ふたりの牢獄人生 作:水瓜
ココと始めて会った日の夕方。
いつも通りの迷宮の探索を終えて、幾ばくかの戦利品を手に俺は地下牢へと帰還した。
今日の戦利品を売れば、恐らく五十セルくらいにはなるだろうか。
これは普段の平均よりも多いが、食い扶持が増えたという意識からいつもより長めに探索を行い、その成果が出た形だ。
居室のドアを開けて中に入ると洗濯場のロープには湿った衣服が干してあり、朝は乱れていた筈のベッドの掛け布も綺麗に折りたたまれている。
一人の時はつい洗濯物を貯めたり、部屋を散らかしたりしがちだったが、やはり女手があると違うものだ。
俺の足音を聞きつけたのか、ココが台所の扉を開けて居室へと入ってきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
見送りと同様、地面に這いつくばって俺を迎えたココが起き上がるのを待ち、テーブルに背嚢を置いて防具を外すのを手伝わせた。
俺の胴当てを外す時、ココの髪が俺の鼻先を掠める。
暫く水浴びをしていないのか、乾いた汗と皮脂の臭いが僅かに鼻をつくが、訓練を終えた後の兵士の男達の臭いとは違い不快には感じない。
汗の臭いの中に女性特有の甘い芳香も混じっていて、胸が妙に高鳴った。
俺が帰る前に夕食の支度は殆ど出来ていたようで、俺がテーブルに着くと間を置かずに食事が用意される。
パンと白湯、炙った鱈の干物、そして具沢山の野菜スープ。
質素なメニューだが、鱈の香ばしさと湯気が立つスープの見た目が食欲を誘う。
素朴ながらも手間を掛けて調理された事が分かるいい味を出している。
満足しながら食事を口に運び、またココに下げ渡そうと全ての皿に半分程残して処分するように命ずるが朝とは違いココは難色を示した。
「……ご主人様、大した働きもしていない、卑しい奴隷である私にそのようなお気遣いは必要ありません。 私は本当に食材の余りだけで十分ですので」
どうやらココの奴隷としての価値観は思った以上に強固なようで、俺の意図に気が付いた途端に頑として施しを受けようとはしなくなった。
しかし彼女はどう考えても痩せすぎだ。
――あまり気が進まないが、無理矢理にでも食べさせるしかないか。
「ココ、俺はお前の主人として、お前の健康を管理する義務がある。 粗末な食事だけを与えて働けなくなれば却って迷惑なのだ。 良いから遠慮せずに喰え」
「………それがご主人様の御命令であれば逆らいは致しません。 では後ほどお目汚ししない場所で頂きます」
「後でではなく、俺の前で今食べなさい」
「今、ですか? ……で、では私の皿を持ってきます」
ココは今日の朝に使って良いと渡しておいた深めの皿を台所から持ってきて、皿の中の残飯を全てそこに纏める。
主人と同じ食器を共有してはいけないという意識からだろうか。
別にこんな地下牢でそこまで気にしなくても良いとは思うが、使用人としてはおかしくない行動なので止めはしない。
そしてスープとパン、ベーコンが混ざり合って粥状になった残飯が入っている深皿を彼女は床に置いて、四つん這いになって直接口を付け始めた。
「おっ、お前―――、何をしているんだ!?」
「え? な、何って……お食事ですが」
彼女の話によると、祖先が犯した罪業を償う為に生まれた奴隷は普通の人間のように両手を使い食事をする事が禁じられていて、神の御前で贖罪の意思を示す為に咎人に相応しい生き方をしなければ神罰が下るそうだ。
食事に関しても贅沢は禁じられていて、普通なら捨てられる野菜クズや小麦の製粉過程で除去される表皮や胚芽部分であるふすまなどの家畜の餌として利用されるようなものしか口に出来ないらしい。
稀に主人や娼館の客の残飯を下げ渡される事もあり、その場合は口にしても良いが、両手を使ってはならないというルールは変わらないようだ。
それを聞いた俺は眩暈がするような気分になった。
まさか栄光ある王国の片隅で、このような事を教えられて育つ人間が居たとは。
俺も安息日の午前中は教会に通っているが、こんな馬鹿な話は聞いたことが無い。
そもそも罪人が真に裁かれるのは、いと高き天の庭であり、法廷の裁判官は神の代理人という訳ではない。
奴隷制は所詮人間が作った制度であり、それに背いた者を神が裁くというのは道理が通らないのではないだろうか。
ココと会うまでは奴隷について制度としての知識としては知っていても、彼女らが何を信じて、何を思って生きているのかを知ろうとはしなかった。
まさか、ここまで残酷で愚かな教育を受けていたとは想像だにしていなかったのだ。
だが貴族として生まれた俺も、自分が生きてきた中で培った常識はそうそう変えられない事は知っている。
殊に信仰の問題となると猶更であり、少なくとも今日出会ったばかりの男が口を出す話でもない。
「俺は気にしないが……、そうしたいなら好きにしていい」
「ありがとうございます」
そしてココは再び地面に両手と膝をつき、皿を隠すように覆いかぶさると、犬のような姿で皿へと口を付ける。
ずるずると残飯の混合物を啜る音が地下牢に響き、俺は何だかいたたまれないような気分になって天井を見上げた。
しかし――、同時に俺の股間が熱くなり、硬くズボンを押し上げるのも感じる。
身分の低い女とする閨事は格別に興奮するというが、ここまで卑屈に自分を貶める女を未だかつて見た事が無い。
この女はきっと、俺が命じるならばどんな事でもするだろう。
自由に出来る女が居る、とはこれ程に抗いがたい魅力を持つのか。
やがて冒涜的な食事も終わり、ココは再び家事へと戻る。
その後ろ姿を見送りながら、俺は今夜の事ばかりを考えていた。
朝は断ってしまったが――、やはり俺も男、抱きたい気持ちはある。
男と女が同じ部屋に居て、しかも女の方はそういう扱いを受け入れている。
どうせ遅かれ早かれなるようになるだろうし、変に痩せ我慢をするのも滑稽ではないか?
