常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
今日の現場は、準キー局のバラエティー番組の収録だ。
「箱の中身は何だろな?」という、バラエティーの王道とも言えるコーナー。解答者としてステージ中央に立つのは、読書家として知られ、普段は静謐な書庫の主のような佇まいを見せるアイドル、鷺沢文香。
スポットライトを浴びる彼女は、不慣れなバラエティーの空気に少しだけ肩を強張らせていた。
スタジオの熱気が高まる中、俺は静かに能力を発動させた。
「番組の演出」という名目でスタッフの手から箱を奪い、俺自身がその箱を支える役を買って出る。本来なら「プロデューサーがなぜ小道具を持っているんだ」と奇異の目で見られるはずだが、能力の影響下にあるスタッフやカメラマン、そしてモニターの向こう側にいるはずの視聴者に至るまで、俺の姿は「空気のように自然な番組スタッフ」あるいは「背景の一部」として処理されている。
俺は箱の背面に設けた細工から、俺自身の「モノ」を中へと突き出した。
「……? プロデューサー……さん?」
箱の前に立ち、恐る恐る手を伸ばそうとしていた文香が、一瞬だけ目を見開いた。
俺の意図を察したのか、それとも俺の姿が正しく見えているからか。周囲の誰もがこの異常事態を「常識」として受け流している光景を目の当たりにし、彼女の困惑はすぐさま、怜悧な知性を感じさせる不敵な笑みへと変わった。
「なるほど……。これもまた、あなたが開く物語の一節、ということですね」
文香は俺をチラリと見て、先程までの緊張して硬くなっていた姿が嘘のように、挑発するようなその視線を絡めたまま、迷いのない動作で箱の中に手を差し入れた。
「っ……」
俺の口から、情けないほどの吐息が漏れる。
箱の暗がりの中で、彼女の白く細い指先が、俺の熱を帯びた「モノ」に触れた。文香は最初こそ指を震わせる仕草を見せたが、それが俺自身の肉体であると確信すると、まるで稀覯本の装丁を愛でるかのように、その感触を楽しみ始めた。
「これは……ずいぶんと温かく、力強く脈動していますね……。剥き出しの生命の息吹を、この指先から感じます」
文香は俺の表情をじっと観察しながら、指の腹で表面を優しく、しかし執拗に撫で上げた。彼女の目は、文字を追う時のように真剣でありながら、その奥には捕食者のような愉悦が揺らめいている。
時には確信犯的に、逃げ場を塞ぐようにしてその中心を強く掴み取った。
「っ……ふ、文香……!」
スタジオの喧騒に紛れ、誰にも届かない程度の秘めやかな声。
彼女の手つきは、お気に入りの短編を丁寧に捲るようでありながら、その実、こちらの反応を冷徹に、かつ情熱的に分析する学者のようでもあった。俺が耐えきれず、脂汗を浮かべて顔を歪めるたび、彼女の口元は満足げに吊り上がる。
「……答えを導き出す前に、もう少しだけ精査が必要なようです。この『物語』の深淵を……」
文香はとどめを刺すように、それまでの繊細な愛撫をかなぐり捨て、勢いよく、そして力強くその手を上下させた。
逃げ場のない箱の閉鎖空間。彼女の柔らかな掌が、指が、俺の限界を無慈悲に、そして甘美に突き破っていく。
「あ、あああっ……!」
声にならない叫びと共に、俺は堪らず彼女の手の中へと、溜まりに溜まっていた熱い奔流を放出した。
文香の掌に、どろりとした確かな熱量が広がる。彼女は指の間に溢れる感触を確かめるように何度か握り込み、俺の虚脱した顔を十分に堪能してから、何事もなかったかのようにカメラへと向き直った。
「……正解は、『生きている、とても熱心な何か』……いえ、『情熱的に脈打つ、元気に動く心臓の模型』でしょうか」
司会者が「正解は……生き物の鼓動を再現した、特製心臓模型でした!」と絶叫する。
「お見事! 素晴らしい正解です、文香さん! その洞察力、恐れ入りました!」
スタジオが拍手に包まれる中、収録は滞りなく、かつ大盛況のうちに幕を閉じた。
しばらくして、喧騒の引いた楽屋裏。俺は能力を解除し、汗を拭って平然を装いながら、いつものプロデューサーとして彼女を迎えた。
