クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
勇者離宮。白木と障子を基調とした伝統的な和造りのその離宮は、異世界から呼び寄せられたニホン人たちが馴染みやすいように設計されている。
しかし、最奥に存在する一つの執務室だけは、由緒正しき帝国風の建築で統一されていた。
深紅の絨毯。重厚な木製机。壁際に並ぶ背の高い本棚。
淡い金装飾の施された調度品が、静かな気品を漂わせていた。
大きな硝子窓から差し込む朝日が、深い色合いの絨毯を静かに照らしている。
その光景は豪奢でありながら不思議と落ち着いていて、まるでこの部屋だけ時間の流れが違うようだった。
帝国第二皇女、セレン・ノクティス・ドラングレイヴの新たな執務室。
静謐で美しくどこか冷たいその異質な空間は、この国の誰とも交わらず孤独に在り続けた皇女自身を映しているかのようだった。
勇者召喚から、七日目の朝。
皇女セレンはついに帝国の表舞台から去り、ここで勇者の子を孕むためだけの不自由な生活を送ることになる。
そんな真っ暗な未来しか持たぬ彼女は、しかし過去のどんな時よりも穏やかで落ち着いた微笑みを浮かべて机に腰掛けていた。
そばに控える侍女長、ノーラ・コルドゥーラが、静かに報告をあげる。
「殿下。秋穂様がお目覚めになられたようです。
今は旦那様がお付き添えなさっており、容態は安定しております。」
「そうですか」
いつも通りの、端的で感情のない返事。
ノーラが仕え始めてから十年間、ずっと変わらぬ彼女の態度だった。
でも、ノーラだけには分かる。
ずっと固く凍りついていた彼女の声や表情が、春先の雪のように溶けていた。
長い間、こんな日が来ることを願っていた。
憐れで孤独なこの皇女が、いつか心からの安らぎを得るこの時を。
万感の思いを胸の内に押し込めるノーラへ、セレンが柔らかく声をかける。
「……ノーラ。この十年、貴女だけはずっと、わたくしを信じてくれていましたね」
「! ……と、当然のことです。
執務以外でセレンの方からノーラに話しかけてくるのは、それはもう大層に珍しい事だった。
突然の事に動揺を漏らしつつ、ノーラはなんとか冷静に答える。
そんな堅苦しいノーラの態度に、セレンは少しだけ可笑しそうな笑みを浮かべて言った。
「ふふ。その"殿下"とやらを妹のように思うのも、貴女の使命ですか?」
「ッ!? ……そ、それは……」
「……冗談です。どうやらわたくしは、ずっと自分で視野を狭めていたようですね」
美しい金色の睫毛を伏せながら、セレンは少しの申し訳なさを滲ませて言う。
「ノーラ。この十年、ありがとうございました。
こんな不器用なわたくしですが、これからもどうか、一番近くで支えてくださいますか?」
「……で、殿下……っ! も、もちろんでございます!
