容赦ない日差しがコンクリートジャングルを照り付ける真夏の休日。陽炎の揺らめく熱気の中でも、都会のオアシスと呼べるプールは涼を求める人々でにぎわっていた。
゛時間ぎりぎり……! 間に合うか……!?゛
ごった返す人混みの中を先生がすり抜けていく。待ち合わせの時間まで後数分もなく、急がなければ遅れてしまうのは間違いなかった。何より真面目な待ち合わせ相手のことだから、きっともう既に待ち合わせ場所で待っているのだろう……この炎天下の中で。
そう思うと、走らずにはいられなかった。
「あっ、先生! 本官はこちらです!」
やはり彼女は時間より早く先に来ていたらしく、先生を見つけたキリノはつま先立ちで大きく手を振って存在をアピールしていた。
゛ごめん、遅れた!?゛
「いえ、時間通りですよ? それよりも、こんなに汗を流しては脱水症状になってしまいます! こちらのスポーツドリンクをどうぞ!」
ありがとう、と一言述べてから手渡されたドリンクを
「ああ、プールに入る前からすごい汗です。タオルで拭いてしまいますね!」
゛ごめんね。待たせちゃったみたいで゛
「いいえ、お気になさらず! 本官はその、待っているだけでも色々楽しかったので!」
゛色々?゛
「……その、任務や訓練で先生とプールに来たことはありますが、こうしてプライベートで……で、でで、でーとでというのは、初めてですから……いろいろと、考えて、どきどきしてしまって……」
゛……私の彼女は可愛いね゛
「か、かわ!? 今日はプールですよ!?」
頭一個下にあるキリノの慌てる顔。先生はその頬が熱を持って赤らんでいくのを微笑ましい目で眺めていた。初々しい彼女を愛でるのは彼氏の義務だと言わんばかりに。
プライベートでも本官と言う生真面目な少女は、いつにもまして可愛らしい装いをしていた。つばの広い帽子に上品なレーススリーブの白シャツ、そして健康的な足の眩しいショートパンツ。夏を謳歌する溌剌さとまだ無垢な清楚さの輝きに、目を細めずにはいられなかった。
「全くもう……犯罪、ではありませんけれど……あんまり! あまり恥ずかしいことを言うと本官が逮捕しますからね!」
゛罪状は?゛
「罪状は……ええと……ええと……」
咄嗟にいい返しが思い浮かばなかったようで、キリノは先生の首筋をタオルで拭きながら目を左右に泳がせ、ついには俯いて唸り初める。
゛先生と生徒が付き合うのはキヴォトスでは犯罪ではないんだよね?゛
「……そうです。ただ、そこから先はその、犯罪になるものとそうでないものがあったりなかったり……」
゛ならこれは無罪?゛
「ひゃん!?」
先生もまた持ってきていたタオルをキリノの首筋に滑らせた。軽く皮膚に乗った汗を撫ぜる動きのくすぐったさに、キリノは思わず顔を跳ね上げ、帽子がぱっと飛んで行ってしまいそうになる。それを反射的に空中でキャッチできたのは、先生もまだ若い証拠か。
゛おっと……ごめん、驚かせちゃった、ね……゛
「……先生?」
視線をキリノに戻す。そうして映ったのは、ゆるく開かれた胸元から覗く紫色とその間にある谷間。そこへ彼女のおとがいから伝い落ちる汗が細い首筋を滑り落ち、汗ばんだ鎖骨のくぼみで僅かとどまって、日焼けの跡と白い肌の境目をきらきらと滲ませながら、双丘の影に消えていく様だった。
ごくりと生唾を飲んだのは、それが見えなくなってから。キリノはそこで先生の視線を追いかけ、胸元を見て、それからもう一度先生の顔を見て、そっと両腕で胸元を隠した。
「……見ましたか?」
゛……ごめん゛
「……水着なので、犯罪ではありません、けど……。その、じろじろと見られるのは本官も恥ずかしいので……」
