゛ミヨ、それじゃあ今日はここで゛
「先生! 今日はその……わたしのわがままに付き合っていただきありがとうございました!」
゛気にしないで。私だってミヨに会いたかったから゛
「あう……せ、先生……」
カラスの鳴き声がよく聞こえる夕暮れ時のことだった。ミヨと先生は人気のない公園のベンチに隣り合って座っていた。傍らに置かれた大きな紙袋には年季の入った紙箱が入れられている。
゛それにタイプライターを追いかけているミヨを見るのはとても楽しいからね゛
「……その言葉はずるいです。先生。わたし、どきどきして何も言えなくなっちゃうじゃないですか」
ミヨは口を尖らせ、先生を上目遣いに見た。ミヨ自身、今日の自分は落ち着きを知らない子どものようにはしゃいでいて、思い返すだけでも恥ずかしい姿を晒したという自覚がある。けれどそれは仕方のないことだと言い張りたかった。
なぜなら今日のタイプライターは有名な正体不明の芸術家、マエストロの作品で滅多に市場に出回ることのない掘りだし物なのだ。黒を基調としたシックな見た目に、指を下ろせば脳髄が痺れそうなほど心地よいメカニカルな音が鳴る。側面に一つ一つ手作業で彫られた、名もない天使をモチーフとした紋様は毛先の一つまで映しとったかのように精緻。実用性も芸術性もこれ以上のものはそうお目にかかれないという代物で、マニアとしては是が非でも手に入れたい一品だったのだ。
これを手に入れるために寝ずに今日のシナリオを描き、万に一つものぬかりもないよう先生の力も借りた。それでも手に入るかは五分といった所で、金目の品を狙ったヘルメット団の乱入でひと悶着あったりしたのだけれど……。
最後にはこうして手に入れることができた。もし先生がこのタイプライターにそこまでする理由を聞いたなら、ミヨは今から何時間掛けてでもその価値を説いて先生を納得させ、あわよくばコレクター仲間に引き入れようとしていただろう。
(でも先生はわたしだけを見てくれていました……今日はとても大変だったのに何一つ不満も言わないで、ただわたしが楽しいから、それでいいと)
そこがずるい、とミヨは思う。わからないものはわからないままでも、どれだけ大変な目に遭っても、自分を見て穏やかに微笑みかけてくれる。その優しさが春風のように心をくすぐるものだから、なんだか面映ゆくて仕方がない。
(まるで恋愛小説に出てくる王子様みたい)
そうとまで考えてしまって、慌てて目を逸らした。そんなことを言ったら自分が恋に恋する恋愛脳の乙女みたいではないかと、急に羞恥心が込み上げてきたのだった。
゛大丈夫? 顔が赤いよ?゛
「ああ、いえ、これはななななんでもなくてですね……ほら、今夕焼けが差しこんでいるので、きっとそのせいだと思いますよ?」
゛そうかな……?゛
「そうですよ!」
夕焼けが差しこんでいるとは言っても、今二人が座っている場所はちょうど夕日を背にしているのだから、ミヨの言葉には無理があった。彼女の頬が夕方の薄暗い中でも赤いとわかるのは、高鳴って治まる気配を知らない脈動が白い肌を染めているからだ。
゛ならこれでも赤くはならないね?゛
「あっ……」
膝に置いていた手に先生の指先が触れる。思わず息を奪われる。自分のものより大きく、筋肉がついてこわごわとした手はゆっくりとミヨの嫋やかな手を、指を撫でながら、そっと覆い隠してしまった。
゛いつも思うよ。ミヨの指はきれいで、タイプライターを打っている時はまるで踊っているみたいだなって゛
「踊り……ですか」
゛そう。とても優雅で、ひらひらと……桜の花びらが舞うみたいな゛
「……もう、先生は……いつからそんなに、キザになられたのですか……」
゛ミヨが私に思いを伝えてくれたときから、かなあ。こういうのも好きなのかなって゛
「好き、ですけど……それは、もう、好きですけど……!」