世にも珍しい侍女長の嬉し涙が、絨毯の色をわずかに濃くした。
長い苦労を乗り越えて、ようやく二人が幸せを手にした瞬間だった。
照れ隠しをするかのように、ノーラがきびきびとセレンへ伝える。
「では、朝食の時間ですので。失礼いたします」
いつも以上に姿勢を伸ばして歩き去るノーラを、静かな微笑みで見送るセレン。
それは、歳の離れた不器用な姉を見守るような眼差しだった。
広い執務室に静寂が宿り、明るい陽射しが机を照らす。
そして、セレンの宝石のような瞳が深淵に染まった。
思い出すのは、昨日の逢瀬。
ようやく再開できた最愛の男性との、熱い交合。
それはセレンの記憶にある以上の幸福と充足をもたらして、生きる意味を教えてくれた。
本当はセレンが一方的に彼を満たし、心の全てをセレンのモノにしたかった。
だが、彼もセレンを必死に求めてくれたので良しとする。
問題は、セレンのスキルが予想外の妨害に遭った事だ。
本来であれば、彼と身体を交えた瞬間にその魂と完全に接続できたはずだった。
もちろん彼の記憶や人格は一切操作などせず、ただセレンの支配下に置いて護ることだけが目的だ。
互いの魂を完全に繋げて、二人だけの精神的な楽園を創り出す。そのはずだった。
だが、いざ彼の魂を包み込もうとしたその時、青い
その正体はすぐに分かった。同じ部屋に持ち主がいたから。
彼と同時に召喚された、圧倒的に優れたステータスを持つ女。
彼女の魂が、サオトの魂に半ば融合するように繋がっていたのだ。
そのせいでセレンはサオトを支配しきれなかった。
——あの女が、最愛の彼の魂を穢している。
考えただけで、腑が煮え繰り返るような憎悪と殺意を覚える。
どうやったのかは分からない。だが、スキルによるものと見て間違いないだろう。
無理矢理引き剥がすこともできない。彼の魂と融合しかけているそれは、無理に弄れば彼の魂まで傷付けてしまうだろう。
かといって女を始末することも悪手だ。女の魂が死んだ時に彼にどんな影響があるかは未知数すぎる。
気づいた時には手遅れで、既に万策尽きていた。
先にセレンが支配しておけばこうはならなかったのに。
異世界から召還した者は全員スキルもステータスも封印していたから油断していた。
セレンは無表情のまま唇の端を噛み切った。
人形のように美しく整った口元に、一筋の赤い線が垂れる。
固有スキルは、その者の本質そのものだ。
セレンにとって、他者の魂を支配することは本能に近かった。
さらに言えば、自分の魂も曝け出して魂で抱き合う事こそがずっと求めていたものだった。
今まで誰も取り込まずに耐えてきたのは、自分にとって一番大切と言える人の魂だけを手にしたかったから。
やむを得ない場合だけ記憶や人格を書き換えることはあったが、用が済めばすぐに手離していた。
自分に対するノーラの想いに気づきながら冷たく接してきたのも、心を開けばつい支配してしまいそうだったからだ。
その狂おしいまでの欲求を妨害する、
セレンは今朝目覚めた時から、彼女を排除する方法だけを考え続けていた。
しかし、答えは無い。
悔恨がセレンを責め立てる。
ようやく最愛を見つけたというのに。ついに理解し合える人が現れたというのに。
魂など支配しなくとも分かり合える、などという発想はセレンにはなかった。
幼き頃に味わった記憶とスキルによる本能が、それ以外の選択肢をセレンに与えない。
歪んでいるのは自覚しつつ、矯正するつもりも無かった。
だって、最愛の彼もセレンと同じで歪んだ
セレンと同じ、他者を支配することに悦びを得る人だから。
——彼もセレンと同じ……?