゛……水着じゃなかったら?゛
「本官以外には犯罪です。エッチです! ダメです! 逮捕です!」
゛キリノにはいいんだね゛
そう聞かれるとキリノはまだ恥じらいながら、聞こえるか聞こえないかくらいの声でぽしょりと呟いた。青い瞳が羞恥と、純粋な想いの熱で揺れている。
「本官は……先生の、か、彼女、ですから……その、先生がしたいことなら、いくらでも……かまいません、よ……?」
おお……と天を仰げば、太陽が直上にある。その光は今目の前にいる彼女の眩しさには全く敵わないと先生は思った。
゛……今すぐしけこんでしまいたい゛
「し、しけ!?」
゛でも今からは勿体ないから……まずはちゃんとプールを楽しもうか゛
「ま、まずは……はい、そうですね、は、いぃ……」
まずは。その意味するところは言わずとも知れている。今日のこの先を示されて、いよいよいっぱいいっぱいになったキリノは先生の手首にちょんと指で触れるのが精いっぱいだった。いじらしいその仕草を見て、恋人繋ぎにしたのは先生の方。
そうして先生と生徒のカップルは、プールへ向かう列の中に紛れ込んでいった。
■
゛キリノの水着はプール警備の間に見慣れたものだけれど……やっぱり可愛いね゛
「あ、ありがとうございます!」
゛……なんと、あっさりと受け流されるなんてね゛
「ふっふっふ。残念でしたね。本官は着替え中に先生がどんな風に声を掛けてくるか何通りもシミュレーションしていましたから! もう同じ手は食らいません!」
キリノは自慢げに胸を張るが、二十分も更衣室で百面相を繰り返していたということはすっかり忘れてしまっていた。決して短い時間ではない。だがキリノにとっては先生がどんな反応をしてくれるか考えてあっという間のことだったし、先生もその程度のことで怒るつもりは全くない。
何より突き出されたおっぱいがぷるんと揺れるのを見た。それがあまりにも眼福だったから、暑ささえどうでもよくなったのだった。
゛ねっちゅうしょう゛
「ぴえ!? ちゅ、ちゅチュチュちゅうって、ここここ、こっこでですか!? 流石にこんな人がいっぱいいるところでは、本官心の準備が……!」
゛熱中症に気をつけないといけないね。ほら、ドリンク゛
「……あっ」
よく冷えたスポーツ飲料を受け取るキリノの目が、プールに入ってもいないのに泳いでいた。すうっと、あらぬ方向を見て自分の恥ずかしい勘違いを誤魔化そうとしている。
実のところ先生もある程度狙ってゆっくりと口にしたのだから、勘違いというのは酷ではある。しかし同じ手は食わぬと誇らしげだったのに、少し角度を変えて引っかけてみれば見事にはまるだなんて。なんとも愛らしいことだった。
゛キリノ? 一体何を考えたの?゛
「あー、あー! 本官はそう言えばプライベートでプールに来たらやりたいことがあったんです! 列の順番待ちを先に取っておかなくてはいけないので、お先にいきますね!」
゛あ……゛
キリノは風のように走り去ろうとする……のだが。
゛プールサイドは走っちゃだめだよ゛
そんな当たり前の注意をされて、ぴたりと立ち止まる。振り向いた動きは、油の切れたブリキ人形のようにぎこちない。
「……ううああ……そんな、なんでですかぁ……!」
゛危ないでしょ?゛
「そうですけどそうじゃないんです! 危ないのは本官の心臓の方ですぅ……!」
゛そっか。じゃあちゃんと手を繋いでいないとね……それで、やりたいのってどれのこと?゛
「……ウォータースライダー、です」
゛あれかあ……゛
