クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
ストーリーは進行しないので、ご興味がなければ飛ばしていただいても大丈夫です!
筆者はバレーに全く詳しくないので、用語等で間違いがあったらごめんなさい。
——パァンッ!
とんでもなく鋭い破裂音と共に、朝飛の豪速サーブがネットのスレスレを通過した。
ぐるぐるとトップスピンのかかったボールは、相手コートのど真ん中へ叩きつけられる。
ピッ! 「一対零」
笛の音と共にシンシア教授の声。
は、はえええ……! あんなん誰が捕れるんだよ。
朝飛が当然といったような顔で浅く息を吐き、再びサーブ位置につく。
これ、サーブだけで終わっちゃうんじゃ。
相手チームに視線を向ければ、委員長が涙目になって絶望しているのが見えた。
菅沼も青い顔で頭を抱えている。いっそ不憫になってきた。
——パァンッ!
容赦なく、二打目のサーブが放たれた。
全く同じ軌道、同じ速度、同じ回転。すごい、完璧なコントロールだ。
美しい放物線を描きながら鋭く飛んでいくボール。
その先で、唯一愉しげな笑みを浮かべる明智の言葉が聞こえた気がした。
「こんなのはどうかなぁ?」
ネット前まで出てきた明智の脚が、薄緑色の魔法陣に触れた。
——ビュオ!
突風。陣を中心に激しい空気が下から吹き出し、迫るボールを上へ押し上げる。
ボールは誰にも触れられないまま、その軌道をぐいっと上へ逸らした。
そしてそのまま、コートの外へ。
ピッ! 「アウト。一対一」
あははぁ、と明智の嫌味ったらしい笑い声が届く。本人も突風でひっくり返っているから全く格好良くはない。
……なるほど。魔法罠をあえて起動して効果を利用することもできるんだな。
「ごめん。あれは想定してなかった」
「問題ない」
朝飛が謝罪し灰咲が答える。彼女のサーブ権が無くなったのは痛いが、それだけだ。
地面に散乱する魔法罠を見る。魔力弾に、突風、拘束、吸引、反発……
くそ、数も種類も多くて咄嗟に利用するのはかなり難しいな。
「釣谷。動かないで。ボールが来た時だけでいい」
「アタシがレシーブとアタックをやる。二人はサポートをお願い」
灰咲が端的に告げ、朝飛がフォーメーションを指示する。俺は迂闊に動けないからな。
夕凪がネットの目の前、中心で陣取る。セッタ担当だ。
朝飛と灰咲がコートの中心から左右に分かれて立ち、俺は一番後ろの真ん中。
四人でひし形を描くような配置だ。
——パコンっ
春風のサーブ。柔らかい軌道のそれが朝飛の前方へ落ちる。
パンッと小気味よい音で朝飛が完璧なレシーブ。ネット前に柔らかく飛んだボールを、夕凪が両手で高くトスした。
朝飛がネット前まで駆けていく。
「朝飛。右前三歩。反発」
「オッケー」
灰咲が端的に告げたのは、踏むと強く反発力を生む魔法陣の位置。
てっきり避けるのかと思ったその陣を、朝飛は真っ直ぐ上から踏みつけた。
グウォンッ!
白い光と共に陣が起動し、両足で陣の上に乗る朝飛を強く弾いた。
大きな反発力にも関わらず、朝飛は完璧な重心移動でそれを乗りこなし高く高く飛び上がる。
その跳躍の頂点には、夕凪がトスした白いボール。
——バァンッ!
普通のバレーじゃあり得ない高さから放たれる、恐ろしいほど鋭いスパイク。
それはほぼ直角に軌道を描いて、相手コートのネット際スレスレの地面を叩きつけた。
ピッ! 「二対一」
……す、すげー! かっけー!
