※この作品はR-18です。

トロフィーゲーマー~女性しかゲームをやらない世界で~   作:ユルイ島

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匂い違くない?

 両胸に心地よい重さと絹のような感触を感じて阿東理壱は目を覚ました。

 

 首を動かして見れば栗色と白金色の髪が視界に広がる。鍵野杏と月白凛が理壱の身体に抱き着いて幸せそうに眠っていた。

 

 背もられ部分を横に倒して簡易ベッドに出来るタイプのソファで理壱たちが眠っていた一方、伸びをした理壱が鼻腔をくすぐる料理の匂いと油が跳ねる音に誘われてキッチンを見やれば、羽村瑠璃と明日樹紗江がキッチンに立って朝食を作っている。

 

 理壱は寝ている間に掛けられたであろう毛布と、身体に寄り添って眠る凛と杏から二人を起こさないように抜け出して乱雑に脱ぎ捨てた下着を履いて立ち上がった。

 

 あくびをしながら伸びをして、自分含めて五人でのまぐわいによってべとついた身体を見下ろした。

 

「おはよう、理壱くん」

「おはようございます、理壱くん。先にご飯食べますか?」

 

 キッチンから挨拶をする瑠璃と紗江におはようと返して、先にシャワーを浴びてくると伝えると「背中流す?と」瑠璃から流し目を送られるが、流石に朝から一発行くのは、と苦笑を返して手をひらりと振り、勝手知ったる他人の家と言わんばかりにクローゼットから替えの下着とジャージを取り出して脱衣所へと向かう。

 

 凛の下着と服が放り込まれている洗濯籠に脱ぎ去ったパンツを入れて着替えを床に広げて浴室に入る。シャワーを浴びてかぴかぴに乾いた体液を流して、ボディーソープで局部を洗い、凛が普段使いしているブランド物のシャンプーリンスコンディショナーで洗髪する。

 

 シャワーをフックに掛けたまま水流を背中に滝湯のように当てながら椅子に座る。「ああああああ」と気の抜けた声が漏れる。流石に一夜に四人をきちんと一度ずつ抱くのは肉体的疲労が出る。精魂抜けたように下を向いてくたびれる姿は高校生というよりもの一仕事終えたおじさんのように見えた。中身的には実際その通りなのだが。

 

 数分ほど身体を温めてから髪も洗い流し、浴室を出てバスタオルで水気を拭ってそのまま腰に巻いた。浴室の横にある洗面台の前に座り、凛の家に備え付けられている理壱用の歯ブラシとコップを手にとって、歯磨き粉をつけて歯を磨き始める。

 

 しゃこしゃこと音を立てながら磨いていると扉がノックされて、「ふぁい」と答えると紗江がひょっこりと顔を覗かせる。

 

「理壱くん、髪の毛乾かしてもいいかな?」

 

 紗江を横目に眺めながら歯を磨く手を止めずに頷いて返せば、喜色満面と言わんばかりに紗江は中に入ってきて洗面台の抽斗からドライヤーを取り出してコンセントに差し入れる。

 

 音を立てながら熱風を出すドライヤーを紗江が理壱の頭皮に当てて、濡れた髪をほぐすように手串で整えていく。

 

 楽しそうというのもあるがそれよりも嬉しそうに、慈しみを持って髪を梳かす紗江を鏡越しで見つめながら歯ブラシを動かしていれば不意に目が合って。

 

「理壱くん、私たち、今とっても幸せなんだよ?」

 

 慈愛に満ちた笑みを浮かべて言う紗江の姿に、爛れた一夜を送った後ろめたさなど一切なく、ただ今ある幸福が尊いものであり、享受すべきものであると彼女たちが思っているのだと理壱が理解する。

 

 こそばゆいような、誇らしいような、照れくさいような。そんな感覚が紗江の指先が頭皮に触れると同時にぞくぞくとせり上がってくる。

 

 口から吐き出してこちらもこの午睡のような心地よい幸せを伝えようとしたところで。

 

「ふぁあ。おはよー理壱くん、紗江~」

 

 全裸のまま伸びをする凛と同じく裸体を隠さぬまま寝ぼけ眼を擦る杏がシャワー目当てに扉を開けた。

 