火が噴き出てしまいそうなほどにミヨの顔は熱を持っていた。きっと今の自分の顔は恋の熱に蕩け切ってしまっていて、先生以外には見せたくないものになっているのだろうと思った。
(もう、こんなの我慢しなくてもいいですよね……? 心も身体も、もっと先生が欲しくて仕方がないんです……)
密やかな恋に溺れる。文字の描き出す世界の中にしかなかったはずのものが、今この手に触れている。まるで夢のようだと思ってしまったのは、あまりにも幸せすぎて脳みそが故障しているからに違いなくて。
「いいんですか……? こんなにされちゃったら、わたし、もう……」
止まれませんよ? という言葉の代わりに、ミヨはそっとてのひらを返して五指を絡め合わせた。いわゆる恋人繋ぎをしてみると、先生の手の大きさと温もりがいっそうはっきりと感じ取られて、いつまでもこうしていたいような気持ちになる。
先生の反応を伺えば、穏やかな笑みのままでほんの少し強く握り返してきた。黄昏つつある公園の風は時間が止まってしまったかのように凪いでいた。カラスも遠く、声を潜めて鳴いている。
世界で熱を持っているものが二人だけになって、先生と自分の熱が混ざり合っていく。氷が徐々に解けるように、茜が夜に溶けるように。今ならば、もっと。そう願ってミヨは目を閉じて桜色に色づいた唇を差し出した。
(これでき、キスしてもらえなかったらどうしましょうか……どう、どうしましょう。ああ、もう。全然わかりません……!)
明確なキス待ちのサイン。けれど目を瞑っているせいで、先生が一体どうしているのかは全くわからなかった。わかるのは確かに繋がれた手の感触ばかり。
三秒。無音の世界の中ではその三呼吸がやけに長く感じられた。
(あ、ああ……もしかしたら、早すぎたでしょうか。もっと時間を重ねてから……いえ、でも、でも……!)
恋に焦がれ、愛に憧れたからこそ恋愛を描く物語に心を奪われたのだ。ただでさえ思春期の暴走気味な感情が、夢を前に止まれるはずもない。
……けれどこれで嫌われてしまったら。唇に温かいものが触れたのは、そんな不安が過ろうとした時のことだった。
「ふむっ!? んっ、ちゅ、ちゅ、っつ、ちゅう……んあ、せんせい……」
初めては唇が優しく触れ合うバードキス。戯れるような軽いキスはすぐに終わってしまったけれど、それでもミヨはふわふわとした多幸感に心を満たされていた。
゛これ以上は我慢できなくなっちゃいそうだから、ここまで、ね?゛
「……べつにわたしは、かまいませんよ……?」
゛……すー。ふー……これから先、時間はいっぱいあるからゆっくり行こう゛
「……はい」
名残惜しさに後ろ髪を引かれながら、立ち上がった先生に手を引かれて完全に暗くなった街を歩く。手はしっかりと握りしめたまま、浮ついた思考を遊ばせながら歩いていたらいつの間にか学園の近くに辿り着いてしまっていて、ミヨを送り届けた先生はシャーレへと帰ってしまった。
「キス……わたし、先生とキスを……」
ぼうっと立ち尽くしたまま、唇に指を当てて先生の感触を反芻する。温かかった。同じ唇なのに思いの外固くて、清涼菓子の爽やかな風味があった。
「ん……」
自分の指は先生の唇と似ても似つかない感触だけれど、あのキスを思い返しながら現在の感覚に上書きして想像するなど訳もなかった。夜の道端、街灯からほんの少し離れた所でミヨは先生とのキスを妄想して、陶然と頬を染めていた。
「せんせい……せんせい……ふふ。せんせい……すき、すきです……」
その目に光が無いように見えるのは、暗がりのせいだろうか。闇の中に溶けていく慕情の言葉は、どこか妖しい色を帯びていた。
「……あら?」
ふと違和感を感じて手元を見れば、持っている袋は二つあった。今日手に入れたタイプライターの他にもう一つあったそれは、思い返せば先生が購入していたはずのもの。中身はペンやらクリアファイル。恐らくはシャーレの備品に違いなかった。
