常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
深夜の静寂が支配する事務所。
壁に掛かった時計の長針が、重々しく午後十一時の目盛りを通り過ぎていく。
カチ、カチという規則正しい音だけが、誰もいなくなったフロアに虚しく響いていた。
プロデューサー――俺は、デスクのライトに照らされた最後の一枚の資料を閉じ、大きく息を吐き出した。
「……ぶはーっ、やっと終わったか」
長時間の集中により、視界の端がわずかに霞んでいる。こびりついた疲労を剥がし落とすように、きしむ肩を回しながら椅子から立ち上がった。
「コーヒーでも淹れて、一息つこう。冷たい夜風で少し頭を冷やしたいな」
空のマグカップを手に取り、給湯室へ向かおうと一歩踏み出した、その時だった。
パッと、事務所の中央で弾けるような閃光が走った。
「なっ…なんだあっ……!? 停電か、それとも……」
月明かりだけが頼りだった薄暗いフロアに、非現実的な輝きが満ちる。俺は思わず腕で顔を覆い、その光の渦が収まるのを待った。
やがて光の粒子が溶けるように消え、ゆっくりと目を開けた俺の前に立っていたのは、あまりにも意外な、そしてこの状況には不釣り合いなほど華やかな姿をした二人だった。
和久井留美と服部瞳子。見慣れた彼女たちが身に纏っていたのは、かつて劇中で演じた伝説の魔法少女、『マジカル!ルミ&トーコ』そのものの衣装だった。
「未来見つめる冷静の青!マジカル・ルミ!」
蒼く輝くマジカルステッキを掲げ、凛とした声を響かせる和久井留美。
フリルとリボンがふんだんにあしらわれた、気品と可愛らしさが同居する衣装。彼女は完璧な角度で顎を引き、威風堂々とした決めポーズをとっている。
「過去を溶かす情熱の赤!マジカル・トーコ!」
間髪入れずに、服部瞳子がクリスタルが輝くマジカルステッキを掲げた。
同じくフリルとリボンがふんだんにあしらわれた衣装を纏い、おっとりと、しかし一言一句に強い意思を込めた、耳に心地よい響き。
「私たち……マジカル!ルミ&トーコ!あなたに癒やしの魔法を届けに参りましたわ!」
二人は息の合ったコンビネーションで、背後の窓から差し込む銀色の月光をバックに、完璧なシンメトリーを描き出した。
「…………え?」
俺は手に持っていたマグカップを落としそうになり、指先に力を込めてどうにか踏みとどまった。
口を半開きにしたまま、ただ呆然と立ち尽くす。
あまりにも唐突で、あまりにも完成された非現実。過労のあまり、ついに脳が「見たい幻覚」を作り出し始めたのか、あるいは未発表のプロモーション映像の撮影現場に迷い込んだのか。
「……こ、コホン」
沈黙が数秒、あるいは十数秒続いた頃だろうか。
マジカルルミこと留美が、ポーズを崩さないまま、頬をわずかに朱に染めて小さく咳払いをした。
「……ええと、流石に驚かせすぎたかしらね。でも、プロデューサーさん。貴方のその顔色、鏡で見たことがある? 随分と無理を重ねていたみたいじゃない」
「そうですよ、プロデューサーさん。私たちは、今日のお仕事の忘れ物を取りに寄っただけなのですが……まだ明かりがついていましたから」
瞳子がマジカルステッキをそっと下ろし、慈愛に満ちた、聖母のような微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「あまりにお疲れのようですし、二人で貴方を『慰労』しようということになったんです。和久井さんと私、二人きりの秘密の作戦です」
「慰労……って、わざわざその格好に着替えたのか?」
