「ぁ、角のあるやついた!」
木のかんたんな柵に、牛が近づいてきてた。
キョウミシンシンなかんじでこっちを見ているので、歩いていって撫でようとする。
すぐにべろんべろん手を舐められた。
「牛さん無事だったのね、良かった」
サキさんがゆっくりやってくる。
「ひと月ほど前だし、いつもの習慣で通報したから、流石に居ないわね」
デンジは顔を舐められて、ひゃははと笑っていた。
「ま、いいよ。もう少しこのあたりさがしてみる」
「けど、車で聞いた特徴だと、やっぱりその、血の悪魔じゃなさそうね。今回は不発だったかな」
「オレは牛と仲良くなれたからいいけど、サキさんには車出してもらって、ガソリン代だってかかるのに、悪ぃな」
「いいのよ」
「どうしてこんなにしてくれんの? ありがてえけど」
「私、小さい頃から人より悪魔と遭遇する機会が多いのよね。それを知っている人は、私を何となく避けるようになるの」
柵の上に腕を掛けると、彼女の方にも牛が頭を寄せる。
牛の顔を撫でて、
「それなのに、その悪運を必要にされたのは初めてだったから、新鮮だったの。嬉しかったのかな」
「公安に入ったら? ありがたがられると思うぜ」
「嫌よ、私戦えないし」
「けっこう普通の人も入ってる。悪魔と契約したり、トレーニングしたら常人よりずっと強くなるぜ」
「戦いたいとも思わないし。悪魔とはよく会うけど、退治したいとか気持ちはないわ。被害者の人のこと考えると、居なくなったほうがいいのでしょうけど、小さい頃から悪魔がいるのが自然だったから、麻痺しているのね」
サキも顔を舐められて、デンジが笑う。
メイクを舐めたら体に悪いだろうと思って、サキも微笑しながら柵から離れた。
「…公安と言えば、中学の時悪魔を見たら公安に通報してたんだけど、頻度が凄いんで私に聞き取りをしたいとか言って家まで来られて、何だかマークされ出したのね。
それからは出来るだけいろんな民間のデビルハンターに分散して報せるようにしだしたわ」
「下手すりゃスカウトされてたかもな」
「デビルハンターの仕事に就いても、どうすればいいか分からないと思う。悪魔を探知できるってわけじゃないもの。行くところ行くところに悪魔が現れるってだけで。確率的に、生きてて悪魔と会わない人と会う人の両極端な層がいて、会うほうが私だって言われてそうかなとも思うけど、納得は出来ないのよ。」
「へえ。どーしてだろうな」
角のあいだの頭を撫でてあいさつすると、デンジは柵に背中を向けた。
ふたり、草むらの間の土の道を歩く。
「デンジ君と居ると、もしかしたら私がどうして人より悪魔と遭遇するのかが分かるような気がする」
「そーかな」
「気がするってだけ。デンジ君、血の悪魔に会えればいいね」