常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
346プロダクションの事務室は、午後の柔らかな日差しに包まれていた。山積みの書類を片付け、一息つこうとした俺は、不注意でコーヒーカップを倒してしまった。黒い液体がデスクから床へと滴り落ちる。
「あら、プロデューサーさん! 私が片付けますから、座っていてください」
千川ちひろが慌ててデスクの引き出しから布巾を取り出し、駆け寄る。だが、俺は苦笑いしながらそれを制した。
「いいえ、自分で汚したものですから。自分で拭きますよ。ちひろさんはその資料のまとめをお願いします」
俺が床に膝をつき、四つん這いに近い姿勢で床を拭き始めた、その時だった。
「あら、プロデューサーちゃま。丁度良いところに『お馬さん』がいらっしゃいますわね!」
打ち合わせに現れた櫻井桃華が、鈴の鳴るような声を上げた。彼女はドレスの裾を軽く持ち上げると、俺の制止を待たず、俺の背中にひらりと跨ったのだ。
「こ、こら、桃華。俺は今掃除の最中だ。馬じゃないぞ」
「ふふっ、良い乗り心地ですわ! ハイッ、どうどう! 勇ましく前進なさいませ!」
はしゃぐ桃華は、俺の肩を小さな手で叩き、まるで名馬を駆る幼き騎士のように振る舞う。床を拭く俺の背中に、彼女の柔らかな重みが加わる。
「もう、プロデューサーさんも甘いんですから……」
ちひろは呆れたように、しかし微笑ましくその光景を見守っていた。だが、桃華の瞳には、ただの遊びとは異なる、熱を帯びた好奇心が宿っていたことに、俺以外の誰も気づいていなかった。
その後、予定されていた打ち合わせは、新曲のコンセプトから衣装の細部に至るまで、熱を帯びた議論となり、数時間に及んだ。時計の針が夕刻を回った頃、桃華はふぅ、と小さな溜息を漏らした。
「……少々、疲れましたわ。プロデューサーちゃま、わたくしと一緒に仮眠室で休みましょう?」
桃華はレディらしい優雅な仕草で俺の手を取り、有無を言わさぬ力強さで仮眠室へと連れ込んだ。ドアが閉まり、施錠される音が静かに響く。
『多忙を極めるトップアイドルが、信頼するプロデューサーの肉体を使って精神の安寧を図ることは、櫻井家のレディとしての正当な権利であり、至高の休息である』
俺がこの場に定着させた「常識」が、桃華の自意識を塗り替えていく。彼女は俺をベッドに仰向けにさせると、自らの衣装のボタンを一つずつ、丁寧に、しかし淀みのない動きで外していった。
「……先ほど、お掃除をしていた貴方の背に乗った時……。わたくし、今まで感じたことのないほど、身体の芯が熱くなってしまいましたの。……あのような端的な触れ合いだけでは、もう満足できませんわ」
下着姿となった桃華の肌は、窓から差し込む夕闇の中で真珠のような光沢を放っていた。
「……『騎乗位』。……お馬さんごっこの続きを、いたしましょう? 最高の騎士には、最高の相棒が必要でしょう?」
「……しようがないお嬢様だ。今日だけだぞ、桃華」
俺が苦笑しながら彼女を受け入れると、桃華は満足げな淑女の微笑みを浮かべた。彼女はゆっくりと、俺の昂ぶりの上に腰を下ろしていく。
「――――あ……っ。……ふふ、やはり……直に触れると、格別の乗り心地ですわ」
桃華は背筋をピンと伸ばし、上品に馬を駆る騎士のように、優雅に腰を揺らし始めた。小さな身体が上下するたび、彼女の瑞々しい粘膜が俺を熱く締め付ける。
「あ、はぁ……っ。……プロデューサーちゃま……。わたくしの……わたくしだけの、愛馬……っ」
彼女の動きは、櫻井家の教育の賜物か、気品に満ちていながらも、その瞳は次第に情欲に溺れていく。長い睫毛が震え、小さな唇からは、お嬢様らしからぬ淫らな吐息が零れ落ちる。
「……あ……っ、もっと……っ! もっと、高く……跳びたいですわ……っ!!」
絶頂が近づくにつれ、桃華の優雅な手綱捌きは、激しく荒々しい情熱へと変わっていった。彼女は俺の胸を両手で押し込み、己の快楽を貪るように何度も、何度も腰を叩きつける。
俺が彼女の最奥へと熱い奔流を放つと、桃華は天を仰ぎ、細い喉を震わせて絶叫した。
「――――んんっ、あ、あぁぁぁ……っ!! 世界が、白く……っ!!」
静寂が戻った仮眠室で、桃華はしばらく俺の胸に顔を埋め、余韻を楽しんでいた。やがて彼女は身を越し、手際よく衣服を整えると、鏡の前で髪を直した。
扉を開け、廊下に出た桃華の表情は、先ほどまでの疲労など微塵も感じさせないほど、生命力に溢れ、艶々しく輝いていた。
「……ふふ。おかげさまで、素晴らしい休息になりましたわ。身体が、羽が生えたように軽いですの」
事務室に戻り、何事もなかったかのようにデスクに座る彼女を見て、他の初等部のアイドルたちが「桃華ちゃん、なんだか今日、いつもより大人っぽくて綺麗……」と囁き合う。
桃華は俺に向けて、レディらしい完璧な一礼と、密やかなウィンクを捧げた。
「また、乗らせてくださいね? わたくしの、特別なプロデューサーちゃま」
彼女は満足げな足取りで、夕暮れの事務所を優雅に去っていった。