 情緒のない、だけど平穏な日常風景に、理壱と紗江は目を合わせた。

 

 

 

 バターの風味が薫り、カリカリに焼かれたベーコンエッグ。

 

 鶏のささみが散らされたサラダ。

 

 湯気を上げる豆腐とわかめの味噌汁。

 

 白桃、キウイフルーツ、みかんが入れられたヨーグルト。

 

 ダイニングキッチンのテーブルに広げられたのはご機嫌な朝食の数々だった。

 

「理壱くん、今日はご飯で良かったかな? それともパンの気分かい?」

 

 若奥様さながらに、歯を磨いた理壱に向けて瑠璃がエプロンを外しながら聞いてきた。

 

「いや、ご飯でいいですよ」

 

 そっかそっかと笑いながら瑠璃が茶碗に米をよそい、テーブルに着いた理壱の前に茶碗を置き、そのまま理壱の横に座り、紗江が対面に座った。

 

 シャワーを浴びるだけ浴びて、体液だけを流してきた二人が服を着て空いたところに座った。四人掛けのテーブルなだけに、杏が押し出されるように誕生日席のような場所に座った。

 

「いただきます」

 

 手を合わせて唱和する。箸を取って各々朝食を取り始め、「醤油取って」「ソース取って」とベーコンエッグに掛けるものを求めて卓上を手が交差する。

 

「理壱くんのこの後の予定は? 夜は案件配信あるのは知ってるけど」

 

 サラダをつまみながら凛が尋ねる。理壱は「んー」と視線を右上にやりながら応えた。

 

「午後からはダンス教室の後輩との合わせがあって公民館の部屋取ってるからそれ行きます。終わったらそのまま案件準備して配信ですかね」

 

「あの茶髪でセミロングの可愛い子? JCの」

 

「多分その子であってると思います」

 

 その場の女子四人が以前スマホの写真として見せてもらった少女の姿を脳裏に思い浮かべる。大人っぽい、でも女子中学生としてのあどけなさも残っていた、読モとしてもやっていけそうなクール系の少女の姿。

 

「確か一之瀬恵斗奈(いちのせえとな)……だっけ?」

 

 杏が名前を記憶から掘り起こす。

 

「うん、エトナ」

 

「陽っていうか、クラスカースト高そうな子だよね~。ホンシツがオタクなあたし達とは違うタイプ」

 

 凛がからからと笑って言った。揶揄のように聞こえて、だけれど隔意はないその言葉。

 

「流石に中学のことは知らないんですけど、ダンス教室では結構そんな感じはありますね。でもわりかし誰に対してもフラットなタイプだと思いますよ」

 

 理壱はスマホをポケットから取り出して、保存している写真をスライドし、一之瀬恵斗奈と自身のツーショット写真を四人に見せる。

 

「機会があったら話してみたいけれど、そんな機会は来るのかな?」

 

 そんな理壱のスマホの画面を覗き込みながら瑠璃が首を傾げてぼそりと呟いていると。

 

 ぽこん。

 

「あっ」

 

「噂をすればって奴?」

 

 杏が味噌汁を口に運びながらそう言った。

 

 

 

 朝、枕元に置いたスマホの目覚ましが鳴り響く。全くもって腹立たしく騒ぎ立てるそれに億劫ながらも手を伸ばして、眠気に霞む眼で解除していく午前九時。九時から十時まで都合十五分刻みにスヌーズ機能まで入れた全てを半目で解除。そのままスマホを放り投げて休日の特権として人肌に暖められた布団の中で至福の二度寝……の誘惑を振り払い、「ん゛ん゛」と喉を鳴らしながら一人の女子が起き上がる。

 

 ふぁ、と欠伸をして、ベッドの上にぺたんと座ったところから眠気を振り払うように頭を振って立ち上がり、箪笥から下着とスウェットを運び出し、枕元のスマホを手にとってゆっくりと部屋を出る。階段を降りて居間への扉を開くと、「あら、珍しい」とソファに横になった少女の母が胡乱に眺めてきた。

 

「今日は随分早いわね」

 

