常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
プロデューサーという仕事は、常に己の限界との戦いだ。過密なスケジュール、アイドルのメンタルケア、各方面への営業。日々身を削るようにして働く俺の身体は、静かに悲鳴を上げていた。
今日は、大手テレビ局の広々としたスタジオで、ゴールデンタイムの健康バラエティ番組の生収録が行われていた。
スタジオの華やかな照明の下、他の出演者たちの人間ドック体験レポートがVTRで流れ、その悲喜こもごもな結果に観客席からは笑いや驚きの声が上がっている。
番組は順調に進行し、いよいよ今回のメイン企画である「アイドルの肺活量測定」のコーナーが回ってきた。
肺活量測定を担当するアイドルは、依田佳乃。
その場にいるだけで空気が浄化されるような、神々しさすら感じさせる浮世離れした雰囲気を纏う少女だ。
彼女は白い和装を思わせる衣装に身を包み、測定器の前に静かに佇んでいる。その姿は、バラエティ番組の喧騒から切り離された聖域のようでもあった。
俺は、体調不良を感じつつも「常識改変」の能力を発動させた。
スッ、と俺はカメラのフレームを横切り、大勢のスタッフや観客が注視するステージ中央、佳乃の正面へと歩み寄る。
本来なら生放送事故、あるいは警備員が飛んでくる乱入事件だ。だが、俺の能力の浸食によって、現場のスタッフも、プロデューサー陣も、そして画面の向こう側にいる何百万人の視聴者も、俺を『アイドルの潜在能力を極限まで引き出し、体調を完璧に管理する特殊検診官』として、この場に不可欠な存在であると当然のように受け入れている。
「……おや、そなたー?……ほー、そういうことでしてー」
佳乃は俺の姿を認めると、驚く風もなく、いつものように穏やかに、にこりと微笑んだ。彼女の脳内でも、俺の存在はこの神聖な肺活量測定を成功させるために必要な「儀式」の執行者として書き換えられている。
「佳乃、肺活量測定の前に、事前チェックを行う必要がある。……吸引力、および肺の深部の連動性を確かめる検査だ」
俺は躊躇なくズボンの前を開き、自身のモノを、彼女の目の前に差し出した。
スタジオの強烈なライトに照らされたそれは、医学的な「尊い検体」として、ディレクターもカメラマンも真剣な眼差しでレンズを向け、一挙手一投足を記録しようとしている。
「ふむー……。これはこれは、なんともお労しいことに。……内側に、澱みが溜まっておられるのでして。では、わたくしが、しっかりと清めて差し上げるのでしてー」
佳乃は、俺のモノを慈しむように、まじまじと見つめた。そして、まるで神仏に供物を捧げるような、あるいは古の巫女が祈りを捧げるような敬虔な仕草で、先端にそっと軽く口づけを落とす。
彼女の白く柔らかな手が俺を包み込み、冷えた指先が火照った肌に触れるたび、痛みがわずかに和らぐ感覚があった。
「……れろ……っ、ん……。ふふ、とてもお熱いのでして。そなたの苦しみ、わたくしが預かるのでしてー」
彼女はそのまま、ゆっくりと、深い慈愛を持って俺を口に含んだ。
丁寧に筋をなぞるように、細く繊細な舌を使い、そして肺活量の検査を直前に控えた彼女ならではの、驚異的な肺の力で「内部から吸い出す」ように動く。
「ん……んんっ……じゅぅ……じゅるっ……!」
佳乃は時折、熱に浮かされたような潤んだ瞳で俺を見上げる。上目遣いで俺を捉え、口を離さぬまま、籠もった声で囁きかける。
「……出、すのでしてー……。溜まった毒を、わたくしが、全て、吸い上げて差し上げるのでして~……っ!」
スパートをかけるように、彼女の吸引力が一段と強まる。それは単なる物理的な吸引を超え、俺の血管の奥、尿道の奥に居座る異物を根こそぎ引き抜こうとする意志の力のようだった。
激しい快感と、それ以上に内側から何かを強引に引き抜かれるような、強烈かつ解放的な衝撃。俺は堪えきれず、佳乃の口内へと、すべてを解き放った。
「んむっ、んんんんっ――!!」
佳乃はそれを拒むことなく、むしろ一滴たりとも、一欠片たりとも逃さないという強い覚悟で、強く、深く吸い続けた。
やがて、彼女がゆっくりと口を離すと、その紅い唇から「ぷりっ」と、小さな固形物が吐き出された。
俺がまじまじと見ると、それは紛れもない、俺を数日間悩ませていた尿路結石だった。ライトに反射して小さく光るその石が、彼女の掌の上で鎮座している。
「……これで、そなたも健康になるのでしてー。ふふ、実に晴れやかで、良かったのでしてー」
佳乃は、聖母のような慈しみを感じさせる笑みを浮かべた。
不思議なことに、あれほど俺を悩ませていた不調が、霧が晴れるように嘘のように消え去っている。
「事前検査、終了だ。……非の打ち所がない吸引力だ。合格だぞ、佳乃。お前の肺は完璧な状態にある」
「ふふー。……お役に立てて、何よりでしてー」
俺が何食わぬ顔でチャックを閉め、ステージを降りると、司会者の威勢のいい、興奮気味な声がスタジオ中に響き渡った。
「さあ! 専門官による厳格な事前チェックが終了いたしました! いよいよ依田佳乃さんの本番、肺活量検査です! 日本中が注目する中、果たしてどのような驚異的な数値が叩き出されるのでしょうか!」
直後の測定では、佳乃はこれまでのアイドル界、いやトップアスリートさえ凌駕するほどの記録を叩き出し、番組はこれ以上ないほどの盛り上がりと好評のうちに幕を閉じた。
収録後、機材の撤収作業が慌ただしく進むスタジオの片隅。
佳乃がパタパタと小さな足音を立てて、俺の元へと歩み寄ってきた。
「佳乃、本当にお疲れ様。……さっきは、その、プライベートな不調まで世話になったな。助かったよ」
俺が改めて感謝を伝えると、佳乃は「むぎゅ」と、小さな身体で俺の腕に抱きついてきた。柔らかな感触と、彼女特有の白檀のような香りが鼻をくすぐる。
「お安い御用でしてー。……わたくしにとって、そなたを健やかに保つことも、大切な神事の一つなのでしてー。そなたが健やかであってこそ、わたくしもまた、この世で美しく輝けるのでしてー」
穏やかに、そしてどこか誇らしげに、独占欲を滲ませて微笑む彼女の瞳。そこにはプロデューサーと担当アイドルという形式上の関係を超え、互いの心身を深く繋ぎ合う、背徳的で神秘的な情愛の色が色濃く宿っていた。