※この作品はR-18です。

ふたりの牢獄人生   作:水瓜

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第十六話 本心

ココに変異薬を飲ませてから暫く経った日の夕方。

彼女に出させた母乳と卵で栄養を補給し終えた後、俺はベッドに彼女を呼び二人で並んで座った。

 

かつての夕食の席は、質素ではあるが手の込んだ料理が食卓に並び、傍らに立つココと談笑をしながらの賑やかな物だったが、今となっては殆ど無言で乳と卵を胃に落とすだけの味気ない時間になっている。

それと言うのも、彼女が病の治癒の為に変異薬を飲んだ日から、俺の心の中に強い葛藤が居座っていたからだ。

 

しかし、今のままでは駄目だ。

例え俺の醜い部分を曝け出す事になっても、ココには俺の想いを隠さずに打ち明けたかった。

 

俺の雰囲気から、閨事の誘いでは無いと察したのだろうか。

隣に座ったココの肩は僅かに震えていて、俺を見上げる瞳には縋るような色が浮かんでいる。

最後に彼女を抱いたのは、かなり前になるか。

変異を経てココの肉体は大人びて、性的には魅力的になったが、俺は彼女相手に昂る事が出来ないでいた。

ココはその原因が自分にあると考えてしまっているようで、俺に媚びを売ろうと様々な手を尽くしているが、俺はそれにも応える事が出来ない。

 

この負の連鎖が、最近の地下牢に流れる空気を鉛のように重たくしている。

 

「なあ、ココ。 変異薬を飲ませる前に、俺がお前に言った言葉を覚えているか。 お前を愛している、と」

「も、勿論です。 ああ言って頂けて私がどんなに救われたか……。 どんな姿になっても、ご主人様は私を好きでいてくれると思ったら薬を飲むのが怖くなくなったんです」

「そうか。 あの言葉には、一切の嘘は無い。 俺はお前が居なければ生きてはいけない程、愛してる。 その事だけはもう一度言っておこうと思ったんだ」

「……ありがとうございます。 で、でも、ご主人様、それなら……、どうして最近私を避けるんですか? やっぱり、ご主人様が普通の食べ物を食べられないように変えてしまったからですか? でもそれは、私にもどうにも出来ないんです」

 

謝罪を続けるココの頬を撫でて、俺は首を振りその言葉を否定した。

俺はココがどのように変異しても受け入れる覚悟は出来ていたし、それは俺自身に影響が出ても変わらない。

そうゆっくりと説明すると、彼女を一旦落ち着かせる事は出来たようだ。

 

「俺はな、お前の事を世界で一番愛していて、お前以外の女なんて考えられない。 もしも外に出られても、お前を手放す事は絶対に無い。 ―――だけどな、お前を恋人や妻にする事は出来ないだろう」

「……え?」

「俺は長男では無いとは言え貴族の生まれで、高貴な魔法の血を宿している。 対するお前は罪人達の末裔である奴隷で、国から人としての権利すら認められていない。 そんな女を対等な相手として紹介すれば世間の笑い者だ……、と言うのが俺の生きてきた世界の常識なんだ」

「あ……あっ……」

 

全幅の信頼を寄せていたであろう俺からの突き放すような言葉に、ココは何も言えずに目を見開く。

その姿に罪悪感が込み上げるが、俺という人間について話すには染みついた貴族としての常識に触れない訳には行かなかった。

……例え互いに傷つく事になっても、今の状況に至るまでに積み重ねてきた誤魔化しは全て取り払わなければならない。

 

「今思えば、お前が地下牢に来た時にお前の方から奴隷としての扱いを望んでくれて良かった。 もしお前が対等に接しようとしてきても拒む事は無かっただろうが、良好な関係は築けなかったと思う。 俺は……、お前の事を傷だらけの哀れな奴隷だと思ったから愛玩動物のように優しくする事が出来たんだ」

 

ココはもう何も言わず、無表情のまま口だけを固く結んで俺の言葉を聞き続けている。

その姿はまるで、全てを諦めて断罪を待つ罪人のようにも見えた。

 

「お前を奴隷として使うのは楽しかった。 何でも出来て、命じればどんな事でもするんだから楽しくない男がいる筈無い。 ……それに奴隷としての扱いはお前が望んだ事だから、俺はそれに付き合ってやっているという顔も出来たしな。 本当は俺が一番楽しんでいたのに」

 

尽くすふりをして、尽くさせる。

優しいふりをして、肉体を貪る。

俺がココに施した優しさや温情が全て打算だったというつもりは無いが、それらが多分に混じっていた事を否定する事も出来ない。

俺にとって彼女は大切な人間であるが、同時に愛玩の対象であり、奴隷でもあった。

 

だけれども。

 