指差した先にあったのは七階建てビルほどの高さから、ぐねぐねとチューブがうねっているウォータースライダーだった。設計者はジェットコースターと勘違いしているのではと正気を疑うその暴れ具合は、明らかにヘイローを持った生徒に向けたもの。今も弾丸のようなスピードで生徒が滑り降り、飛び散った飛沫で長い虹が出来ている。そんなものを平気な顔で滑る自信は、先生にはなかった。
゛あれ、ほんとに大丈夫?゛
「はい! 開園以来無事故だそうですから! 本官、先生に後ろから抱きしめられながらあれを滑るのが楽しみなんです!」
゛……そっかあ。私が抱きしめながらなら、大丈夫だねえ゛
「はい!」
自分は大丈夫じゃないかもなどという弱音は、期待と興奮に染まった満面の笑みを前にしては、飲み込む他なかった。
そうして二人で列に並び、他愛もないことを話し合う。話のタネには全く困らないもので、先生が遭遇したトラブルの数々や、キリノがパトロールで出会う市民のエピソードなどを話し合っているうちに、順番となっていた。
「お二人はカップルでしょうか?」
「か、カップル……!?」
゛はい゛
「承知しました! それではこちらのカップル専用浮き輪にお乗りください! 準備が出来ましたら確認させていただきますね!」
二人乗りの大きな浮き輪へ先生と、その足の間に挟まるようにしてキリノが座る。キリノはぎゅっと身体を丸めていた。先程までの快活さは鳴りを潜め、先生と肌が触れ合うとびくりと肩を跳ねさせる。
゛キリノ? 大丈夫? 怖くなっちゃった?゛
「いえ、怖くはないのですが、その……いざ先生にこうして抱きしめられるとなると、どきどきして死んでしまいそうです……」
半身だけ振り返り、控えめに流し目を送るキリノの顔はぽうっと桜色に染まっていた。彼女の無垢な印象とは裏腹な、婀娜(あだ)な色気を孕んだ目線。風が吹いて塩素の匂いが流れていくと、甘い少女の匂いがうなじから香り立ち、先生の血流を狂わせる。
゛……抱きしめていい?゛
「はい……んっ」
後ろから覆いかぶさるように抱きしめると、キリノは一瞬身体を強張らせて、それから全てを先生に委ねた。柔らかい身体だ。それ以上に華奢で、簡単に胸の中に収まってしまう小ささ。こんな少女が大人の何倍もの力を発揮するのだから、キヴォトスの神秘というのは不思議で仕方がない。
けれど先生と生徒。彼氏と彼女。守るべき存在であるという本質は変わらないのだ。
「……先生の胸、温かくて安心します……結構、筋肉があるんですね」
゛せめて筋トレくらいはしておかないと、いざという時動けないからね゛
「本官もむきむきを目指して精進しないといけませんね」
゛今のままでも十分だと思うけど゛
「むきむきの方が市民の皆さんは安心できるのではありませんか?」
゛どうかな。でも皆はキリノの外見じゃなくて、在り方にこそ救われていると思うよ゛
「それって、どういう……」
『はいそれではよろしそうなので出発でーす!』
係の生徒がアナウンスと共にボタンを押すと、激しい水流が浮き輪をどっとチューブの中へ押し流していった。悲鳴は迫真のものと、黄色いものの二つ。あっという間に遠ざかって消えていく。
「……なんであたし、こんなイチャイチャを見せつけられなきゃいけないの……? ただでさえ暑いのにぃ……爆ぜろ、はぜろぉ永久にぃ……」
そんな恨み言は、誰にも届くことはなかった。
■
゛うぼああ……゛
「先生、大丈夫ですか?」
゛だいじょばないかも……゛
先生は完全にグロッキー状態となっていた。螺旋にループ、はては垂直落下まで。安全性の三文字はスリルという金になる娯楽の前に投げ捨てられていた。このウォータースライダーと大気圏からの紐無しバンジーのどちらがましか、甲乙つけがたいほどだった。
