※この作品はR-18です。

拉致が生んだ愛ー囚われの美少年と妖艶な美女軍人ー   作:ドミトリ

3 / 4
 お互いを想う強い愛情で結ばれた秋仁とライサ。ライサの部下たちの卑劣な企みを知った2人はその裏をかいて彼らを一網打尽にする計画を練る。

 果たして両者の対決の結末は? そして秋仁とライサの運命は……!?


第3話・船上での戦いと新たな出発

 翌日の13時より少し前、ライサの部下たちが会議室を訪れた。本来、会議の際には持ち込みは禁止されている拳銃やナイフといった武器を隠し持って。

 

 彼らが部屋に入ると、既にライサは一段高い、奥の議長席に座っていた。彼女は口に大きなマスクを付けている。隣には秋仁が立っていて、彼もやはり大きなマスクを付けている。

 

 「“中佐、もうお越しでしたか。隣は可愛い科学者さんですか。これはこれは”」

 部下の1人、ボリスがとぼけた風にライサに挨拶し。ライサは何も気づいてないかのように穏やかに微笑みつつ、彼らの様子を観察する。

 

 (全部で8人……イリーナとイヴァンがいないわね。さしずめ私がこの部屋から逃げ出した場合に備えて、私が外に出てきたら襲おうと待ち構えていて、この連中が私を制圧したら中に入ってきて私を嘲笑い凌辱しようという事ね……)

 

 「“ところで中佐も、そこの科学者くんも2人してマスクを付けてますが、どうしたんですか?”」

 「“ああ、これね。この子が風邪をひいてしまって、その風邪が私にもうつっちゃったのよ”」

 

 ボリスの問いにライサが答えている最中、他の部下が扉を閉めてカギをかける。逃げ道を塞ごうというのだ。むしろこれはライサと秋仁にとっては好都合なのだが。

 

 さらに部屋の両側から部下たちはじりじりと2人に向かって距離を詰めてくる。全員が入口からは遠ざかっている。今こそ好機! とライサが秋仁を見つめる。

 

 秋仁はかすかにうなずくと、手元に隠し持っていた、例のプラスチックツ製の小さな器の中に魚のアクセサリーの入った水入り容器を取り出す。今度のものにはシャチやタツノオトシゴ、マンボウなど色々な海の生物のアクセサリーが浮かんでいて、秋仁は容器のふたをそっと空ける。その様子を見たボリスたちは嘲笑する。

 

 「“おいおい、アンタ、こんなオモチャで遊んでるようなガキとさんざんヤッて、それで風邪うつされてんのかよ! 情けねえなあ! その変態性癖を俺たちが矯正してや……ぐっ、ぐえええっ……”」

 「“ぐぐ……うげげっ……”」

 「“い、息ができねぇっ……”」

 「“お、おげえええええっ…”」

 

 ライサと秋仁を嘲笑していたボリスをはじめとする8人の男たちが突如、顔をゆがめて泡を吹いて苦しみ出す。そして彼らは次々と倒れ、絶命していった。いずれも顔を醜く歪め、口から泡を吹き出した無様な死に様だった。

 

 ライサは彼らの屍を見つめてつぶやく。

 「私を口汚く侮辱するのが私たちを襲撃する合図だったみたいね。お生憎様。私はあなたたちなんかに汚され、殺される訳にはいかないの。私を心から愛して支えてくれるアキヒトのためにも……」

 

 秋仁が空けた容器の中には人間がそれを吸引するや即死する、高濃度の青酸ガスが入っていたのだ。一方、秋仁とライサは擬装用の普通のマスクの下に毒ガス防止用の簡易マスクを用意し、装着していたため無事だった。青酸ガスは呼吸器対象に特化した毒物なので、毒ガス防止用マスクがあればそれで足りるのだ。

 

 こうして10人の敵の内、一挙に8人の敵を葬り去る事に成功した。ライサはまだ少年の身で、こんな恐ろしい薬物を作り出す事ができる秋仁の能力に改めて驚き、また頼もしくも感じた。だが、まだイリーナとイヴァンが残っている。しばらくすれば2人はここに来るはず。

 

 「行くわよ、アキヒト」

 「うん」

 