完璧な連携と最高の身体能力。ま、負ける気がしない。
相当高く飛び上がった朝飛は、華麗に着地しながらくるりと前転して衝撃を逃がす。
彼女は夕凪と片手で軽くハイタッチし、小さな口に笑みを浮かべて俺たちへ声をかけた。
「どんどんいくよ。みかちゃんが退屈して寝ちゃう前に終わらせよう」
やべえ、惚れそう。俺が女子なら今ので堕ちたな。
軽く息を整えながら、朝飛はもう次のプレーへ意識を向けている。
額に張りついた濃紺の髪を指先でかき上げ、視線だけが静かにコート全体をなぞった。
さっきまでの一瞬の笑みはもう消えていて、そこにあるのはただ真っ直ぐな集中だけだ。
きりっと引き締まった横顔に、余計な感情は浮かばない。
——ほんの僅かに上がった呼吸と薄く紅潮した頬が、彼女の内側の熱を隠しきれていなかった。
……ああ、完全に楽しくなってる顔だ。
バァンッ!
ピッ! 「八対二」
試合は相当に順調だった。
途中で夕凪がトスをミスって一点取られたが、それ以外は難なく点を取れていた。
相手チームも頑張ってはいるが、容赦のなさすぎる朝飛のスパイクには触れることすらできていない。
さらに時々罠を踏んでは、委員長が地面に腰まで埋まったり、春風がぷかぷか宙に浮いたり、菅沼が触手にがんじがらめにされたり、阿鼻叫喚である。
「ふぎゃあ! ……うへ、ぐへへ。こ、このままグチョグチョにされちゃう……?」
ヌメヌメした触手に絡まれて頬を染める菅沼に、俺は一周回って感心すらしていた。頭ん中どうなってんだ。
数秒経つと触手はスゥっと消えた。残念そうな菅沼が名残惜しそうにため息を吐いている。
「あと二点だね! 勝てるよ、竿斗くん!」
「このままアタシのスパイクで戦おう。相手も対応できてない」
はしゃぐ夕凪と落ち着いた声の朝飛。灰咲も無表情で薄く頷く。
灰咲が盤面を整え、朝飛が確実に仕留める。
その見事なコンビネーションは、思わず拍手を送りたくなるような完璧具合だった。
灰咲の指示は短く無駄が無い。それでいて必要な情報は全て揃っている。
そして朝飛がその指示を迷いなく実行し、見事な動きでボールをコントロールする。
夕凪はネット前から動かずトスにだけ集中していればよくて、俺は完全にお飾りだった。
結局、俺は一度もボールに触れていない。
床にはそこらじゅうに魔法陣が散らばっているにも関わらず、朝飛がひょいひょいと跳び、踏み込み、拾って、繋ぐ。全く無駄のない動きだ。
朝飛の縦横無尽な活躍で目立たないが、灰咲も素晴らしい動きをしている。
小さな動きで最大のリターンを得る彼女のレシーブやトスは、まるでコンピュータで制御されてるみたいに効率的である。
あまりの強さに俺は緊張感が薄れるのを自覚しつつ、次のプレーが始まった。
バシュッと、灰咲のサーブが相手に飛ぶ。
なかなかに鋭い軌道のそれを、委員長が必死の形相で何とか取った。
やや逸れたレシーブ。それを菅沼が滑り込むようにネット前までトスして、春風がぴょんとジャンプ。
春風のふわふわスパイクが俺たちのコートへ返される瞬間。
集中力を失って、ぽよよんと揺れる春風のおっぱいに夢中だった俺。
その視界の端で、悪い笑みを浮かべた明智の顔がちらりと見えた。
彼女の足元には、青白く光る魔法陣。
——『魔法罠には、遠隔で起動されるものがある』
授業で聞いたシンシア教授の声が、頭の中で蘇る。
あっちの魔法陣から、薄く光る線がこっちへ繋がって……
「! 釣谷ッ! 左前ッ!」
鋭く叫ぶ灰咲の声。
俺が目線を足元へ向けると、左前方わずか二歩の所で光り輝く、青白い魔法陣。
——向こうの陣とリンクして発動する、魔力弾の罠。
付近の人間を狙って飛び出す真っ青な魔力の塊が、俺の腹めがけて豪速で飛来した。
完全に油断していた俺は、足の踏ん張りが足りず身体を動かせない。
……ヤバいッ! 間に合わなッ
——バゴッ! 「ぶふぅッ!?」
視界を真っ白に染める強い衝撃。
ビュンッ……と、魔力弾が俺の横っ腹スレスレを通り過ぎた。
俺は爆速で顔面に飛んできたボールに吹っ飛ばされて、地面へドサッと倒れ込んだ。
春風の放ったスパイクを、朝飛が足で俺の方に蹴り飛ばしたのだ。
おかげで何とか魔力弾は避けられたが、俺の顔面はお陀仏になった。
右の頬が激しくジンジンと痛む。……歯、折れてない? 大丈夫?
