※この作品はR-18です。

クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった   作:稲月

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42話 普段と違う昼食

 

「さすが、ニホンからいらしただけありますね! たった数日で子供ができるなんて!」

 

「い、いや、別に日本はそんなところじゃ……ああ〜、まあいいか……」

 

 異世界における日本への酷い風評被害がまた一つ根拠を増したが、ひたすらエロに寛容なあの故郷の文化を想起して口をつぐんだ。ひ、否定しきれん。

 まさか、あいつが先に子を作るとはな。あいつの絶倫ぶりが異世界でも発揮されたという事だろうか。

 

「にしても、早すぎないですか? まだ五日目ですけど」

 

「桃田さんや大公爵令嬢にも簡易淫紋を付紋されていますからね。妊娠はしやすいはずです」

 

「へえ〜、結果もこんなにすぐ分かるもんなんですね」

 

「生殖行為の翌日にはわかりますよ。離宮の皆さんの身体検査も、前日の夜伽の結果確認を兼ねているんです」

 

 ええっ! じゃあ俺が昨日抱いた柏葉なんかも、今頃検査で妊娠が判明しているのかもしれないのか!

 どどど、どうしよう……! なんて声をかけたらいいんだ? やっぱり"ありがとう"か?

 

「ふふ、残念ですが、サオトくんの奥さんたちはまだ誰も妊娠していません。その場合、すぐに連絡が来るはずですから」

 

 な、なんだ。いきなり自分の子供という存在が現実味を帯びて焦ってしまった。

 子供の育て方なんて知らないし、この歳で親になるなんて想像がつかない。

 

 俺なんて今のところお世辞にも立派な父親、で、は……

 

 

 ——『残酷だね』

 

 

 あの澄んだ声がフラッシュバックする。

 

 もし子供が生まれたら、その子は命懸けで戦う人生を歩まされる。

 望む望まざるに関わらず。

 

 頭をブンブン振って思考を切った。俺がどうにかできることではない。

 あれ、でも桃田の場合はどうなるんだろ。

 

「桃田の子供が生まれたら、どういう扱いになるんですか?」

 

「ヘルドラング大公爵家は徹底した実力主義なので、産まれた子が優秀であれば跡取りとして大事に育てられると思いますよ。

 長女のお子さんですし、桃田さんもその父親として安定した立場を手に入れられます。

 大公爵様は、ニホンの方々へ偏見を持たない数少ない貴族様ですからね」

 

 ……なんだそれ。あいつの方が自由って事じゃないか。子供まで恵まれた環境で生きられる。

 

 もし俺に子供ができたとして、その子は桃田の家に産まれたかったと願ってしまうんじゃないか?

 俺なんかが父親だっただけに、まともな幸せも手に出来ず……

 

 ぱんっぱんっ、と自分の頬を自分で軽く叩く。すぐそうやって暗く考えるのが俺の癖らしい。

 

 あいつはどう思ってるんだろうな。

 唯一の最愛を失って、その直後に初めて出会った女の子と数日で子供を作って。

 悲しんでいるのか、悔しがっているのか、意外と楽しんでいるのか、もう忘れてしまったのか。

 

 あいつの顔を思い出して、何となく予想はついた。いや、間違いないと確信できる。

 ——諦めない。きっと今でもずっと栗栖さんの事を考えている。

 すぐに娘を孕ませたのは、もう割り切ったんだろう。そして方針を決めた。

 

 大公爵家の娘全員をさっさと孕ませてしまって、確固たる立場を手に入れる。

 そして、最愛の彼女を取り戻す。

 あいつなら絶対にそうする。笑えるほど簡単に想像できた。

 

 頑張れよ桃田。それまで彼女は、俺がなんとか守っといてやるからさ。

 

 

 

 

 ……流石にハッスルしすぎたな。

 大広間に戻った俺は少し反省していた。もう間も無く昼食の時間だ。

 今夜の夜伽について話したい相手がいたんだけど、ゆっくり会話する時間は残っていない。

 

 早足で歩き回りながら、目当ての女子を探す。

 

「あー! おにーちゃんはっけん!」

 

 きゃっきゃと嬉しそうにみかちゃん先生が駆け寄ってくる。……もう、"先生"ではないな。

 彼女の後ろから追いかけてくるのは、春風と柏葉だ。すっかり懐かれたらしい。

 

「一緒にごはんたべよー」

 

 俺の腰に抱きついて昼食を誘うみかちゃん。その低い頭を撫でながら答える。

 

「いいよ。みんなで食べようか。……二人もいい?」

 