「……ふふ、仕方のない人ですね。せっかくですから、今からでも届けにいってあげましょう」
先生がこの時間でもシャーレにいることは当然知っている。また先生に会いに行って、あわよくばそのままもっと先へ……。そんなことを考えると、口元がだらしなく緩むのを抑えることが出来なかった。
■
「失礼します。忘れものですよー……と、あら?」
ミヨがシャーレの執務室に入った時、そこには誰もいなかった。しかし先生は間違いなくいるはずだし、明かりもついたまま。机の上の資料はまだ片付けられないままで置かれていた。
「……ああ、なるほど。シャワーを浴びていらっしゃるのですね」
耳を澄ませば流れる水が床を打ち付ける音が聞こえる。であるから今この瞬間、ミヨは色んな脚本を描くことが出来た。
例えば、シャワーに乱入してみる。例えば、このまま先生の忘れものだけを置いて静かに帰ってみる。
「……前者は、その……だ、大胆すぎますし。後者はもったいないですね……うーん」
部屋をぐるりと見渡しながら何か面白いことはできないかと考えて……不意に脳裏に引っかかる感覚を覚えた。
「何故ここは開いた痕跡があるのでしょう」
先生が機密情報があるからと生徒には開かせない机下のキャビネット。その三段目は鍵がついているのだけれど、鍵の角度がいつもより浅い。二段目の引き出しの奥に隠されていた鍵を迷うことなく手に取ってそれを開く。
「二重底だなんて、なんて可愛らしいトリックでしょう」
余程隠したいものがあるのか、鍵の奥には更に秘密を隠すためのからくりが施されていた。それを暴くことにはミヨは何のためらいも感じない。こんなわかりやすいトリックだからばれるのだし、第一そうまでして隠したいものがあるというのが気に食わなかった。
「先生のことなら全部知っていたいのに」
大丈夫、知るだけなら何も問題はない。罪とはそれを悪用することで初めて生まれるのだから。つまり好きな人の全てを知ることは何も悪くないということだ。多少非合法な手段を使っても、ばれなければやはり問題はない。
さらに言えば、先生の隠し事が笑って済ませられることや、他の生徒の秘密であればミヨが痕跡を消して、何も言わなければいいだけのことである。そうでないなら、そんなものを隠している先生が悪いのだから。
そうしてあっさりと二重底の蓋を持ち上げたミヨは。
「……は?」
聞くものに恐怖を与えるような、恐ろしい声を落とした。
■
先生はシャワーから戻って来たとき、ミヨが机の上でとん、とんと資料を整頓していることに気付いた。
゛ミヨ? どうしてここに?゛
「先生が忘れ物をしていらっしゃったので、届けに来たんです」
とん、とんと。ミヨは先生の方を一瞥もしないで資料を整えている。その声は不思議なほど抑揚を伴っていなかった。
゛忘れ物……あ、備品の袋を忘れていってたんだね。ありがとう、ミヨ。……でももう遅い時間だよ。学園の方は大丈夫?゛
「問題ありません。そんなことは後でどうとでもなりますから」
ワイルドハントは外出にさえ厳しい制限が掛けられる学園だ。一日ならば抜け道はあるだろうが、外泊となれば話が変わるだろうという先生の心配は冷たく切って捨てられた。
゛……?゛
ここまで来れば、ミヨの様子がおかしいことに先生も気付くというものだった。いつもの彼女なら、先生の方を見て微笑むくらいはしているのに。
とん、とん……そう、どこか包丁で料理する様を想起させるこの音色も。
゛ところでそれはどういう分類をしているの? さっきまでの作業はもう分類済みだったはずだけど……゛
「ああ、これはですね……処分すべきものと、わたしの学習用です」
゛処分に、学習……ただの手続き書類なのに?゛
「……ふふ」
゛あ、あれ……?゛