「ええ。今の貴方に必要なのは、現実的なスケジュール管理やアドバイスよりも、少しの遊び心……そして、心から安らげる夢のある魔法でしょう?」
留美が照れ隠しのように、ふいと視線を逸らした。
普段の彼女なら「効率が悪い」と切り捨てそうなものだが、その瞳の奥には、俺の健康を本気で案じる、言葉にできないほど深い優しさが宿っていた。
「二十代や三十代になっても、いえ、大人だからこそ魔法が必要な時があるんです。私たちは、貴方が教えてくれた『夢』を、今度は私たちが貴方に届けたいと思ったの」
瞳子が傍らに立ち、マジカルステッキの先を、強張った俺の肩にそっと触れさせた。
「私たちに、せめてこれくらいはさせてください。いつも裏方で走り回っている貴方へ、精いっぱいの恩返しなんです。今日だけは、貴方が私たちの『観客』になって」
冷たいはずの杖の先から、不思議と温かな熱が伝わってくるような錯覚に陥る。
一日中こびりついていた、鉛のような肩の重みが、霧が晴れるようにふっと軽くなった気がした。
「……ああ、そうか」
俺は自然と口元が緩むのを抑えられなかった。
大の大人が、大真面目に魔法少女になりきって、この深夜の事務所へ駆けつけてくれた。その気恥ずかしさを押し殺してでも、俺を笑わせ、癒やそうとしてくれた彼女たちの心意気。
その突飛で、けれど何よりも真っ直ぐな真心が、市販のどんな栄養ドリンクよりも、どんな高価なサプリメントよりも深く胸に染み渡っていく。
「……ああ、ありがとう。二人とも。最高の魔法をもらったよ。疲れなんて、どこかへ飛んでいってしまったみたいだ」
俺の言葉を聞き、留美は満足げに、けれどどこかホッとしたように目を細めた。
瞳子はふわりと花が咲くように、この上なく柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
真夜中のオフィス。
煌びやかな魔法少女の衣装を纏った二人のレディと、それを見守る一人のプロデューサー。
コーヒーの代わりに、彼女たちが持ち込んだ温かな真心が、静かなフロアを満たしていく。
少しおかしな、けれど世界中の誰よりも贅沢なティータイムが、静かに幕を開けた。
「さあ、それじゃあ……失礼するわね。今夜だけは、貴方の意志よりも私たちの魔法が優先されるのよ」
瞳子が静かに、けれど抗いがたい響きを持った声で告げた。彼女の白く細い手が俺の肩に置かれ、指先から伝わる柔らかな圧力が心地よい。そのまま導かれるようにして、俺は応接用の深く沈み込む革のソファーへと腰を下ろさせられた。
呆然とする俺の目の前で、魔法少女『マジカルルミ&トーコ』の衣装を纏った二人が、重なり合うフリルを優雅に捌きながら、その場に跪く。月明かりに照らされた彼女たちの瞳は、ステージの上で見せる輝きとは異なり、どこか湿り気を帯びた熱を宿していた。
「プロデューサーさん、貴方はいつも自分のことを後回しにして頑張りすぎなのよ。だから、今夜は心も体も……私たちが芯から解きほぐしてあげるわ」
留美が上目遣いに俺を見つめ、上気した頬から熱を帯びた吐息を漏らす。彼女の凛とした強さが、今は俺を甘やかすための献身へと変わっていた。
瞳子が迷いのない手つきで俺のズボンのベルトに指をかけ、金属音を立ててバックルを外す。ゆっくりとチャックが下ろされ、下着の隙間から、溜まっていた熱とともに俺のモノが露わになった。
「あら……こんなに熱くなって。お疲れなのは、頭や神経だけではないようですわね」