 ライサと秋仁は警戒しつつ、手を取り合って入口のドアに近付く。ライサは右手に拳銃を持って、秋仁もいざという時に備えて議長席の机の上に置かれていた小さな花瓶を手に握って。

 

 ライサがドアを少し開けて、外の様子を伺う。

 「まだ、2人の姿は見えないわね……」

 「そう……」

 

 それからしばらくして

 「イヴァンが来たわ……!」

 「……!」

 

 ライサの声に秋仁は彼女の隣からドアの外を覗く。右側からこちらに向かって近付いてくるのはまぎれもなくあの巨漢のイヴァンだった。右手に拳銃を持っている。秋仁は手に持つ花瓶を握り締める。

 

 「“おい!! どうした!? ちゃんとあいつを捕らえたのか?”」

 イヴァンの叫びが響く。待てどもボリスたちから計画遂行の合図が来ない事に業を煮やして来たのだろう。

 

 ライサが外に向かってドアを開け放つ。すると、それをボリスたちによる合図と勘違いしたのだろう。イヴァンが小走りで駆け寄って来て部屋に入ろうとしたその瞬間。

 

 ズキュウン!!

 「“ぐああっ!!!”」

 

【挿絵表示】

 

 ライサは冷徹な表情で引き金を引き、彼女が放った銃弾がイヴァンの額を撃ち抜き、イヴァンは頭から鮮血を噴き出して彼の巨体はズダ――ン!! と地響きを立ててうつ伏せに倒れる。まさに即死だ。だが……

 

 「“間抜けだねぇ! イヴァンは囮さ! 死ねっ! 変態淫乱女!”」

 「……!!?」

 

 イヴァンの倒れたその後ろからイリーナが現れ、ライサに銃口を向ける。狡猾にもイヴァンを先に行かせて、ライサが彼に気を取られている隙にドアのすぐ傍まで来ていたのだろう。ライサは完全に不意を突かれて無防備な態勢で絶体絶命だ。

 (し、しまった!!)

 

 (ライサっ!!)

 愛する女性の危機に秋仁の体が本能的に動き、手に持つ花瓶をイリーナめがけて思い切り投げつける。

 

 ドガッ!! ガシャーン!!

 「“ぐあっ!!”」

 

 花瓶はイリーナの頭に命中し、床に落ちて粉々に砕け散る。思わずよろめくイリーナ。それはライサが体勢を立て直して反撃に転ずるには十分過ぎる時間だった。

 

 ズキュウウン!!

 「“ぐああっ!!”」

 

 イリーナは腹を撃ち抜かれ、拳銃を前に落としてその場に突っ伏す。彼女は激痛で震える手で落とした拳銃を取ろうとするも、ライサはそれを素早く足で遠くへ蹴り飛ばし、反撃の機会を完全に断ち切る。

 

 「“ち、畜生っ……あのクソガキが邪魔さえしなけりゃ……”」

 イリーナが呻く。

 

 「“どうやら勝負はついたわね。イリーナ”」

 「“こ、この裏切り者の淫乱女が……”」

 冷徹な目でイリーナを見下ろすライサ。彼女を憎悪に満ちた目で睨み、罵るイリーナ。

 

【挿絵表示】

 

 「“あなたは素行の悪い部下だった。でも、私はあなたの上官としてそれにふさわしい対応をあなたにしてきたつもりだったわ。でも、あなたは彼らに私を汚させ、私をなぶりものにして殺そうとした。これは許せるものではないわ”」

 「“か、感づいてやがったのか……ケッ……! お前は慰み者にされて無様に死ぬべきだったんだ……忌まわしい貴族の血を引く、多くの男たちと淫行を重ねた……そして今はこんなひ弱な女みたいなみっともねえガキと交わってる淫乱女はよ……”」

 

 イリーナの憎悪に満ちた悪罵を聞いたライサの美貌が引き締まるが、彼女は会話を続ける。

 「“なぜ、あなたたちが負けたのか分かる? 私とアキヒトの絆を知らなかったからよ。彼は罪で穢れた私を心から愛して支えてくれたわ。私1人ではあなたたちに勝てずに、あなたの思い通りに汚されて、殺されてたでしょうね……”」

 

