※この作品はR-18です。

家畜海峡−偽欺戯《ギギギ》−   作:件

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一匹目/家畜破門

覚えて於いて

 

アナタを

 

身の内から

 

喰らい尽くす

 

ワタシの名を

 

覚えて於いて

 

アナタを

 

身の内から

 

喰らい尽くす

 

ワタシの名を

 

 

 

 

 

 

 

魔術の名門と云えばきこえはいいが、実態は惨めなものだ。

彼の魔術師がこの冬木に根付いて、幾年月…マキリは、既に終わりだった。

始祖のゾォルケンは、認めたくはないのだろう。

『自分の代で終わった』と─。

認めたくないばかりに、彼はやがて何もかも摩耗し、生きながら腐る醜い化け物に成り果てた。

そして、悲願を忘れた化け物は一族達を犠牲に、無意味に時を生きていた。

だが…この世に在る限り『終わり』は等しく降り注ぐもの…。

忘れてはならない。

驕りは愚かな事。

特別など、森羅万象の前に無意味。

世界は、始まりと終わりで為る。

それを失った哀れな化け物は、どうなる?

 

 

 

 

■■■■

 

 

異臭漂う蟲蔵の中で一人の女が、赤子を産んだ。

 

「貴方の名前は〟雁夜〝」

 

女は赤子に張り付いた羊膜の滓を、丁寧に拭う。

胎盤を排出しおえると、歯で臍の緒を噛み千切った。

血塗れの腕の中、赤子は笑っていた。

女は無表情に赤子─雁夜─を見つめる。

 

「雁夜、後は任せましたよ?」

 

間桐の『胎盤』は赤子を産んだ後は蟲に喰われ、餌となる。

それを承知して女─桜─は赤子を産んだのだ。

 

「あの世界は貴方にとってどうだった?」

 

蟲達が騒ぎ出した。

だが、桜は気にもとめず、語りかける。

 

「私は嫌いではなかった」

 

ゆっくりと獲物を囲い、追い詰める獣の様に、蟲達はじわりじわりと桜との距離を縮めて行く。

 

「好きにもなれなかったけど…」

 

雁夜の口に、乳を含ませる。

身籠り、臨月を迎えても体を蟲達に嬲り続けられたせいか、初乳は一滴しか出なかった。

 

「なんの因果でしょう?また此処にいるなんてって最初は嘆きましたヨ…けど、直ぐ判りました。」

 

きつくきつく、雁夜を抱きしめる。

赤子の雁夜から、生臭い血と今飲ませた乳の匂いがした。

 

「貴方の為に…です」

 

蟲蔵の出入口から、コツコツと杖の音がする。

この悍ましい蟲達の主が来たらしい。

 

「ご苦労、桜」

「…あなた」

 

間桐の始祖にして元凶は、桜の夫でもある。

とはいえ…この二人の間に正常な夫婦関係などなく、書類上の夫婦だという非常に冷めたもの。

当然だろう、この老人にとって『妻』とは只の家畜に過ぎない。

己を肥えさせる為のただの肉、日々消費されるだけの食い物だ。

そんなものに感情を抱く筈がない。

そうして、いつもの様に老人─間桐臓硯─は、桜に告げる。

 

「お主の役目はもう無い。早々に楽になるが善かろ?」

 

残酷に嘲笑う。

なんと醜い男であろうか。

 

「ねぇあなた、私は今とても幸せなの。何故だかおわかりになる?」

 

胸に未だ居る雁夜を観ながら、桜は夫に問う。

 

「この子を産めたから…なんてそれだけではありませんよ?」

「遺言代わりに訊いてやろ、何故じゃ?」

 

蟲達は桜の腹まで来ていた。

早く喰らいたいのか、喧しくギチギチと歯を鳴らし、臓硯の命令を待っている。

 

「この子は貴方に破滅をもたらす」

「カッ戯れ言を!」

「あちらの貴方もこちら同様酷い人でした…私達ばかり虐めて、狡いですヨ」

 

臓硯を見据えた顔は、妖艶に微笑んでいた。

 

「だからねぇ?ちょっと位は、仕返ししてもいいでしょう?『お祖父様』」

 

訊いているのが、不愉快になった臓硯は、桜がその言葉をいい終える前に蟲達に始末させた。

白い肢体は一瞬で血溜まりと赤子を残し、消えた。

 

「訳の判らぬ事を、所詮は気狂いか」

 

良い胎盤ではあったが臓硯は、桜が疎ましかった。

何故かわからないが、幼少の時に落ちぶれた魔術師の家から、買い取った時から桜は己を怖れず、そればかりか常に妄言を口にしていた。

故に臓硯は彼女を気狂いと判じた。

だが、それだけで利用価値の高い桜を不快に思うのか?

臓硯は、結局彼女が死んだ今でも判らない。

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

老人は、その引っ掛かりを注視すべきだった。

そうすれば、『この世界』でも巧くやれただろう。

臓硯は自ら自身の手で、『終わり』を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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