※この作品はR-18です。

ふたりの牢獄人生   作:水瓜

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第九話 秘薬

数時間に渡る第二階層での探索を一旦取りやめ、俺は安全地帯に帰還した。

現時点では安定的に探索可能なのは第二階層までと判断してはいるが、幸運にも強力な遺物を手に入れたりした場合に備えて、第三階層へのゲートの捜索も行っている。

 

しかし、それなりに厄介な魔物が出現する第二階層での探索の速度は遅くなりがちで、まだ階層の大部分が未知の領域だった。

安全地帯の泉から直接水を飲んだ後、部屋の隅で小便を済ませて床に座り込む。

 

屋外でもトイレでもない場所に放尿するというのは未だにどこか落ち着かない気分になるが、迷宮の不思議な性質により、汚物やゴミの類は次回に訪れた時には消失しているので環境的には問題が無い。

 

この迷宮内での物質の消失現象には法則性があり、例えばまだ使える道具や野営資材、壁へのマーキング等は長期間消えずに残り続けるが、尿や大便等の汚物、明らかに実用性の無い、或いは失ったゴミ等は速やかに消える。

例えば同じナイフでも、殆ど完全な状態ならば残り続け、錆びすぎて使えないような状態なら消えやすいという訳で、この消失には何らかの意思の介入を感じる。

 

まあ、俺としては迷宮の正体や真実といった物に興味は無く、そこから手に入る資源こそが重要なのだが。

 

灰色の石床の上に、腰袋から取り出した今日の戦利品を並べていった。

第一階層で手に入る物より大きな魔石が五個、骸骨兵士(スケルトン・ソルジャー)という不死者(アンデッド)が落とした銀の腕輪――、遺物ではないが装飾品や素材のとしての価値はある。

そして一本の赤い液体が入った瓶だ。

 

迷宮内で手に入る魔石以外の物資は大きく分けて三種類あり、一つが蓄積させた魔力、或いは使用者の体内の魔力を消費して固有の魔法を発動出来る遺物、二つ目が特に特別な力を持たない武器や装飾品などの道具。

そして最後が一度しか使えない魔法の薬品や道具だ。

 

遺物ならば装備した瞬間に頭の中に使用する際に必要な起動語(キーワード)が響くのだが、消耗型の魔法の薬品や道具については実際に使用してみるまでその効果は分からない。

ただ、遺物の中には迷宮内で発見された物資の情報を読み取る事が出来る物もあり、既に発見された物資の性質については広く探索者向けの図鑑として出版されている。

 

図鑑自体は嵩張るので地下牢に置いてきているが、この瓶の形状には見覚えがある。

記憶が正しければ、この薬品の名前は『変異薬(ビースト・ドラッグ)』だ。

比較的低い階層でも手に入る薬品なのでそこまで高値では取引されてはいないが、魔力を持たない人間にしか効果を及ぼさない迷宮の産物の中でも特異な薬品であり、その効果も唯一無二のもの。

 

この『変異薬(ビースト・ドラッグ)』は服用した者の肉体を永続的に変異させ、魔物のような力を与える事が出来る。

但し変異の際に容貌が大きく変化してしまうし、魔物の力に関しても制約が大きいので良い事尽くめではない。

むしろ『変異薬(ビースト・ドラッグ)』が使用されるのは、肉体の変異の際に起こる副効果として大抵の怪我や病を治してしまう事を目的としている事が多い。

 

その治癒効果は大貴族ですら容易には手に入らない最上級の回復薬に匹敵しており、末期の重病人や半死半生の怪我人すら完治させてしまうのだ。

 

――そこまで高価な薬品では無いとは言え、需要はあり売ればそれなりの金は手に入るが、いざという時の為に手元に置いておく選択肢もある。

 

俺はこの薬品を使えないので飲むとすればココになるが、服用すると異形へと変化する『変異薬(ビースト・ドラッグ)』を進んで飲ませたい訳では勿論ない。

只、この変異の副効果である病の治癒に関しては魅力的だ。

この地下牢では脱走を防ぐために囚人、奴隷を含めて病気になっても外部へは出さない事を徹底しており、体調を崩しても十分な医療は期待できない。

 

それを考えると、ココが病を患った時の備えとして治療手段を確保しておくのは悪くない。

これまでも迷宮で手に入れた回復薬などを備蓄していたが、低階層で手に入る薬品では重病の治癒までは望めないし……。

 

色々と考えた末に、やはり『変異薬(ビースト・ドラッグ)』は保管しておくと決めた。

さて、そろそろ探索を再開しようか。

 

俺は立ち上がり、ズボンの埃を払った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

地下牢での夜。

食事も終えて、片付けられたテーブルの上でノートに今日の探索や物資の売買を記録していく。

第二階層での探索にも当初に比べると慣れて来て、最近では危ない場面も少なくなったし、それに伴い収入も多少は増えている。

そろそろ寝具でも買い揃えようか。

今のベッドは寝藁と藁束の枕、薄っぺらい掛け布だけの簡素な物であり、夏場の今は良いが、冬に近づくにつれて厳しくなる事は目に見えていた。

 

購入出来る物資のリストを参照しながら、ノートの余白に計算を書きつけていく。

上等な羊毛の毛布が五百セル、中に綿を詰めて使う敷布団が二百セル、枕が二人分で六十セル……、締めて七百六十セルか。

第二階層での探索を始めて以降、収入が増えたおかげで多少の貯金はあるし、手が届かない値段ではない。

手が届かない値段ではないが……、途轍もなく足元を見られた値付けだ。

 

監獄から購入出来る物資は普通の市場で買うよりも割高だが、それでも食料品や生活必需品の類は輸送料を考えると辛うじて納得できる程度の価格に抑えられている。

しかし、こういった上質な生活用品や嗜好品の類には非常に高額が設定されていて、俺の様な囚人を金策の為に迷宮探索に駆り出そうという意図をひしひしと感じる。

 