先程までの書類にしては、彼女の手に持っているものは分厚いというか、冊子でまとめられているというか。
湯を浴びたばかりだというのに、背中に冷たい汗が伝う。この場から逃げ出してしまいたいような嫌な予感に足を止めたその瞬間、ゆらりとミヨは先生を見た。
「先生はただの手続き書類を、ずいぶんと厳重に保管されるんですね?」
゛……すーっ。それは、その……゛
ミヨが胸の前に掲げたそれは、こっそりと収集していたアナル物の十八禁同人誌。ミヨの口元は微笑んでいるように見えるのに、目が一切笑っていなかった。さらに言えば、みしみしと紙が握力で軋む音すら聞こえている。
「これは、その? ……なんでしょうか。わたしという彼女がありながら、こんなものに欲望をぶつけていらした理由。お聞きしたいです」
゛……お尻の穴に、興奮するんだ゛
「へえ。それで……それだけですか?」
゛ミヨには、こんな汚い欲望をぶつけるわけにはいかないと思って゛
「……ふうん。そうですか」
ミヨは静かに先生との距離を詰める。表情も声色も一切変わらないままで歩いてくるミヨに対して先生が後退りしなかったのは、殴られても仕方のないことをしていたという罪の意識があったからだ。本気で殴られれば、まあ、死ぬ。しかしだからと言って避けるのは先生として、そして恋人としてあり得ないことだと。
そう覚悟を決めたのも束の間、ミヨは先生に向かって倒れ込んでくる。受けとめようとしてその力の強さに、これは押し倒されているのだと気付いた。
「先生、特殊な交易と行きましょう。わたしと、先生とで」
お腹に跨って見下ろす彼女の視線には、有無を言わせぬ圧があった。
「わたしのお尻……アナルを先生に差し上げます。いついかなる時でも、先生が好きなようにしていただいて構いません。いっそ壊してしまっても、わたしは喜んで受け入れます。……ですからかわりに、あなたの性欲は全てわたしにぶつけてください。他の女性で、もう、二度と、性処理をなさらないでください。……いいですか? 先生。ねえ、先生。もちろん……いいですよね?」
゛……はい゛
先生が気圧されて頷き、そこでようやくミヨはにっこりと笑った。笑顔とは本来威嚇行為である、何故か先生はそんな知識を思い出していた。
■
「先生。準備、終わりましたよ。お好きなように、始めてください」
゛……おお゛
同人誌の中で行われていた準備と、そのついでに念入りにシャワーで身体を洗う。それらをあっさりと済ませたミヨは、Yシャツに上下の下着を着ただけの姿でベッドに四つん這いとなっていた。
その光景に先生がまず感嘆してしまったのも無理はない。湯上りで火照った肌、破壊力の高いYシャツ一枚の姿に裾から覗く若草色の下着。ふっくらとした安産型のお尻が、眼前で無防備に差し出されている。それは男ならばまず夢に見るような絶景なのだった。
(い、勢いで押し切っちゃいましたけれど、わたし今、とんでもないことをしているのでは……!?)
一方でミヨは混乱の只中にあった。他の女にうつつを抜かしたことに対して怒りが湧いているうちはまだよかったのだ。ただ近くの店で買ってきた浣腸を使い、身体を洗って、煽情的な姿でベッドに乗って……としているうちに、冷静になってきた部分で思うのだ。
今日キスしたばかりなのに、いきなり性行為、それもお尻の穴でと言うのは二段も三段もステップを飛ばしているのではと。
確かに先生から求めてくるぶんにはいつでもそうなってよかったし、心の中ではいつ先生が手を出してくれるかとずっとやきもきしていた。けれど今回は自分から押し倒していて、しかもこんな可愛げも雰囲気もない振る舞いで……。
(どうしましょう。初めてはもっとロマンチックな雰囲気を想像していたのに……先生と生徒、禁断の恋がばれて逃避行の日々の中、立ち寄った廃屋で静かに身体を重ねる、とか……うああ、どうして、どうしてこうなったんですか……!)