その事実に気付いた瞬間、セレンの脳はたった一つの解決策を導き出した。
セレンに無理なら、サオト本人にやって貰えばいい。
彼なら、きっとできる。
彼が内に秘めるあの凶暴な獣なら、きっと彼女を支配できる。
セレンは真っ黒な瞳に輝きを取り戻す。
これからの目的はただ一つ。
サオトのスキルを利用して、あの女を……いや、この離宮の全ての女を支配させるのだ。
そうして全てを手に入れた彼を、セレンが最後に手に入れる。
彼の欲望を解き放たなければならない。
しかし彼自身が本能に呑まれるのはいただけない。セレンが欲しいのは素直な彼であって、暴走する獣ではない。
あくまで今の彼のまま、全ての女を支配させるのだ。
この離宮をドロドロに爛れさせて、甘い色毒に満たされた楽園へ変えてしまおう。
そして彼が誰よりも幸福に、誰よりも欲望のまま生きられる世界へ。
まるで伝説に残る、前代勇者のように。
セレンの脳内には、離宮をより甘く、より堕落させ、愛と欲望に溺れた楽園へ変えるための構想が、止めどころなく溢れ続けていた。
■
美澄が目を覚ました時、そこは与えられた個室のベッドの上だった。
ゆっくりと身体を起こせば、窓から差し込む朝日が白い頬を照らす。
眩しさに細めた目を、そっと手で覆った。
随分と身体が重い。
昨晩、気が遠くなるほどにあの男の子に抱かれたせいかと思い、そうではないことに思い至る。
魔力欠乏だ。
彼の腹にある青い淫紋の効果は、観察によっておおよその効果には察しがついていた。
精液で膣内を満たすたび、相手の魔力を奪い取る。
何度も彼に抱かれた美澄は、魔力が底を尽きて気絶したのだろう。
魔力の存在を感じ取れるようになったのは、初めてのフェラチオで彼の精液を摂取した時からだ。
実際に感覚として知覚したのは初めてだったが、元々知識はあったから理解に時間は掛からなかった。
魔力の扱い方は、幼い頃から母に何度も繰り返し教え込まれていた。
いつか使う事になるかもしれないからと、ほぼ魔力の存在しないあの世界でも、母はずっと美澄へ魔法を教え続けた。
教材は母の頭の中にしかないから、一言も聞き漏らさぬよういつも必死に耳を傾けていた。
懐かしい記憶に美澄の口元が綻ぶ。
家は貧しく大変な生活だったが、幸せな家庭だった。
たとえ父がいなくとも、たしかに溢れんばかりの愛情に包まれて育ったと断言できる。
そんな母が亡くなったのは、美澄が十歳を迎えた頃だった。
魔力がないと生命活動を維持できなかった母は、あの世界に来てからずっと苦しみ続けていたのだ。
十年も生きられたこと自体、奇跡みたいなものだった。
母が最後に願ったのは、美澄が一人でも清く美しく幸せに生きていけること。
自分や父のように己の欲望に苦しんだり呑まれたりする事なく、ただ真っ直ぐに生きて欲しいと。
だから美澄は自分を変えた。
余分な感情をこそぎ落とし、自分を完璧に律し、あらゆる面で完璧な人間へ。
きっと空から見守っている母に、自慢の娘と言わせるために。
美澄英理の母は、
それもただの人間ではない。
淫魔と呼ばれ、人間を惑わし慰み者にする性質によって忌み嫌われる、人類に仇なす魔族の一人。
母はその中でも異端だった。
人間の男を数多く籠絡し、搾り殺した者ほど崇拝されるという狂った価値観の淫魔社会。
その中でたった一人、誰にも貞操を捧げずに孤独に生きていたのが母だった。
淫魔としての本能は常に男を求め続けた。
それでも母は、心から愛した相手にしか身を捧げたくなかったという。
そして同族にすら見捨てられ、常に身を焼き尽くすような衝動に抗い続けながら、誰もいない場所で孤独に生きていた。
そんな母の元を訪れたのは、同じく孤独に世界を彷徨っていた一人の人間の男だった。
彼もまた、スキルによって溢れ出る凶悪な色欲を必死に抑え込みながら、誰もいない逃げ場所を求めやってきたのだ。
己を焦がす衝動に、独りで抗い続けてきた二人の男女。