 「“でもアキヒトがいてくれたから、私はあなたたちの汚い企みを知って、先手を打つ事が出来たの。あなたの思いがけない奇襲もアキヒトが花瓶をあなたに投げつけてくれたから避ける事が出来た。アキヒトの愛が私を救ってくれたのよ。それに対してあなたは自分の仲間までも平気で囮にした。その差が私たちとあなたたちの勝敗を分けたのよ”」

 「“へッ……何が【愛】だ。ひ弱なガキと気持ち悪りい淫行してやがる変態女が……虫唾が走るぜ……”」

 

 あくまでも憎悪に満ちた汚い罵詈雑言を続けるイリーナをライサは冷徹な目で見つめ、宣告する。

 

 「“言いたい事はそれだけかしら? ではさようなら。永遠に”」

 

 ズキュッ!! ズキュウウゥン!!

 

 言葉と同時にライサはイリーナに連続して銃弾を撃ち込み、息の根を完全に止めた。

 

【挿絵表示】

 

 「私への罵詈雑言は許せるわ。でも、私の愛しいアキヒトへの暴言は許せない」

 血に染まったイリーナの屍を見つめつつ、ライサはつぶやいた。

 

 「ライサっ!!」

 「アキヒトっ!!」

 

 秋仁がライサに駆け寄って抱き付き、ライサは彼の華奢な体をしっかりと抱きしめる。2人の目から涙がはらはらとこぼれ落ちる。

 

【挿絵表示】

 

 「良かった……!! ライサ、君が無事で!!」

 「アキヒト、ありがとう……!! あの時、もし、あなたがイリーナに花瓶を投げつけてくれなかったら、私、間違いなく撃たれていたわ……!!」

 「僕、僕っ……もう無我夢中でっ……ライサ、君に何かあったら、僕はもう生きていられなかったからっ……良かったっ! 良かった……」

 「アキヒトっ……!」

 

 2人はそっと顔を寄せ合い、唇を重ねる。

 

 その後、秋仁は血に染まったイリーナの屍を見つめる。

 (この人があんなにライサを嫌って彼女を凌辱させて殺そうとまでしたのは、ライサの美しさに対する嫉妬に加えて【階級憎悪】なのかな……【忌まわしい貴族の血を引く女】とライサの事を罵っていた。この人はライサより年下だから貴族身分が無くなった革命後の生まれだけど、帝政時代を知る周りの人や学校でも【貴族は人民の血を吸って生きて来た寄生虫ども】と吹き込まれてきたんだろうな……)

 

 秋仁はこれまでそうした周囲の偏見からくる悪意に苛まれて生きて来たライサの辛さを改めて感じ、彼女を支え、幸せにしなければと改めて誓った。

 

 こうして戦いはライサと秋仁の完全勝利に終わった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 「はい、これを返すわ」

 「これは……パスポート……そういえば、僕、持ち歩いていたんだっけ……」

 

 ライサからパスポートを返却されて驚く秋仁。【少年天才科学者】として世界的に名高い彼は、世界各地に招かれて講演などをする関係で日常的にいつもパスポートを身に付けていたのだ。

 

 その為、拉致された時も、その時は海外に行く予定などなかったのにパスポートを持ったままだったのだ。それは拉致された時にライサたちに取り上げられていたのだが、秋仁はずっと自分がパスポートを持っていた事など忘れていたのだ。その様子にライサはクスッと笑う。

 

 「ウフッ♪ アキヒトったら、あんなに頭が良くて頼りがいがあるのに、結構、うっかり屋さんなのね♪ そんな所がまた可愛いわ♪」

 「あはは……」

 秋仁はちょっと恥ずかしそうに頭をかく。

 

 「ライサ、君は?」

 「私はA国のパスポートを持っているわ。もちろん偽造だけど」

 「そ、それ、大丈夫……?」

 「大丈夫よ♪ これまでも何度も他国への潜入に使ってきたけれど、バレた事はないの。私、A語話せるし、怪しまれた事もないわ」

 

 ライサはこれまでの他国での任務遂行の際、R国系A国人と自らの立場を偽装する事が多かったという事。N国の同盟国であるA国は世界一の超大国であり、A語は事実上の世界の共通語であり、A国人だと称するのは色々な点で好都合なのだ。

 

 A国には革命の際に革命派の虐殺を逃れた多くのR国人が渡っていて、多くのR国系移民がA国にはいるので、A語が完璧なライサはパスポートを見せれば、まず怪しまれる事はない。その偽造パスポートもR国の技術の粋を集めて作られており、本物と全く区別はつかない。秋仁はライサの諜報員としての優秀さに改めて感心する。

