オレの召喚したブラック・マジシャン・ガールが知らないうちに他の男子に好き放題されていた話 作:田中白赤
BMGを詠んだ日
オレの名前は寝物語遊取! 今年でチューガク二年生!!
デュエルモンスターズはケッコーやってるんだけど、デュエルには全然勝てないんだ……。
友達のタカシには「お前、デッキとの共鳴が悪くないか?」って言われることもある。
まあ、そうかもしれない。
カードパックから出て来た強そうなカードを片っ端からデッキに突っ込んでいくスタイルだから、カードとの対話とかドロー力の訓練とかそういう基本的なことが出来てない。
でも、デュエルは好きだ。カードを引く瞬間のドキドキ感とか、フィールドに大型モンスターを召喚したときの興奮とか、負けてばかりでも飽きないのはきっとそういう理由だと思う。
チューガクの放課後の帰り道、オレはいつものようにカードショップに立ち寄った。
「また負けたぁ……」
今日も昼休みのデュエルで完敗だった。相手のモンスターに一方的にやられて、ライフポイントはゼロ。
まわりのやつらに笑われながらデュエルフィールドを片づけるあの感覚は、何度経験してもへこむ。
「どうせハズレだろうけど……」
財布の中身と相談しながら、適当なカードパックを手に取る。
パックの中身は一つ宇宙のようなもの。中に何が入っているかはパックを製造している会社でさえ分からない。
オレは、無限に広がるようなその感覚が好きでパックを買っている。
ビニルの包装を剥ぎ、いつものように指先に触れたカードを引き出した瞬間、なぜかゾクリとした。
レアカードの気配、とでも言うべきか。
引き抜いたカードの表面に描かれているのは、青とピンクの衣をまとった女の子。長い金色の髪、大きな緑の瞳、片手に持った魔法の杖。そしてカードの名前——修行中の魔女-ブラック・マジシャン・ガール。
「え……これって」
カードを持った手が震えた。
名前とイラストがちょっと違うけど、かつてデュエル・キングが使用していたと言われるカード。
ブラック・マジシャン・ガール。
とんでもないカードを引き当てたかもしれない。
その後どうやって家に帰ったかは、あまり覚えていない。
気がつけばオレは自分の部屋にいて、しげしげとカードを眺めていた。
机の上にブラック・マジシャン・ガールを置いて、電気スタンドの光をあてる。ホイル加工されたカードの表面がきらきら反射して、描かれた女の子がまるで生きているみたいに見える。
「かわいいな……」
思わず独り言が出た。カードゲームのカードに向かってそんなことを言うのは我ながらアホだと思うけど、実際かわいいんだから仕方ない。
かなりえっちなデザインで、胸元の開き具合とか、すらっとした脚のラインとか、眺めているだけでなんとなく落ち着かない気持ちになってくる。
「デッキに入れようかな。でも相性が……」
オレのデッキは攻撃力ごり押しのパワー系で、魔法使い族なんて使ったことがないし、引き当てたこともない。
ブラック・マジシャン・ガールはブラック・マジシャンとコンボするのが常識で、そのブラック・マジシャンなんて当然オレは持っていない。
「まあ、すんごいレアカードだし、入れとくだけで強くなる気がするよな」
根拠のない自信を抱きながら、カードをデッキケースに入れようとした。
その瞬間だった。
カードが光った。
「え?」
手の中の修行中の魔女-ブラック・マジシャン・ガールが、青とピンクの螺旋の光を放ちはじめた。
最初は小さな輝きだったのが、どんどん強くなっていく。
手の中からカードが床に零れ落ちる。
光は広がって、部屋の中を白く染めた。目を細めながら見ていると、光の中心から人の形が浮かびあがってくる。
オレよりも頭二つ分は低い背丈。
金色の長い髪。
青とピンクの服。
魔法使いのような華美なトンガリぼうし。
片手に持った細い杖。
「……う、嘘だろ」
光が収まったとき、そこに立っていたのはカードの中の女の子と同じ姿をした、等身大の人型の何か。
身長はオレよりだいぶ低い。髪は明るいブロンドで、くるくるとした巻き毛が肩のあたりまで垂れている。目は大きくて、虹彩がエメラルドグリーンに近い緑色をしていた。淡い緑の瞳が、今まさに遊取のことをじっと見つめている。
服装はカードの絵そのままで——つまり露出が多い。胸元はゆったりと開いていて、脚は太ももの途中まで出ている。