運命の出逢いを果たした二人が結ばれるのは、あっという間の事だったという。
大陸の端でたった二人、互いにずっと寄り添い続けた彼らの間に、やがて子ができた。
本来であれば人間と魔族との間に子など出来ようはずもないが、男が持つ特別なスキルがそれを可能にした。
二人は大層喜んだ。一生孤独に生きるしかないと思っていたのに、まるでありふれた普通の人のような、大切な家族を手に入れたのだ。
こんな僻地では子供に友人を作ってやれないのが申し訳なかったが、それでも精一杯愛してやるつもりだった。
そんな小さくささやかな夢は、魔族の大軍勢が二人を襲ってきたことで無惨に踏み潰された。
——母の唯一愛した男は、勇者だった。
母に出逢う数年前にこの世界に召喚された父は、史上最強の名を恣にした。
あっという間に魔王を滅ぼし、残る魔族もその悉くを殺し尽くしたのだ。
魔族の抱える父への恨みは、口にするのも憚られるほどの憎悪に染まっていた。
憎き勇者と通じた裏切り者。母が魔族からも人間からも、いよいよ命を狙われる事になった理由だ。
そして勇者は確かに最強だったが、その圧倒的な攻撃力に対して、他人を守る術は驚くほどに少なかった。
悪辣な魔族たちが母ばかりを執拗に狙いだすのもすぐの事だったらしい。
このままでは、母もお腹の子もいずれ死ぬ。
そう悟った勇者が採った選択肢は、己の故郷へ最愛の人を逃がすことだった。
かつて魔王が大事に抱えていた、世界の壁を超える魔道具。
勇者の故郷たる日本を滅ぼすために創り出されたそれを、父は厳重に保管していた。
そして、己の魂を代償に捧げることで、本来の機能とは違う形で無理矢理に起動したのだ。
お腹を膨らませた母は日本へ転移し、そこで無事に子を産んだ。
世界を超える際の負荷でステータスは大幅に弱体化したが、平和な日本で暮らすには何の不都合もなかった。
父のその後は母も知らなかったが、この世界に来てから美澄が知った。
母娘を送り届ける代償に、父は壊れたのだ。
魂を削り切った前代勇者は、最後には己の欲望すら制御できなくなった。
勇者の父と魔族の母。
その間に産まれた子供。
それが、美澄英理という少女の抱える最大の秘密だった。
勇者召喚の魔法は、日本で最も勇者の素質を持つ者を核として発動する。
それが、父がまだ理性を保っていた頃に辿り着いた結論だった。
だから、美澄が選ばれたのも必然だった。
勇者の血を引く娘。
それ以上に適した器など、あの世界には存在しない。
他のクラスメイトたちはただの巻き添え。
子作りさせるためにより多くの人数を欲した帝国が、召喚範囲を広げた事によるものだ。
美澄があの教室にいなければ誰もこんな世界に拉致なんかされなかったし、死人だって出るはずも無かった。
おそらく、まだ誰にも気付かれていない。
いや、女子の検査を担当するシンシアあたりはもう勘付いているかもしれなかった。
この真実が露見すれば、美澄はこの世界から居場所を失う。
この国で最も忌み嫌われる男の子供であり、人類に最も忌み嫌われる種族の娘である。
クラスメイトからも帝国からも迫害されて、まともな最期を迎えることすらできないと容易に想像がついた。
美澄の目的は、ただ一つ。
今代の魔王が受け継いでいるであろう、世界の壁を超える魔道具の製法。
それを手に入れて、何としてでも故郷へ帰る。
クラスメイトたちも一緒に帰還できそうなら助けるが、無理なら容赦なく見捨てるつもりだ。
チクリ、と胸が痛む。
脳裏に浮かぶのは、あの真っ直ぐな男の子。
彼を置き去りにすることへの罪悪感か、彼と永遠に別れることへの寂しさか。
答えは美澄自身にも分からない。
ただ分かるのは、美澄に選択肢など無いという事だった。
この世界の厳しさは、母の教えと自身の実体験で嫌というほど理解している。
理想論や綺麗事だけで生きていけるほど、世界は優しくない。
まずは釣谷を利用してステータスを上げ、己の封印を破ってから離宮を脱出する。