 

 「これで準備は万端だね」

 「ええ、見落としはないはずよ」

 

 うなずき合う秋仁とライサ。ライサはR国の軍服を脱ぎ、変装用に用意していたブラウスとスカートに着替えている。これからN国に入るにあたり、ライサのR国の軍服は目立って、彼女がその姿で見つかれば面倒な事になるからだ。

 

 「この船には船底に時限爆弾を仕掛けたわ。私たちが脱出してしばらくしたら、この船は沈没するわ」

 「うん……!」

 

 (この船は海底に沈み、ライサの部下たちの屍と共にそこで眠ることになる。おそらく長い年月、発見される事はないだろう。そしてR国政府はライサを含めてこの船の乗組員は全員、遭難して死亡したという形で事実を隠蔽するだろう)

 

 (それにしても彼ら、ライサを凌辱して殺して、彼女の死体を海に沈めると言っていたけど、こうして自分たちが船ごと沈む事になったのは皮肉だな……)

 

 秋仁は隣にいるライサを見つめる。

 「………………」

 

 ライサは複雑な表情を浮かべている。彼女としても自分が艦長を務めた船を、そしていかに下衆で卑劣な連中であったとはいえ、自分の部下だった者たちを海に沈め、故郷を、R国中佐という立場を捨て、全く未知の世界で生きる事になるのだ。多くの思いが彼女の心の中を駆け巡っているのは当然だ。

 

 しばし物思いにふけった後、ライサは秋仁を見つめる。彼女の水色の瞳には強い光が宿っている。それは愛する自分への信頼の証と悟った秋仁も彼女の目を真っ直ぐに見つめる。

 

 「行きましょう! アキヒト」

 「うん!」

 2人はうなずき合い、用意した小型高速艇に乗り込んだ。

 

 2人が高速艇に乗ってしばらく進むと、背後からボンッ!! と時限爆弾が爆発する音が響き、振り向いた秋仁は船が煙を上げつつゆっくりと傾き沈み始めたのを見る。だが、高速艇を運転するライサは一切、振り返らない。それは彼女の過去を捨て、秋仁と共に新たな人生を生きる、その決意の表れなのだろう。

 

 沈んでいく船は秋仁たちの乗る高速艇からどんどん遠ざかり、やがて見えなくなった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 それから……

 

 ライサが不眠不休でN国の領域へと急ぐ途中、2人はN国に向かって帰還中の遠洋漁船に遭遇し、救助してもらった。

 

 ライサの美貌と彼女のセクシーな身体が船員たちの注目を集める中、2人は船長に会った。船長はテレビに度々出ていた秋仁の事を知っていて「お前、あのボウズか?」と驚いた風だったが、2人は彼に事情を説明した。

 

 もちろん事実を伝える訳にはいかず、秋仁は自分が突然、海岸で国籍不詳の諜報員らに拉致された事、その船には仕事でN国に向かう途中で先に拉致されていたA国人のライサもいて、隙を突いて2人で力を合わせて脱出してここまで逃れて来たと話を作って説明した。

 

 もちろんライサは自分の身を証明するものとして例の偽造パスポートを見せたが、精巧に作られた偽造パスポートに船長たちは全く疑いなど持たなかった。

 

 船長以外の船の乗組員たちに秋仁の事を知っている者はなく、ライサを船員たちがやたらジロジロと見たり、秋仁がライサとの事で船員にからかわれたりする事はあったが、ライサが秋仁に言われた通り船員に話しかけられてもN語が分からないフリで通した事、荒くれ者っぽいが気のいい船長が船員たちの行き過ぎた行為は抑えてくれた事により、大した事は起こらず無事にN国に帰還できた。

 

 船から降りる際、秋仁は船長に丁重に礼を述べた上で伝えた。

 「彼女の事は話さないように船員の皆さんにもお伝えください。マスコミにあれこれ書き立てられると彼女が大変ですから」

 

 「いいぜ。ボウズ、お前もそんなカワイイ顔してこんな年上の別嬪さんをモノにするとはなかなかやるねぇ~♪ 奴らには俺からよく言っておくから大丈夫だぜ! 彼女と幸せにな♪」