「竿斗くんっ!? 大丈夫ッ!?」
「ううっ……ああ〜。らいじょうぶ……いてて」
「あ……ごめん釣谷、ちょっと強すぎたかも」
朝飛が申し訳なさそうな顔で謝ってきたので、手を振って問題ないと返す。
よ、容赦ねえ……でも助かった。魔法には当たらずに済んだから、失格は免れた。
ボールに当たっちゃダメとは言われてないからな。確認のためにシンシア教授を見る。
「ふ……くくっ……は、八対三……ぶふっ」
横目で俺を見ながら吹き出す教授。笛を吹くのも忘れている。
……こ、このッ! 人の痛みも知らないでッ!
相手コートに目線を移せば、明智が腹を抱えながら床に寝転んで爆笑していた。
「あはっ! あはははっ! "ぶふぅっ!?"って! うはははっ!」
あ、あんのヤロウ……! 最初から俺を狙って罠を起動しやがったな?
ぜってえ許さねえ! 次の夜伽でブッコロス。
「立てる?」
灰咲が顔色を変えずに手を差し伸べてくれたので、その手を取って立ち上がる。
…………。
いや、よく見たら薄っすら笑ってないか? こいつ。
プイ、と灰咲が顔を背けた。やっぱり笑ったよな!?
「あと二点。油断しないで。……くっ」
さも真面目ぶった声で灰咲が言うが、笑いが漏れてるの聞こえてるぞ。
お前、今日の夜伽でどうなっても知らないからな。
俺の腕に抱きついて心配する夕凪を宥めながら、フォーメーションを組み直した。
頬はまだ痛むが問題ない。今は明智をぶっ倒すのが先だ。
バァンッ!
ピッ! 「十対三。終了だ」
残りの二点は朝飛が難なく取ってくれた。俺はひたすら足元だけに注意していたから、もう罠に引っかかることはなかった。
ネットの向こうでニヤニヤと笑う明智を睨みつける。楽しそうに手を振ってきたので中指で返してやった。
勝ったチームはそのまま次の試合らしい。呼ばれた次のチームが相手コートに入ってくる。
宇佐美瑠奈、星宮瑠美、寝白瑠夏、安里くるみ。
ルルルギャルズ&あざと少女だ。男子キラーすぎる布陣だな。
相手のフォーメーションは俺たちと同じだ。セッタはくるみ。ギャルズが三角形に並んでいる。
左右に並んだ星宮と寝白を見る。……ぽよんぽよんと揺れる巨乳。目に毒すぎる。
おそらく最も注意すべきは寝白だろう。身長が高く手足も長い。ああ見えて運動神経もかなり良かったはずだ。
「さっきと同じ作戦でいこう。釣谷は罠に集中して」
朝飛が呼びかけ、みんなが頷いた。もう明智と同じ手は喰らわないぞ。
シンシア教授が笛を吹き、試合が始まった。
サーブは向こうから、宇佐美の攻撃だ。
——バンッ!
