※この作品はR-18です。

常識改変プロデューサーとアイドル   作:湯けむり桶

43 / 48
天才の燃料補給:池袋晶葉と鍋会

 「くっ……。この関節駆動の出力バランス、何度計算し直しても黄金比に辿り着かん……! 構造的な堅牢さと、金太郎らしい躍動的な柔軟性。この二律背反を解決せねば、私の最高傑作には程遠い!」

 

 池袋晶葉の工房。そこは山積みになった最新鋭のセンサー類、剥き出しの基板、そして何やら鈍い光沢を放つ巨大な金属製のパーツに囲まれた、まさに発明の聖域だ。晶葉は、はねた髪を苛立たしげにかき上げながら、モニターに映し出される複雑な数式と格闘し、眉間に深いシワを寄せていた。

 

 以前の「ひなまつりロボ」に続き、彼女が現在心血を注いで取り組んでいるのは、端午の節句を見据えた「金太郎ロボ」の試作機だ。巨大な鉞を軽々と振り回し、熊を投げ飛ばすほどの怪力を再現しようとしているようだが、その高出力を制御するチップの処理能力が限界を迎えつつあるのか、作業は数時間前から完全に停滞していた。

 

 そんな時、俺は資料の届け出と、打ち合わせを兼ねて彼女の進捗を確認すべく、ラボの分厚い扉を叩いた。

 

 「晶葉、進捗はどうだ? 行き詰まっているなら、少し休憩でもしたらどうだ」

 「む?プロデューサー! 良いところに来たな。ちょうど今、私の脳細胞が新たなパラダイムシフトを求めていたところだ!」

 

 俺の顔を見た瞬間、晶葉はそれまでの苦悶の表情を嘘のように消し去り、ぱあっと瞳を輝かせた。しかし、具体的な進捗を尋ねると、すぐに肩を落として、晶葉らしからぬ重いため息を漏らす。

 

 「いや……天才的な閃きというやつは、時として非協力的なものでな。あと一歩のところで回路が繋がらないんだ。やはり『まさかり担いだ金太郎』の荒々しくも精密な挙動を物理演算のみで再現しようとするのは、現代のテクノロジーに対する挑戦状のようなものだな……」

 

 ――ぐうぅぅぅ、きゅるるるる。

 

 理屈っぽく、そして誇り高い彼女の独り言を無慈悲に遮るように、静まり返ったラボの中に、情けないほど大きな腹の虫の音が響き渡った。

 

 「…………。……ふん、やはり天才とて、生物学的なエネルギー保存の法則、および熱力学的な空腹には勝てんということか。私の脳が消費するカロリーに、肉体の供給が追いついていないようだ」

 

 晶葉は耳まで真っ赤に染めながら、照れ隠しに腕を組み、不自然なほど素っ気なくそっぽを向いた。

 

 「ちゃんと食べてるのか、晶葉。また開発の熱に浮かされて、食事を疎かにしていたんじゃないか?」

 

 「そう言えば……昨夜、作業効率を最大化するために栄養ゼリーを一本流し込んだきり、食事という行為を忘れていたかもしれん。最短経路で栄養を摂取しようとした結果がこれだ、ははは……」

 

 照れ笑いする彼女の様子は、危うさと幼さが同居していて、プロデューサーとしては放っておけない。そうなるだろうと予測していた俺は、今日、あらかじめ準備してきた特別な差し入れをテーブルに広げた。

 

 「そうだろうと思ってな。今日は特別に、このラボを特設キッチンにして、炊き出しを行うことにしたぞ」

 

 「……な、鍋だと!? 室内で直火を使用するのは火災報知器の懸念が……いや、ここの排気システムなら問題ないか。それより、プロデューサー! その包みの中身は何だ!? センサーを介さずとも、私の直感がそれが最高級の燃料だと告げているぞ!」

 

 俺が持参した携帯コンロを慣れた手つきでセットし、どっしりとした土鍋を用意すると、晶葉は興味津々で身を乗り出してきた。鍋の中に、瑞々しい白菜、太いネギ、そして厳選された鶏肉を美しく並べ、秘伝の白濁したスープを注ぐ。やがて点火し、加熱を始めると、鶏出汁の芳醇で濃厚な香りが、機械油の匂いに満ちた室内に力強く立ち込め始めた。

 

 「うぐっ……この香気成分、暴力的なまでに空腹中枢を刺激してくるな……。プロデューサー、工程の進捗率はどうだ? 早く、早く私に高効率な燃料を補給させてくれ!」

 「落ち着け晶葉。下準備はしてあるが、鍋は焦って火を強めても美味しくはならない。温まるのを待つのは、未完成の回路にテスターを当てるのと同じくらい重要なプロセスだぞ」

 

 「うまいことを言う……だが、今の飢えた私にとっての『一分』は、通常の時空における『一年』にも等しい重力加速度を持っているのだぞ!」

 