「気が付いた時には、俺はお前を愛してしまっていた。 この女が居なければ生きていけない、とまで思う程にな。 そして同時に愛している女を、奴隷のように扱って本当に良いのかと葛藤もした。 だからお前を抱けなかったんだ」

 

粗末に扱うには愛し過ぎて、対等に扱うには今までの人生で培ってきた価値観が邪魔をする。

その二律背反に答えが出せずに、俺はココを遠ざけて悩み続けていた。

それに終止符を打つ為に俺は自分の身勝手で醜悪な……、心からの望みを曝け出す事にした。

 

「ココ、俺はお前を一生愛し続けると誓う。欲しい物があれば何でも用意する。 だけど普通の夫婦のように対等な関係になる事は、少なくとも今の俺には出来ない。 だから……、改めて俺の奴隷になってくれないか?」

 

あまりに勝手な言い分である事は承知している。

そもそも地下牢での力関係で劣る彼女は、俺の望みを跳ねのける事は難しいだろう。

 

しかし、もし良ければとか、お前が望まないならそれで良い等という心にも無い言葉は使わない。

ココには俺の望みの全てを曝け出し、それでもし拒絶されたなら、無理をしてでも苦痛を伴いながらでも別の生き方を探ろうと思っていた。

 

俺の言葉を聞き終えて、数時間にも感じる長い沈黙を破りココが口を開く。

 

「ご主人様……、馬鹿なんですか?」

「ばっ……、お、お前、馬鹿って」

「すみません、確か出会ったばかりの頃も馬鹿って言っちゃいましたね。 ……でもご主人様、私は初めから奴隷です。 貴方の為に生きて、昂りを慰める為に身体を捧げて、ひと時の楽しみの為に惨めな姿も喜んで見せる覚悟は出来ているんですよ」

「それは聞いていたが……、しかし本当にそれで良いのかと思ったんだよ」

「良いに決まっています。 そもそも私は奴隷として傍に置いていただくのが一番嬉しいと言っていたじゃないですか!」

 

捲し立てるココの顔に、俺に気を遣っているような虚勢は見えない。

寧ろ、本心から呆れ果てているように見えた。

 

「実を言えば、薬で身体が大きくなって傷跡も消えて、それにお乳や卵を食べて頂けるようになって嬉しかったんです。 これで私はご主人様にとって自慢の奴隷で、居なくてはならない存在になれるって。 それが蓋を開けてみれば冷たく避けられるんですから、裏切りですよ、裏切り!」

「そ、それに関しては悪かった。 しかし傷が消えたのは俺も嬉しかったが、その真っ新な肌を見て思ったんだ。 折角、過去の傷が消えた訳だし、お前も別の生き方を望んでいるんじゃないかと」

「傷が消えたくらいで生き方なんて変わらないですよ。 寧ろ、ご主人様になら新しく傷を付けられても嬉しいくらいです」

 

ココはそう言いきって、もう一度大きな溜息をつく。

そして不意に悪戯な笑みを浮かべて、身に纏っていた変異後の身体の大きさに合わせた麻布の服を床に脱ぎ捨てた。

 

「でもご主人様……、この新しい身体の事、良いと思ってくれていたんですねぇ」

「いや……、まあ、な」

「ふふ、やっぱり男の人は大きい胸が好きなんですかぁ? お尻でも、おまんこでも……、全てご主人様の物ですよ。 一か月も放っておいたんですから、今日はその分可愛がって貰いますから」

 

熟練の手つきで瞬く間に俺の衣服は脱がされ、しな垂れかかるココに押されてベッドへと倒れ込む。

久しぶりの閨事に戸惑う俺の口内へ、彼女の舌が生き物のように侵入して熱い息を流し込んできた。

 

「ご主人様……、私に命令するのが好きだと言ってくれましたよね。 発情して、命じてもいないのに主人へ襲い掛かる、ふしだらな奴隷に罰を与えなくて良いんですか? 私はお尻の穴も喜んで舐めるし、主人の前で自分でおまんこを弄って興奮しちゃう……、卑しくて従順な奴隷ですよ?」

「そ、そうだな。 では――」

 

心底から安心したように俺に甘える彼女と戯れながら、久しく眠っていた俺の獣欲が沸き上がるのを感じていた。

今までは奴隷である事を望むココに合わせる形で主人役を演じている部分があったが、今は自分から望んでココを奴隷として求めている。

 

ココが初めから一貫して本物の奴隷だったのだとしたら、俺は今初めてココの本当の主人に成れたのだろう。

卑しくて従順で何より愛らしい奴隷の、好色で身勝手で奴隷を誰より愛する主人に。

 

歪み切った関係なのに、何故かそれがとても嬉しく思えた。

 

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