けっこう鋭いサーブだ。最強ギャルなだけある。
灰咲が一歩で位置を合わせ、無駄のないレシーブ。
夕凪がすぐさま高くトスへ繋ぐ。
足元の陣を正確に避けながら、朝飛がネット前まで駆けて高く跳ねた。
魔法がなくとも翼が生えたように高い跳躍、そこからスパイクが撃たれる、その瞬間。
——グウォンッ!
相手コートで白い光が放たれる。反発の陣だ。
罠にかかった獲物を弾き飛ばそうとするその大きな力に乗るのは——長い銀髪を靡かせる、ダウナーギャル。
ふわりと、空に美しい銀髪が舞う。
朝飛に激しく撃たれたボールは直後、反発力に乗って高く跳躍した寝白の腕に強く弾き返された。
たちまち俺たちのコートに帰ってくるボール。その勢いは弾丸のように速く、誰もいない空白地帯へ。
灰咲が素早く反応するが、足元の罠に阻まれてとどかない。
バンッ……と、ボールが地を跳ねた。
ピッ! 「零対一」
軽々と着地した寝白が、肩の力を抜いたまま楽しげに緩く笑う。
「おお〜……これ、けっこう楽しいカモ」
……こ、この白ギャル、天才肌だ……!
朝飛が小さく息を吐く。
その横顔に僅かに熱が乗った。
灰咲は無言のままコートを見渡している。
視線がさっきの反発陣の位置で一瞬止まり、次の瞬間にはもう次のプレーを組み立てているのが分かった。
どうやらこの試合は、一筋縄ではいかないらしい。
バシュンッ!
激しいラリーが続くなか、朝飛のスパイクが相手コートに鋭く飛ぶ。
ボールが地に刺さる直前、宇佐美が細い足でそれを蹴り上げた。
「ホシミン!」
「うん。ばっちり」
荒いレシーブからの丁寧なトス。そしてネット前に迫る銀髪ギャル。
長い脚が床の罠を軽々と超えていき、やがて高く跳躍した。
「おりゃ〜」 バァンッ!
緩すぎる声とは裏腹に、鋭すぎる一撃。
真っ直ぐ地面へ向かうそれを、朝飛が見事に腕で弾く。
夕凪が再び高くトスを上げ、朝飛が跳躍。完璧な位置どり。
「星宮。右二歩」
灰咲の端的な指示。スパイクで狙う場所の指定だ。
簡単にレシーブされてしまいそうなその位置へ、しかし朝飛が迷いなくボールを撃ち放った。
瞬間、灰咲が足元の陣を踏み抜き、バッと後ろへ退避する。
——キィン!
灰咲の踏んだ陣と、それにリンクしていた相手コートの陣が同時に起動。
陣の周囲が一瞬で白く凍りつく。氷結の魔法陣だ。
「わっ!?」
星宮の足元に広がった氷の床。それを避けた星宮はレシーブの姿勢が崩れ、すり抜けたボールが地面へとぶつかった。
ピッ! 「七対六」
とんでもなくハイレベルな試合だった。
既に魔法陣を活用した攻撃や妨害は当たり前で、ボールと相手の動きと床の魔法陣、全てを視界に収めながら動く必要がある。
……正直、俺じゃついていけてない。夕凪もそうだし、相手のくるみもだ。
ギャルズは連携力がとにかく高い。言葉もほとんど交わさないまま、息のあった動きで互いをカバーしている。
そして生まれた俺たちの隙を、寝白が高い身長と運動能力で刺しにくる。まごうことなき強敵だった。
一方の俺たちは、朝飛が類まれなスポーツスキルであらゆる状況を打開しつつ、灰咲が的確な分析で相手の動きを読んで指示を出している。
俺はその場に直立したまま、時々飛んでくるボールを高く上げるだけ。基本は罠に集中だ。
……悔しいな。リスクを負っているせいとはいえ、完全に俺が足を引っ張っている。
俺も十全に動ければもっと朝飛を活かした連携もできるが、万が一俺が罠にかかればその瞬間に全員失格だ。
「悪い。俺が邪魔になってるよな」
「問題ないよ。ちゃんと返してくれてるし、充分」
額から流れる汗を拭いながら返事を返す朝飛。
その横顔は、汗に濡れてなお崩れない静かな集中に満ちていた。
濃紺の短い髪が額に張りつき、視線はただ一点をまっすぐ捉えている。
きりっとした眉と引き結ばれた口元に迷いはなく、確かな手応えの気配だけがある。
一人だけ激しく動き続けて追い込まれているはずなのに、次を決めることだけに集中している顔だった。
……本当にカッコよくて、綺麗な横顔だ。
試合中にも関わらず、俺は彼女に一瞬だけ見惚れてしまった。
小さく笑みを浮かべた彼女が、短く俺たちへ呼びかける。
「次も、取りに行くよ」
バァン!