その後のことはまだ分からない。長く険しい道のりになる事だけは痛いほど確信していた。
美澄の脳裏では、これからの離宮での振る舞いが凄まじい速度で計算されていく。
その中で何度も出てくる男の子の顔が、絶えず美澄の心を締め付けていた。
願わくば、彼にも幸福があらんことを。
そして、せめて束の間だけでも、彼が私へ幸福を与えてくれますように。
■
自室で目覚めた俺は、真っ先に二人のクラスメイトのもとを訪ねた。
どうしても、謝らなければならなかったからだ。
「わざわざ謝罪にきてくれた事には感謝するよ。でも言っただろう。
僕は気にしていないし、あれは君の意思でもない。
どうしても気に病むというなら……次こそは、優しく頼みたいね」
先に会った水無月さんは、俺に対し何の隔意も見せずにそう言ってくれた。
嫌がる彼女を無理矢理レイプして、苦しめてしまったことへの謝罪だった。
あまりにも呆気なく赦しを得た俺は逆に胸が痛み、謝罪の代わりに感謝を伝える。
そして、「僕はもういいから」と断る水無月さんに急かされて、二人目の元へ。
部屋の扉を優しくノックすれば、小さな返事が返された。
中へ入って、再び誠心誠意で謝罪を伝える。
「……大丈夫。あれは釣谷くん自身の意思じゃ無かったのは、見て分かったから」
小声で俺を赦す栗栖さんは、しかし俺へのわずかな怯えを隠せずにいた。
部屋の入り口すぐで即座に土下座した俺へ、大丈夫だよと繰り返す彼女。
二人きりでは栗栖さんの負担になると判断したらしい水無月さんが、一緒に部屋に入って俺の隣で見守ってくれていた。
「確かに怖かったけど、痛かったり苦しかったりは無かったから。
……もう、暴走することは無いんだよね?」
「……断言はできないけど、セレンが封じてくれたから大丈夫だと思う。
いざとなったら、また無理矢理抑え込んでもらうつもりだよ」
恐る恐るといった様子で俺に話しかけてくる栗栖さんは、明らかに無理をしているようだった。
あまり居座るのも負担をかけてしまうだろうから、最後にもう一度謝って部屋を出た。
この離宮にいる限り、再び彼女を抱く日は必ずやってくる。
その時までに傷が癒えてくれることを祈るしかない。
水無月さんに励まされながら、とぼとぼと重い足取りで廊下を歩く俺。
そんな元へ、一人の侍女が報告を持ってきた。
「旦那様、秋穂様がお目覚めになりました」
なりふり構わず走ってきた俺の目の前で、夕凪がベッドに横になっていた。
医務室特有の静けさと匂いに包まれた彼女は、昨日の朝までと変わらないように見えた。
だが、その瞳だけが暗く光を失っている。
ふ、と俺を見上げた彼女は、瞳の端から小さく涙を零した。
「……竿斗くん……私、美澄さんに最低なこ——」
言い切る前に抱き締める。
「夕凪。いいんだ。……こんなクソッタレな世界じゃ、誰だっておかしくなる。
さっき、何となくの話はくるみから聞いたよ。悪いのは俺だ。」
詳細までは知らないが、夕凪がくるみと結託して美澄さんを排除しようとしたのは聞いている。
あのくるみですら、いつもの愛嬌を完全に失って、絞り出すような声で俺へ懺悔したのだ。
「夕凪やくるみの気持ちを受け止めるような真似をしておいて、それに俺が甘えていたんだ。
美澄さんへの気持ちを隠せなかった俺にも責任があるよ」
抱きしめたままの夕凪の肩が小さく震える。
「たしかに二人がやった事も悪い事だけど、結果的には何も起きなかったんだし。
美澄さんにちゃんと謝って、許してもらって、もう終わりにしよう」
「……う、ぐす……ごめんなさい……っ」
「……俺も、ごめんな。ちゃんと夕凪を見てあげられなくて」
優しく抱きしめ合って、謝り合って、許し合う。
きっと、美澄さんも許してくれるはずだ。彼女の能力は誰にも言っていないが、彼女にも非があるのは明白だった。
皆で互いの行いを許し合って、もう一度ここでの生活をスタートさせるんだ。