オレは少女から思わず目を逸らす。ドキドキしてしまって、その姿をとても直視出来なかった。
「はじめまして」
女の子が口を開いた。
声は柔らかくて落ち着いた、丁寧な話し方だった。緊張している様子もなくて、むしろこっちの方がガチガチに固まっていた。
「わたしはマナといいます。あなたが引き当てたカードに宿っている精霊です」
「え、あの、ちょっと待って……。せ、精霊?」
とんでもなく上擦った声が出た。
「驚かせてしまいましたか? ごめんなさい」
「いや、驚くのは当然ってーか……精霊って、本当にいんの?」
「はい、います。今ここに」
マナと名乗る女の子はにこりと笑った。
「修行中の魔女-ブラック・マジシャン・ガールのカードに宿っている精霊です。カードが生成されたので、こうしてお顔を見せに来ました」
「……えーと」
頭を抱えるしかない。目の前に突然女の子が現れて、自分はカードの精霊ですと言っている。頭がついていかない。
「信じてもらえないのは当然だと思います」
彼女、マナはにこっと笑った。笑うと少し子供っぽい雰囲気になる。いや、子供っぽいというより、あどけないというか。でも体つきは全然子供じゃない。
胸元の開いた服の隙間から、白い肌がちらりと見えていて、オレは無意識にそこから目を逸らした。
「でも、わたしはちゃんとここにいます。触れてみてもいいですよ」
「え、触って……ってええ!?」
「はい、どうぞ」
オレは改めてマナを見た。
透き通るような肌。整った顔立ち。ブロンドの巻き毛。現実にこんな女の子がいたら間違いなくクラスの中心にいるタイプだ。それが今、オレの部屋に立っている
おそるおそる手を伸ばす。マナの指にオレの指先が触れる。
温かかった。人間と変わらない体温がある。柔らかい。肌の感触が確かにある。
「ほんとにいる……。オレのゲンカクとかじゃねー」
「いますよ」
マナはくすくす笑うと、くるっと一回転した。スカートがふわっと広がって、太ももの付け根のあたりがちらっと見えた。オレは思わず目を背けた。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも、こうしてお話しできてうれしいです」
遊取はマナの顔を改めてまじまじと見た。体は恥ずかしくて見れたもんじゃない。カードの絵と同じ顔だ。
いや、絵よりも生き生きしている。目が動くし、髪も微妙に揺れている。鼻の形や、唇の厚みや、頬の丸みが、リアルに目の前に存在している。
そして気づく。かなり近い距離にいる。
「あ、あのぅ」
何かキレーなモノを汚してしまう気がして、少し後ずさった。
「なんでそんなに近いの」
「え?」
マナは首を傾けた。顔の向きに連動するように帽子がちょっと傾く。
「近すぎましたか? ごめんなさい」
マナの眉が困ったように動き、マナの肢体が一歩下がった。オレはほっとしたような、ちょっと残念なような、よくわからない気持ちになった。
オンナノコとかレンアイとかスキとかそーゆーやつは、オレにはムツカシ過ぎるぜ。
どうにか一息ついたオレは、マナと向き合うことにした。
「カードの持ち主のあなたのお名前、教えていただいてもいいですか?」
夜の時間、自分の部屋の中に、とんでもなくキレーな女の子がいる。
気まずいような場違いなような、尻がむず痒い感じ。
「あ、えーと……寝物語遊取。ゆとら、って呼んでくれていい」
「ゆとらさん、ですね」
マナはゆっくり繰り返した。名前を呼ばれるだけで、なぜかどきっとした。
「ゆとらさんは、デュエルをされているんですね」
「うん。まあ……全然勝てないんだけど」
「カードを見れば、わかることもあります」
マナは机の上のデッキケースに目をやった。
連戦連敗の、オレのデッキ。オレの好きなデッキ。
「ゆとらさんのデッキ、見せてもらってもいいですか?」
「いいけど……」
遊取はデッキケースを取り出して、マナに渡した。マナはカードを一枚一枚、丁寧な手つきで確認していく。細い指がカードをめくるたびに、金色の髪がさらさらと揺れる。
その仕草が様になっていて、小さな手でカードを持つ姿はなんだか絵になった。
「なるほど……」
マナの口からがつぶやきが漏れた。
友人たちの、弱いオレを嗜めるような、あるいは馬鹿にするような声とも違う、感想の言葉だった。
「攻撃的なデッキですね。力押しが好きなんですか?」
「まあ、難しい戦術とかよくわかんないし。強いカードを並べればなんとかなるかなって」