ピッ! 「九対九」
デュースは無し。次に取った方が勝つ。
体力のあまりない夕凪が肩で息をしている。ミスも増えて二点取られてしまった。
お互い追い込まれた状況で、それでも楽しそうに笑う二人がいた。
真っ直ぐで鋭い視線に僅かな笑みを添える、朝飛。
緩くふわふわと笑いつつも油断を見せない、寝白。
コートの上には数多の魔法陣と垂れる汗。試合の熱気で息が苦しい。
サーブは再び宇佐美だ。彼女も珍しく真剣な表情でボールを構えている。
ギャルズがここまで手強いなんてな。彼女たちは体育の授業をよくサボっていたからあまり運動している姿を見たことが無かった。
宇佐美がボールを高く上げ、最後のサーブが放たれる。
バンッ!
向かう先は俺。真っ直ぐ目の前に飛んできたそれを、両手を組んで優しく弾く。
……よし。ボールは夕凪の真上へ。トスが高く繋がれた。
「寝白。左後方三歩」
灰咲の指示。ネット前で朝飛が跳躍する。
鋭いスパイクが放たれる瞬間、向こうのコートでくるみが悪い笑みを浮かべた。
「朝飛ちゃん、今朝ひとりエッチしてたでしょ」
「!?」
思わぬ口撃に朝飛の腕が勢いを失う。
ぱすん、と情けないスパイクが弱々しく飛んでいく。
く、くるみ……それはさすがに盤外戦術すぎるだろ……。
ボールはふらふらと星宮の目の前へゆっくり落ち、着実なレシーブが返される。
くるみが平気な顔してそれを高くトスし、寝白がネット前へ駆け出した。
まずい、完璧なスパイクが来る。
朝飛は体勢を崩したままだ。あっちに飛んできたら返せない。
寝白がネット前にたどり着く直前、灰咲が小さく呟いた。
「寝白は三歩で踏み込む。もう覚えた」
言葉と同時。灰咲が足元の陣を踏む。
——ウォン……
光り出す反発の魔法陣。向こうの陣と繋がったそれが、同時に起動した。
ネット前で足を溜めようとした寝白の、すぐ右横で。
跳躍のために両足を地につけた瞬間という、彼女が一番避けにくいタイミング。
グウォンッ! 「わああ〜」
白く破裂したその反発力に、寝白がモロに横へ突き飛ばされる。
高く上げられたボールは、誰にも触れられないまま床へ向けて落ち出した。
「まだっ!」
星宮が駆け出す。くるみのトスはかなり高かったからまだ届く。
——はずだった。
星宮の目の前に、魔法陣の光。
繋がっているのは、灰咲がたった今追加で踏みつけた、突風の魔法陣。
「当然、読んでる」
無表情の中に僅かな笑みを浮かべた灰咲。
激しい風が、互いのコートで地面から上へと吹き出した。
ふわり、とボールが上に押されて、ネットを僅かに超えてこちら側へ。
それを待ち受けるのは、体勢を整えて再び跳んでいた、朝飛。
頂点。迷いのないフォーム。
——バァァンッ!!