゛……空は意外と見えないものだね゛
「空? 今日はプール日和の晴天ですよ。本当に良かったです!」
゛そうだね゛
ただ、プールサイドのベンチでキリノの膝枕を堪能出来ていることは役得と言えた。日々パトロールで走り回っている彼女の太ももの肉はしなやかで、弾力と柔らかさを両立している。極上の枕に頭を預けて見上げてみれば、心配そうな顔で覗き込んでくるキリノと、透けたシャツに覆われた紫色の山越しに目線が合った。
巨というほどではないにしろ、確かにそこにある夢の膨らみの存在を意識せざるを得ない光景だった。心配を掛けているのに邪な感情を抱くことに多少の罪悪感はあれども、水に濡れて透けているのがどうしても目に毒なのだから仕方がない。
゛キリノの膝枕、素晴らしい……゛
「お褒めに預かり光栄です!」
゛後でまたしてもらいたいくらいだ……゛
「本官の膝でよければ、いくらでもお貸しします!」
゛じゃあ後三十分……゛
「そ、それはちょっと……その、汗とかが気になってしまいますし。流石に周りの方の注目を集めるので……」
゛ふむ。じゃあ、今度は制服を着ている時にお願いしたいな゛
「それは構いませんが、何故制服なのでしょう……」
゛タイツでどんな風に感触が変わるのか気になって゛
「うう、よくわかりません……あっ」
゛どうかした?゛
キリノが突然間抜けな声を上げる。先生がその顔を見ていると、ぽかんと開いていた口が次第にもにょもにょと不定形に歪んで、気まずさと恥ずかしさの入り混じった微妙な赤らみが頬に浮かんできた。
既視感のある反応だった。救助訓練で人工呼吸をマニュアルに見つけたときのような……。
「着替えの下着……忘れちゃいました」
゛……なるほど゛
それは確かに、恥ずかしくもなるミスだった。
「ど、どうしましょう。水着を下着代わりに……」
゛濡れるしそれは流石に……゛
「で、でも下着を着ないで歩くのは、はは、恥ずかしいです!」
゛ふむ、それもまた一興ではあるね゛
「ありません!」
キリノに露出系のプレイ……ありだな、と思考しながらも、いったんそれは置いておくことにしたらしい。先生は少し考えておもむろに頷いた。
゛私にいい考えがある!゛
「ほ、本当ですか……!」
゛大丈夫、任せて゛
「ありがとうございます……!」
キリノは疑う事すらしなかった。自分には思いもよらないまっとうな解決手段が先生にはあるのだと。
彼女は忘れていた。先生は変態であることを。
■
「それでどうしてホテルなんですか!? それもえっちな方の!」
ラブホテルの部屋に入るやいなや、キリノは叫んだ。とりあえず着替えのことは忘れて夕方になるまでプールを楽しみ、拭ける限りの水分を拭きとって水着のまま街を歩いて、連れて来られた先は大人のホテル。ここに来るまで奇異の視線に晒された挙句、来た場所が場所だけに羞恥は限界に達している。
゛いいかい? 着替えの下着はコンビニで買った。でも着替える場所が問題だったんだ゛
「確かに一度コンビニに寄ってましたけど……床を濡らさないよう外で待ってる間、お客さん達に見られてとても恥ずかしかったです……!」
゛私も女性物の下着を一人で買うのは気まずかったな……゛
「それは申し訳ありません……ですが! それとこれとは別と言いますか!」
゛別?゛
「その、着替えるなら別の場所があったのでは……とか」
゛そうだねえ。例えば、シャーレとか……゛
「絶対その後先生にお尻弄られるじゃないですか……!」
゛ヴァルキューレの更衣室とかは?゛
「学校の皆に水着で歩いてる変な人だと思われたくありませんよ!?」
