないのに待ってもらえているのは、最適な間隔を保つため。慈悲なんかじゃない。

 

 処女は桃田に捧げたから、釣谷に抱かれるのはもう仕方ないと受け入れられる。心が潰れるほどに痛いけど、何とか自分を言い聞かせられる。

 でも、子供は違う。最愛の彼以外との子供を自分の胎に宿すなんて、絶対に嫌だ。

 

 明智は取引と言っているが、栗栖にとっては違う。

 彼女が避妊薬を持ってきた時点で、栗栖に拒絶の選択肢などあり得なかった。

 

 薬の対価は、たった一つ。

 Sランクとして栗栖が抱える、莫大なステータスの譲渡。

 明智が求めたのはそれだけだった。

 

「いやぁ、まさか女の子同士でヤれば譲渡できちゃうなんてねぇ。あの二人には感謝だね」

 

 二人というのが誰を指しているのかは栗栖にも分かった。柏葉と春風だ。

 本人達は隠しているつもりだが、目敏い者や仲の良い者は日本にいた頃から彼女達が両想いであることに薄々気づいていた。

 微笑ましく見守られていただけ。柏葉が聞けば顔を真っ赤にして、しかし素直に喜ぶだろう。

 

 栗栖は将来について考える。

 どれほど時間がかかるかは分からないが、いつかはBランクやCランクまで母胎評価も下げられるだろう。

 そうすれば、ここを出ていく事だって……。

 

 桃田のもとへ行ける保証なんて微塵も無いが、彼を諦めるくらいなら死んでもよかった。

 ほんのわずかな希望が見つかっただけで、栗栖は本当に救われた気持ちだったのだ。

 

 ごめんね、釣谷くん。

 君がみんなを助けたいのも、誰かを見捨てたりしたくないのも分かってる。

 彼の親友だった君が本当に良い人だってことくらい、昔から知ってたよ。

 

 でも、諦められないんだ。

 諦めるくらいなら、私は死ぬよ。

 

 栗栖は初めて明智の目を見た。楽しげな中に嗜虐心が隠せていない、悪人の目。

 悪巧みが成功したみたいににやにやと嗤う彼女へ、栗栖は取引への同意を示した。

 

「途中でやめたりしないでね。そしたら私は明智さんと無理心中する」

 

「あはぁ! 栗栖ちゃんが言うとほんとに出来ちゃいそ〜。でもやめないから安心してよ」

 

 ぼくがAランクになる前にたくさん薬を集めないとねぇ。

 そう言いながら明智はベッドに乗り込んで、栗栖の服を剥ぎ取った。

 

 ——消灯までの数刻。

 狭い個室の中からは、くぐもった艶やかな声が絶えず響き続けていた。

 

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