内心で色々嘆くけれど、答えるものはない。怒りと羞恥と喜びとその他諸々がない交ぜになって、視線がただシーツの上をぐるぐると彷徨っている。
そんな時、おもむろに先生の手がミヨの臀部に触れた。
「んっ……!」
大きな手のひらに尻肉を包み込まれて、ミヨは痺れたように身じろぎした。秘所にほど近い恥ずかしい部分を触られて心臓が早鐘を打ちはじめる。ポーズも相まって羞恥心は高まるばかりだというのに、先生はゆっくりと焦らすようにお尻を撫でまわしていた。
「ふっ……んっ、それ、楽しいですか……?」
゛とても。まるで手に吸い付いてくるみたいで、ずっと揉んでたいくらいだ゛
「ふぅん……んっ……すごく、変態なんですね……」
言葉ばかりは先程の怒りを引きずったままで、どこかとげとげしい。けれどそれが本気のものでないことは明らかだった。
なにせ先生の眼前にあるお尻はあまりにも正直に、先生の手の動きに反応してしまっている。しっとりと指に心地よい柔肉を撫でまわせば腰が震え、時折ショーツのクロッチの傍につつつ……と指を滑らせてみればびくりと動きが止まり、それから意地悪にも逸れていく指を追いかけるように尻を揺らすのだ。
静かでもどかしさすら感じさせる誘惑の踊りは、先生の興奮を否応なしに掻き立てる。無言でぺちん、とお尻を叩いたのはその感情に流されての思い付きに過ぎなかった。
しかし。
「ひみゅぅっ!?」
ミヨの反応はあまりにも過敏だった。可愛らしい悲鳴とともに背中がしなやかに丸まって、太ももは軽く痙攣している。二度、三度と続ければミヨはとうとう枕に顔を埋めてしまった。
゛もしかしてお尻叩かれるの、好き?゛
「……そんなわけ、ないじゃないですか、んひあっ!?」
゛とてもいい音がするね。芸術だ……゛
「そんなものに芸術を感じないで、ひぃっ! ください! ふあっ!?」
ぺちん、ぺちんとマシュマロのような柔肉が心地よい音と共に波打つのを鑑賞しながら、先生はショーツを下ろしていく。
゛もう濡れてるね゛
「それは……っ、せ、先生の手つきがえっちすぎるから、です……!」
゛そんなにえっち?゛
「とっても! 変態です……! んひぃっ!? あ、だめ、お尻叩くの、子どもじゃないのにぃ……んいっ……!」
ショーツは既に愛液で湿っていて、長い銀の糸が秘裂との間に架かっていた。膝まで下ろしてようやく途切れたそれは、ミヨが性器に触れられてもいないのに感じていることの証明だった。
おまけでお尻をもう一度叩けば、新たに溢れた雫が垂れ落ちていく。早く触って欲しいとでもいうように。しかし今回の主役はそこではなく、その上できゅっと締まっては小さく開く桜色の蕾なのだ。先生はそこに、ローションをまぶした人差し指を宛がった。
「んふ、んうっ……!」
゛ミヨ、力を抜いて゛
「そんなこと、言われても……!」
にゅく、にゅくと門の中に入り込もうとする指を、入れられることに慣れていない肛門は拒もうとする。生理的な反応で、なかなかうまく緩めることが出来ないでいたのだが。
゛大丈夫。ちゃんと大切にするから゛
「……あっ」
お尻の穴を、という言葉が抜けたその一言にミヨが思ったのは全く別の意味。ひどい勘違いだが確かに彼女の心は緩んでいたのだ。
「ん、お゛っ……!?」
それまでの抵抗が嘘だったかのようにするりと指が入り口を通り抜け、そのまま第二関節まで飲み込まれる。そして指の太い部分をきつく締め付けてしまって、その反発にミヨはたまらず呻いた。
「こ、これ、いま、せんせいのゆび、はいって……!?」
゛うん。人差し指が半分くらい、ほら゛
「あうっ……ま、まげないでください、ひぃ……!」
先生が指を曲げて入り口の浅い所を圧迫すると、ミヨは足の指に目一杯力を込めて込み上げてきた感覚をこらえようとする。痛みではない、初めて知る感覚。押されてはいけないけれど癖になってしまうツボを押されているような、不思議な感覚があった。