゛学校で水着のまま歩く子はいるにはいるけど……゛
「水泳の授業があるときだけですよね?」
゛割と日常的に゛
「常習犯!? 流石に逮捕されませんか!?」
゛よく風紀委員会に連行されてる゛
「それはそうでしょう……」
゛ついでにいつも死刑判決されてるよ゛
「重罪!? じゃあ本官も死刑ですか!?」
打てば響く。キリノの素直さが愛らしくて仕方がない。トリニティの日常風景となってしまったあの少女の行いは、やはりヴァルキューレでは奇行のままであるらしい。そうでなくてはキヴォトスの風紀がとんでもないことになってしまうのだけれど。
゛いいや? でも……キリノ、今手錠は持ってる?゛
「ありますけど……うう、イヤな予感がします……」
゛それを持ってお風呂に行こうか。プールの後だから身体をしっかり温めないとね゛
「お風呂に手錠が必要なんですか?」
゛必要だよ。絶対に。シャワーを浴びている……それ即ち一番リラックスしている瞬間こそ危険なんだから。不審者に襲われた時の対策として、ね?゛
「なる……ほど?」
そういうものか、とキリノはよくわからないなりに納得したようだった。そのまま浴室へと向かう彼女の後を、先生は当然のようについていく。
「先生?」
゛なに?゛
「どうして一緒に来るんですか?」
゛一緒にお風呂に入りたいからだよ゛
「どうしていきなり服を脱いでるんですか!?」
゛キリノの身体を洗ってあげるのに、服を着てたら濡れちゃうでしょう? 大丈夫、キリノは水着を着たままでいいから゛
「そういう問題では……ひゃわあ……!?」
惜しげもなく股間を剥き出しにした先生に、キリノは両手で顔を隠しながら背を向けた。まるで初めて男性器を見る生娘のような反応だが、これまでに先生と身体を重ねたことはあるのだ。ただいつまでも慣れない。その大きさと、見た目のグロテスクさに。
先生からすれば、いつまでも初々しいところに嗜虐心を掻き立てられるのだからこれはこれでよいと思っているのだった。
キリノのお尻に勃起した肉棒を押し付けながら、キリノを浴室へと押し込むのはセクハラと言える行為だった。だがキリノは何も言わなかった。キャパシティをオーバーしてしまったようでただ先生に流されるがまま、時折先生の方を振り向いてはその裸体とペニスが目に入って再び顔を隠す。そんな可愛い生き物と化していた。
だからいつの間にか手錠が先生の手に渡っていることにも、気付くことはできなかった。
゛キリノ、その壁に手をついて立って゛
「は、はい……」
壁に取りつけられた手すりの前で、先生にお尻を半ば突き出すようなポーズを取らされていることにも違和感を覚えない。
゛じゃあ、お湯を出すよ゛
「は、はい! いつでもどうぞ! ……あ、あたたかい……やはりお湯は落ち着きますねえ」
゛そうだねえ……こうかな゛
「ああ先生、そこはそのパーツを穴に差し込むんです。そうすれば、ほら、がちゃりと……がちゃり?」
キリノは自分の両腕を見た。緩めに手錠を掛けられた自分の両腕。間の鎖は、浴室でプレイする際に支えとして使われるのだろう手すりに通されていて、引っ張っても虚しく金属音が鳴るばかり。
状況を呑み込むのに三秒ほどぽかんとしている間にも、先生はキリノのお尻に温水シャワーを掛け続けていた。
「なんで本官が逮捕されてるんですか!?」
゛水着で公衆の面前を歩いた疑い゛
「そ、れは……仕方がなく……」
゛それから可愛いの罪゛
「あ、あうう……」
゛そして先生と生徒が、お尻の穴で行為に及ぶことは犯罪ではないと……私に教えてしまった罪、かな゛
「うう……だって、あ、あそこでえっちをしてしまうと、犯罪だと規則に書かれていましたから……!」