「それで、なかなか勝てない」
「……そうなんだよな」
マナはデッキをケースに戻しながら、オレを見上げた。
深い翠色に、吸い込まれそうになる。
「わたしでよければ、一緒に戦いますよ。あなたのデッキに入って、同じものを見て、同じ楽しさを共有したいんです」
「オレのデッキに……入る気があるの?」
「もちろんです。あなたのカードになったんですから」
マナはオレの手の中のカードを見た。
「あ、でも一つだけ確認していいですか?」
「なに?」
「わたし、ブラック・マジシャンや魔法使い族系のサポートがないと本来の力を発揮できないんですけど……ゆとらさんのデッキ、ブラック・マジシャンのサポートカードはありますか?」
「……ない」
「ですよね」
マナは静かに言った。責める感じじゃなくて、ただ確認しただけという感じで。
オレは、ちょっと心配になった。
マナが、オレのあまりの弱さに、失望するんじゃないと思ってしまって。
「きっとあんまり勝てないと思うけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。わたし、実はあんまり勝ち負けに執着ない方なんです。デュエルを楽しんでもらえれば、それでいいかなって」
「……そんなカードの精霊がいていいのか?」
「ダメですか?」
「いや、ダメじゃないけど」
オレはカードをデッキボックスの横に置いて、床に座った。マナはどうしたものかという感じで少し立っていた。
オレが「座っていいよ」と言うとベッドの端に腰を下ろした。座るとスカートが短いから、自然と太ももが見えた。マナはそれを気にする様子もなく、こっちを見ている。
オレは、どうにもその姿が直視出来ずにいた。
「ゆとらさん、でしたっけ、素敵な名前ですね」
「そうかな。よく変な名前ってからかわれるんだけど」
「変じゃないと思います。覚えやすいですし、なんか独特の雰囲気があって、わたしは好きですよ」
マナはそう言って、また笑った。今度は先ほどよりも少し距離が近かったから、笑顔がよく見えた。
唇の形がきれいで、笑うと少し歯が見える。
「ゆとらさんは、デュエルが好きなんですか?」
「好きだよ。でも弱い」
「それが何か問題でしょうか?」
「友達にはデッキのコンセプトがバラバラって言われてる」
「確かにです」
マナはオレのデッキの内容を思い出したのか、少し目を細めた。
「でも、好きなカードを集めた感じがして、わたしは好きですよ。強くするなら整理が必要だけど、これはこれで、ゆとらさんらしいデッキだと思いますよ」
「もしかして、慰めてくれてる?」
「少し……少しですよ!」
正直に言うところがおかしくて、オレは笑った。マナも笑った。
「ゆとら、さん。わたし、あなたのそばにいたいです」
唐突だったけど、不思議と驚かなかった。
「精霊だからか?」
「それもあります。でも……目が覚めてすぐに感じたんですけど、なんか、一緒にいたいなって思ったんです。うまく説明できないんですけど」
マナはちょっと困った顔をした。
「変なこと言いましたか?」
「変じゃない」
マナの顔を見つめ直す。
「オレも、そんな気がしてたから」
マナは少し驚いたような顔をして、それからまた笑った。今度の笑顔は、さっきよりずっと柔らかかった。
部屋の窓から月の光が差し込んでいた。マナのブロンドの髪がその光を受けてきらきらと光っていた。
たった一つのカードパックから、こんなことが起こるとはカードショップに行くまで思ってもいなかった。
だから、デュエルモンスターズは面白い。
「明日、デュエルしに行くけど、来る?」
「もちろんです」
オレの質問にマナは即答した。
「役に立てるかはわからないですけど、一緒にいます」
「役に立たなくていい。来てくれればそれでいい」
マナはなにも言わなかった。ただ、ほんの少し顔が赤くなっていた気がした。
数話ほどイラストを変えてみましたが、どちらのデザインの方が好きですか?
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前のアクが強い方
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今の量産型っぽい方
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