俺の着物の胸元を夕凪の涙が濡らしていく。
今度こそ、俺はその黒髪を、確かな愛情を込めて優しく撫でた。
朝食には夕凪も参加できた。
セレンの来訪を祝うとかで、今日だけは序列に関係なく全員が豪華な献立だった。
高級料亭も顔負けの豪勢な料理の数々に、みかちゃんや委員長がきゃいきゃいとはしゃいでいる。
朝食の準備にも時間がかかるようだったので、事前に皆とも話をしておいた。
俺の暴走を目の当たりにしたからか、一部の女子は最初はおっかなびっくりといった感じだった。
それでも、くるみや明智が平気で俺を揶揄ってきたり、水無月さんや美澄さんが自然に空気を整えてくれたおかげで、何とか昨日までの雰囲気を取り戻したのである。
賑やかで明るい朝食の雰囲気に、俺は何だか不思議な感慨を抱いていた。
——俺はついに、この場にいる全員を一度は抱いてしまったのだ。
目を閉じれば、彼女たち一人一人の可愛らしい喘ぎ声や美しい裸体、蕩けた秘所の感覚までもを想起できる。
食事中というのに、つい股間に熱が集まってしまうのを感じていた。
俺の目的は、全員に改めてはっきりと伝えた。
全員をSランクに押し上げて、序列制度を根本から破壊する。
誰か一人が不幸にならない、皆が平等に笑って暮らせる環境を手に入れたいと。
反対の声はあがらなかった。
もちろんそれぞれ思うところはあるだろう。
それでも今は、全員が同じ方向を向いて進み始めている。
結局、離宮から出ていく女子は一人もいなかった。
俺がそうさせた以上、彼女たちが幸せに暮らせるように最大限努力しよう。
……と、格好つけたはいいものの。
要するに俺はこれから、クラスメイトの女子たちを毎日抱きまくっては酒池肉林を堪能するわけだ。
全男性が一度は夢見る桃源郷ではなかろうか。
視線を感じて顔を向ければ、呆れたような、面白がるような笑みを浮かべた美澄さんがいた。
普段の静けさを取り払った彼女は、何だか色々と吹っ切れたようにも見える。
……あ。ま、まずい。彼女の位置からだけは俺の勃起が丸見えである。
顔を赤くして気まずい顔をした俺へ、美澄さんが小さく指で丸を作って見せてくる。
え!? もしかしてオッケーサインってやつ!?
うおお! 昂ってきた! ヤってヤってヤりまくってやるぜ!
——そしていつか、この離宮を制度ごとぶっ壊してやる!
朝食が終わった頃に、セレンが和室へ姿を現した。
執務があるとかで、別室で食事を摂っていると聞いていた。
凛とした立ち姿の彼女は、他の女子同様、一枚の薄い着物だけを身に纏っている。
日本人とは異なる端正さを誇る彼女の着物姿は、金色の長髪が良く映えて、人形のように美しかった。
やがて彼女は俺の隣にやってきて、ズラリと並んで座る女子たちを見回す。
移住の挨拶でもするのかな? そう思った俺の耳に、凛とした美しい声が響いた。
「本日から、離宮の序列制度を一部変更いたします。
各点数の変更に加え、一日の定められた時間帯にサオトを射精させる義務を負う、日替わりの奉仕係も新設いたします。
また、午後の行事は今後すべてわたくしが指定します。
本日の午後は全員、夜伽部屋に集合するように。
サオトを最も早く射精させた者に褒章を、最も遅かった者に罰則を与えます。」
平然と、矢継ぎ早に告げられる常軌を逸した告知。
あまりの衝撃的な内容に、全員の思考が完全に止まった。
「あらゆる時間を通して、サオトが身体を求めた場合に拒否することを禁じます。奉仕であっても同様です。
また、自慰行為を行った場合は必ずサオトに——」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! セ、セレン? それは本気で言ってる……?」
ようやく我に帰った俺が慌てて止めると、セレンはほのかな笑みを浮かべて俺を見た。
その表情は、決して冗談や思いつきで喋っているようには見えない。