 百合ップルが笑顔で頷いた。みかちゃんを連れて先に和室へ向かってもらう。

 二人の間で手を引かれて歩く子供……完全に親子三人家族だな。

 

 続いて探し人を……と思ったところで、今度は横から声がかかる。

 

「釣谷。いい?」

 

 必要最低限の言葉に声量。声の高さもテンションもやや低いその言葉は、灰咲怜(はいざきれい)のものだった。

 

 黒髪を後ろで束ねたポニーテールに、無造作に混じる灰色のメッシュ。

 半ば伏せられた瞳は常に温度を感じさせず、鋭い眼差しだけが静かに佇んでいる。

 表情はほとんど動かず、口元もわずかに引き結ばれていて、感情は全く読み取れない。

 整った顔立ちでありながら、その無機質な静けさが近寄りがたい孤高の雰囲気を際立たせていた。

 

 彼女は俺の目を真っ直ぐに射抜きながら、己の目的を端的に告げる。

 

「夜伽。今日の夜。……受けるから」

 

 まるで宣言するように言い切った。

 俺が彼女を選ぶかどうか確認するのでなく、選ばれると分かった上でそれに同意する。そんな言葉だった。

 そしてそれは正しい。俺は今日、彼女を誘うつもりだった。

 

 仮にも"子作りセックスをしましょう"という約束だというのに、あまりにも無機質な会話に思わず笑みを浮かべて答えてしまう。

 

「ああ、頼むよ。俺もいま君を探していたところだったんだ」

 

 灰咲さんは無表情のままほんの僅かに頷いた。 

 これで、誘う相手はあと一人だ。灰咲さんならその相手の居場所を知るかもしれないと思い、聞こうとすると。

 

「ん」

 

 くい、と親指で背中側を指した灰咲さん。その指す先には、壁際に立ってこちらを見ている俺の探し人がいた。

 俺の思考は完全に把握されているらしい。すごいな、別に仲がいいわけでもなかったのに。

 灰咲さんは用が済んだとばかりにスタスタ去っていった。

 

 俺はその背中に感謝の言葉を投げつけつつ、俺は目的の人物の元へ歩いて向かう。

 

「……ぁ。……なに?」

 

 壁に背をもたれて寄りかかったまま、僅かに視線を横にずらして俺と目を合わせない彼女。

 最後のBランク。朝飛華菜(あさとびかな)だ。

 

 濃い紺色のベリーショートが顔まわりに軽く沿い、引き締まった輪郭を際立たせている。

 切れ長すぎない素直な形の瞳はまっすぐな光を宿し、短めに整えられた眉と相まって迷いのない意志の強さが感じられた。

 鼻筋は控えめに通り、口元は普段きゅっと引き結ばれている。

 端正でさっぱりとした顔立ちの奥に、表に出さない熱が静かに潜んでいた。

 

 水泳部のエース。うちのクラスで唯一美澄さんに並ぶ運動神経を誇る、スポーツ少女だ。

 

「時間がないから端的に伝えるね。……今日の夜伽に誘いに来たんだ」

 

「……! そ、そう」

 

「受けてもらえないかな。返事は、夕食の後でもいい」

 

「…………」

 

 目を逸らしたまま、少しだけ頬を赤くする朝飛さん。

 小さく結ばれた口は動かないまま、頭を僅かに下げて縮こまるように黙ってしまう。

 

 中性的な美人で恋愛的な雰囲気は感じたことが無かったが、今の彼女はただ恥じらうだけの可愛らしい少女だった。

 あまり焦らせても仕方がないので、考える時間を渡すために俺は立ち去ることにした。

 

「じゃ。夜までに考えておいてくれると嬉しいよ」

 

 そう言った俺はくるりと背を向けて、歩き出そうとした。

 しかし。

 

 ——きゅ。

 

 着物の裾が軽く引っ張られる。頭だけ振り返って裾を見れば、朝飛さんが指先で俺の着物を掴んでいた。

 視線をあげると、未だに視線を横に逸らしたままの彼女が、真っ赤な顔で口を開けた。

 

「う、受ける。……夜伽」

 

 え……か、かわいい……。

 

 普段はクールで活発的な彼女が、見たことのない"女"の顔で控えめに声を出した。

 俺の心はそのギャップで萌える。こんな顔もするんだ、この子は。

 

 身体ごと振り返って、真っ直ぐ礼を伝えた。

 

「ありがとう。……ご飯、よければ一緒に食べない?」

 

 朝飛さんは赤くなって目を合わせぬまま、何も言わずに小さく頷いた。

 

 

 

 

 暖かい日差しに照らされた縁側。そこにみんなで集まって昼食を食べていた。

 俺を含めて総勢七人の大所帯である。例によって弁当はシェアしながらだ。

 