 軽く雑談をしながら、鍋の様子をじっくりと見守る。晶葉は「金太郎ロボ」の腕の駆動範囲をどう改善すべきか熱心に口にしながらも、その視線は土鍋の蓋の隙間から漏れ出す蒸気に釘付けだ。やがて、ぐつぐつという心地よい音楽のような音と共に、鶏の旨味がこれでもかと凝縮された若鳥の水炊きが完成した。

 

 「ほら、出来たぞ。熱いから十分に気を付けるんだ。遠慮はいらない、好きなだけ食え」

 

 俺は手際よく椀に盛り、立ち上る湯気と共に晶葉に差し出した。

 

 「感謝する! では、科学的な検証を持ってこの料理の旨味を確かめさせてもらうぞ!」

 

 晶葉は待ちきれない様子で箸を動かし、プルプルの、見るからに柔らかそうな鶏肉を一切れ掴むと、ふーふーという手順を省略して勢いよく口に放り込んだ。

 

 「あふっ……! あふ、あふっ……あっつ! 舌がっ、天才の舌がオーバーヒートしたっ! 緊急冷却が必要だっ!」

 「だから言っただろう、気を付けろって。……貸してみろ、しようがないな」

 

 涙目になって口をパクパクさせながら悶絶する晶葉を見かねて、俺は彼女の椀を一旦受け取った。スプーンでスープを掬い、フーフーと数回息を吹きかけて、猫舌の彼女にとっても最適と思われる「安全温度」まで冷ましていく。

 

 「ほら、これなら大丈夫なはずだ。もう一度食べてみろ」

 「……う、む。恩に着るぞ、プロデューサー」

 

 先ほどまでの威勢はどこへやら、少し恥ずかしそうに頬を染めながら、今度は慎重に、ゆっくりと口へ運ぶ晶葉。適温になった水炊きを咀嚼した瞬間、彼女の張り詰めていた表情が、春の雪解けのようにとろけるように和らいだ。

 

 「……美味い! 身体の隅々、末端の毛細血管に至るまで、カロリーと旨味成分が染み渡っていくようだ! さすが私のプロデューサーだ、実に素晴らしい補給物資だな!」

 

 ご満悦の様子で、一心不乱に箸を進める晶葉。空腹が満たされ、身体が芯から温まるにつれ、彼女の瞳には再び、世界を変える発明家としての鋭く、力強い輝きが戻り始めていた。

 

 「ふむ……エネルギーが充填されたおかげで、先ほどの出力バランスの問題、解決の糸口が見えたぞ!」

 

 鍋の締めには、出汁をたっぷりと吸わせたうどんを投入した。晶葉は「炭水化物の効率的な摂取だ」と言いながら、それも綺麗に平らげた。

 ようやく人心地ついた彼女は、再び「金太郎ロボ」の試作機を見上げ、解決すべき課題について語り始めた。

 

 「腹が満たされると、脳の演算速度も戻ってくるな。……だが、プロデューサー。このロボットには構造的な出力バランス以外にも、倫理的、あるいは象徴的な意味で解決せねばならん『未定義の領域』が残っているのだ」

 

 「俺にできることがあれば何でも言ってくれ。技術的なことはわからなくても、力になれるかもしれない」

 「何でも、と言ったな? ……よし。ならば、プロデューサーの『個体差』を確認させてもらいたい。具体的に言えば、プロデューサーの股間にあるモノを見せてもらおうか」

 

 「……えっ?」

 

 突然の要求に困惑する俺をよそに、晶葉は至極真面目な顔で続けた。

 

 「金太郎といえば、力強さの象徴だ。そして金太郎が備えているはずの、だが今のロボットには欠けている重要なパーツ……すなわち『きんのたま』だ。生物学的なリアリティと、力学的強度の相関関係を導き出すには、最も身近な信頼できるサンプルが必要なのだ。さあ、助手としての責務を果たしてもらおう!」

 

 晶葉はそう言うと、俺が拒む隙も与えず強引に押し倒した。天才的な身のこなしで俺の上に跨ると、迷いのない手つきでズボンのチャックを下ろし、俺のモノを露わにさせた。

 

 「ふむ……。視覚情報としては理解していたつもりだが、実際に眼前にすると、実に興味深い構造だな。この海綿体の膨張プロセスと、表面の温度上昇……」

 

 晶葉は熱心にタブレットでメモを取りながら観察していたが、やがてその動きがピタリと止まった。

 

 「……どうした、晶葉?」

 「……いや。やはり、静止画や外部からの観察だけでは、真の『データ』は得られん。触覚、温度、そして内側から受ける圧力……それらすべてを統合せねば、私の金太郎ロボは完成しないという結論に達した」

 

 晶葉は頬を赤らめつつも、科学者としての(あるいは一人の少女としての)強い意志を瞳に宿して俺を見つめた。

 

 「私の第一助手ならば、実験の完遂を手伝ってくれ。まずは……この私が、一肌脱いでやろう」

 

 晶葉は震える手で、自らの白衣と服を脱ぎ捨てた。剥き出しになった彼女の肌は、ラボの冷たい空気の中で微かに震えている。

 

 「プロデューサー……いや、助手よ。これは人類の、いや、私の夢のための重要なプロセスなんだ。……手伝ってくれ、お願いだ」

 