あまりの高値に流石に悩むが、ちくちくと肌を刺す藁の寝床にはうんざりしていた事もあり、結局は購入を決意した。

注文用の紙に購入希望を書き込めば今夜の作業は一段落だ。

俺はペンを置くと、テーブルの背もたれに体重を預けて隣に立っていたココに顔を向けた。

 

「ココ、新しい寝具を買うぞ。 今の藁床では寒くなると厳しいしな。 ――これからは柔らかいベッドで寝られるようになる」

「それは良かったです! 私は今のベッドでも十分過ぎますが、ご主人様は寝苦しそうにしてましたし……」

「まあ、な。 それに柔らかいベッドの方が、お前を抱く時も集中出来る」

「あ、うー……、ありがとうございます」

 

ランプの光に照らされた頬を僅かに染めたココを見ていると劣情が沸き上がり勃起がズボンを突き上げるが、今日はワインで晩酌をしようと思い、つまみのチーズまで用意しているのでココをベッドに連れ込むにはまだ早い。

 

俺の勃起を見て取ったココはベッドへと目をやるが、俺は黙って椅子の縁を二回叩いた。

これは二人で暮らす内に自然に成立した符丁のような物で、俺が椅子に座ったままで奉仕しろという意味だ。

既に俺達が身体を重ねた回数は覚えていない程で、俺にもココにも当初にあった恥じらいは無い。

彼女は俺の前に跪くと恭しい所作でズボンを脱がし、外気へ晒された亀頭のぬめりを挨拶代わりとばかりに舐めとった。

 

「あの、ご主人様。 良ければなのですが、今日は喉の奥までご主人様を納めてみても宜しいですか?」

「喉の奥? それは………、興味はあるが苦しんじゃないか」

「あの、昔に居た娼館で何度かした事がありますから、多分大丈夫だと思います。 私、もっとご主人様を気持ち良くしてあげたくて」

「そうか……、では頼む」

「は、はい!」

 

彼女の青い瞳が熱を帯びて濡れていき、長い舌がまずは裏筋をちろちろと沿っていく。

 

口の中に貯めた唾液を舌に伝わせ、男根の全体に塗していった後は再びそれを唇で啜っていく。

彼女の口で愛撫されて、精液を飲ませた事はもう五十回ではきかないだろう。

俺の好みの舐め方や部位などを熱心に学んできたココの口奉仕は、外で娼婦にして貰ったそれとは別次元の心地良さだ。

いや、技術だけの話ではない。

金で結ばれた関係という都合上、どうしても業務的になりがちな娼婦の奉仕とは違い、ココが心底から嬉しそうに俺の肉棒をしゃぶってくれるというのが快楽を更に増していた。

 

俺のものが十分に硬さを増した頃を見計らい、ココは口を大きく開けて一気に喉奥へとそれを受け入れた。

 

ディープスロート。

俺も経験が無いが、手練れの娼婦が身に着けているという噂の、喉で陰茎を扱く技をココも身に着けていたのかと驚きと共に期待するが、亀頭が喉奥に突き当たり圧迫感が伝わってきて、正直気持ちよくはない。

 

「ごぉっ、へっ、うぼぉっ」

 

喉からは苦し気な嗚咽が漏れ、見下ろせば彼女の眼からは涙の雫が次々と落ちていた。

 

「ぐぉほっ……、へぶぅ……」

 

顔を真っ赤にしながらも奉仕を断固として辞めず、陰茎を必死で喉に突き込もうとするココの苦し気な様子に俺の方が心配になり、彼女の頭を掴んで強引に口から陰茎を引き抜く。

力無く口を半開きにしたココは虚ろな眼をしながら喘鳴を漏らした後、全身を振るわせて口から吐瀉物を床にまき散らした。

……どうも途中で窒息しつつあるような気がしたが、心配が当たっていたらしい。

一度出来ると言って俺に期待させてしまった手前、久しぶりの喉での奉仕が思ったより苦しくても引き下がれなかったのだろうか。

 

「大丈夫か!? ゆっくりと深呼吸をしてみろ」

 

室内に吐瀉物の臭いが広がる中、ココは背中をさする俺の顔を絶望の面持ちで見上げながら、囁くようなか細い声で申し訳ありません、と繰り返している。

――どうやらココにとっても吐いてしまったのは相当に衝撃的だったようだ。

俺としては微塵も怒りなどないのだが、このまま俺が無言で吐瀉物を片付けたりすれば、絶望から何をしでかすか分からない。

普通に慰めても、きっと心に深手を負うだろう。

 

引くのが駄目ならば……、もう押していくしかない。

自分が取ろうとしている行動に流石に躊躇ったが、これ以外に俺の意思を伝える方法も思いつかなかった。

 

俺は意を決して吐瀉物に塗れたココの唇に深いキスをした。

舌にえぐみのある強い酸味が広がり、鼻腔をえづきたくなる程の刺激臭が満たしていく。

だが俺は努めてゆっくりと、ココの口腔内に舌を這わせて彼女の意識をキスに集中させていった。

 

互いの体温を感じながら長い間そうしていると、ココの身体からも徐々に力が抜けていき俺に身をゆだねてくる。

それを感じながら俺はゆっくりと顔を離し、意識して穏やかに笑いかけた。

 

「よく頑張ったな、ココ。 失敗は誰にもある、次は練習して上手く出来るようになればいいさ」

「――は……い」

 

短い返事の後、ココは何も言わずに小柄な体躯にそぐわない程の痛みを覚える程の力で抱き着いてきたので、俺もまたココの背中に手を回してやった。

 

 

 

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