「これ、おいひい!」

 

 俺の左隣。百合ップルに挟まれたみかちゃんが、俺の弁当からハンバーグを取ってぱくぱく食べる。

 それを甲斐甲斐しく世話する春風に、微笑ましく見守る柏葉さん。

 完全に家族連れだ。多少複雑な気持ちではあるが、みかちゃんが元気なのは良いことだ。

 

「竿斗。はい、あ、あーん……」 

 

 俺の右隣に座る宇佐美が箸で弁当を食べさせてくれる。恥じらいが隠せていない。

 意外にもギャルズで集まったりせず、俺の隣に赤い顔でやってきたのだ。可愛い。

 強気な態度も今はどこかへ消えて、すっかり純情ギャルになってしまっている。

 

「…………(もぐもぐ)」 

 

 俺の正面に無表情で正座してぱくぱくと俺の巨大弁当を食べまくっているのは灰咲さんだ。

 さっきは誘う前に立ち去ってしまったので来てくれるとは思っていなかった。

 たぶん、俺がいつも夜伽の相手と食事をしていた事を察して来てくれたんだろう。

 

「これ……食べる?」

 

 灰咲の隣で静かに食事をする朝飛さん。あまり目は合わせてくれない。

 スポーツ系女子だけど食は細いのか、自分の弁当だけでお腹が膨れた様子だ。

 俺の弁当には無いおかずをおずおずと差し出してくれたので、ありがたく頂いた。

 

 なんだか今までとはまるで違う顔ぶれに囲まれて、ちょっと新鮮な気分だ。

 特に夕凪とくるみがいない昼は初めてである。一番賑やかだった二人がいないから、急に縁側が広くなったように感じる。

 勝手に来るものと思って誘わなかったから、今日来なかった理由は知らない。……夕凪には話もあったんだけどな。

 

 普段と違う昼食の光景は、普段と同じように平和そのものだった。

 

 

 

 

 午後は昨日に引き続きシンシア教授による魔法の授業だった。

 昨日の振り返りや新しい魔法陣について教わっている。

 ……自分じゃ絶対に使えない魔法を学ぶのは、正直ものすごく虚しい。

 

 とは言え、なんとなく今日も実技がありそうな気がしていたので授業は真面目に受けた。

 朝などの空いている時間に文字も何とか勉強したし、今度こそテストも点が取れるはず。

 

「よし、座学はこんなところだろう。実技に移る。ついてこい」

 

 シンシア教授がさっさと講義室から出て行ってしまう。

 ……え! テストないんすか!

 

 

 

 

 連れてこられたのは昨日も実技試験を行った体育館っぽい大きな訓練場。

 しかしあのトラップまみれの巨大通路は綺麗さっぱり消えていて、代わりに高いネットが一つ立てられていた。バレーやバドミントンで使うような、真っ直ぐに直立した横長のネットだ。

 

「本日はチーム対抗戦だ。家畜の健康には運動も重要だからな。楽しく運動させてやる」

 

 口の端で笑いながら、シンシア教授が俺たちを睥睨(へいげい)する。

 この人ほんとうに性格が悪い。ジタバタ苦しむ俺たちを眺めて悦に浸ってる気がする。

 

「序列の上から順に四人チームだ。同順位は適当に決めた。早くまとまれ」

 

 フォンッ、と光る文字が空中に浮かんだ。チームのリストだ。四人チームが四つ。

 ……あれ、俺は? どこにもいないんだが。

 

「貴様は見学だ。また負傷でもされたらコルドゥーラが五月蝿(うるさ)いからな」

 

 ノーラさんが抗議したらしい。伝わってたんだな、昨日の件。

 うーん……怪我する心配が消えたのは嬉しいけど、暇になるのは微妙である。

 

 みんながチームを組む様子を一人寂しく退屈な顔で眺めていると、教授がルールを説明し始めた。

 

 使うのは一個のボール。ネットを挟んで四対四で、三回以内の接触で相手コートに返し、地面に落とせば得点となる。十点先取で勝利だ。

 ……バレーボールじゃん! 異世界に来てまで普通にバレーやるのか?

