クラス転移で勇者召喚かと思ったら子作り奴隷召喚だった 作:稲月
1話か2話ずつになるかと思います。
今回はDランク四名の話です。ダーク担当。
簡潔に人物紹介を置いておきます。
■北寺(きたでら)
容姿:鋭い目付き・精悍・日焼け・戦闘後は傷が目立つ
髪型:黒・ベリーショート
身長:178cm
体格:筋肉質・引き締まっている
性格:リーダーシップ・強気・自信家・責任感が強い・仲間想い
■東塚(とうつか)
容姿:人懐っこい・表情がころころ変わる・陽キャ
髪型:茶髪・やや長めの無造作ショート
身長:172cm
体格:細身・俊敏
性格:ムードメーカー・軽口が多い・空気を読める・情に厚い
■西木場(にしきば)
容姿:眠たげな目付き・中性的・どこか不健康そうな雰囲気
髪型:黒髪・前髪長めのマッシュ
身長:169cm
体格:華奢
性格:頭脳派・現実主義・怖がり・柔らかい・根は優しい
■南波留(なばる)
容姿:威圧感・巨漢・無表情気味・怖そう・目は穏やか
髪型:黒髪・ベリーショート・刈り上げ
身長:192cm
体格:大柄・分厚い筋肉
性格:寡黙・マイペース・面倒見が良い・我慢強い・精神的支柱
「
「ああ! 問題ないっ」
張り裂けるような声で
その目線の先には、森の中を目にも止まらぬ速度で駆ける、一匹の獣がいた。
灰色の狼のようなそれは、しかし普通の狼とは決定的に異なっている。
胴体を支える脚が、六本。筋肉質なそれを激しく躍動させて、獣は左右へ跳ねるように木々の間を駆け抜けた。
狙われたのは、後方で弓を構える一人の男、東塚。
ギリギリと弓を引き絞った彼は、迫る獣の眼へと狙いを定めて。
バシュッ!
鋭い風切り音と共に金属製の鏃を携えた矢が鋭く飛び、しかし獣の頬を浅く裂いただけ。
そのまま駆ける獣の鋭い牙が、ついに東塚の腕を噛みちぎろうかといった瞬間。
「ふんッ!」
横合いから叩き込まれた大きな拳が、その灰色の横っ腹を殴り飛ばした。
「今だッ!
「ナイス、
大柄な男、南波留に殴られて体勢を崩した獣。
その隙をめがけて、西木場の手元から真紅の火球が放たれた。
ボゥッ!
爆ぜる炎で獣の顔面が燃え上がり、あまりの熱に悲鳴を上げながら地面へ転がってのたうち回る。
その無防備な獣の元へ、一本の長剣を掲げた北寺が突っ込んでいく。
一振りの銀閃が、陽射しを反射して煌めきながら獣の首元へ。
ドシュ! と勢いよく突き込まれた。
赤黒い血を噴き出しながら獣は地面で暴れ回り。
やがて、力尽きたように地へ伏せた。
「はぁッ、はぁッ、よ、よっしゃあッ!」
「まっじで、危なかった!」
北寺と東塚が息を切らしながらガッツポーズを交わす。
西木場は緊張が解けて地面にへたり込み、南波留だけがいつも通りの落ち着きを持って周囲を警戒していた。
この異世界に日本から召喚され、その日の内に城を追い出された、勇者の種Dランクの四名。
彼らは傭兵としてパーティを組み、街の雑用や小型の魔物退治で日銭を稼いでいた。
優れた身体能力で長剣を扱う、近接職でリーダーの
弓とナイフを使って戦う、遠距離職でムードメーカーの
パーティで唯一適性があった、魔法使いでブレインの
大柄な身体を活かして前線を維持する、盾役でマイペースな
バランスの取れた理想的なパーティ構成の彼らは、しかし今の一戦だけですっかり力を使い果たしてしまっていた。
「な、なんだったんだよ、このキモい狼」
「たしか、スパイダウルフとかいうやつだ。D級の魔物」
「これでD級!? やってらんねー!」
騒ぐ東塚に、力の抜けたまま情報を伝える西木場。
ただの薬草採取の依頼のはずが、とんだ乱入者によって命懸けの戦いとなったのだ。