星宮の居なくなった空白地帯へ。
猛烈な破裂音と共に、豪速で弾かれたボールが。
バンッ
と、地面へ叩きつけられた。
——ピッ! 「十対九。試合終了。……素晴らしい戦いだった」
「や、やったぁーっ!」
夕凪が両手をあげて跳ねる。俺も全力でガッツポーズした。
勝った! 俺たちの勝ち! よっしゃああっ!
「ナイスジャンプ」
「最高のフォローだったよ。ありがと」
パシッ、と乾いた音が弾ける。灰咲と朝飛が片手を強く打ち合わせていた。
短い言葉。けれどその一瞬のやり取りには、互いへの信頼と敬意が確かに込められていた。
灰咲の読みは完璧だった。寝白の癖を見抜いた上での、二重の妨害。
そしてその意図を汲み取り完璧に合わせてみせた、朝飛の二度目の跳躍。
……す、すごすぎる。最高にかっこよかった。
「釣谷と秋穂も、おつかれ。ナイスファイト」
「ああ、まじで最高だったよ朝飛。惚れ惚れするスパイクだった」
「はぁ、はぁ、お、おつかれさま! 勝ったね!」
ぱしっとハイタッチして労い合う。まさか異世界でこんな最高の瞬間を味わえるとは。
離れたところからみかちゃんのはしゃぎ声。ぶんぶん手を振ってくれるので俺も優しく振り返した。
勝ったとはいえ、相当ギリギリだった。主に俺が動けないせいだが。
みんなの体力も残り少ない。次は勝てるだろうか。
勝利の喜びもそこそこに、次の相手がコートに入る。きゅ、休憩無しか……。
そして、休憩なんかよりも重要な問題は、相手チームのメンバーだ。
柏葉綾、水無月詩、栗栖愛莉に……美澄英理。
序列トップ四人のチーム。栗栖さんだけは頭脳派で運動はあまり得意でない印象だが、そんなものは問題にならない。
高身長で運動も得意な柏葉に、頭脳も身体能力も超高水準な水無月さん。
何より、朝飛を超えるスポーツスキルと灰咲を凌駕する観察力を一人で両立する、美澄さん。
俺が普通に動けても苦戦するであろうドリームチームだ。
戦々恐々とする俺たちを待ちもせず、シンシア教授の無慈悲な笛の音が鳴った。
ピッ! 「試合開始」
ピッ! 「三対十。 試合終了」
ドサッ、と地面に倒れ込む。ボロ負けであった。こんなん誰が勝てるんだ!
朝飛と灰咲も膝に手をついて肩で息をしている。夕凪は俺と同じで地面に転がって死んでいた。
あのドリームチームと戦うのはこれで二度目だった。負け抜け形式で、他の三チームに連勝したらクリアだったらしい。
一度目は連戦の疲れもあって、一点しか取れずにズタボロに負かされた。
とにかく美澄さんがヤバすぎる。たぶん目は六つあるし足にターボエンジンがついてるな。
次から次へと魔法陣を起動しまくっては無双乱舞していた。
彼女だけステータスが有効でしたとか言われても納得しちゃうね。
「ふむ、みないい試合だった。少々チームバランスが悪かったきらいはあるが、まあ戦いとはそんなものだ。
勝ち残った四人にはワタシのとっておきのデザートを夕食につけてやろう。今日はこれで終わりだ」
用は済んだとばかりにスタスタ去っていく教授。
デザートって……ゲテモノ食っててもおかしくないぞ、あの人なら。
俺はぐったりと立ち上がって、みんなと風呂場へ向かうのだった。
名前がいっぱい出てきて分かりにくかったらすみません……。
もっと上手に描写できたら良かったんですが。でも書いてて新鮮で楽しかったです。