「お疲れ様、文香。機転の利いたコメントだったよ。番組スタッフも、君の度胸に驚いていた」
労いの言葉と共にタオルを差し出すと、文香はまだその熱がこびり付いているであろう自分の右手を、隠すこともせずにじっと見つめ、それから俺を見上げた。
「お疲れ様です、プロデューサーさん。……ふふ、とても良い『息抜き』になりましたか?」
彼女の瞳の奥には、すべてを共有した者だけが持つ特別な光と、共犯者としての深い親愛が宿っていた。
俺は苦笑いを浮かべ、彼女の指先を清めるための新しいウェットシートを差し出した。
「ああ、おかげで明日からもまた、君のために身を粉にして働けそうだ」
「それなら、良かったです。……ページを捲る楽しみは、まだ尽きそうにありません。次の『章』も、楽しみにしていますね」
テレビ局を出て、俺と文香は事務所が手配したタクシーに乗り込んだ。
夜の街並みが窓の外を流れていく。運転手には俺の能力で「ただの仕事熱心なプロデューサーとアイドルが、真面目に反省会をしている」という認識を植え付けてある。
だから、バックミラー越しに俺たちの様子が映っていたとしても、彼には何も見えていないに等しい。
「……ふふ、車内は静かですね」
隣に座る文香が、小さく呟いた。
彼女は膝の上に置いていたカバンから、一冊の文庫本を取り出すふりをして、その実、その手を俺の股間へと滑り込ませてきた。
「っ、文香……まだ、やるのか?」
「収録中……あんなに素敵なものを見せていただいたのです。物語に続きがあるのは、自然なことでしょう?」
文香は俺の耳元で囁くと、先ほど箱の中でさんざん弄んだ「モノ」を、スラックスの上からゆっくりと指先でなぞり始めた。
布越しに伝わる彼女の指の細さと、容赦のない確かな力。
「プロデューサーさん……鼓動が、ここからも伝わってきます。先ほど出し切ったはずなのに、もうこんなに……」
彼女は器用にジッパーを下ろすと、解放された俺の熱を直接その手で包み込んだ。
夜の車内、街灯の光が交互に差し込み、文香の横顔を妖艶に照らし出す。
「ふ、ぅ……っ」
「声を漏らしてはいけませんよ? 運転手さんに、熱心な打ち合わせだと思われているのでしょう?」
文香は不敵な笑みを浮かべ、俺の反応を愉しむように、親指の腹で先端を執拗に転がした。
タクシーが揺れるたびに、彼女の手のひらと俺の節が擦れ合い、脳を焼くような快感が走る。
文香は俺の太ももに身を寄せ、もう片方の手で本を開きながら、まるで読書に集中しているかのような澄ました顔で、その手だけを激しく、かつ緻密に動かし続けた。
「……プロデューサーさんのこの部分は、とても正直な記述をされますね。行間を読むまでもなく、あなたの『欲』が溢れています」
彼女の指先が、裏側の筋をなぞり、玉を優しく転がす。
俺は座席に深く沈み込み、窓の外の景色を見つめて必死に理性を保とうとするが、文香のテクニックは先ほどの収録時よりも確実に進化していた。
「あ……文香、それ、は……っ」
「……あともう少し。この『物語』のクライマックスを、私の手の中で書き換えて差し上げます」
彼女は最後、手首をひねるようにして強く絞り上げると、そのまま流れるようなストロークで俺を追い込んだ。
静かな車内に、わずかな水音と、俺の押し殺した吐息が漏れる。
「っ……!!」
二度目の放出。
文香は俺が果てる瞬間を、その冷徹なまでに美しい瞳でじっと見つめていた。
そっと握りしめられた彼女の手の中で熱い液体が溢れ、彼女の白い指を汚していく。
文香はそれを気にする様子もなく、バッグから取り出したティッシュで丁寧に俺と自分の手を拭き、手に付いたそれを舐めとり味わうと、また静かに本に目を落とした。
「……ごちそうさまでした、プロデューサーさん。これで、明日からのあなたのお仕事も、より一層捗ることでしょう」
タクシーが事務所の前に到着する。何事もなかったように文香は車を降り小さく微笑み、俺の横を通り過ぎていった。
その足取りは、いつもの静かな歩みよりも少しだけ、軽やかで弾んでいるように見えた。