南波留が黙々と魔物の死体を縄で縛って、肩に担げるようにする。
胴体の毛皮は無傷なので、おそらく悪くない値で売れるはずだった。
東塚が困り顔で皆へ問いかける。
「かなり消耗しちまったけど、薬草は集まりきってない。どうする?」
「ここでやめたらせっかく積み上げた評価がおじゃんだろ。何とか集めるしかない」
西木場が嫌々といったように答えた。
傭兵、それもペーペーの新人である彼らは、多少のトラブルで依頼を中断できるほどの実績や信頼を得ていなかった。
一度信頼を失えば、取り戻すのにはこれまでの倍以上の時間がかかるだろう。
リーダーである北寺が、覚悟を決めたように呼びかけた。
「依頼は続ける。ただし、もう一度あんなのが出てきたら全力で撤退だ」
「了解。ここらでは魔物は珍しいはずだから、今のは運が悪かっただけだろう」
南波留の落ち着いた声に背を押されて、重たい身体に鞭を打ちつつ彼らは森の探索を続けた。
年頃の青年が直面するにはあまりに危険に満ちた環境。
しかし、彼らが生きていくには他に道など無いのであった。
無事に傭兵ギルドに帰還した四人は、薬草の納品と毛皮の売却を済ませ、宿に戻っていた。
その最低水準の安宿は、おんぼろの二段ベッドが二つあるだけのカビ臭い部屋である。
ベッドに腰掛けて弓を手入れする東塚が、満足気に言葉を発した。
「あのキモ狼の皮、けっこういい値で売れたなぁ」
「死にかけた甲斐はあったな。今日は飯も多少マシにできそうだ」
銀の長剣にこびりついた血を拭きながら、北寺が答える。
帝国から餞別代わりに渡された金は、とっくに底を突いていた。
異世界に召喚されて、今日で六日目。
危険だらけでその日暮らしの最低な生活にも、ようやく慣れを感じてきた頃だ。
城を追い出された時に、ステータスの封印とやらは解除されていた。
どうせ大した真似はできないからと、見下す視線を隠さなかった騎士たちの表情。
北寺は未だにあの時の怒りと恨みを腹の底で燻らせていた。
追い出された男子は、DランクとEランクが四人ずつの計八人。
Cランク六人も城からは出されたが、貴族の元へ送られていったらしい。
追放された初日は、訳も分からず街へ放り出されて男子みんなで途方に暮れていた。
言葉はなぜか通じるが、文字も文化もまるで分からず、泊まる場所すらあてが無い。
今思えば本当に愚かだったが、皆で一緒にまともそうな店で食事を摂り、比較的見てくれのいい宿に一泊して初日を終えたのだった。
帝国から渡された生活費は三日分だが、多くの男子が初日で半分近くを使ってしまった。
異国の金銭感覚などある訳もないし、清潔な日本で育った彼らにとって汚い安宿に泊まるなど耐えられなかったのだ。
二日目からは勤め先もこぞって探した。
だが、身元の保証は一切無いし、街に不慣れな様子が一目で分かる男など、まともな人間は誰も雇わない。
犯罪を犯されるリスクを思えば、当たり前のことだった。
唯一見つけた希望が、傭兵という生き方だ。
街の雑用から魔物退治まで、様々な依頼をこなす何でも屋。
後ろ盾の無い余所者たちの多くが辿り着く、帝国でも最底辺の職業であった。
側溝のドブ掬いや失せ物探し、使いっ走りに魔物退治。
とにかく汚くて危なくて忙しい、地獄のような依頼ばかりだ。
そうして得られる金銭も、一日の食事と宿代だけでほぼ消える。
異世界への夢や希望なんて、とっくに欠片も残っていない。
胸にあるのは、行き場のない怒りと、どうしようもない遣る瀬無さだけだった。
「他の男子は何してんだろうなぁ」
「そりゃ、楽しく種馬生活だろ。ふざけやがって」