 

 2人の関係を薄々察していた船長はそう笑って約束してくれた。秋仁は彼に重ねて礼を述べた後、後でお礼をしたいのでと船長の電話番号と住所を尋ねた。「礼なんかいいぜ」と船長は渋ったが、秋仁が重ねて言うと「それじゃ安酒でいいから送ってくれ」と教えてくれた。

 

 2人は船長らと別れた後、急いでタクシーを呼んで近隣のホテルへと移動した。2人はひとまずそのホテルの部屋に入る。

 

 「これからお父様とお母様に連絡するのね……」

 「うん」

 

 「………………」

 ライサが不安そうな表情を浮かべる。彼女としては当然、秋仁よりずっと年上で外国人の自分が秋仁の両親に受け入れられるか気がかりなのだろう。

 

 「大丈夫だよ。たとえ両親に反対されても僕は君との愛を貫くから。もし【別れなきゃ勘当だ!】と言われたら僕は君と一緒に家を出るから。それに、たとえ家を追い出されても僕は暮らしていける自信はあるんだ。これまでの活動を通じてこの国の政府の要人や大企業の経営者の人たちとも繋がりがあるから」

 「アキヒト、あなたって本当にすごいのね……! でも……私のせいでアキヒトがご両親と断絶なんて事になったら……」

 

 ライサは秋仁がまだ少年の身でそれだけの立場を築いている事に感嘆しつつも、自分の存在が彼と両親の間に亀裂を入れかねない事を申し訳なく思う。秋仁はそんな彼女を励まそうと言葉に力を込める。

 

 「僕だってそれは辛いし、そんな事にならなくて済んで欲しいとは思うよ。でもライサ、君と別れるなんて事は絶対に出来ない! だって僕は君と約束したんだから【何があっても君を離さない。僕が君を支える】ってね」

 「アキヒト……ありがとう……」

 

 ライサが目を潤ませる。その彼女を見て秋仁は改めて感じる。彼女は全く未知の世界に来て自分以外に頼れる存在は皆無なのだ。彼女がどんなに強い女性であってもその孤独と心細さは隠せない。彼女を支えられるのは自分だけ……! その思いが彼を熱く燃えさせ力づける。

 

 秋仁はライサと抱き合い、彼女にキスして勇気づけると、家に電話をかける。すぐに父が出た。

 

 「もしもし、こちら佐藤ですが……秋仁!! お前、無事だったのか!!」

 「お父さん!! うん……! 滞在中のホテルから海岸に出たところでどこかの国の工作員らしい人たちに拉致されてしまって……でも、同じ船に拉致されていた人に助けられて、何とか一緒に高速船で脱出する事が出来て、その後、通りかかった漁船に救助されて戻ってこれたの」

 

 「そうか……!! 良かった……!! お前が無事で……!! 本当に良かった……」

 「お父さん……!」

 

 秋仁は父が心から自分を心配してくれていた事をその声から感じて思わず涙ぐむ。

 

 「母さんもお前をとても心配していたぞ。食事が喉を通らないほどにな……今、母さんに代わるから」

 「うん」

 

 「もしもし!! 秋仁!! 本当に秋仁なのね!!」

 「うん! 僕だよ! お母さん! 心配かけてごめんなさい!」

 

 「良かった……!! 本当に良かったわ!! あなたが無事に戻ってきてくれて!! 私、もう心配で心配で……!!」

 「お母さん……」

 

 秋仁は思わず泣き崩れる母の様子を電話口で感じ、胸が熱くなり再び涙ぐむ。

 

 「じゃあ、すぐにお父さんと一緒に迎えに行くわ! 今、どこにいるの?」

 秋仁は母に自分が今、滞在しているホテルの名とその場所を伝える。

 

 「分かったわ! じゃあ、早速、そちらに向かうわね!」

 「あっ、待って! 実は僕……」

 

 ライサの事を伝えようとした途端、電話は切れてしまい、再び電話しても出てくれない。両親共に喜びのあまり、一刻も早く秋仁のもとに行く事しか考えてないのだろう。

 

 「君の事を伝える前に切られちゃった……」

 「良いのよ。こちらにいらっしゃるまで待ちましょう。直接お会いした上で話さなければ、本当には分かり合えないんだから。でも、アキヒトのご両親って何をされている方なの?」

