※この作品はR-18です。

オレの召喚したブラック・マジシャン・ガールが知らないうちに他の男子に好き放題されていた話   作:田中白赤

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インターセプトしてくれた友人二人の思惑


友人タカシとフトイの思い(エロなし挿絵なし)

 それに最初に気づいたのは、スライダーの列から戻ってきたタカシだった。

 

 遠目に見ても、様子がおかしかった。

 近い場所にいたはずのマナが、見知らぬ年上の男たちに両側を挟まれて歩いている。男の一人は腰に手を回し、もう一人はやけに近い距離で顔をのぞきこんでいた。

 その少し離れた場所で、遊取が立ち尽くしている。

 

「……は?」

 

 タカシの声が、ひどく低くなった。

 隣のフトイも、その視線の先を追って顔色を変える。

 

「遊取殿、何をしているのでござるか……? (アレは近くの有名ヤリサーの……。マズイ、あいつらに連れて行かれたら、拙者の持つ権力ではマナ殿が追跡出来なくなる!)」

 

 いつもの気の抜けた調子ではなかった。

 フトイは短い足で砂っぽい床を蹴るようにして走り出した。タカシも、その後を追う。二人とも、頭で考えるより先に体が動いていた。

 

 男たちは、こちらに気づいていなかった。

 マナはというと、困っている様子も怯えている様子もない。ただ、知らないことを教えてもらう途中みたいな顔で、男たちの言葉に耳を傾けている。

 

「マナ!」

 

 先に声を上げたのはタカシだった。

 男たちが一斉に振り返る。マナも同じように振り返って、それから少しだけ目を丸くした。

 

「あ、タカシさん」

 

 その無邪気な返事に、タカシの胸の奥がざらついた。

 こんな状況で、そんなふうに平然と名前を呼べてしまうことが、恐ろしい。

 

「その子、こっちの連れなんだけど(兄貴と関係ない奴らだな。イケるか?)」

 

 タカシは笑っていた。

 笑っていたが、目は笑っていなかった。普段の軽さを削ぎ落とした声に、男たちの片方がわずかに眉をひそめる。

 

「なんだよ、別にいいじゃん。ちょっと案内してただけだし」

「勝手に体に触りながら案内する趣味は、拙者には理解できませんな」

 

 フトイが前に出た。

 丸い体が間に割って入り、マナを男たちから引き離すように立つ。その動きはぎこちなかったが、妙に必死だった。

 

「この方は世間知らずでござる。そこに付け込むのは感心しませんぞ」

 

「なんだお前ら」

 

 男の一人が苛立ったように言ったが、タカシは笑顔のまま一歩踏み込んだ。

 

「こっちは穏便に済ませたいんだよね。だから今すぐ手を離してくれると助かる。スタッフ呼んで面倒な話にするの、好きじゃないから」

 

 言葉は柔らかいのに、空気が冷たかった。

 タカシはもともと顔がいい。整った顔で静かに圧をかけられると、それだけで妙な迫力が出る。男たちは露骨に舌打ちまではしなかったが、空気を読んだらしい。

 

「ちぇっ、なんだよ」

「最初からそう言えっての」

 

 腰に回されていた手が離れる。

 その瞬間、フトイがすかさずマナの手首をそっと引いた。強くではなく、逃がさない程度に。

 

 男たちは去り際にもう一度マナの方を見たが、タカシが視線を返すと、それ以上は何も言わず背を向けた。

 

 四人の間に、数秒の沈黙が落ちた。

 

「……えーと」

 

 マナが最初に口を開いた。

 空気の重さが分からないまま、ただ事実を確認するような口調だった。

 

「わたし、ついて行かない方がよかったんですか?」

 

 遊取が息を詰めた。

 タカシは一瞬だけ目を閉じて、それから深く息を吐いた。怒鳴りたいわけじゃない。けれど、あまりにも無防備すぎた。

 

「よくなかったよ(ボクのものじゃなくなるトコロだったぁ……)」

 

 言ったのはフトイだった。

 珍しく、まっすぐな声だった。

 

「人間には、親切そうに見えても親切ではない者がいますぞ。特にマナ殿のように、何も知らぬ顔をして近づかれると、ろくでもないことを考える輩が出るのでござる」

 

「ろくでもないこと……」

 

 マナはその言葉を繰り返した。

 意味を飲み込めていない顔だった。

 

 遊取はようやく近づいてきたが、ひどく顔色が悪かった。

 

「ごめん、オレ……ちょっと離れただけで」

 

「ちょっと離れた、で済む話じゃない」

 

 タカシの言葉は短かった。

 強い言い方だったが、怒りの向きは半分以上、自分たちにも向いていた。気づくのが遅れたこと。

 そもそも、この遊取の隙に便乗してマナを手に入れようとしているのが自分たちなのだから、この隙がなくなっても困るのだ。怒るに怒れない。

 

「お前、マナを一人にするなよ」

 

 遊取が顔を上げる。

 タカシはその目をまっすぐ見た。

 

「この子は、見た目がどうこうだけじゃない。何も知らない。善意と悪意の区別が、まだ人間ほどついてない。お前がそばに置いておけ」

「……うん」

 

「カードに戻ってもらうなり、手を離さないようにするなり、やり方はあるでござろう」

 

 フトイも続けた。

 いつもならからかい半分で言いそうなことを、今は本気で言っている。

 

「少なくとも、知らない男にそのまま持っていかれそうになる状況は二度と作らぬことですな」

 

 遊取は小さく頷いた。

 悔しさと情けなさが、顔にそのまま出ていた。

 

 マナは三人を順番に見ていた。

 それから、少しだけ眉を下げる。

 

