※この作品はR-18です。

家畜海峡−偽欺戯《ギギギ》−   作:件

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二匹目/家畜入門

彼の話の前に少し昔の話をしよう。

『この世界』の間桐桜が、何故かつて生きた『あの世界』を知っていたか?

知るきっかけは何であったかのか?

それは彼女が生まれる前まで遡る。

 

 

 

 

■■■■

 

 

桜の父─間藤 鶴野《マトウビャクヤ》は間桐の分家に生まれはしたが、魔術の世界には進まなかった。

否、間藤家自体…とも云える。

臓硯が気紛れに興した分家の間藤家は、もう幾代も魔術回路を持たぬ者ばかり生まれた。

本家でさえ中々生まれぬ才能は、分家に至って皆無に等しい。

だからだろうか臓硯が魔手を伸ばす事もなく、そのまま放置され、鶴野は平穏な日々を送っていた。

彼はその幸せな日常の中で、1人の女性と出会う。

名は慎二《ツツジ》。

華やかな外見に反して、その名が示す通り非常に慎ましく、優しい女性だった。

恋仲になるのに、さほど時間は掛からずやがて、二人は結ばれ子を授かった、桜だ。

怖い位に幸せだった。

 

「ツツジ…俺は何だか恐ろしいよ」

 

臨月を迎え、妻の腹はハチ切れんばかりに膨らんでいる。

 

「何が恐ろしいの?」

「判らない」

「判らないのに、恐ろしいなんて…仕様のないお父さん!」

 

クスクスと少女の様なあどけない笑いが、暖かな空間に拡がる。

 

「おかしいかな?」

「えぇとても」

 

妻に笑われ、なんだか恥ずかしくなった鶴野は、少しばかり照れて顔を赤く染める。

 

「でも、私も貴方の事を笑えないナ。正直私も怖い」

「ツツジも?」

「うん。無事にこの子を産めるのか、ちゃんとお母さんになれるのか、色々考えると…とても怖い」

 

腹をなでながら、鶴野に話す。

 

「けれど考えても仕方ない。成る様にしか成らないもの」

「そうか」

「そうよ」

 

自分は何を恐れていたのか、こんなにも満たされといると云うのに。

鶴野は悩んでいたのが馬鹿らしくなった。

だが、完全に不安は払拭出来ない。

何故か?

何か忘れている…。

決定的な…致命的な…。

 

「ねぇ鶴野。今さらだけど…私の家の事、御本家に云わなくて良いの?」

「いいさ、魔術協会も君の家の魔術師登録をしなくていいと、随分前に通知してくれただろう?」

「なら良いけど…」

 

ツツジが心配したのは、生家『巫淨(フジョウ)』の魔術師としての血統だ。

魔術師ならば魔術協会に登録し、血統の持続を報告しなければいけない。

そうしなければ、研究材料にされる。

魔術師にとって同じ魔術師は、同志であると同時に敵なのだ。

即ち登録するという事は『保護』と同義。

登録の必要性がないと魔術協会が判断した家系は、完全に『魔術価値』がないという事。

『一般人』になった証でもあるのだ。

だが……彼は妻・ツツジの家の魔術体系までは、詳細に知らなかった。

知っていれば、避けられた現実は確かに…あった。

 

 

リン…リィィン!!

リィィィン! リィィィン!!!!!

 

 

けたたましく電話の鐘《ベル)》鳴る。

 

「いやだ、もうそろそろ寝ようと思ってたのに」

 

鶴野は、酷く厭な予感がした。

取ってはいけない!

全身から脂汗が流れ、心臓の鼓動は速く脈打つ。呼吸は乱れ、うまく息が出来ない!

 

(駄目だっ行くな!取ってはいけないっっ駄目だっ駄目だっ!!!!)

 

ツツジはその電話に出た。

それは運命の転換。

彼女は……選んでしまった。

 

「はい間藤で御座います」

 

相手は『間桐臓硯』。

鶴野は自分たちが、『餌』になると何故かそう感じた。

皮肉にもこの日は………鶴野が初めてツツジと出会った記念日だった。

 

 

 

 

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