「ちょ、ちょっとまってくだ、さい……!」
゛ごめん、大丈夫?゛
「いえ、その……くるしいとか、いたいとかでは、なくて……んっ……! な、なれないかんじで……」
゛うん。じゃあゆっくり行こうか゛
「はい……ぃっ!」
待って欲しいと自ら言ったのに、ミヨのアナルは先生の指の形、温度を確かめるように締まってはにゅくぅ、と緩んで少しずつ奥へと迎え入れていく。無意識の行動だった。抑えようと思っても止められず、先生は指を全く動かしていないのにミヨは一人で身体を震わせているのだ。
彼女にアナル性感の素質があるのは一目瞭然だった。
「……ふー、ふーっ……! んっ、くぅ、ふっ、ぅー……! まってって、いってるのに……!」
゛私は動いていないよ。ミヨが自分で動いてるんだ゛
「そんなの、うそです……んひっいぃ……!?」
゛私が動かしたらこうなるからね゛
ぬる、ぬうぅ……と先生はゆっくり指を前後させた。特に激しい動きでもなく、ミヨが自分で浅ましく指を求めていることを証明するためだけにそうしたのだが、ミヨのアナルがあまりにもきつく吸い付いていたものだから疑似的な排泄の快感を強くもたらしてしまったのだ。
ミヨの腰が高く跳ね上がり、発情した雌の香りとボディソープの甘い香りを辺りに散らす。身体はしっとりと汗ばみ始めていて、汗を吸ったシャツが肌に張り付いて彼女の括れた腰の輪郭を浮き上がらせていた。
゛ミヨはいい腰つきをしてるなあ。綺麗だ……゛
「きゅうにどこをほめてるんです、かあっ……!」
゛ミヨは本当にどこを取っても女の子らしくて、ずっと抱いていたくなるよ゛
そう言いながら先生はミヨの胸と脇腹、腰のラインにもう一方の手で撫でる。着痩せするのか想像以上にあった胸、そこからしだれた柳のような曲線を織りなす腰は、なぞるだけでもその美しさに感嘆したくなる。柔肉がふにっと心地よい感触を返してくるのも手を何度も往復させてしまう理由だった。
「……~っそういうのは、だいてからいってください……!」
゛じゃあお言葉に甘えて゛
「あん……っ!?」
ミヨの言葉にこれ幸いと、先生は彼女に覆いかぶさった。彼女のうなじに髪ごと顔を埋めながら、ブラジャーをずらして胸を揉みしだく。密着した肌から、彼女の微かな呼吸の揺れさえ感じ取れるようになる。
゛ミヨの髪、いい匂いがするね。インクの匂いに、シャンプーの匂い。さらさらで、毛先までつやつやで……゛
「……~っあ、あのっ、せんせい。それいじょうはその、しんじゃいます……! はず、かしくて……!」
゛恥ずかしいのにも慣れないとね。私は手加減するつもりはないよ゛
「あうぅ……!」
嬉しすぎて死んでしまいそう。そんなことを思いながら、ミヨは力をすっかり抜いて先生の温もりに意識を傾けていた。
そんなミヨを、先生は一切躊躇いなく愛でることにした。彼女は押されると弱いのだと理解したがために。
゛耳まで真っ赤だね。……あむ゛
「ひうっ!? あ、みみ、だめ、だめですっ……! おとがぜんぶ、いやらしくて……!」
耳を口に咥えると、いっそう抵抗は弱弱しく、声に混ざる快感の色は濃くなる。
゛そろそろこっちもいいかな……動かすよ゛
「動かすって……んぅっ!?」
アナルに埋めていた指の動きを再開すると、いよいよ彼女の吐息は悩ましさを増した。だがやはり、そこに苦痛は欠片もないようだった。
「あくぅっ……!? はっ、はっ、ああ……! せんせいのゆび、ふか、く、きてぇ……!」
人差し指を奥まで進めても。
「んひっ、うう……!? あ、あ、おく、ぐにぐにって、さわるの、んぃぃ……!? そ、それ、おなかがざわざわして、だめ、だめ、です……!」
そこで穴を広げるように指で壁を押してみても。
「はっ、んあああ゛……!? い、あ、あはあ……っ? あ、ぬけ、ぬけて……きもち、いい、の……?」
指を勢いよく抜いてみても。