「ごめんなさい。わたし、ただ、新しいことを教えてくれるのかと思って」

「謝るのはマナじゃない」

 

 遊取が、今度ははっきり言った。

 声は震えていたが、それでもさっきよりはましだった。

 

「オレが悪かった。置いてったオレが」

 

 マナはその言葉を聞いて、少し黙った。

 それから、そっと遊取の袖をつまんだ。

 

「じゃあ、次からは一緒にいてください」

「……いるよ」

 

 遊取がそう答えると、マナは安心したように小さく頷いた。

 

 その光景を見て、タカシの胸はひりついた。

 

 男たちに触れられているマナを見た瞬間、頭に浮かんだのは当然だが正義感じゃない。あれを奪われたくないと思っている。誰も渡したくない、それこそ遊取の側にだって本当は置きたくない。

 自分こそがマナを最初に手に入れ、永久に己の側に侍らせる。その結果、この友情が壊れてしまっても構わない。

 

 タカシは、マナがほしい。

 

 笑うと柔らかいところも、知らないことに目を輝かせるところも、遊取のことをまっすぐ見るところも、全部が目に痛いくらい鮮やかだった。

 しかも厄介なことに、マナはまだ恋というものを知らない。人間の好意も独占欲も、ろくに理解していない。

 なら、とタカシは思ってしまう。

 なら最初にその意味を教えるのは、自分でもいいはずだと。

 

「……タカシ殿」

 

 横からフトイの声がした。

 見ると、フトイも妙に静かな顔をしていた。いつもの落ち着きのない目つきではない。眼鏡の奥で、ねばるような熱がじっと光っている。

 

「何」

「いや、なんでもないでござる」

 

 タカシは答えなかった。

 答えなくても、フトイにはなんとなく伝わったらしい。ふっと口の端だけで笑う。

 

 フトイもまた、マナを見つめていた。

 カードとしての希少さに惹かれたのでは、ない。もちろんそれもある。ほぼ入手不可能なレアカード、その精霊。デュエリストとして欲しいと思う気持ちはあった。

 けれどそれより昔の、もっと幼い頃からの救いで、けれどそれを手の内に収めれば、精霊の研究のため確実に取り上げられてしまう。

 

 だから汚す。研究者ですらも目を背けるような醜悪に彼女を染め上げれば、もう誰も手を出せないほどに壊してしまえば、彼女をずっと側に置いていられる。

 

 フトイはそんなふうに考えてしまっていた。

 遊取が最初の持ち主で、どんな男に触れられてもいい、汚されても良い。最後に残るのが自分なら、それでいいと。

 最後の所有者になりたい、という言葉が、胸の中でゆっくり形を持つ。

 カードの精霊に向けるにはひどく歪んだ願いだと、自分でも分かっていた。それでも、欲しいものを手元へ置きたがる性分は、そう簡単には消えない。

 だからタカシはダメだ。彼女はマナを離す気がない。

 結果として自身の下半身は、彼女を抱くことなく勃起不全となるだろう。前回悪友三人組にマナを触らせた時も、心が悲鳴を上げていた。他者が彼女に触れるたび、嫉妬で堪らなくなる。この感覚になれることは、生涯ないだろう。

 

 タカシは小さく息を吐いた。

 

「……最低だな、ボクら」

「まったくですな」

 

 二人とも、否定しなかった。

 

 その頃には、遊取はマナの隣にぴたりとついていた。

 さっきまでみたいに少し離れた場所から見守るのではなく、今度は明らかにそばにいる距離だった。マナもそれを拒まず、むしろ安心した顔をしている。

 

 タカシはそれを見て、心が軋むように笑った。

 

「でも、それでいい」

 

 遊取が振り返る。

 タカシはいつもの調子を少しだけ戻して、肩をすくめた。

 

「マナさんをそばに置いておけ。お前の役目は、たぶん今はそれだよ」

「……タカシ、ありがとうよ」

 

 遊取がタカシの友情に目を細める。遊取は、いまだに二人の下劣な性根が、自身を切り捨てていることに気付いていない。

 だから、これからも遊取は知らない人にはともかく、友人にだけはマナを預けることに躊躇しないだろう。

 遊取の友情を利用している。それをごまかすように、タカシはプールの方へ視線を戻した。

 

 フトイも眼鏡を押し上げながら、ぼそりと言う。

 

「拙者も同意ですな。今の遊取殿が持っているべきでござる。今は、ですが」

 

「今はって何だよ」

 

 遊取が怪訝そうに言うと、フトイはにやりとした。

 

「そのままの意味ですぞ」

 

 マナだけが、会話の奥を理解できずに首を傾げていた。

 青いワンピース水着の肩紐を指でつまみながら、三人を交互に見る。

 

「みなさん、急に変な話し方になりましたね」

「大人の男には、たまにそういう時があるんだよ」

「タカシ殿は大人ぶりすぎでは?」

「フトイにだけは言われたくない」

 

 いつもの軽口が戻る。

 けれど、その表面の下にあるものは、もう前とは同じではなかった。

 

 遊取はマナを守ると決めた。

 タカシはマナの最初の恋人になりたいと思ってしまった。

 フトイはマナの最後の所有者になりたいと、胸の奥で静かに固めた。

 

 誰も口にはしない。

 まだ言葉にしてはいけない種類の欲だった。

 

 プールの水面が陽射しを弾いて、白く揺れている。

 そのまぶしさの中で、マナだけが何も知らない顔をしていた。

 

 だからこそ、いちばん残酷だった。

数話ほどイラストを変えてみましたが、どちらのデザインの方が好きですか?

  • 前のアクが強い方
  • 今の量産型っぽい方
  • エロければ良いから枚数を増やして
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