ふたりの牢獄人生 作:水瓜
その日は昼から、城の周辺の森で材木を伐採する避難民達の警備を行っていた。
脱獄から既に二か月は経過したが、王国軍が魔物の脅威に晒される民達を助けに来る気配はなく依然として城は孤立状態にある。
物資調達の為の遠征中に新たな避難民を見つけて受け入れる事もあるが、彼らに話を聞いても政府が組織として動いている形跡は認められなかった。
季節は真冬。 この辺りは降雪が少ない地域だが、それでも薄く雪が積もる事は珍しくない。
寒さもいよいよ厳しさを増し、城の内部は夜になると建材の石の中に閉じ込められた冷気が滲みだして底冷えがする。
そして、更に悲惨なのは外に寝泊まりしている者達だ。
城の中に限界まで詰め込んでも、およそ半数の避難民は屋内に入れずに庭園にテントを設営して寝泊まりしているのだが、火事を避ける為にテントの内部では火を焚けず、極寒の夜を避難民達は身を寄せ合って過ごしていた。
高齢者や子供などの身体の弱い者達を優先して城の中に収容しているが、それでも体調を崩す者は増え続けており、このままでは冬を越せずに衰弱死する人間が出るのは避けられない。
そこで俺はルベール氏や元々サリ・バレーの村長だった男性と共に話し合い、二週間ほど前から城の付近にある村落を防護柵で覆う作業を始めていた。
広い農地を擁する村全域を柵で囲うのは、物資の不足と魔物の危険を考えると難しいが、城の付近には村長や小作人達の住居や作物を保管するする倉庫などが密集している区域がある。
そこの安全を確保出来れば、現在テントで暮らしている避難民達の多くにまともな寝床を与えられるという目算だった。
出現している魔物達の大部分は、魔力強化により通常の攻撃がほぼ通用しないという点こそ厄介だが、それを除けば野犬や猪と同程度の強さしか持たない。
現在作っている柵は丸太を等間隔で地面に刺し、その間に丸太を横向きで三本渡して、隙間を茨のつるで覆っただけの簡素な物だが魔物相手に時間稼ぎをするには十分な筈だ。
勿論、囲いが完成して避難民達が住み始めた際は城の守りをルベール氏に任せて、俺とココは住居を村落へと移す。
とは言っても城と囲いを作っている村落との距離は二百メイルも離れておらず、あくまで寝泊まりの場を変えるだけだ。
やがて雪がちらつき始めて、風も強くなってくる。
まだ日が落ちるまで時間はあるが、俺は伐採作業の監督者と話して今日の作業を早めに切り上げさせることにした。
身を切るような寒さの中で、手や顔を赤く染めながら作業に従事していた男達が道具を片手に城へと戻り、俺も魔物の襲撃に警戒しながらその後についていく。
何時間も乾燥した屋外で作業をしたせいで喉が渇いたし、戻ったらすぐココに乳を飲ませて貰わなければ。
俺がココの生み出した乳か卵以外の食料を受け付けないのは相変わらずで、今でも遠征の際には必ずココを伴って行動するようにしている。
今回は城の近くでの作業と言う事で彼女を拠点に残してきたが、実を言うと多少の不安はあった。
首の刻印のせいでココが奴隷であると避難民達には知られているようだし、その中には俺に庇護されて城の中で暮らして居る彼女に妬みや不満を抱いている者も居るだろう。
留守中に城を守っているルベール氏には、ココに危害が及ばないように守ってほしい旨を伝えてはいるが、それでも長時間離れると心配になってくる。
汚物や避難民達の体臭が合わさり、得も言われぬ臭気が漂う庭園を潜り抜けて城内へと入る。 城としては決して広いとは言えない内部には限界まで人が詰め込まれていて、廊下に藁を敷いて眠っている者まで居た。
俺とココの居室は二階にあり、元は客間として使っていたらしい上等な部屋だ。
階段を登って廊下を進み、俺達の部屋の前に差し掛かると丁度扉が開いて、中から数人の女性が出てきた。
彼女達をココの近くで見かけたのは初めてでは無く、以前も遠目から仲が良さそうに話しているのを見かけた。 もしかして、友人でも出来たのだろうか。
慇懃に頭を下げながらすれ違う女性達を見送った後、俺は扉を開けて部屋へと足を踏み入れた。
「あ、おかえりなさいませ、ご主人様」
室内に備え付けられたテーブルの前の椅子に座っていたココは、俺の姿を見かけると膝と手を地面に着けて深々と首を垂れる。 地下牢に居た頃に始まったこの出迎えの仕方は脱獄後もそのまま続いているのだが、流石に今は他人の目が無いか気になってしまう。
しかしココも俺の気持ちは理解しているようで、人目がある場所では過度に遜るような事はしてこなかった。
ただいま、と返事を返しながら俺の目はテーブルの上に吸い寄せられた。
そこには避難民達に配給したパンやビスケット、干し果物などの嗜好品までが、かなりの量積まれている。
最初はココが食事の準備をしていたのかと考えたが、それにしては明らかに量が多かったし、そもそも彼女は普段嗜好品の類を食べる事は無い。
「それ、どうしたんだ?」
「え、あ……、貰ったんです。 プレゼントだって」
食物を指差しながら尋ねた俺に、少し目を泳がせた後ココが返答する。
しかし、その答えには違和感を覚えた。 俺の直接の庇護下にあり食料を十分に与えられているココとは違い、避難民の彼女達には自分が食べるだけで精一杯の食糧しか配給されていない筈だ。