゛なんでお尻ならいいんだろうね?゛
「本官が知るわけないじゃないですかぁ!」
菫色のブルマに似た水着を膝まで下ろすと、滑らかな曲線を描く双子山が現れる。ハリのある肌がシャワーのお湯に濡れ、浴室の暖色光に照らされて白く輝いていた。先生が思わずその輪郭を指でなぞると、キリノは腰をびくりと跳ねさせて短く詰まった息を漏らす。その動きで、臀部の膨らみを伝う雫は流れ落ちていった。
先生との行為を重ねるうち、すっかり第二の性器となってしまったアナルへと。キリノから感じる純粋さとは真逆に、お湯に濡れた艶やかな唇をくぱくぱと見せつけて男を誘う、菊の花へと。
「まさか先生が入浴中に襲ってくる不審者さんだったなんてぇ……!」
゛襲いたくなるくらい可愛いのが悪い!゛
「理不尽です!? あっ、やっ、おしりのあな、さわっあひあっ……!」
ローションをつけた指を差しこんでキリノのアナルの具合を窺うと、少女の声は一段階高くなった。こなれた肉穴は先生の指の根元に錠を掛けるように締め付け、入り込んだ部分を逃すまいと強烈に吸い付いてくる。
゛すっかり指にも慣れてきたみたいだね゛
「先生がいつも、弄るからです……あっ、んふ……ああ……!」
くにくにと指を折り曲げて腸壁を引っ掻けば、キリノの吐息が徐々に熱を帯びていく。排泄の穴をほじくられているというのに、彼女が性的な快感を受け取っているのは明白だった。
「んあっ……! ひうっ!? そこ、入り口、ひっかくの、だめですっ……!?」
゛どう駄目なの?゛
「な、なんといいますか、あっ……ぞわっと、へんな感覚がしてぇ……! んぃっ!? だめって、いってるじゃないですかっ、んああ!?」
快楽でだめにするためにやっているのだから、先生の指が止まるはずもなかった。指を抜き差ししながら指先が菊輪の辺りに差し掛かると、裏から肉をめくり上げるように掻いてみせる。
「ん、にいぃ……っ!? あ、ああっ、なんですか、これ、や、やあ……!?」
キリノはまた一つ開発されつつある性感に震えていた。太ももは小刻みに震え、足の指先はぐっと力が籠っては脱力をする。手錠を解くことなど頭にもないようで、手すりにもたれかかって何とか立っているようだった。
゛入り口も弱いのかもしれないね゛
「もっ、てなんですか、もっ、て……!」
゛キリノにも弱いところがいっぱいあるって、私は知ってるから゛
「うう……本官は弱くなんて……んひゅう!?」
゛ただの石鹸だよ゛
「な、なんで石鹸なんですか!?」
゛身体をちゃんと洗わないとね゛
「それはそうですけど、今ですか、ん、ぉっ!?」
アナルをぬちゅぬちゅとかき混ぜていない方の手で、先生はボディソープを泡立ててキリノの身体に塗りつけ始めた。丸まって快感をこらえようとしている背中を手でさすり、徐々に泡を細かくしてそれから面積を広げていく。流しっぱなしのシャワーが泡を洗ってしまうものだから、キリノの背中に半ば覆いかぶさって自分でお湯を受けとめることにしたようだった。止めるつもりがないのは、水に濡れたキリノの水着姿があまりにも目に眩しかったから。
石鹸に塗れた手で、キリノのお尻を、太ももを撫でまわす。ぬるりとしたその感触は今のキリノにとってはたまらないらしく、触れた場所の筋肉が強張って、こらえきれずに腰が揺れる。それからお腹に手を回すと、うう゛っ……とキリノは呻いて腰を逃がそうとした。
゛駄目だよ、逃げちゃ゛
「……っそんなこといって、にげられないじゃないですかぁ……あんっ!?」
゛逃げようとしちゃ、だめ゛
「いじわるです。せんせいがいつもよりいじわるですぅ……!」