そのどれもに快楽を感じているようだった。特に指を抜き去るときなど、駆け抜けた感覚にがくがくと腰を震わせながら、何が起きたのかを遅れて理解しようとしている。アナルでの性感が彼女にとって想像もしていなかった感覚なのだとはっきりわかり、先生は笑みを深めていた。
それから三十分ほど、先生はひたすらミヨのアナルを開発することに専念した。
指を二本に増やし、ぐりぐりと入り口を押し広げる。ぬちゅぬちゅと厭らしい音を立てて抜き差しし、それが自分から発されていることを恥ずかしがるミヨの反応を愉しみながら、彼女の菊口が少しずつ緩んでいくのを確かめる。
指を抜けば、ぽっかりと口を開けて内側のてらてらと濡れた粘膜を晒すアナル。そこに舌を差し入れると、ミヨは獣性の混ざった喘ぎ声をあげながら汚いからそこはだめ、と途切れ途切れに抗議した。だがそれも先生が舌を蠢かせると簡単に嬌声に変わった。枕に押し当てて殺した声が、限界を超えると快楽に染まり切った牝の形なき悲鳴に変わる。愛液はしとどに溢れて、内腿に幾筋も濡れた跡が走っていた。
「ふーっ……、っ、フーッ……! は、あっ、イっ、んっ……!」
そうして丹念にアナルを愛撫し、ミヨが荒々しい息を必死に鎮めようとしているというときに。
先生は自らの肉棒をミヨの、まだ開いたまま戻らないでいる菊輪に宛がった。
「あ、え、せん、せい……?」
゛そろそろよさそうだから、挿入れるよ゛
「ま、まって、ください。もうすこしだけ、きゅうけい、イイ゛っ!?」
これだけ艶姿を見せられながら、我慢できるはずもなかった。ヤるといったらヤる。先生はミヨのアナルを、パチュンと打擲音がするほどの勢いで奥まで一気に貫いた。
「あ、お、おお゛……! そんな、いっきにお゛くまでぇ……」
ミヨはベッドの上に崩れ落ちながら、一気に押し付けられた快感に悶えていた。初めての挿入だというのに、感じたのは脳髄を白く焼く快楽の信号。そして先生が自分にその性欲を、想いをぶつけてくれたということへの多幸感に溢れていた。
゛好きなようにしていい。そうでしょう?゛
「は、い……イ゛っ! あっ、そんな、いきなりはげしく、うごく、なんて、ぇ……ッ!」
゛でもミヨのアナルはすごい喜んで吸い付いてきてるよ。好き、これが好きって゛
「あ、はあア゛……っ! はい、これ、すき、すきです……んあ、ひっ、いい゛っ! せんせい、すき、すきぃ……! ふ、ふふふ、ん、ふきゅっう!?」
ミヨが笑ったのは、先生の欲望を独占していることへの喜びからだった。哀れに懇願しても容赦なくおもちゃのように扱われようと、こうして淫語で言葉責めをされて辱められようと。この瞬間は、ミヨが先生を独占しているのだ。先生はミヨのことしか考えられず、ミヨの身体を愛してくれる。例えそれが性欲だけのものであろうとも構わなかった。
ビジネスの勝ち方は市場を独占することならば、恋愛の勝ち方だってそうだろう。手段は問わず、ただ相手を独り占めしてしまえばいい。本物のアナルの味を知った先生は、きっともう自分から離れられない。自分と言う都合のいい性処理道具を手放すことはできないだろう。
もし離れることがあったら……その時はバチが当たるだけのことだ。今度は夢ではなく、現実で。
「ふ、ふふふ。せんせい、そんなひっしになって……んあ゛っ! はっ、ひぃうっ!? あっ、あっ、んっくう……! か、かわいらしい、です……んはあっ!?」
゛まだ煽るだけの余裕があるんだ、ねっ!゛
「んお゛っ!? ひっ、き、ああっ゛、はっ、おく、えぐ、られて、ひぐっ、んうう……! おしり、せんせいのかたち、おしえられて、ぇぇ゛っ……!」
嗜虐心に火がついた先生は獣のようだった。腰を持ち手に後ろから激しくミヨを突きながら、揺れるお尻の肉を掌で打ってくる。甲高い音と、跳ね上がっては突然の被虐に震えるミヨの腰を楽しむように何度も、何度も。
「あっ、あっ、ひきゅっ! せ、せんせい、ひどい、です……! わたしを、こんな、ものみたいに、イ゛っ!?」