瞳子がクスクスと、慈しむような笑みを漏らしながら、指先で先端を優しくなぞった。その繊細な感触に、背筋を電流が走ったような快感が駆け抜け、ビクッと体が大きく跳ねる。
「……ふふ、正直ね。いいのよ、今は立場も肩書きもすべて忘れて。ただの『一人の男』として、私たちの魔法に身を委ねていればいいの」
留美がさらに歩み寄り、反対側から俺の太腿に白魚のような手を添えた。
フリルとリボンが重なり合う二人のマジカルな衣装が、俺の膝元で密接に擦れ合い、カサカサと甘く贅沢な音を立てる。本来なら子供たちに勇気と夢を与えるはずの清廉な聖装が、この密室においては、剥き出しの肌を際立たせる背徳的な額縁となっていた。
二人は一度顔を見合わせ、共犯者のような微笑みを交わすと、どちらからともなく俺のモノへと顔を寄せた。
「ん……っ、ふふ、すごいわ……」
まずは瞳子の柔らかな唇が、熱を持った先端を丸ごと包み込む。吸い付くような密着感に、脳が白く染まりかける。それと同時に、留美が根本から舌を這わせ、熱い粘膜で包み上げるようにして、力強く奉仕を始めた。
「んむ……ん、んぅ……じゅる、ちゅ……っ」
「れろ……じゅぷ、ん……っ」
静まり返った深夜の事務所に、卑猥な水音と、二人の漏らす熱い鼻息が混ざり合って響き渡る。
瞳子の丁寧で、神経の隅々まで行き届くような繊細な吸い上げ。そして留美の、内側に秘めた情熱をぶつけるような力強い舌使い。対照的な二人のテクニックが絶妙に混ざり合い、逃げ場のない快楽が激流となって押し寄せてくる。
「どうかしら……。少しは、体の中の強張りが楽になってきたかしら?」
一旦口を離した留美が、銀色の糸を長く引きながら妖艶に微笑む。その瞳には、かつて見たことがないほどの独占欲が渦巻いていた。彼女たちはもはや、物語の中の正義の味方などではなく、目の前の男を陶酔と快楽の奈落へ突き落とそうとする、一人の女だった。
「せっかくの『マジカル』な夜なんですもの。ここで終わるはずがないでしょう? 最後まで、たっぷりと、骨の髄まで可愛がって差し上げますわ」
瞳子が再び、今度はさらに深く、喉の奥まで俺の熱を受け入れた。
俺はソファーの背もたれに頭を預け、二人の魔法少女による、夢よりも甘く毒のある背徳の慰労に、抗う術もなく溺れていった。
事務所の静寂を切り裂くような、重なり合う熱い吐息。
和久井留美と服部瞳子、二人の熟練したレディによる交互に襲い来る絶妙な連携は、もはや単なる奉仕の域を超えていた。舌と指先を使った執拗なまでの愛撫に、俺の脳は痺れ、溜まりに溜まった日々のストレスと鬱屈した熱は、限界を超えて一気に決壊した。
「ん……っ、あ、出すぞ……!」
俺の喉から絞り出された叫びと共に、熱い塊が勢いよく放たれる。
だが、マジカル・ルミこと和久井留美は、その瞬間を逃さなかった。彼女は凛とした表情のまま喉の奥を大きく開き、溢れ出す奔流を深く深く咥え込んだ。
一滴の無駄も許さないという強い意志を感じさせるほど、彼女は執拗に吸い上げ、喉を鳴らして飲み干していく。まるで戦場から帰還した勇者を迎えるかのように、その熱を自分の体内に取り込んでいった。
「ふふ……ごちそうさま。まずは、これでお掃除完了ね。でも、これで終わりだなんて思っていないでしょう?」
留美が紅を引いた唇をそっと拭い、挑発的かつ艶然と微笑む。
だが、本当の意味での「魔法の慰労」は、ここからが本番だった。
「まず最初は、私から。プロデューサーさん、言葉ではなく……もっと深く私を感じてください……」
服部瞳子が、魔法少女のフリルが幾重にも重なるスカートを優雅に翻しながら、俺の上に跨った。