乱暴に扱う気は無いが、本人が良いというなら奉仕をして貰っても良いだろう。
もし伽をさせるとして、主人として当然のように命じようか。
いや、彼女も若い女性、普通の男女のように誉め言葉の一つや二つ送った方が良いか。
そんな事を考えながら椅子の上で悶々としていると、とうとう洗い物も片付いたらしくココが居室に帰ってきた。
「あの、宜しければ肩でもお揉みしましょうか?」
手持ち無沙汰になったのか、そんな事を提案してくるココに対し、俺は真っ直ぐに向き直り手を握る。
色々と思案したが、結局は考え続けるのも面倒になり真っ直ぐに自分の欲望を伝える事にした。
「ご主人、さま……?」
「朝は手を払ったりしてすまなかったな。 お前は……、魅力的だと思う」
「………はい」
その言葉で察したのか、ココは力を抜いて俺に手を引かれるままにベッドへと倒れ込んだ。
彼女のワンピースを頭から脱がしていくと、朝も見た凄惨な火傷と傷跡だらけの身体が露わになる。
色素の薄い乳首の周囲を点状の火傷が円形に縁取り、それ以外にも乳房全体を水玉模様のように火傷が覆っている。
脇腹から臍の上まで走る、鞭で剥がれた皮膚の跡。
毛穴が焼きつぶされて、まばらにしか生えていないのが痛々しい陰毛。
正直に言って俺は初めて彼女の身体を見た時、あまりに悲惨なその様相に化膿した傷口を見るのと同じ種類の嫌悪感を覚えた。
性欲に突き動かされているとはいえ、その嫌悪感は完全には消えていないが、俺の手で自分でも劣等感を感じているらしい裸体を晒して震えているココに対して、そんな素振りを見せる訳には行かない。
俺は自分の服を素早く脱ぎ捨ててから、ゆっくりとココの腹部の傷跡に手を這わせた。
そこは思ったよりも柔らかく、体内の肉が外へと露出しているような熱を帯びていた。
「ご主人様 ランプを消してください。 こんな醜い身体を見ながらでは気分が乗らないでしょう?」
「魅力的だと言っただろう? 傷なんて別に気にしないし、気分が乗るかどうかは俺が決める」
「……奴隷相手に口説き文句なんていりませんよ。」
素っ気ない言葉を返しながらも、ココの目が熱っぽく潤み、直ぐに恥じらうように目を逸らした。
頭のどこか冷静な部分が、俺によくこんなロマンチックな事が言えたなと妙な感動を覚えているが、そう言えば以前に呼んだ小説のセリフに似たようなものがあった気がする。
もうこれ以上、どのように言葉を繋げば良いのか分からず、俺はそのままココを抱きしめた。
徐々に彼女の身体から強張りが消え、俺へと体重を預けてくる。
痩せすぎた彼女の身体は身を寄せると骨が当たって抱き心地が良いとは言えないが、それでも肌には女性らしい滑らかさがあった。
傷跡が痛々しくて途中で興奮が冷めてしまったらどうしようと不安が過るが、ここまでお膳立てしておいて、やはりお前の身体を抱く気にはなれないというのは、幾ら奴隷相手でも人でなしのする事だ。
俺はココからゆっくりと身体を離し、顎を軽く持ち上げて、その口を吸った。
彼女の身体は一瞬強張るが、それも直ぐに抜けて後は俺に身を任せるだけになった。
ココの口内は暖かく、唾液の甘さに混じって僅かにスープの塩気も感じた。
舌の表面は意外とザラザラとしていて、互いの僅かな動きも繊細に感じ取れる。
右手を彼女の背中に沿わせてゆっくりと撫で上げると、手の平を産毛の柔らかい感触が伝わっていく。
口を一旦離して太腿を撫ぜれば、ついにその時が来たと悟ったのか、ココはびくりと一度身体を震わせた。
やがて俺はココの股を割り開き、その間にある女性器を露出させる。
娼館では完全に相手に身を任せていたため女性器を愛撫した経験はないが、男女がまぐわう時に指や舌で互いの陰部を愛撫する事があるのは知っている。
こうまじまじと女性器を見るのは初めてだが、やはり他の場所の例に漏れず、悲惨な虐待の跡が見て取れた。