「釣谷なんか、今頃クラスの女子たちとヤってる訳だもんな」
「なんだよ、SSSって。ガキが考えたバカみてぇなランク」
東塚と西木場が暗い顔で愚痴を吐く。
俺たちとあいつらで何が違うというのか。
どうして俺たちばかりがこんな目に遭わなければいけないのか。
考えるだけ無駄と分かっていても、安全な場所にいればいつも頭に浮かんでしまう。
「……俺たちだって、まだ終わってないはずだろ。魔物を殺せばステータスは上げられる」
「ああ。傭兵ランクだって銀級くらいまで行ければ、安定した暮らしができるはずだ」
彼らが登録した傭兵ギルドでは、その実力や実績、信頼度によって等級が分けられる。
上に上がれば上がるほど、依頼で貰える報酬も跳ね上がっていくのだ。
新参者が所属する、鉄級。
新人卒業を認められた、銅級。
一人前として信頼される、銀級。
優れた人材として優遇される、金級。
国家に数人単位しかいない伝説的な存在、白金級。
ほとんどの傭兵にとっては、銀級が実質的な最高到達点だった。
それ以上は、騎士団上がりや貴族出身者などの、才能と環境に恵まれた者にしか届き得ない。
当然、北寺たちは最下位の鉄級である。
「いつかガッポリ稼げるようになって、俺は必ず娼館へ行くんだ……!」
「行く時は俺たち皆でだ。抜け駆け無しだぞ」
東塚が拳を固く握って決意を固め、北寺が釘を刺す。
帝国では十六歳で成人なので、彼らも堂々と通うことができるのだ。
問題は、その料金だけ。今の資金じゃとても払えたものでは無い。
東塚が南波留の方を見て、若干言いにくそうに問いかけた。
「なあ、南波留もいくよな? ……彼女の事は残念だったけど、もう日本に戻れるとは考えない方がいいと思うぜ」
「…………ああ、分かってる」
南波留はやや俯いたまま小さく答える。
四人の中で、南波留だけは日本に恋人がいた。
一つ下の後輩で、巨漢の南波留とは対照的な小柄な子だった。
少しだけ落ち込んだ空気を振り払うように、西木場がわざと明るく声掛ける。
「とりあえず、早く飯にしようよ。今日こそはマトモな飯にありつけるんだ」
ここ数日は、硬いパンとカビ臭いチーズに薄いスープばかりだった。
命懸けで戦ったからか腹の虫も収まらない。
たとえ資金がまた底を突きかけるとしても、反対する者はいなかった。
七日目の朝。久しぶりに腹一杯に夕食を食べられた四人は、ぐっすり眠ったことで完全復活していた。
傭兵ギルドの物々しい雰囲気にもそろそろ慣れてきて、いつものように受付へ向かう。
「こんにちは。ステータス確認をお願いします」
「かしこまりました。あちらへどうぞ」
今日の受付嬢はアタリだ。ふんわり優し気な雰囲気で丁寧に対応してくれる。
北寺は上機嫌でパーティを引き連れて別室に入った。
傭兵ギルドに登録するメリットの一つに、ステータス確認の魔道具を使わせてもらえる事が上げられる。
一般人であれば利用のたびに金を取られる代物だが、ギルド登録員に限り一日一回まで無料だった。
狭い部屋の真ん中に配置された、大きな石板。
不思議な文字や魔法陣が描かれたそれへ、北寺が両手を掲げる。
たちまち石板が淡く光って、北寺のステータスが浮かび上がった。
「あら、昨日よりも大きく伸びていますね。魔物討伐によるものでしょうか」
「よし! 筋力がかなり伸びてるな」
ギルドの魔道具を借りるデメリットは、測定したステータスがギルド職員にも共有される事だ。
依頼の振り分けや等級管理に利用するほか、危険人物のチェックにも役立っているらしい。
もっとも、他のギルド員には絶対に開示される事はない。
