ふたりの牢獄人生 作:水瓜
城の二階にある私室の床の上で、ココは腹ばいになりながら猛烈な勢いで食事を口に運んでいた。
彼女の卵を食し、従騎士に及ばない程度とは言え魔力を手にした女性達が次々と食事を運び、別の者は産卵管から吐きだされる卵を木の桶に受け止めていく。
ココがいつの間にか自分が産んだ卵を食べさせていた女性達は微弱ではあるが魔力に目覚めて、指先から魔力で構成された針を生み出す能力に目覚めていた。 その針からは二種類の液体を注入する事が可能で、まず第一に魔物にも高い効果を発揮する猛毒、そして第二に魔力を持たない女性へ一時的にココへの強い親しみを植え付ける精神に作用する液体だ。
ココの支配下にある女性は、他の女性を精神に作用する液体で一時的に従順にした後、ココが産出した卵を幾つか食べさせる。
地下牢では知る術も無かったことだが卵を一定以上の量、摂取した女性はココの眷属として身体を作り替えられ僅かな魔力と毒液を分泌する魔法を手にするらしく、この能力を用いて彼女は俺が知らない内に城の中に自分の眷属を百人近く創り出していた。
眷属となった女性達は微弱な魔力しか持たないとはいえ、魔力強化を行えば弱い魔物相手になら十分な戦力となり、数の力で城の周辺の魔物を一掃してくれたおかげで住居不足の問題も解消しつつある。
強引な手法で、多くの避難民の女性達を洗脳したとしてココを糾弾する声も多く上がったが、それでも俺に彼女を排除する事は出来ないし、眷属となった女性達も自由意志を失った訳では無く、家族や友人達を説得していった事で徐々に彼女への不満の声は小さくなっていった。
眷属の女性達は俺とは異なり通常の食物も摂取する事が出来るが、魔力を維持する為には定期的にココの卵を食べる必要があり、その需要は一日に三百個近くにも及ぶ。
供給を満たす為か眷属達から捧げられる魔石を食べ続けた為か、ココの肉体は更なる変異を遂げ、腹部が妊婦のように肥大して前よりも遥かに多くの卵を生み出せるようになった。
ココは昼食と卵の産出を同時に終えた後、流石に疲れたのか髪を額に張り付かせてベッドに腰掛けていた俺の隣に座ってきた。
俺に何も知らせずに城内の女性達を強引に支配していた事に当初は怒りを覚えて問い詰めもしたが、それも俺と城の中の民達を救う為には必要な事だったようだ。
この城に辿り着いて暫く経った時、ココが一人で部屋にいると急に目の前に一人の女性が現れた。
いや、正確には実体では無く単なる幻像だったらしいが、その女性は自分が魔物の大量出現を引き起こしている事とその目的を説明したらしい。
曰く科学技術が進み過ぎて人類が自らを滅ぼさないように、人々を分断して都市を破壊し、知識や技術を衰退させる事が目的だと。
そして迷宮という存在は、大量の魔物を生み出し続ける為の材料集めの手段に過ぎなかったと。
それらを述べた後、その存在はココに俺の命を代価とした取引を持ち掛けてきた。
その存在は生み出した膨大な数の魔物達全てを個別に操作する事は出来ない為、人類が間違って絶滅してしまわないように迷宮製の武器を装備した平民でも何とか倒せる強さの魔物しか出現させていない。
しかしそれでは、貴族達が組織的に動く事で魔物達が容易に駆逐され、現在の文明水準を保つ事の出来る共同体が存続し得るので特殊な魔物の個体を操作して貴族のみを殺して回っていたようだ。
本来ならば俺も消される筈だったが、相棒である魔人のココが共同体の支配に極めて有効な能力を持って居る事を買われ、この地にその存在に都合の良い人類の拠点を作る事と引き換えに俺の命は助けると提示された。
結局ココはその取引を飲まざるを得ず、こうして避難民の女達を眷属にした訳だ。
俺とココがこの先どうなっていくのかは想像がつかない。
取引を持ち掛けた存在の思い通り、適度な文明レベルの共同体を築いて人類の存続に貢献するのかも知れないし、反感を持つ者に命を狙われるのかも知れない。
ただ、何が待ち受けていようと彼女を愛し続けようと思った。