彼女は俺の熱を、自分の一番柔らかな場所へと導き、ゆっくりと、重力を味方につけるようにして、一寸ずつ確実に飲み込んでいく。
「んっ、あぁ……。これ、ほど、温かいなんて……。ふふ、貴方を……精一杯労わって、差し上げますから……。私たちだからこそ見られる景色に行きましょう……。あ、ああっ……」
瞳子の動きは、最初は慈しみ、傷を癒やすようなゆったりとしたストロークだった。
しかし、結合部の摩擦が熱を生み出し、互いの粘膜が蜜を絡ませ合うにつれ、彼女の瞳には理性を焼き切るような欲望の炎が灯り始める。
「プロデューサーさん……っ、もっと、もっと……!」
彼女は清楚な魔法少女の仮面を脱ぎ捨て、腰を叩きつけるように激しく振り始めた。貪るように俺を求め、その締め付けは絶頂へと向かって加速度的に増していく。
その間、留美は一度ソファーを立ち、テーブルに置いてあった水で自分の喉を潤していた。
冷たい水でさっぱりとした彼女が戻ってくると、瞳子と繋がったまま悶える俺の首筋に、冷たい指先を這わせる。そして、強引に顎を上向かせ、俺の唇を奪った。
「んむ……っ、ん、ちゅ……っ。プロデューサー、瞳子ばかり見てはダメよ? 私もここにいるわ」
留美の熱い舌が、水の冷たさを残したまま口内に侵入し、俺の意識をかき乱す。
下半身を支配する瞳子の激しい腰使いと、上半身を絡め取る留美の濃厚なキスの快楽。二方向から押し寄せる極上の刺激に、俺の理性が再び焼き切れる。
やがて、耐えきれなくなった俺は、瞳子の中の一番深い場所へと、絞り出すような熱をすべて吐き出した。
「ああ……っ、ん、ああぁっ! プロデューサーさん……っ!んんっ……届いたわ、貴方の熱いところが……っ」
瞳子が絶頂の余韻に全身を激しく震わせ、俺の胸にぐったりと倒れ込む。
心地よい疲労と達成感がフロアを満たすが、その背後で留美が静かに、しかし獲物を狙う雌豹のような熱い視線を向けていた。
「じゃあ、次は私の番ね。瞳子、代わってくれるかしら? まだ、夜は始まったばかりよ」
果てたばかりで力の抜けた瞳子と、鮮やかな手際で入れ替わるように、今度は留美が俺に跨った。
普段の知的で冷静沈着な彼女からは、到底想像もつかないほど、その動きは貪欲で激しいものだった。
「プロデューサーさん、覚悟して。魔法の力で、朝まで貴方を離さないんだから……!」
留美は激しく腰を突き上げ、俺を圧倒するように求めてきた。知的で理性を重んじる彼女が、本能を剥き出しにして、一人の男を欲している。そのギャップが何よりも俺を昂ぶらせた。
服部瞳子もまた、隣に寄り添い、俺の耳を甘く噛んでは指先で敏感な場所を愛撫し続ける。
結局、二人の魔法少女による献身的な――あるいは独占的な――行為は、三人が疲れ果てて動けなくなるまで、何度も、何度も繰り返された。
やがて夜が白み始め、窓の外のビル群が青白く、透明な光に染まり始める頃。
事務所のソファには、汗で肌に張り付いた魔法少女の衣装と、心地よい倦怠感に包まれた三人の姿があった。
物理的な寝不足で体は重いはずなのに、不思議と心はこれまでにないほど晴れやかだった。
窓から差し込む朝日は、昨日までの苦労を浄化するように、三人の乱れた姿を優しく照らし出していた。
「おはよう、プロデューサーさん。……最高の朝ね。少し、魔法を使いすぎちゃったかしら」
留美が満足げに俺の左肩に頭を預け、瞳子が右側から温かな手を握りしめる。
「ふふ、でも……プロデューサーさんの元気、しっかりチャージできましたわね」
プロデューサーとしての誇りと、二人の女としての至福。
三人の絆が、より深い場所で結ばれた最高に贅沢な朝が、そこにはあった。