常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
深夜の居酒屋の一角。
個室の扉を開けた瞬間、熱気と共に漂ってきたのは、芳醇なアルコールの香りと、聞き慣れた、しかし明らかに「出来上がっている」女性たちの声だった。
「あーら、プロデューサー君! 遅かったじゃなーい。瑞樹、待ちくたびれちゃった♡」
「プロデューサーさぁん……へへ、美優も……ずっと、待ってましたよぉ。……寂しかった、です」
川島瑞樹と三船美優が、とろんとした瞳で俺を見上げる。
その横では、元警察官の片桐早苗がジョッキを片手に
「ほらほら、プロデューサー君も一杯いきなさいよ!」
と豪快に笑っていた。美優は俺の耳元で熱い吐息を漏らす。
「あの……早苗さんたちは放っておいて、私と一緒に……もっと、静かなところへ行きませんか……?」
そして、電話の主である高垣楓はといえば。
彼女はテーブルの上にあった沖縄土産の菓子を手に取り、頬を赤らめて俺にじりじりと詰め寄ってきた。
「プロデューサー……見てください、これ。『ちんすこう』……。ふふ……『ちんすこ』……♡」
楓はとろけるような笑みを浮かべ、その菓子を俺の股間付近へ怪しく近づけてくる。
トップアイドルの品格はどこへやら、完全に酒の勢いに任せたオヤジギャグとセクハラのオンパレードだ。
「はいはい、楓さん。それは後でゆっくり食べましょうね。ほら、もうお開きですよ」
俺は彼女の突進を軽く受け流しながら、テキパキとタクシーの手配を済ませる。
これだけの人数を一度に送るのは骨が折れるが、これもプロデューサーの「業務」のうちだ。もちろん、俺の能力があれば、ただ送るだけでは終わらない。
(……やれやれ。明日も仕事があるんだ、二日酔いで顔を腫らされても困るからな)
俺は能力を起動させる。
『彼女たちの肝臓の機能を一時的に極限まで活性化し、アルコールを速やかに分解。明日の朝には心身ともに完璧なコンディションで目覚めることとする』
俺が四人の肩や背中に軽く触れるたび、彼女たちの顔から不自然な赤みが引き、濁っていた瞳に知的な輝きが戻り始める。
「あら……? なんだか急に、頭がスッキリしてきた気がするわ。瑞樹、まだ二十代の輝きを取り戻せそう!」
「お、おう……なんだか急に酒が抜けたわね。これならタクシーの中で粗相もしないわ」
「プロデューサー、さん……わ、私……とんでもないことを……」
美優は顔を真っ赤に染め、両手で顔を覆って震えだし、酔いが醒めた早苗が不思議そうに首を傾げる中、俺は四人を手際よくタクシーへと押し込んでいく。
一人、また一人と自宅へと送り届け、最後に残った楓が車内で俺の肩にもたれかかった。
「……プロデューサー。お酒、抜けちゃいました……。これじゃあ、酔った勢いで……なんて、言えなくなっちゃいますね……」
寂しげに、しかし確かな熱を持って呟く楓。
能力で体は万全に整えたが、彼女たちの俺に対する「執着」までは消せなかったらしい。
明日の朝、彼女たちは最高のコンディションで、そして今夜の出来事を鮮明に覚えたまま、また俺の元へと出勤してくるのだろう。
彼女達がどんな顔をして俺の前に現れるのか。少しだけ楽しみになった。