「んん……。朝ご飯ある?」

 

「お米はあるから納豆かパンでも焼いて食べなさい」

 

「パンにする……」

 

 その前にシャワー……。そう呟いて服を持ったまま少女は浴室に向かい、脱衣場でパジャマと下着を脱ぎ去って、傍らにある洗濯籠にダンクした。

 

 浴室でボディーソープ、シャンプー、リンス、コンディショナーを使い頭から爪先までしっかりと洗い寝汗を流し意識を覚醒させる。

 

 シャワーを浴びた後は入念に水気をバスタオルで拭って、部屋着に着替えて。髪の毛を乾かし梳かし、歯磨きをしながらキッチンに向かいトースターに食パンを突っ込んで歯ブラシを動かしながらトースターの窓から焼き加減を眺める。

 

 上手に焼けた食パンを小皿に乗せて、冷蔵庫からオレンジジュースとマーガリンを取り出して、次いでコップとバターナイフを食器棚から同じように。テーブルに座ってからトーストの上にマーガリンを塗ってあー、と口に放り込もうとしたところで横から洗濯機の轟音を背負った母が話しかけて来た。

 

「恵斗奈、あんたお昼何食べる?」

 

「は? 朝飯食ってるときに聞く?」

 

 恵斗奈は喋った口でそのままトーストに噛り付いて、咀嚼しながらじとりと視線を母にやると呆れた表情で母が壁掛け時計を指差した。

 

「あんたが風呂入ってるうちにもう十時よ」

 

「んー」

 

 オレンジジュースをコップに注いで一口くぴりと飲み込んで、口の中のトーストを流し込んでから恵斗奈は「ちょっと待って」とスマホを取り出して文章を打ち込み始める。それを見た母は「行儀」と諦め半分の小言をちくり。気にせずに文章を送信して変化のないスマホの画面を見ながらさくさくとシンプルな朝食を消化していると。

 

 ──どっかファストフードでいい?

 

 ぽこんと音を立ててスマホの画面に映った返信。それを見て恵斗奈は小さく笑みを浮かべて。

 

「いい。今日は友達と食べる」

 

 そう母に告げた。

 

「……ふーん。まあそれならいいけど」

 

 恵斗奈の母はそれだけ言って、その場を離れてリビングのソファに向かいながら。

 

「阿東くんによろしくね」

 

 その言葉に思わず恵斗奈は振り返り。

 

「は? 理壱だとは言ってないじゃん」

 

「違うの?」

 

「違うとも言ってない」

 

「じゃあ誰なのよ」

 

「うざ、言う必要ないじゃん」

 

「はいはい、じゃあそのお友達によろしくね」

 

 母の後姿を暫く睨んだあと、恵斗奈はトーストをオレンジジュースで一気に流し込んで、かん! とコップの底をいい音立てさせながらテーブルに叩き付ける。

 

 食器をテーブルに残したまま立ち上がりずかずかとソファで横になってテレビを見る母の横を通り過ぎたところで。

 

「お昼代いる?」

 

「……いる!」

 

 その一言に恵斗奈は立ち止まり、母に向かって右手を突き出した。

 

 

 

 軽く化粧で整えて、髪の毛をしっかり梳かしてセットする。スリムタイプのパンツに長袖のシャツと着飾る姿はあくまで動きやすいスポーティーなもの。当然だ。今日の目的はダンスの合わせ。バッグと別口にダンス用のスニーカーを入れる鞄も用意して、玄関横に掛けられた鏡で恵斗奈は容姿の最終チェックをする。

 

 ──うん、よし、悪くない。

 

 力が入っていないわけじゃないけれど、それを理壱が察することは出来ない程度に自然体。そもそも恵斗奈(あたし)からすれば十分いつもどおりの範疇だから。

 

 玄関のドアを開けて、本日は晴天なり。全くもって悪くない。

 

 恵斗奈は跳ねるように理壱との待ち合わせ場所の駅前に向かって。

 

 スマホで時間を潰しながら待ち人を待っていた理壱と出会って。

 

「理壱、シャンプー変えた?」

 

 なんだか何時もと違う匂いがする理壱に思わず眉を顰めた。

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