薄暗い光の中で見る女性器は、上部にココの髪色と同じ金色の茂みを蓄えており、閉じられた割れ目の周囲にも薄く毛が生えて全体を半透明のベールのように包んでいる。
しかし、その下生えの部分の皮膚は所々が焼きつぶされていて、瘢痕の残る無毛地帯が点々としている。
書物で学んだ知識しかないが、まずは閉じ合わされた襞の両側にある肉丘……、大陰唇に手を添えてみると思いのほか柔らかく簡単に指が沈んでいく。
肉に引っ張られて割れ目が左右へと開かれ、閉じられていた二枚の襞が分離し、その中心にある穴があらわになった。
しかしその花弁にも火傷が何か所もあるばかりか、襞にも大小の切れ込みが入っている。
こんな敏感な部位を傷つけられる恐怖はいかほどの物だっただろうかと、閨事の最中にも関わらず同情の念を抱かずにはいられなかった。
小陰唇の付け根にある、光沢のある肉の突起は陰核だろう。
医学書で見た陰核は、皮に包まれて僅かに小さな突起が覗くだけだったが、今見えているそれは小指の爪程の突起が小陰唇の上で真珠のように主張していた。
「あの、私のあそこ気持ち悪いですよね? で、でも穴の方はちゃんと使えますので……」
「そんな事は無い」
――本当はボロボロに傷ついた女性器にグロテスクさを感じてしまってはいるが、それを素直に伝えるつもりは無い。
せめて俺は嫌悪感を感じていないと伝える為に愛撫をしてみる事にした。
娼婦と違って潤滑剤は使っていないので、いきなり指を入れたら痛い筈だ。
ここは舌での愛撫、とやらを試してみようか。
だが顔をココの股へと近づけていくと、癖の強いチーズのような酸味と尿が入り混じった臭いが鼻をついた。
考えてみれば、少なくともここ数日は身体を洗っていないようで汗の臭いがしていたし、汚れの溜まりやすい性器だけが綺麗な筈は無い。
一旦顔を引っ込めるが、如何に俺が性的な経験に乏しいとはいえ、ちょっと性器を洗ってきてくれないかと口走ればどんな事態になるかは想像がつく。
恐らくココは俺に謝罪をした後に台所へ行き、容器に水を掬って肉襞を丁寧に擦り洗ってくれるだろうが……、幾ら奴隷相手とはいえ女にそれをさせるのは男として失格ではなかろうか。
ウォッシュチーズも食べている内に舌と鼻が慣れるものだし、これも何とかなると意を決してココの割れ目に舌を這わせた。
「ご、ご主人様? そんな汚い所、舐めたら駄目ですよ!!」
慌てて叫ぶココを無視して生々しい内臓の色をさらけ出した膣穴に舌先で触れると、最初は塩辛さを覚えたが次第に甘酸っぱさと苦みが入り混じった味へと変化し、徐々に臭いも気にならなくなってきた。
最初は太腿を閉じようと試みていたココだがやがて諦めたのか、小さく声を上げながら俺に身を任せる。
ココの内部から染み出た粘液が入り口をなぞるだけの舌にも絡みつき、喉をゆっくりと滑り降りていった。
「あ……あの! そこ……、臭くないですか?」
不安げにそう尋ねる彼女に、臭いとは勿論言わない。
だけどこの場合、何て言えば良いんだ?
女性経験の無い俺には、気の利いた対応なんて分からないが……、兎に角褒めておく事にする。
一応、一般常識として女は自分の身体を褒められるのが好きだとは知っているからだ。
「良い匂いだし、お前の汁も美味いぞ」
――いや、自分で言っておいてなんだがこれは酷い。
性欲は男を馬鹿にするのは実体験として無数に経験があるが、良い匂いだの汁が美味いだのと、まるで変態ではないか。
「お、美味しい訳ないでしょう? 馬鹿なんですか!?」
平常心を失っているのか、普通ならしないであろう馬鹿呼ばわりまでされたが、ここまで良い反応をされると加虐心が湧いてきて、そのまま下の穴へと口づけを続けた。
そして二人の熱が極限まで高まった後、俺は固くいきり立った男根を熱い蜜に満たされた穴へと沿わせ……、その日、俺達二人は一つになりその交歓は長く続いた。