 

 「父はね。貿易会社の社長をしているの。特にA国やC国の企業との取引を中心にしているね。母は専業主婦として父を助けているの」

 「貿易会社の社長……」

 

 (アキヒトって、顔立ちも雰囲気も、そして話し方も品があって育ちが良い子だと思っていたけど、やはりかなり裕福な家の子のようね……)

 

 それから2時間ほどして、ホテルに前に黒の大きな高級車が停まった。

 

 「あっ! ライサ、僕の両親が着いたよ!」

 「ええ……」

 

 秋仁の言葉にライサはうなずいてホテルのロビーにあるソファから立ち上がる。覚悟を決めているとはいえ、やはりその時が来ると緊張感は高まる。

 

 「秋仁!! えっ……?」

 ホテルのロビーに入って来た両親は息子の名を叫んで駆け寄ってきたが、次の瞬間、2人は息子の傍に寄り添っている大柄な白人の金髪碧眼の美女を見て驚きの表情を浮かべる。

 

 「秋仁、その女性は……?」

 「お父さん、お母さん、迎えに来てくれてありがとう! うん……彼女は僕が拉致されていた船に一緒に捕らわれていた女性で……僕は彼女に助けられてあの船を脱出出来たの……そして僕と彼女は……その……愛し合ってるの」

 

 「何だって……?」

 驚く秋仁の両親。その2人にライサは挨拶をする。外国人のものとは思えない、綺麗で流暢なN語で。

 

 「初めまして、お義父様、お義母様。ライサと申します。A国出身でアキヒトくんとは拉致された船で知り合いました」

 「あっ……初めまして……秋仁の父と母です。息子を助けてくださったとの事で、それは心から感謝します……ただ、今、息子が言った、あなたと息子が【愛し合っている】とは本当なのですか……?」

 

 秋仁の両親の顔に戸惑いと疑いの表情が浮かぶ。ライサの容姿がA国の【プレイメイトガール】を上回る程の性的魅力にあふれた妖艶な美女で、こんな女性がずっと年下の、しかも美少女のように可憐で華奢な容姿の、いわゆる【男らしさ】とは無縁な容姿の息子の事を異性として純粋な気持ちで愛するとは思えなかったからだ。

 

 特に仕事を通じてA国人との関りが深く、 A国人の一般的な価値観を知っている秋仁の父は疑いを強める。A国では一般的に秋仁のような男性は【貧弱】【男らしくない】とバカにされて見下され、特にライサのような恵まれた容姿の女性は圧倒的に、身体が大きく筋骨隆々でガッチリとしたいわゆる【マッチョタイプ】の【男らしい男】を選ぶことを知っているからだ。

 

 (秋仁が【少年天才科学者】と評判な事を、そして父の俺が大企業の社長と知って金目当てで息子を誘惑して近付いたのでは……)

 

 「はい、仰る通りです。私は息子さんの……アキヒトくんの事を心から愛しています」

 「いや、ちょっと信じられませんな……あなたほどの美しい女性なら、ずっと女性にモテるタイプで社会的地位も高い男性にいくらでも声をかけられるかと……失礼ですが、何か目的があっての事では……」

 

 「お父さん!! ライサに失礼だよ!!」

 父のあまりの言い様に秋仁が抗議の声を上げる。秋仁の父は普段はおとなしく穏やかな性格の息子の怒りを含んだ叫びに驚く。

 

 「いや……お前だってA国の人たちの一般的な価値観は知ってるだろ?」

 「それはあくまでも【一般的な価値観】でしょ! そうでない人だっているの!」

 「いや、そう言ってもな……」

 

 息子の抗議に戸惑う秋仁の父をライサは見つめ、伝える。

 「お義父様……私はR国からA国へ亡命した貴族の娘で、これまで生きていく中で色々な事がありました。お義父様の仰るような男性に何度もアプローチをかけられた事もありました。でも、本当に私を心から愛して支えてくれた相手はこれまでいませんでした。皆、私の外見や身体だけが目当ての男ばかりで……」

 

