「ええー! ソーセージぜんぶ食ったのぉ!?」
食卓でデンジが声を上げる。
「たべた!」
朝からハルマキをバリバリ食べながらナユタが答える。
「ピザを手作りして食べ放題する予定だったんだぜ…」
ケチャップ、チーズ、メリケン粉…。
トッピングがひとつ減るとさみしくなる。
「しょうがねえ、高かったけど、また買ってくっか」
「サラミはもういい!」
「んなこと言っても、ピザにはサラミじゃねーの?」
「サラミ、もういい!」
ナユタが思い出して、うぇえという顔をする。
サラミソーセージまるごと一本食べたら、そうなるかもしれない。
「じゃあ、ふつーのハムでも使うかぁ…そのほうが安く済むしな」
「うん! ふつーのハムがいい!」
「ピザに、ロースハムかぁ…」
つぶやきながら、卓に置いたチケット2枚を見る。
ナユタがサラダをサリサリ噛みながら、
「なにそれ!映画の券?」
「あー。」
デンジは昨晩の事務所でオーナーに渡されたことを思い出した。
オーナーに、映画の券を二枚手に入れたんだが、デンジ君にあげよう、と言われて、
「映画ッスか…」
と差し出されるままに受け取って
「2枚、くれるんッスね」
なんの映画だろうとみていると、オーナーが咳払いして、
「うちの娘と行って欲しいんだ」
「娘さんと?」
「そう。その映画にね。うちの娘は引っ込み思案なんだが、私の見たところ、どうやらデンジ君を気に入ったみたいなんで、君が一緒に映画に行ってくれたら、喜ぶと思うんだ」
「娘さんが…オレを??」
「私に会いに来たとき、デンジ君を見ていたらしくってね」
うーん、オーナーの娘さんが来たことあったっけか??
心当たりないな…。
「デンジ君なら、安心して娘を任せられる」
うなづくオーナーに、
「だけど、オレ、娘さんのこと、全然知らなくって」
「頼むよ。うちの娘は内気で、男の子とデートしたこともない。一度でいいから…」
「はあ」
まあ、オーナーさんには世話になってるし、映画の券はもらえるし、一度きりなら、いいか…。
それに、娘さんつーのに、興味がなくもないし。
「ちなみに、娘さん、どんな子なんです」
「恥ずかしがり屋でねえ、すごく純情なんだ。たとえば、イギリスに旅行に行った時、向こうのお金はペニーとポンドと言うんだが、ペニーと聞くたび赤くなっていたくらいだ」
「はあ?」
「ちんちん電車に初めて乗る時も、真っ赤になって待っていたからね。来たのが普通の路面電車だったから、おどろいていたよ」
いや、ちんちんな電車がくるほうがおどろくだろ?
「乗り込む前も顔をうつ向けていたけど、いざ乗ってみると乗客もみんな普通なんで、拍子抜けしたような感じだったな」
ちんちん電車だからって、客がちんちん出してるわけないだろ…。
「もしかしてその子…おもしろい子ですね」
オレもおもしろいって言われたことあるけど、その子もそうとうだぜ。
「いや、ごく普通の子だよ、親のひいき目かもしれんが、可愛い。ただ、すごく純情でね…」
純情な子が、ちんちんな電車が来ると思ったり、客がちんちん出してるとか思わねーんじゃねえか…むしろちんちんのことばっか考えてるじゃねーか。
「映画いく! いきたい!」
ナユタの声で、はっと朝の食卓に意識が戻された。
「こりゃだめだ。しごとのえんちょーみてえなもんだからな」
「うそ! 映画見に行く仕事あるの? やりたい!」
「そんな仕事ねーけどよ。これは、別の人と行かなきゃなんねーの」
「ずるい!!」
「…やっぱ、映画好きか? 前は、たくさん映画つれてってもらったからなあ、つぎは、ナユタをいやっていうくらい映画みにつれてってやるよ」
「やくそくだぞ!」
「あー。つれてくよ。10本くらい、かな…」
「べつに、そんなにみなくってもいいかな」
「へー。そうなのか」
やっぱ、マキマさんとは違うのかな。
「たいせつな1本みつけたから」
「今、なんてった?」
ナユタはにたーとわらった。
「学校、行く!」