キリノが頭を巡らせて先生を仰いだ。ウォータースライダーでも見た、色っぽい視線。その時と違うのは熱だ。恋する乙女の澄んだ熱情ではなく、どろどろと快楽に似立てられて、媚熱を帯びた情欲の熱。もっと、もっととねだるような官能的な目線。
゛……キリノ、もういいね?゛
「……ッ! あ、は、い……」
男の理性を焼き切るには十分な熱がそこにはあった。指を抜けばぽっかりと空洞を開け、ひくひくと物欲しげにローションと腸液の混じった涎を垂らすアナル。滴った涎はもう一本、陰唇から糸を引いて落ちていく愛液と共に水着の裏地に降りて、濃いシミを形作った。
「はあ……はあー……せん、せい……」
熱に浮かされたように、ぽう、とキリノが名前を呼ぶ。それを引き金として、先生はキリノのアナルに肉竿を一気に突き入れた。ずちゅん! と激しい音がして、キリノがは、ああ゛っ! と濁った喘ぎ声を出す。
「ん、ああ……!? いっきに、おくまでぇ……っ!?」
゛やっぱりキリノのアナル、すごいまとわり付いてくるね……っ!?゛
「んっ、くっ、うああ゛……っ! ほ、ほんかんだって、せんせいをきもちよく、したいんで、す、っくひゅ!?」
抽送の度に菊輪が肉茎を扱き上げる。だが反対に、キリノの腸壁は全方位からマシュマロのような柔らかさで吸い付いてくるのだ。そのギャップが先生には溜まらなかった。
打ち付けた腰は、泡でぬめっているせいか、それともシャワーの水が二人の間に流れ込むせいかばちゅりと大きな音を立てる。ずちゅ、ずちゅ、という粘着質な音。ばちゅんと水が弾ける音。浴室という閉鎖された空間では淫らな水音が反響して、どんどん二人の理性を麻痺させていく。シャワーの水が床を打つ音すら遠く聞こえる。
「ん゛っ、あ゛っあ、んんふううううっ! に゛っ、あ、やめ、いりぐち、ひきずりださないでくださ、いぃ゛っ!?」
カリ首で先程見つけた弱点を引っ掻くように浅い位置での抽送を繰り返せば、キリノの上半身はがくりと崩れた。もはや先生と、手すりに繋がれた手錠だけがまともに体重を支えているような状態。それはつまり、ピストン運動の衝撃を受けるがままになるということ。
先生は浅い位置で前後を繰り返していたのを一転させ、強く、じゅちゅん! と音が弾けるほどの勢いで奥を抉った。
「ん゛にイ゛っ!? あ゛っ、か、はっ……? あ、せ、せん、せい……?」
キリノの背が反り返り、頭が中空を仰ぐ。それは明らかに気をやった反応だった。だが先生はゆっくりと腰を引くと、再び杭を打ち込んだ。
゛どう、したの!゛
「ん゛お゛っぉ!? あ、い、あぁ……そ、れ、おしりのおく、だめになっちゃ、んふあああ゛っ!? だ、だめになるんです……!」
゛気持ちいいってこと?゛
「わからない、です、んふう゛っ! せすじ、びりびりしてっ、なにもわからなくなっ、お゛くううっ!」
シャワーの水滴に紛れて、白い液体がキリノの股間からぱたぱたとタイルに降っていく。わからないなどと言いながら、潮を噴くほどの強い快感をキリノは感じているのだ。それでも彼女がわからないというのは無垢ゆえか、それとも知りたくないと必死に抵抗しているからなのか。
どちらでもいいことだと先生は思った。どちらでも、愛おしい。
゛キリノ、好きだよ゛
「はっ!? あっ、え、お゛ふう゛!? あっ、や、みみもとで、そんな、いわないでください……!」
゛いやだ。好き、好き。彼女になってくれてありがとう゛
「ほんかん、こそ……ぉっ! せんせいとつきあえて、とてもしあわせで……! すき、すき、すきです……! んむぅ……!」