 「でも、アキヒトくんは違いました。彼は私の過去を知った上で、私を心から愛してくれて、【生涯、君を絶対に離さない! 大切にする!】と約束してくれました。さっきアキヒトくんは【彼女に助けられてあの船から脱出出来た】と言っていましたが、私もアキヒトくんに助けられたからこそ、あの船から脱出出来たのです。もし、彼の知恵と機転、私を愛して命懸けで守ろうとしてくれる気持ちがなかったら、私だけでは絶対に逃れる事は出来ませんでした」

 

 実際、ライサはそう思う。ここで話す事は出来ないが、秋仁がいち早くあの部下たちの不穏な様子を見て彼らの企みを知らせてくれた事、彼が創り出したあの青酸ガス、そして危機に陥った自分を救ってくれたイリーナに投げつけたあの花瓶、そのどれが欠けても自分は今、生きてここにいる事はなかった。部下たちに凌辱された上になぶり殺しにされるという無惨な死を遂げていただろうと……

 

 「そんなアキヒトくんの優しさ、何があっても私を守ろうとしてくれる私への強い想い、それを確信したからこそ、私はアキヒトくんを愛しているのです!」

 「ライサ……!」

 

 水色の瞳を潤ませて秋仁の両親に自分の気持ちを訴えるライサ、その彼女を感激の目で見つめる秋仁。その2人を見た秋仁の母が夫に言う。

 

 「お父さん、ライサさんが嘘を言っているとは私にはとても思えないわ。あの秋仁の顔を見ても2人が心から愛し合っている事は私には分かるわ」

 「………………」

 

 黙っている夫をひとまず置いて、秋仁の母はライサと秋仁を見つめ、伝える。

 「ライサさん、あなたが秋仁の事を本気で愛してくれている事はよく分かったわ。そして秋仁、あなたがライサさんと出逢って彼女を好きになって大きく成長した事も分かったわ。恋は人を成長させるというものね♪」

 

 「お義母様……!」

 「お母さん……!」

 

 「じゃあ、お父さん。お家へ戻りましょう。4人でね。これからの事とかも話さなくてはいけないし」

 「そうだな……」

 

 秋仁の父もいまだ戸惑っている風はありつつもうなずいた。

 

 4人は車に乗り込んで秋仁の自宅へと向かった。(次回に続く)




 この作品。本来はこの第3話で完結の予定でしたが、思いのほか話が長くなりましたので、今回は船上でのライサ・秋仁とライサの部下たちとの戦い、その後の秋仁と共に船から脱出してN国に来たライサが秋仁の両親と会い、受け入れられるまでにとどめて、残りのその後の秋仁とライサの話は次回第4話にまわす事にしました。

 という訳で今回はライサと秋仁の交わりはなく、シリアスな場面が続く事になりました。2人のラブラブセックスは次回の第4話でまた描きます!

 冒頭の、秋仁が青酸ガスによってライサの部下たち8人を一挙に葬り去った場面は【機動戦士ガンダム・ジーアクス】第6話のキシリアによるギレン暗殺の場面を参考にしました。キシリアがギレン暗殺に用いた毒物については諸説ありますが、ここでは青酸ガス説を採用しました。秋仁はまだ高校生の身でこんなものまで作れる程の天才な訳で…;(^^)

 この場面、そしてこの後のライサ対イヴァン、イリーナの対決の場面、ライサも秋仁も部下たちを葬るのに一切迷いは見せませんが、それは上官であるライサを凌辱して惨殺する事を企み、また仲間を捨て石にする事も平気な部下たちのあまりの下劣ぶりと、さらに秋仁もライサも彼らを倒さなければ愛する人を守れず、幸せになれない事を悟っているからです。

 ライサの危機を救うため、秋仁がイリーナに花瓶を投げつけた場面。非力な秋仁があの場面でライサの助けになるにはああいう形しかあり得ない訳で。有名な荊軻による秦王政(後の始皇帝)暗殺未遂事件の際に、侍医が薬箱を荊軻に投げつけて秦王の危機を救った『史記』の場面を思い起こして参考にしました。

 今回のお話では秋仁とライサ、2人のお互いを想い合う気持ちが部下たちの戦いに勝つ力になり(実際、2人の内、どちらが欠けても勝てなかった)、また秋仁の両親に2人の関係を認めてもらう事に繋がった、という所が物語のテーマとなりました。

 次回は秋仁とライサ、2人のその後の物語となります。お楽しみに!(^▽^)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。