 半裸になり、可愛らしく、そして真剣に懇願してくる彼女の姿。俺はこれもプロデューサーとして、そして彼女の助手としての務めだと自分に言い聞かせ、彼女の秘部へと優しく手を添えた。

 

 「あ……っ。な、なんだ、その……変な感覚だぞ。そこは、回路がショートしたみたいに熱くて……」

 

 彼女の秘部は、すでに俺を受け入れる準備ができているかのように、しっとりと熱を帯びて濡れていた。指を動かすたび、彼女は「くぅ……っ」と可愛らしい声を漏らし、身体を弓なりに逸らす。

 

 「準備はいいか、晶葉。……始めるぞ」

 「う、む。すべてのセンサーを、プロデューサーの入力に対して開放している。……いつでも来い!」

 

 覚悟を決めて頷く彼女に、俺はゆっくりと侵入を開始した。

 

 「――っ!? あ、あ゛あぁぁ……っ!!」

 

 初めて経験する衝撃に、晶葉は俺の肩に必死にしがみついた。瞳を潤ませ、未知の感覚に戸惑いながらも、彼女は俺の動きを全身で感じ取ろうとしている。

 俺は彼女の反応を細かく確認しながら、最初はゆっくりと、そして彼女が熱に浮かされた声を上げ始めるのに合わせ、次第にその動きを速めていった。

 

 「あ、あ、っ、は……っ! なんだこれ……私の脳内プログラムが、すべて上書きされていくようだ……っ! プロデューサー、もっと、もっとデータを……私に、流し込んでくれ……っ!」

 「あ、ぐ……っ、はぁ……っ! なんだ、この、演算不能な刺激は……っ!」

 

 ラボの簡易ベッドの上で、池袋晶葉は未知の衝撃に身をよじらせていた。初めて経験する「侵入」の感覚は、彼女がこれまで組み立ててきたどの論理回路をも焼き切るほどの熱量を持っていた。俺の肩にしがみつく彼女の指先には力がこもり、爪が食い込むほどの強さで必死に耐えている。

 その瞳は潤み、科学者としての冷静さを保とうとしながらも、抗えない本能的な悦びに翻弄されていた。

 俺は彼女の体温、そして内側の締め付けを感じ取りながら、次第に腰のピッチを上げていく。肉体と肉体が激しくぶつかり合う音が、無機質な精密機械に囲まれた室内で異様に生々しく響いた。

 

 「あ、あ、っ……! くる、何かが、私の中心に向かって加速している……っ! こ、怖い、だが……これを知らねば、私は……っ!」

 

 未知の領域への恐怖と、そこにあるはずの真理への期待。その狭間で晶葉は激しく呼吸を乱し、ついにその限界が訪れた。

 

 「っあ、あああああぁぁぁ――っ!!!!」

 

 晶葉は天を仰ぎ、絶頂の衝撃に声を枯らして果てた。俺もまた、彼女の熱い内側へと、熱いものをすべて解き放った。

 

 しばらくの間、ラボには二人の荒い吐息だけが漂っていた。晶葉は肩で息をしながら、じわじわと体温が引いていく感覚を味わっている。やがて落ち着きを取り戻した彼女は、恥ずかしそうに、だが確かな信頼を込めて、俺の胸に顔を埋めて囁いた。

 

 「……ふぅ。理論だけでは到達できん境地というのも、確かにあるのだな。たまには、こうした人肌による直接的なデータリンクも、悪くないものだ……」

 

 その言葉は、一人の少女として、そして一人のパートナーとしての心からの告白だった。

 

 

 数週間後。

 華やかなライトに照らされた特設ステージで、その「成果」は披露された。

 

 池袋晶葉プロデュース、端午の節句特別ライブ。ステージ中央に鎮座していたのは、あの夜のデータがフィードバックされた「金太郎ロボ」だ。これまでの無機質な動きとは一線を画す、どこか人間味のある、そして力強い躍動感を備えたその巨体。

 

 「さあ、諸君! 私と我が最高傑作の共演、とくと目に焼き付けるがいい!」

 

 晶葉の号令と共に、金太郎ロボが重厚な駆動音を上げて動き出した。背負っていた巨大な鉞を手に取ると、驚異的なバランス感覚でそれを頭上で高速回転させ始めたのだ。

 

 「おおおおおっ!!」

 

 会場のファンから地鳴りのような歓声が上がる。鉞が風を切り、黄金色の光を反射して舞う姿は、まさに圧巻の一言だった。

 

 「回った! 金太郎が、いや『金太』が回ったぞぉぉぉっ!!」

 「金太が回った! 金太が回った!」

 

 ファンの間で自然発生的に沸き起こった「金太が回った」のコールが、会場全体を一つに包み込む。その熱狂の渦の中心で、晶葉は俺と視線を合わせ、誇らしげに、そしてあの夜のような少しだけ甘い微笑みを浮かべて、Vサインを掲げた。

 ライブは大盛況のうちに幕を閉じた。天才・池袋晶葉は、また一つ、科学と情熱を融合させた新たな伝説を打ち立てたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。