背中から抱きしめるように覆いかぶさって耳元で愛を囁けば、それ以上の愛を返すように唇を塞がれる。同時にペニスへの締め付けも、今この瞬間を全身で確かめるように強くなった。
「んっ、むっ、ふっ、ちゅる、ちゅ、ん゛むっ! む、ふっ、あふっ、ちゅう、んぐぉ゛っ、ぉっ、ぷはっ! せんせい、せんせい……!」
゛キリノ、そろそろ……!゛
「は、い……! おしりなら、だいじょうぶですからっ……! なかに、ほんかんのなかに、くださいっ……!」
゛キリノ……!゛
お尻ならばという免罪符。キリノから与えられたそれは罪悪感を引きちぎるには十分で、最後の一突きはいっそう強くキリノを芯まで穿つような強烈なものとなった。
「あ、イ゛っ……く、イっちゃい、ますうぅ……! せんせいがどくどくって、ほんかんの、なかにぃ……ッ! あっ、んはあっ!」
腸の奥に吐き出される白濁に、キリノはたどたどしく淫語を漏らした。同時に菊輪の強く肉棒を抱きしめることと言ったら、初めに出そこなった精子がその関門を乗り越えるまで、長い時間少しずつ撃ちだされるほどだった。
射精が終わる。キリノは絶頂の余韻に足を震わせていたかと思うと、突然がくりと項垂れて腹と胸に回された先生の腕へ体重を預けていた。
「はあ……はあー……んあ゛っ……また、びくって、せんせいのおちんちんが……もう、だしたばかりなのに……」
熱い息を吐きながら、キリノはほんのわずかに笑っていた。仕方ないと呆れているようにも、まだ元気ですねとにやけているようにも見えた。ただ口の端は確かに、嬉しそうに吊り上がっていた。
゛この光景、何杯でもイケるからね゛
長時間シャワーを浴びていたせいで彼女のシャツはすっかり水気を含んで透けている。汗とシャワーに濡れたうなじは思い切り吸い付いてしまいたくなるほど。水分を吸って重く垂れ下がった三つ編みは、まとめていたゴムを気まぐれに取ると少しずつ解(ほど)け始める。手櫛を通してその滑らかな手触りを楽しみながら髪を伸ばしていくと、しまいに現れたのは全く印象の異なるキリノの姿だった。腰まで届く長い白髪を真っ直ぐおろしていると、楚々としたお嬢様の面影が現れるのだ。
いつものそそっかしい、元気少女とはまた違う一面。そして今の情事にはアンマッチなそのギャップは、先生の血流を再び滾らせる。
゛ねえ、キリノ。まだ元気だよね?゛
「……はい。ほんかんは、まだ……いつもくんれんで、きたえてますから……ふふ、もしかしたらせんせいのほうが、さきにばててしまうのではありませんか?」
゛よし。じゃあ今日はいっぱいやろうか。そうだね……キリノが自分でその手錠を解除するまで、かな゛
「……え゛。それはちょっと……せんせい? たしかかぎはもちこんでなかったですよね?」
゛そう。鍵は洗面台に置いてあるからキリノには取れないよ。つまりこれは脱出訓練だね゛
「で、ではすこしだけきゅうけいをください! せんせいもほら、おつかれ、でっ、あっ、んくうっ!?」
゛休憩してる間に抜け出そうとしてるでしょ。だめだよ゛
「そんなことはっ、あっ! んっ、くうっ、あああ、お、おしり、もどらなくなっちゃいます……!」
゛ははは。さて、それはキリノ次第だね!゛
「うう……やっぱりせんせいは、ほんかんがしっかりたいほしておかないと……! こんなへんたいさん、かいほうできませんー!」
泣きの入った悲鳴は虚しく浴室に反響し、すぐに嬌声に変わっていった。
……結局のところ、キリノが自力で手錠を解除することはできなかった。次の日の朝、足を少し内股にしながら眠たそうに職場に現れたキリノを見て、フブキは珍しく彼女の分までパトロールを請け負ったという。