 

 だが、やはり通常のバレーでは無いらしい。特殊ルールについても説明される。

 地面には一定時間ごとに更新される魔法罠が設置されており、足やボールが触れるたびに魔法が発動する。

 今回は魔法陣も隠されていないから、魔法の内容は陣を見れば分かるというわけだ。

 中には普通に危険なものもある。安全装置はあるものの、それが必要なくらいの負傷を負えばその人は失格、試合から退場となるらしい。

 

 説明もそこそこに、シンシア教授が早速一試合目を始めようとして……

 

「シンシアさん! ちょっと待ってください!」

 

 俺が、止めた。

 

 俺の目線の先には、ぽけーっとした顔でのんびりふらふらと歩く、雪村実果。

 ルールを理解しているかすら怪しい様子だ。

 俺の脳裏には、昨日味わった激痛の記憶。安全装置は完璧じゃない。守られるのは命だけで、死なない怪我なら反応しない場合もある。

 ——今のみかちゃんには、この実技は危険すぎる!

 

「俺がその子と代わります。これ、授業の内容を身に付けるためのものですよね。……その子には、意味が無いんじゃないでしょうか」

 

 俺の言葉に片眉をあげて考え込むシンシア教授。その口元には面白げな笑みが浮かんでいる。

 

「……ふむ。いいだろう。ただし、貴様が罠に擦りでもした瞬間にチームまとめて全員失格、ペナルティとする。構わんな?」

 

「……はい、それでいいです」

 

 不思議そうな顔で部屋を見回すみかちゃんに近づき、頭を撫でながらしゃがんで話しかける。

 

「みかちゃん。きみはあっちで、みんなを応援していてくれる?」

 

「……わかった! おにーちゃん応援する〜!」

 

 満面の笑みを浮かべたみかちゃんが、とててっと走り去った。

 離れた位置から小さな手がぶんぶん振られるので、俺もひらひらと手を振って返す。

 目線を前に戻せば、俺のチームメイトたちと目が合った。

 

 無表情クールキャラの、灰咲怜。

 爽やかスポーツ少女、朝飛華菜。

 小柄で控えめな性格の、秋穂夕凪。

 そこに俺が加わった四人が、このチームのメンバーだ。

 

「悪い、みんな。俺がワガママ言ったせいでとんでもないリスクを背負わされた」

 

 俺がたった一度ヘマをした瞬間に、全員が失格とペナルティ。

 あまりにも重い足枷だ。しかも俺自身にはペナルティが関係ない。

 勝手にそんなリスクを負わされた少女たちはしかし、よくやったと言わんばかりに俺を迎えた。

 

「ナイス釣谷」

 

 最低限の言葉で俺をフォローする灰咲。いつも通りの無表情だが、どこか優しげに見える。

 その隣でやる気を漲らせる朝飛が、爽やかな笑顔で俺を見た。

 

「アタシも先生は抜けるべきだと思ってた。いい判断だと思うよ」

 

 すっと近づいてきた夕凪が俺の腕を握って見上げてくる。

 

「竿斗くんは絶対そうするって分かってた。私の大好きな竿斗くんが、先生を放っておくわけないもん」

 

 花咲くように笑う夕凪。だが、俺はその笑顔の奥にある悲しみの色を見逃さなかった。

 今日、夕凪と話すのはこれが最初だ。昼食には来なかったから、何かあったのではと思っていたんだ。

 

「……夕凪。何かあった? 俺じゃ相談に乗れないこと?」

 

「……ううん。ありがとね、竿斗くん。でもこれは、私が自分で解決しなきゃいけない事なんだ」

 

「そっか。絶対に無理はするんじゃないぞ」

 

「えへへ、いざとなったら竿斗くんに泣きつくから、安心して!」

 

 どんな安心だ、それ。でも夕凪の顔は少し明るくなった。

 何があったのかはわからないが、こう言われた以上俺は信じてやるしかないな。

 

 相手チームもコートの向こうに集まった。

 春風日向、加美長優委子、菅沼芽衣子、明智黒実。

 Cランク組だ。いや、もしかすると今日の検査でBに上がっているかも。

 

 全員、運動神経は並以下といったところか。よし、勝てる相手だ。

 シンシア教授がコートの横につく。自分で審判をやるらしい。……なんか、一番楽しんでるのはこの人な気がする。

 

 サーブはこっちチームから。当然、朝飛さんに託す。

 全員が位置についたところで、コートの床があちこち光り出した。

 

 ——ウォン。

 

 魔法陣がいくつも浮かぶ。中にはあの忌々しい魔法弾のものも。

 俺はこれらに絶対に触れちゃダメだ。当たるくらいなら点を捨てる覚悟がいる。

 不敵な笑みを浮かべる明智の目線とぶつかった。……嫌な視線だ。

 

 ——ピッ!

 

 シンシア教授が笛を吹いて、試合が始まった。

 

 ……どうでもいいけど、異世界にもホイッスルってあるんだな。

 






キャラ紹介用のイベントなので、バレーは次話だけで終わります。
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