ココが仲が良くなった彼女達に食料を渡すというならまだ分かるが、逆は不自然だとしか思えない。
ただ彼女はこの件に関して触れられたくはないようで、口を横に結んで目を俯かせている。
少なくともココが先程部屋を出ていった彼女達から何か被害を受けているという話では無さそうだし、女同士の事にあまり嘴を突っ込むのも無粋かと思い、それ以上問い詰めるような事はしなかった。
一応テーブルの上の食料をどうするのかと聞いてみれば、今日の夕食は済ませてしまったので明日にでも食べると言う。
少し釈然としない部分はありつつも、俺自身も喉の渇きと空腹に苛まれていた事を思い出して、直ぐに意識はそちらへ向かった。
扉に内側から閂を落とすと、ココと共に滑らかな肌触りの絹のシーツが敷かれたベッドに並んで座って互いの服を脱がせ合っていく。
今日の彼女の服は、麻の一枚布から作られたシャツと作業着の様なズボンであり、農家の娘の普段着といった出で立ちだ。 しかし質素なシャツを脱がせると、地下牢に居た頃より大きさを増した真っ白な乳房がまろび出て、まだ母乳を出していないのに鼻に乳の甘い匂いが漂ってきたように錯覚する。
変異薬を飲んだことにより、ココの体格は良くなり肉も付いていたが、それでも地下牢に居た頃は痩せ型の範疇だった。 しかし脱獄して暫く経った今は、決して安楽な生活を送っている訳ではない筈なのに、その身体にふっくらとした肉を纏わせている。
乳房は触れれば指が沈みこむ程に柔らかな脂肪を蓄え、腹や尻の周りにも薄っすらと肉が塗され丸みを帯びている。
しかし決して肥満している訳では無く、柔らかな肉を艶やかな肌がしっかりと纏め上げて、女性的な魅力として見事に昇華させていた。
片手にコップを持ち、もう片方の手で自らの乳房を掴み上げたココは、乳首の下にコップを添えて柔肉の中に蓄えられた白い恵みを絞り出していく。
幾条もの白い糸となった母乳はコップを徐々に満たしていき、八分目まで貯まった所で一旦搾乳は中断された。
「そのまま召し上がられますか? それとも……、お酒にしますか?」
「身体が冷えたからな……、酒で飲みたい」
「ふふ、かしこまりました」
そう言うとココは桜色の唇をコップに触れさせ、中に満たされた自らの乳を一口含む。
そのまま僅かに頬を膨らませた状態で十秒程待ち、やがて俺に唇を近づけてきた。
互いの口を合わせて、ココの舌から母乳を受け取る。 俺の口の中を母乳の甘い風味と共に、微かな酒精の刺激が走った。
これは地下牢に居た頃、ふとした思い付きから口移しで母乳を飲ませて貰っていた時に発見したのだが、ココの母乳と唾液が入り混じると急速に反応が起きて、母乳が酒精を含んだ乳酒へと変化するのだ。
含まれる酒精は薄く、地域によっては水の代わりに飲まれているビールと同程度に感じるが、それでも味覚が変異してからというもの、今後酒を飲む事は出来ないだろうと諦めていた俺にとっては非常に嬉しかった。
卵も似たようなやり方を使えば別の風味を楽しめるようになるのだが、あちらは少し準備が必要なので今日は無理だ。
最初は早く身体を温める為に次々と乳酒を求めていたが、その内に酔いが回り始めると舌も滑らかになり、お互いに言葉を交わしながら、ゆっくりと飲み進めていく。
変異後直ぐの時には体外に出てから数分しか品質を保てなかった母乳も、あれから魔石を食べ続けた甲斐もあってか今なら一時間程度は問題なく摂取出来るようになった。 そのおかげで、今は他愛もない話をしながら食事をゆっくりと進める余裕も生まれていた。
ココは酒に弱い体質で、自分の口内で酒を造っている内に自らも酔いが回ってしまったようで顔を赤くしている。
まだ腹が減っているが今は少し休んだ方が良いだろうと、俺にしな垂れかかるココの髪を指で梳いてやった。
「ご主人様……、疲れていないですか? 何の義理も無いのに大勢の人を守ってあげて……、ご主人様のお優しい所は好きですが少し心配になります。 無理はしないでくださいね」
「ああ……、ありがとう。 でも一応この国の貴族として生まれた訳だし、危機に陥った国民を見捨てる訳にも行かないからな。 ――でも、その内に政府も体勢を立て直して国中に現れた魔物を制圧するだろう。 そうなったら、また二人で静かに暮らせる場所を探しにいこう。 それまでは苦労を掛けるけどな」
「でも政府はもう滅んでしまったみたいですよ。 偉い政治家の人達も王様もみーんな。 でもご主人様は大丈夫ですから……、私がご主人様を守りますから」
ココの返答が予想外で直ぐには返事を返せなかった。
政府が――、陛下や政治家が皆滅んだ?
この地域は首都からは離れており、避難民の中にもそんな情報を持つ者は居なかった筈だが……。
俺が戸惑っていると、それを感じてかココが口を開いた。
「もう二か月も経っているのに軍も警察も助けに来ないですから、きっと滅んでいるんだと思います。 うん、もしそうだとしても、私も手伝いますから頑張って暮らしていきましょう」
「そう、だな」
どうやら推測の話だったらしい。 まあ、それはそうか。 政府が滅んだというココの声色があまりに確信に満ちて聞こえたので、つい身構えてしまった。
徐々に互いの酔いも醒め、俺は先ほど絞られた方とは反対の乳房に顔を近づけると、今度は乳首から直接母乳を飲んでいった。