希望すればパーティメンバーにも非公開にできる。
北寺たちは特にメンバー間で秘密にしてはいないので、他のメンバーも次々と目の前で検査していく。
一番伸びていたのは魔物にトドメを刺した北寺だったが、それ以外の者も明らかに成長していた。
「……うん。皆さんこれだけステータスが伸びていれば、銅級昇格も見えてきますね」
「本当ですか!?」
「ええ。皆さんの普段の振る舞いも温厚で評価が高いですし、昨日のスパイダウルフ討伐で実力も証明されています。近いうちに昇格のお知らせができると思いますよ」
「っしゃあ! ありがとうございますっ!」
東塚が拳を掲げて小躍りする。
ギルドに登録してから一週間で鉄級から銅級に昇格するのは、一握りの優秀な傭兵だけと言われていた。
皆の心に希望の光が差し込んでくる。口元には自然と笑みが浮かんでいた。
「ご存知の通り、銅級からはパーティ名の登録が可能になります。
パーティ単位での指名依頼も受けられるようになるので、考えておいてくださいね」
受付嬢がそう言うと、四人は揃って頭を悩ませた。
以前から時折相談していたものの、どいつもこいつもネーミングセンスが皆無で、まともに決まる気配がなかったのだ。
「う〜ん、名前かぁ……やっぱ、東西南北じゃダメ?」
「安易すぎる。ダサい」
「即答すぎる!」
「それにリーダーの俺が一番後ろなのも気に入らない」
「そこ!?」
東塚が騒ぎ、北寺がにべもなく却下する。
不満げな東塚が腕を組んで北寺へ反撃した。
「ええ〜。じゃあ、代案出してみてよ」
「…………羅針盤と書いて、コンパス」
「うわ、中二病だ」
「ブチのめすぞ」
二人のじゃれ合いを見て、受付嬢がふふっ、と小さく笑う。
単純な男たちは、それだけですぐ静かになった。
「あとは、皆さんの固有スキルがはっきりすれば銀級も視野に入ると思いますよ」
「ああ〜……スキルねぇ……」
北寺が頭を掻きながら気の抜けた声を漏らす。
全員、何かしらの固有スキルを持っていることまでは分かっていた。
勇者の種のDランクという評価も、スキルがあると判明した事によるものだ。
何となくの効果も把握できている。戦いの中で少しずつ使い方を身に付けてきていた。
それでも未だに、自分達の力が何なのかを正確には理解できていなかった。
ステータスを調べる魔道具とは違い、スキルを調べる魔道具はとんでもなく貴重らしいのだ。
それは高額であるどころか一般取引が禁止されていて、見つかり次第、帝国に回収されているらしい。
ダンジョン等で運よく魔道具を手に入れた者は、帝国から莫大な金銭と引き換えにしてもらえる。
傭兵にとっては数あるドリームの一つだった。
北寺のスキルは、おそらく身体能力を一時的に向上させるものだ。
自分の中のスイッチが入ると、急に世界が遅くなったように感じる事がある。
だが、未だに能動的に発動できずにいた。
同様に、東塚は物体の飛行と操作、西木場は炎の魔法、南波留は身体の硬化、というところまでは分かっている。
北寺と違って三人とも能動的に使えるが、出力が低かったりすぐにバテてしまったりと、まだまだ主力として使うには練度が足りていない。
そもそも平民でスキルを持つ人間は貴重だが、銀級以上を目指すなら必須であるのも確かだった。
銅級に上がったあとは、依頼をこなしながらスキルの探究を進める事が目標となるだろう。
ともかく、まずは金策が必要だ。
北寺たちは受付嬢に礼を伝えて、今日の依頼を探す事にした。
おかげさまで、電子書籍化が決定いたしました。スゲー!!
まだ発刊はしばらく先なので、続報をお届けできるよう頑張ります!