゛ひどくした方がミヨのアナルはよく締まるみたいだから、ねっ!゛
「んあお゛うっ!? ああ、だめ、イ゛っ! きます……!」
゛っく、射精るよ!゛
「っ! そこ、おく、んんうううう゛ぅうっフー……ッ! あ、づ……ッ! せんせいのせいし、いっぱい、ああっやっまた、イっくぅ……!」
先生の欲望がミヨの中に吐きだされる。熱く、激しいそれが腸壁を打ち付ける感覚すら幸福で、より大きな絶頂へと導かれてミヨの意識は真っ白に染め上げられていた。
「んあー……、ハーっ、ん、お゛うっ!?」
゛まだまだ私は満足してないよ!゛
「ハっ、ヒィっ!? だめ、だめです、まだイってるんですっ、まだ、はあうっ!」
愛情を伝えるにはあまりにも激しすぎる、抜かずの二度目。それもまだイっている最中にあるミヨは、抽送の度にイクことを繰り返していた。
先生の腰遣いに揺らされるばかりの身体を腕で支えようとして、その手を掴まれて後ろに引かれる。反対の手も掴まって、まるで手綱で引かれたような姿勢に。
「んあっ、くっ、お゛っ!? だめ、これ、しょうげき、にげられませ……んああ゛っ!」
そこから腰を撃ち込まれると、腕を引っ張られている分強く衝撃を受けてしまうのだった。感じる快楽はいっそう強くなって、絶頂も深くなっていく。
そうして乱暴に扱われているというのに……。
「……ふふ♡」
ミヨは、艶然と笑っていた。
゛また射精るよ、ミヨ!゛
「は、い。せんせい、もっと、くださ、いひィっ! あああっ! ふっ、んううううううくうううおお゛……♡!」
白濁をアナルの奥で受けとめる身体が、哀れなほど小刻みに震える。くぐもった声は法悦に染まり切っていて快楽を享受するばかり。ぷしゅ、しゅう、と噴き出した潮がベッドを汚していた。
゛……ふう゛
その様をたっぷりと眺めてから先生が剛直を抜くと、精液が外に溢れてくる。それを惜しむかのようにくぱくぱとミヨのアナルが息づいていた。
荒い息の音だけが部屋に響く。ミヨの呼吸はケダモノのように荒々しく、そして時折絶頂の余韻に突き上げられて不規則になる。日頃おしとやかな彼女の姿からは、あまりにもかけ離れていた。
(事後の気配は静かで、しかし熱の残滓が消えやらないでいた……わたし、官能小説は書かないつもりですが……)
そんなことを考えながらミヨはゆっくりと寝返りを打った。すると眼前にはティッシュを手に後始末をする先生がいて、ミヨは胸に残る熱の赴くままに両腕を伸ばしていた。
「……ん、せんせい……」
゛ミヨ?゛
「きてください……だきしめたいんです……」
゛いいけど……゛
やや躊躇いがちに差し出された頭を、強引に力で以て胸に引きずり込む。おっぱいが先生の頬でむにゅりと潰れて、先生がなにやら慌てていたがそんなことはどうでもよかった。
「ふふふ……」
今はただ、この人が愛おしい。
「せんせい……。これでわたしはあなたのものです……もうなにも遠慮などなさらず、いつでも抱いて、乱暴に突いて、好きなように染め上げていいんです……」
゛ミヨ……゛
「はい。毎日のようにわたしをぐちゃぐちゃにして、わたしの形を一人のときでも思い出せるようになって……スリーサイズも、その感触も、感じる場所も全部全部先生が暴いてしまっていいんです……」
゛……み、ミヨ?゛
ミヨの愛が重い。そのことは先生も知っていたはずだった。だがそんな相手と肉体関係に基づく契約を結べばどうなるかは知らなかった。
「ふふ、ふふふ……」
その答えは今目の前に……底なしの穴のように、昏い声に。
「先生、これからは毎日、いつまでも一緒にいましょうね。……他の女性になんて、目も向けさせませんから。絶対に」
゛……っすー゛
選択を間違えたかもしれない。先生はそんなことを思いながら、とりあえず頬を包む柔肉に頬ずりをして全てを忘れることにした。
「ふふふ……先生、先生。わたしの、先生……わたしだけの……」
落とされる情熱的な囁きには、聞こえないふりをして。