当然とばかりに、凛とした声で返事を寄越した。
「……勿論ですよ? この離宮は、その全てがサオトのためのものです。
空間も、設備も、食事も、もちろん女性も。
あらゆるすべては、貴方が至福の快楽を得るためだけに存在するのです」
そんなはずは無かった。平然と返された言葉に、俺は声を失った。
どこかの獣がひっそりと歓喜の雄叫びをあげているのは、聞こえないふりをする。
セレンは何でもないかのように話を続けた。
「総じて、指示に従わない者には重い罰則を下します。
では、本日の食事奉仕は秋穂夕凪です。準備を済ませ次第、直ちにサオトに奉仕を行いなさい」
驚きに固まっていた夕凪の口元に、若い侍女が浄化魔法を使った。
夕凪は困惑した顔のまま、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
その表情には、不安と、どこか熱を帯びた期待が入り混じっていた。
「今後、食事奉仕を担当する者は、サオトの食事中は常に奉仕を実施するように。
担当者の食事の時間は別で設けますのでご安心を。……秋穂夕凪、早くしてください」
温度のない目で命令された夕凪の淫紋がわずかに光り、夕凪は顔を顰めた。
初日の儀式以来、俺たちは感覚全てをセレンに支配されている。
おそらく、痛みか不快感か、何かの刺激で急かされたのだろう。
座ったままの俺の足元に屈んだ夕凪が、俺の着物をはだけさせて勃起した肉棒を露出させる。
そして、ゆっくりと口の中に咥えていった。
生暖かい快感が俺を震わせ、あまりに異常な状況に思考が滅茶苦茶になる。
なんなんだ? セレンは一体何を考えて——
「サオト」
ふいに、耳元へ甘い声が落ちる。
「この離宮は、貴方の全てを曝け出せる場所です。
好きなだけ女を抱いて、犯して、孕ませていいのです。
ほら、もっと素直になって。……わたくしの事だって、好き放題していいのですよ?」
耳元で吐息混じりに囁かれた、悪魔の誘い。
理性がじゅわりと溶けていく。
こんなのは、違うはずだ。
俺が、俺たちが目標にした生活は、こんな爛れたものじゃないはず。
——本当に? これこそ、俺が夢見た最高の世界なんじゃ?
肉棒を包み込む快感で、ゆっくりと脳が溶けていく。
そして、悟った。
俺たちがこれから戦わなければならない相手は、魔族でも帝国でもない。
俺を欲望の海へ沈めようとする、この皇女だ。
俺の魂を絡め取ろうとするこの歪んだ少女に、理性をもって立ち向かわなければならない。
そして何より、俺自身の中にいる、あの恐ろしい獣を手懐けなければ。
……呑まれたら、おしまいだ。
欲望と快楽。
愛情と狂気。
その全てが溶け合った離宮の空気は、甘い毒みたいに俺たちを蝕んでいく。
もう、誰も後戻りなんてできない。
こうして俺たちの、第二の狂った異世界生活が始まった。
第1章『勇者離宮』 完
ご愛読、本当にありがとうございます!
第1章のテーマは「クラスメイト全員を抱く」で書いていましたが、まさかそれだけで30万字を超えてしまうとは……。
オリジナル小説を書くのは初めてで行き当たりばったりなところもありましたが、皆さんの応援もあって非常に楽しく書いてこられました。
感想、評価、お気に入り、ここすき、全部が宝物です! 本当にありがとうございます!
第2章は「マトモに頑張る竿斗 VS 好き放題する皇女」をテーマに、どんどん爛れていく離宮の性生活を書きたいなと思っています。
その前に何話か閑話も書く予定です。(他の男子とか桃田とか)
第2章開始には少しだけお時間をいただくかもしれませんが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
果たして完結には何万字必要になるのやら……。
まだ評価やお気に入り登録をしておられない方は、是非いただけるととっても嬉しいです。
もちろん感想もお待ちしています! 全てに大感謝!